「うおりゃあああああ!」
「走る~走る~おれーたーちー」
兵藤が悪魔となり、シグがオカルト研究部に入部した日から数日たったある日の深夜。夜中の街道を自転車で奔走している二人、兵藤とシグ。正確にはイッセーが必死にこいでいる自転車の後ろにシグが乗っているだけなのだが。
その理由は簡易版魔法陣の描かれたチラシ配りである。
それも欲のある人間がこのチラシを手にとって願いを込めた場合にその紋様の悪魔を召喚できるという優れものである。
後ろにゆったりと座りながら携帯機器を見ているシグ。そのモニターには周囲の街並みが映し出されたマップが表示されており赤い点が点滅している。
「兵藤、そこの角を右にいったところの伊藤さん家にGO」
「名前言われてもわかんねーって!あ、ごめん普通に表札見えた」
「うむ」
点滅していた家に向かいそこにつけばポストへチラシを投函する。そして別の点滅場所へと向かう。これを一時間前から繰り返している。
ちなみに深夜なのに表札がはっきりと見えたのは兵藤が悪魔であるからである。悪魔は夜行型で夜になれば人間の何倍もの身体能力へと変化する。それは視力でも同じであり今のイッセーの目には暗い街並みも昼間と変わらないほどなのだ。
「いつか~たどり~ついーたーらー。…いつになるんだろね」
「うらああああああああ!」
夜中にも関わらずこの二人が
◇
シグの神器発動失敗という名の騒動の後、部室にいるメンバーは翼をしまい再びソファーに座っていた。
「私のもとに来ればあなたの新たな生き方も華やかになるかもしれないのよ?」
悪魔になったばかりでいくらか混乱していた兵藤にグレモリー先輩は誘惑のようにウインクしながら言葉をかけた。転生悪魔は主の下僕として生きていくというのが悪魔のルール、ハーレムを作るという欲望を抱えていた兵藤はそれに悩んだ。
悪魔になる以前なら喜んでいただろうに。
そして兵藤の思考はグレモリー先輩の次の言葉で全て吹き飛んだ。
「やり方しだいでは、モテモテな人生が送れるかもしれないわよ?」
「どうやってですか!?」
『モテモテな人生』
それは男たちの夢、薔薇色桃色呼び方は多けれどその言葉は兵藤の心を揺らした。さすが学園で変態呼ばわりされていた男、スケベ根性ここに極まらず。
「純粋な悪魔は昔の戦争で多くが亡くなってしまったのよ。そのため、悪魔は必然的に下僕を集めるようになったの。まあ、以前のような軍勢を率いるほどの力も威厳も消失してしまったけれど。それでも新しい悪魔を増やさないといけなくなった。悪魔にも人間同様性別はあるから悪魔の男女の間にも子供は生まれるわ。でも悪魔という存在は極端出産率が低いから、自然出生で元の数に戻るには相当な時間がかかってしまうの、でもそれでは堕天使などの他勢力には対抗できない」
「だから兵藤みたいに素質のありそうな人間を悪魔に引き込むようにしたんだ、下僕として」
「やっぱり下僕なんじゃないすか……」
兵藤の一度吹き返したテンションはまた下がってしまった。グレモリー先輩の話に口をはさんだシグは頭にテンを乗せて鞄から取り出した昆虫グミを食べていた。よく見ると隣の塔城も同じグミを黙々と食べている、シグからもらったのだろう。
「そんな顔しないでちょうだい、イッセー。伊瀬都くんの言ってることは正しいけど、この話には続きがあるのよ」
「…続きですか?」
「ええ、話を戻すけれどそのやり方ではただ下僕を増やすだけで力のある悪魔を再び存在させることにはならない。だから、悪魔は新しい制度を取り入れたわ。力のある転生者、つまり人間から悪魔になった者にもチャンスを与えるようになったのよ。力さえあれば、転生者でも爵位を授けよう、と。そのせいもあって世間にも割と悪魔は多いわ。私たちみたいに人間社会に潜り込んで行動している悪魔も少なくないしね。二人も知らず知らずのうちに悪魔と街中ですれ違っていたと思うわ」
「マジっスか!悪魔ってそんなに身近だったんスか!」
「ええ、もっとも、認知できる者と認知できない者がいるわ。欲望が強い者や悪魔の手でも借りたいほど困っている人間は悪魔を強く認識しやすいの。そういう人たちに魔法陣つきのチラシを配ると私たちは召喚されやすいのよ。悪魔を認知できても、先ほどのイッセーのように私たちの存在を信じない者も多いけれど、魔力をみせれば大抵は信じるわ」
兵藤は驚愕した。『自分が助かったのは欲望が強かったからなのか!』と。反対にシグは『一体なんの欲望を持てるんだろ?』と死に際の兵藤の思考能力に疑問を持っていた。
「じ、じゃあ、やり方しだいじゃ俺も爵位を!?」
「ええ、不可能じゃないわ。それ相応の努力と年月がいるでしょうけれど」
「うおおおおおおおっしゃあ!マジか!俺も、俺がハーレムを作れる!?え、エッチなこともありなんですか!?」
「そうね。あなたの下僕にならいいんじゃないかしら」
ピッシャアアアン!
兵藤に雷が落ちた。今まで変態だの卑猥だの言われ続け現実社会で言われていた自分がハーレムを作れるゥ!?だったら悪魔になって下僕からの勝ち組人生を送ってやるぜヒャッホー!
上記が兵藤の脳内思考である。理想は人を動かすとはこれのことである。真実?通用なんてしない。
「というわけでイッセー。私の下僕ということでいいわね?大丈夫、実力があるならいずれ頭角を現すわ。そして、爵位をもらえるかもしれない」
「はい、リアス先輩!」
「違うわ。私のことは『部長』と呼ぶこと」
「部長ですか?『お姉さま』じゃダメなんですか?」
「うーん。それも素敵だけれど、私はこの学校を中心に活動しているから、やっぱり部長のほうがしっくりくるわね。一応オカルト研究部だから、その呼び方でみんなも呼んでくれているしね。伊瀬都くんもよ」
「わかりました、リアス部長!」
「はーい、部長」
これが、二人が悪魔の活動。『チラシ配り』をする原因である。チラシ配りは最初は全員が通る仕事で、木場や塔城も同じことをしたことがあるらしい。よって兵藤も同じことをすることになり、シグはその見学としてつきあっているのである。
「しゅーくーふーくがー欲しいのならー」
「そこなーしのペイン!むかーえーてあーげましょッ!」
「そしてーかーがやーく」
「ウルトラソウルッ「うるさいっ!」あっすいません!」
明りのついていた窓から身を乗り出した大学生らしき人に叱られる二人。兵藤は謝ると顔を見られる前にペダルを高速でこぎ風のように去っていった。
そもそも夜中に大声をだしていれば近所迷惑なのは明らかなのである。よいこのみんなは気をつけようね。だって悪魔じゃなかったら怖い全体が青色の服を着た人に連行されちゃうから。