プリすば!   作:負け狐

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ひどい


その10

 というわけで。カズマ達一行はゆんゆんの先導のもと、アオイがいると思われる場所へと足を進めたのだが。

 

「ねえ、ちょっといいかしら?」

「はい?」

「あたしの思い違いならいいんだけど……これ、一日の行動を追いかけてない?」

「はい」

 

 迷いなく言い切った。ピクピクとキャルの頬が引きつる中、成程そうでしたかとコッコロは感心したように頷いている。ペコリーヌとカズマは会話に参加しないことを選んだ。

 

「狩りをする場合、その獲物の痕跡を集め、行動を把握する必要がある。ゆんゆんさまは、まさしくそういうお方なのですね」

「え? あ、はい、そうですね」

「とりあえず同意しとくんじゃない!」

 

 がぁ、とツッコミを入れたキャルは、それはそれとしてと視線をさまよわせる。ゆんゆんの言う通りのルートを辿ったものの、肝心の相手を見付けることが出来ていないのだ。

 とはいえ、全く同じ行動を取り続ける相手がいるわけでもなし。普段遣いのルートとはいえ遭遇しない可能性だって十分あるだろう。そんなことを思いながら、彼女はゆんゆんへと言葉を紡ぐ。

 

「で、でも……このルートが今日の鉄板なのに……昨日や一昨日通ったルートからすれば、間違いなく」

「何か聞き捨てならない言葉が聞こえたけど、聞かなかったことにするわ」

 

 音信不通という言葉の意味を再定義しないといけないかもしれない。この間のペコリーヌが言っていた話を思い出したと同時にゴミ箱に突っ込みながら、キャルはそう言って溜息を吐いた。

 

「どうするの? 交渉とやらをするにしても、肝心の相手が見付からなきゃどうにもならないじゃない」

 

 振り返り、こちらに全く関わっていない二人を見る。特にカズマはある意味今回の主役と言っても過言ではないため、彼の意見を聞いておいてもいいだろう。そんなことを思いながら述べたキャルの言葉であったが、その二人がなんとも言えない顔をしているのを見て怪訝な表情を浮かべた。

 一体どうしたんだ。問い掛けをそれに変えると、ペコリーヌがキャルと、そしてメモを片手にアオイ探索をしているゆんゆんを見やる。

 

「さっきのキャルちゃん達の話を聞く限り、多分ゆんゆんちゃんはアオイちゃんの行動パターンを調べてたと思うんですよ」

「でしょうね。でも、それがどうかしたの?」

「えっと……」

 

 あはは、と視線を逸らしたペコリーヌは、カズマを肘でちょんちょんと叩く。俺かよ、と顔を顰めた彼は、お願いしますと手を合わせて頼む彼女を見てしょうがないなと視線を落とした。

 決して体の前でそれを行ったことでむにゅりと強調されたペコリーヌのおっぱいに目がくらんだわけではない。視線を落としたのもおっぱいをガン見するためではない。ないったらない。

 

「おい、ゆんゆん」

「は、はい!?」

「……最近、その、アオイ? って娘はしっかり観察出来てるのか?」

「え? さ、最近は……三日くらいの間隔で見当たらない時が、ある、かな?」

 

 ペラペラとメモを捲りながらそんなことをのたまうゆんゆん。それを聞いたカズマは、げんなりした表情のままじゃあ今日がその日だなと述べた。そうしながら、彼は昨日のあのアーチャーの少女の挙動不審具合を思い出す。あれは怖がっているんじゃない、捜していたんだ。

 そう。

 

「で、向こうでお前を観察してるアーチャーがいるんだが、どうする?」

「え?」

「あひゃぁぁぁ!!」

 

 指差した方向を見たゆんゆんは、目が合ったことで絶叫しながら近くにあるゴミ箱の影に隠れる一人の少女を視界に入れる。その素早さのせいではっきりと見ることは出来なかったが、あれはまさしく。

 

「……アオイちゃん」

「……え? どういうこと?」

「お互いがお互いの行動パターン観察してたんじゃねぇの? 知らんけど」

「やばいですね……」

 

 そういうことである。キャルもそこで昨日のアオイのあれがゆんゆんを捜している奇行であったことを察し、そっと目からやる気が失われた。

 

 

 

 

 

 

「で、これからどうするのよ」

 

 恐らくゴミ箱に隠れたままであろうアオイをなるべく見ないように、しかし意識はそちらに向けながらキャルが問う。正直もう帰りたいが、ここまで来て投げ出すのも彼女の中では後味が悪いのでしたくない。

 とりあえず遠慮なしに話し掛けようとしているコッコロを止めながら、彼女は他の二人の意見を募った。ゆんゆんは戦力外だ。

 

「正直帰りたい」

「でしょうね。あたしも同意見よ」

 

 カズマのそれにうんうんと頷く。頷きはしたが却下した。そもそもあんたのスキルのためだろうがと続け、成功させる意見を出せと彼を睨む。

 

「……分かった。お前がそこまで言うなら仕方ない。俺もお前の意見を尊重して、あの娘からスキルを教えてもらおうじゃないか」

「元からそういう話でしょうに、なんで今さらそんな宣言をしてんのよ?」

「いやなに、はっきりと言葉にしておくことは大事だと思っただけだ」

「ふーん……?」

 

 まあいいや。とりあえずそういうことにして、即座に意見を出しそうにないカズマからペコリーヌに視線を移した。が、彼女は彼女で、そうは言ってもと苦笑しながら頬を掻いている。

 

「とりあえず逃げられないように包囲して、ゆっくりと交渉するしかないんじゃないですか?」

「何か犯罪者追い詰めてるみたいな発想ね……」

 

 ちらりとゴミ箱を見る。そっと顔を出していたアオイが、それに反応して即隠れた。逃げていないということは、まだ可能性がないこともない。そう楽観視してもいいが、いざ交渉となった途端逃走を開始されてもそれはそれで厄介だ。

 再度カズマに視線を戻す。そっちは何かアイデア出たのかと問い掛けると、まあそれでいいんじゃないかと返された。

 

「真面目に考えなさいよ」

「何を言う。俺は大真面目だ。一気に追い詰めれば相手は警戒する。だからゆっくりと距離を縮めることで、気付かない内に相手を追い詰めることが出来るわけだ。生きたカエルを熱湯に入れると暴れるが、水から温度を上げていくと気付かずに茹でられ死ぬ。そういう考えに基づいた、実に良い意見だと俺は思う」

「もっと物騒な発想になった!? ちょっとペコリーヌ、あんたも何か言ってやりなさいよ!」

「生のカエルを茹でるのにそんな方法があったんですねぇ。今度試してみます」

「そこじゃない!」

 

 ずびしぃ、と指を突き付けツッコミを入れたキャルは、そのまま力尽きたように項垂れた。もう発想自体はどうでもいい。とりあえずそれで捕まえられればどうでもいい。そんなことを思いながら、ゆんゆんとコッコロに同意を求める。

 捕まえることに意識が向かっている時点で、キャルも既に大分毒されているかもしれない。

 

「それで、キャルさま。どのように包囲いたしましょう」

「欠片も迷うことなく実行しようとするあんたも大概よね……」

 

 自分のことは棚に上げつつ、現在の戦力を見渡しながら思案する。が、そこでふと疑問が湧いた。

 何故自分がメインで指揮を取っているのだろう。

 

「カズマ、あんたがやりなさいよ」

「いいのか? 俺としてはお前がやったほうが後腐れがなくていいと思ったんだが」

「意味分かんないこと言ってんじゃないわよ。ほらほら、あんたのスキルでしょ」

「そうか。じゃあ、やらせてもらおう」

 

 ふ、とカズマの口元が僅かに上る。キャルとゆんゆんはそれに気付かず、コッコロは主さまがやる気になられたと笑みを浮かべ。

 ペコリーヌだけは、何か企んでるなと何ともいえない表情でカズマを見ていた。

 

「よし、じゃあ早速。コッコロ、ペコリーヌ、キャルの三人であの娘が逃げないよう包囲網を作ってくれ」

「了解いたしました、主さま」

「わかりました」

「それはいいけど。あんたは何するのよ?」

 

 キャルの言葉に、カズマはニヤリと口角を上げた。任せられたからには、きちんと仕事を果たしてやる。そう言いながら、ゆんゆんの肩をポンと叩く。

 

「仲介者を連れて、交渉だ」

 

 

 

 

 

 

 急に静かになった向こう側を、アオイは無駄に警戒していた。昔、ほんの僅かな間文通していた相手、ゆんゆん。彼女がこの街にいることを知って、ひょっとしたら友達になれるかもしれないと期待をしながら彼女を捜し。

 何だか知り合いが一緒だったので逃げ帰ってから一ヶ月と数週間。その間彼女の様子を伺いながら、時には視線が合った気がして一人満足していた日々。段々と距離が縮まってきているような気がしないでもないしやっぱり気の所為だろうがそれでも一応手紙くらいは書いておきたい。そんなことを思い。

 

「今日も『だいじょぶマイフレンド君六号』の前で手紙を朗読して、噛まずに言えたから新しい手紙を書こうとしていた矢先に、何でこんな……」

「いや渡せよ。何で新しい手紙書こうとしてんだよ」

「へ?」

 

 ぶつぶつと独り言を言っていたアオイの背後から声。振り向くと、ジト目でこちらを見ているカズマと、そしてゆんゆんの姿が。いきなり目の前に現れた二人を見て目を見開いた彼女は、瞬間少女の口から出てはいけない奇声を上げて立ち上がると膝をゴミ箱にぶつけバランスを崩した。

 どんがらがっしゃん、と燃えないゴミを巻き込みながら盛大にすっ転ぶアオイを、大丈夫!? と思わずゆんゆんが助け起こす。そんな二人を見ながら、というよりもゆんゆんがアオイに触れたのを確認しながら、カズマは包囲網を狭めていた三人を呼び寄せた。

 

「流石です、主さま」

「成程。一本取られましたね」

「《潜伏》か。あんたにしちゃ考えたわね」

 

 包囲している三人は囮。本命はゆんゆんを連れて潜伏スキルで気配を消したカズマがアオイに近付くことである。実際はそこまで警戒することなくあっさりと終わってしまったので、彼としてはいささか拍子抜けではあるが。

 

「アーチャーなんだろ……? もっとこう、警戒しとけよ」

「は、ははははいぃぃ!? ごめんなさい! 生まれてきてすいません!」

「……お、おう」

 

 駄目だ。普段の調子で話したら間違いなく会話にならない。そんなことを考えたカズマは、こほんと咳払いをするといい感じの言葉を紡ごうと口を開く。

 とりあえず自身の名を名乗り、怪しいものではないと説明するところからだろうか。そう判断した彼のそれは、アオイが予想以上にテンパっていたことで脆くも崩れ去った。

 

「な、名前を私に、伝えぇ!? こ、これは、ま、まさか宗教!? 宗教の勧誘ですか!?」

「何でだよ」

「神頼みですか!? でも私今エリスとアクアとウォルバクとレジーナの四柱で精一杯で! ちゃんと『だいじょぶマイフレンド君』も設置してますし!」

「新聞勧誘断れない一人暮らしかよ……」

 

 前回よりも会話は成立していないでもない気はするが、それでも予想以上のアレさにカズマも引く。どうやら自分だけでは駄目だと判断した彼は、溜息を吐くとアオイを助け起こしていたゆんゆんへと視線を。

 

「ゆんゆん? ゆんゆん? ゆんゆーん?」

「……はっ! いきなり接近したから意識が」

「駄目だこいつ使えねぇ」

 

 遠巻きに見ていた相手と急接近したおかげでキャパオーバーしたらしい。頼みの綱がブチブチに千切れていたのを確認し、しょうがないと集合した三人を見やる。ここで一番交渉が出来そうな相手は。

 

「……」

「あの、主さま? 何故今目を逸らしたのでしょう?」

「何か言いたいことあったら言いなさいよ」

「あはは……」

 

 コミュ障ぼっちに有効な相手がいない。強いて言うならコッコロだが、現在の状態でコッコロを摂取した場合最悪このまま天に召されかねない。残り二人は論外である。

 くそう、と頭を抱えたカズマは、さっきまでの自分の浅はかさを呪いつつ、何とかするために思考を巡らせた。とりあえずスキル教えてもらえれば何でもいいのだが、そのためにもまず会話が可能になる必要がある。目の前の相手はモンスターでも何でもない、種族的には普通のエルフのはずなのだが、横の紅魔族共々何故こんな野生動物を相手にするような感覚に陥らなければならないのだろうか。割と真剣にそんなことを考えた。

 

「カズマくんカズマくん」

「はいはいカズマですよ。俺は今この状況を何とかしようとだな」

「とりあえずみんなでご飯食べません?」

「……。どうすれば……とりあえずあの二人を会話させて」

「あれ? 聞こえませんでしたか? おーいカズマくーん」

「だあってろ腹ペコ! 俺は今どうやってこいつらに友達が出来るかをだな――」

 

 空気を読まずに。あるいはわざと空気をぶち壊すために。そんな考えだったのだろうペコリーヌの発言したそれにツッコミを入れたようなカズマの言葉であったが、意外にもそこに反応したのは向こうのコミュ障ぼっち二人であった。正確には、『友達が出来る』という部分に反応をした。

 

「と、とも、ともだち!? 友達、出来るんですか!?」

「出来るの!? 正直めぐみんがそうなのかも怪しくなってきた私も、友達が!?」

「うぉ!? …………お、おう」

 

 先程までとは比べ物にならない勢いで食い付いてくる二人に、カズマは思わず頷いてしまう。テンパっていた状態に勢いを全て使っていた二人のそれは、彼の肯定によりさらなる本流として溢れ出し。

 

「で、でででで、では! あ、あなたが友達……いや違う、そんな恐れ多い! 私達に道を示してくれたあなたは、まさに指導者」

「まだ示してないけどな! 示すかどうかも定かではないからな!」

「つ、つまりリーダー!? 私達ぼっちを導くリーダー!」

「ちげぇよ! 何だその嫌な称号!」

 

 ぐいぐいと迫るぼっちブラザーズ。正確にはシスターズだとかそういうツッコミを入れる余裕もないほど、カズマはアオイとゆんゆんの迫力に圧されていた。

 視線を動かす。頑張ってください主さま、というコッコロの応援ポーズを見て、ギリギリの精神をなんとか踏み止まらせた。

 

「わ、分かった。とりあえず、お前たちがぼっちを卒業できるよう、保証は出来んがアドバイスをしてやる。保証は出来んが」

「ほ、本当ですか!? 流石はリーダー!」

「おい待てリーダーはやめろ」

「流石は我がBB団リーダー!」

「ちょっと待て何だその集団。いつ発足した」

 

 目をキラキラさせながらこちらを見るアオイとゆんゆん。そしてこの一瞬で突如生まれた謎の組織。カズマはもう考えるのをやめようかなと本気で思いかけた。

 だが、残念。ぼっちからは逃げられない。

 

「やばいですね……」

「ヤバいわね」

 




カズマはBB団リーダーの称号を得た!
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