『堕天使』
ドーナシークと出会ったことでその存在を知った。両親から耳にしていたのは代々街を苦しめていた『悪魔』という存在のみでありシグはゆえにその存在を今まで知ることは無かった。
堕天使について未だにわかることは一つもない。情報元がないからである。街の人々に聞いたところでそれを知る者はいないだろう、何か知っていた可能性のある両親はもうこの世にはいない。
堕天使がどういう存在であり人間にどのような脅威をもたらすこも不明。手がかりは昨日ドーナシークから発せられた『見られていたか』という言葉、見られていたかということはあの場には堕天使にとって人間に見られてはいけない『何か』があったということだ。
昨日の公園でシグが見たものは兵藤と天野夕麻の会話中の光景。その最後に聞いた天野夕麻の『死んでくれないかな?』と言っていた光景、あれから何があったのかは不明。だが言葉の内容からして天野夕麻は兵藤を殺そうとしていたのだろう。
つまり、堕天使は兵藤を殺そうとした天野夕麻の姿を見られたくはなかったのだ。
それはなぜなのか、考えられる可能性はいくつか思い浮かぶが一番にあげられるのは天野夕麻が堕天使の仲間もしくは堕天使であることである。
だがそのことに対して再び疑問が残った。
なぜ堕天使は兵藤を殺そうとしたのか、なぜこの街にいるのか、そして
なぜ天野夕麻が殺そうとした筈の兵藤が生きているのか。
今日、兵藤は普通に学園に登校してきていた。偽物でもなければ幽霊でもなく、正真正銘本物の兵藤一誠であった。それだけならまだ『ドーナシークは他に見られたく無いものがあり、天野夕麻の発言は冗談だった』と思える。だがおかしいのは兵藤だけでは無かった。
学園にいる全員が天野夕麻のことを覚えていなかったのである。
兵藤は彼女ができたことを大声で自慢し、画像まで見せていたのである。教室で、食堂で、通学路で。話されていたのは主に松田と元浜であったが周りにいた生徒にもそれは聞こえてはいない訳がない。実際に全員が驚愕し男子たちは血涙を流している者も存在していた。それなのに、学園にいる全員がそれを覚えていなかったのだ。
まるで天野夕麻などと言う人物がまるで
だがシグは覚えていた。今でも兵藤が自慢していたのを覚えているし天野夕麻の姿も鮮明に覚えている。それを伝えたときは兵藤はもの凄く喜んでいたがそれでも周りの生徒は『兵藤一誠の妄想に伊瀬都シグが付き合っている』としか思わず信じる者は誰一人いなかった。
シグはそれに疑問を持っていた。
「……違う…これじゃない…読みたいけど、我慢……これ」
放課後、駒王学園の図書館にシグは訪れていた。目当ての本を探すこと20分、探している分類とはまったく違うライトノベル『ジュニアハイスクールG×G』や誘惑を誘ってきた『昆虫の歴史』をなんとか元の位置に戻しながら捜索を続け、一つの厚みのある本を手に取った。
『……ペラリ』
その本のタイトルは『堕天使ー悪魔たちのプロフィール』。堕天使について知るためシグは『本』からその情報を得ようとしていた。
『堕天使』
キリスト教の教理では堕落した天使であると述べられている。
堕落した理由は『高慢によるもの』『嫉妬によるもの』『自由な意思によるもの』『人間の自由を尊重する事によるもの』が主にあげられるがその理由は天使個人様々である。
「自分は神をも凌ぐ力を持っているのではないか」という驕りが出てしまったことで味方となる天使を集め神に対して反旗を翻したものが上記の一つ、『高慢によるもの』その戦いにおいて敗北してしまった仲間は堕天される。
神が人間に対して天使以上に愛を注いだことで反発し同じように仲間を集めて神に挑んだ天使。これが『嫉妬によるもの』その天使は結局神に敗れ堕天されてしまった。
神はもともと天使を自分自身を尊重させるために創造したとされるが、彼らの中にその指針に反する自由な意志を持つものがいたという。実はそれも神自身が考案したもので、反する天使たちには自発的に自分を崇めさせるという試みがあった。神は無の心中から自分自身への愛情を芽生えさせることに真価を見出したからである。『自由な意思によるもの』彼らは天界を追放されて堕ちて人間に、さらに深く落ちた人間は悪魔になるのだ。
人間たちは神では無く自分達の意志で生きるべきだと考えた天使たちは人間を管理し続けようとする神の考えに異を唱えるようになった『人間の自由を尊重するもの』神に従う存在として生まれた身でありながら神に反する意志を見せるようになった一部の天使達に激怒した神は、彼らを神への反逆者として天界から追放し、人間達には神に異を唱えた彼らを「堕天使」として物語るのだった。
黎明の子、明けの明星よ、
あなたは天から落ちてしまった。
もろもろの国を倒した者よ、
あなたは切られて地に倒れてしまった。
あなたはさきに心のうちに言った、
『わたしは天にのぼり、
わたしの王座を高く神の星の上におき、
北の果なる集会の山に座し、
雲のいただきにのぼり、
いと高き者のようになろう』。
しかしあなたは陰府に落され、
穴の奥底に入れられる。
旧約聖書中引用
「………パタン」
シグは本の一部分を読み終わると軽い音を立てながら本を閉じ、元の位置へと戻した。窓の外を見ると辺りはすっかりと暗くなってしまっていた。学園の門が閉まる前に出ようとシグは急いで図書館を後にした。
◆
「不思議だねテン」
完全に日が沈んでしまっていた帰り道、シグは頭の上のてんとう虫、テンに話しかけた。テンはそれをじーっと動かず聞いているだけ、いや、昆虫に感情をないと言われているのだからシグ以外の者から独り言にしか聞こえないだろう。
「この世界には悪魔がいて、僕が受け継いだ力はそれに対抗するための力。それを知りながら暮らしてたら今度は堕天使だって」
「大変だよね、調べることが多くて。今日のごはんはファミレスで済ませよう、アブラムシならたくさん食べたからもう大丈夫そうだしね」
「兵藤には何があったんだろ、それにみんなも。天野夕麻のこと覚えてなかったし」
「まあ僕は虫と一緒ならいいんだけど。その堕天使が何かするならなんとかしなくちゃね」
「この力はそのためにあるんだし」
◇
翌日、さらなる変化が訪れた。シグにではなく、兵藤にである。
学園の二大お姉さまの一人、リアス・グレモリーと一緒に登校していたのである。
それを見た学園の生徒は驚愕し『なんであいつがグレモリー先輩と!』『いやあ!お姉さまが汚れてしまうわ!』などと叫んでいた。中にはショックで気絶した生徒もいるほどであった。
学園で善良な意味で有名な可憐なお姉さまと学園で悪い意味で有名な変態が一緒に登校してきたのだから当然の反応なのかもしれない。だがその反応は兵藤に酷過ぎないかとシグは思った。
そして好奇の視線の中教室に入ってきた兵藤にその悪友、松田と元浜が拳を後頭部に振り落した。
「どういうことだ!」
「昨日まで俺たちはモテない同盟の同志だったはずだ!」
嫌な同盟である。
「イッセー、とりあえず理由を聞こうか。俺と別れてから何があった?」
涙を流しながら怒鳴る松田とクイッと眼鏡をクールに上げながら鋭い視線で兵藤を見る元浜。二人に詰め寄られた兵藤はフッと笑い強くこう言った。
「お前ら、生乳を見たことはあるか?」
その一言で、詰め寄っていた二人はその場に崩れ落ちた。それを遠目で聞いていたシグは『胸なんて誰でも見たことあると思うけど』と呟きながらてんとう虫の胸部を覗いた。のちにその一言が原因で松田と元浜に愚痴溢しの標的にされるのであった。
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