※プリコネ元ネタの捏造スキル出ます。
ジャイアントトードの眉間に矢が突き刺さる。と、同時にカエルはぶくぶくと泡を吹き始め、そして痙攣しながら倒れ伏した。その光景を暫し眺めていたカズマは、絶命した目の前のカエルから自分の持っている矢に視線を動かす。
「予想以上にヤベェな毒スキル……」
「しかし、効果はてきめんです。あれならば殆どのモンスターに効果があるでしょう」
「何より、その毒で仕留めてもお肉は傷まない。やばいですね☆」
いえーい、とモンスターから食用肉へとクラスチェンジしたジャイアントトードを引きずりながらペコリーヌは満足そうに笑う。コッコロもその効果の有用性を褒め称え、自身の主が強くなっていくことを満足そうに笑った。
よし次、とカズマは別の矢を取り出しジャイアントトードに打ち込む。今度はカエルは絶命することなく、しかし痙攣した状態でだらりと舌を出したまま動かなくなった。
「……ちょっと弓スキルと狙撃スキル教えてもらうだけのはずが、これは儲けもんだな」
カズマの冒険者カードに新しく登録されたスキル、その一つが《毒精製》である。突如結成されたバイバイぼっち団、通称BB団のリーダーとなったカズマが団員であるゆんゆんとアオイの持っていたスキルをとりあえず全部確認し、登録できるものは全て登録した結果、彼のカードのスキル欄は中々カオスなことになっていた。現状、コッコロ、ペコリーヌ、キャル、ゆんゆん、アオイのスキルを一通り見ているので、こいつ一体何の職業なんだと言わんばかりのラインナップである。
そして毒精製は、アオイが何故か持っていたスキルだ。狩り以外でどういう用途に使おうとしていたのかは、聞かなかった。きっとそれ以外では使わないに違いない。いざという時の自決用ですととてもいい笑顔で言われたことは記憶の彼方においておく。
「で、どうだキャル。俺の新しいスキルは?」
毒矢と麻痺矢を試したことでとりあえず満足したカズマは、そこで一言も喋っていないキャルへと向き直る。じっと前を見ている彼女の瞳は、まるで何も映していないかのようで。
「おーい、キャル? 返事はどうした?」
「……と、とても、素晴らしいです……ご、ご主人、さま……」
プルプルと震えながらその言葉を絞り出す。明らかに無理をしているのはバレバレで、尻尾はピンと立ったまま、猫耳も逆立っている。そんなキャルを見てニヤリと笑ったカズマは、おいおいどうしたと彼女に言葉を紡いだ。
「お前が言い出したことだろう? 俺が、ボッチを拗らせたアーチャーからスキルを貰ったらご主人さま呼びをするってな」
「ぐ、ぐぐぐぐぅ……」
今にも殺さんばかりの視線をカズマに向けるが、彼は敗者の視線は心地いいなと高笑いを上げるのみ。
「いいんだぜ? 俺は別にこんな場所じゃなくて、アクセルの酒場で『ご主人さま、きゃるきゃるーん☆』とかやってくれても構わないしな」
「殺す。絶対ぶっ殺す……」
「まあまあ。今回に関してはキャルちゃんが言い出したのも原因ですし」
「そりゃ、そうだけど……」
「主さまも、こうしてわたくしたちだけの時にという限定にされておりますから」
「そう、なんだけど……」
ぐぬぬ、と何故かカズマの味方をする二人を恨みがましげに見やる。コッコロはともかく、ペコリーヌまでその反応は何なのだ。そう思いながら彼女を睨んだが、笑顔でサラリと躱されるのみ。
納得いかない。そう言いかけたキャルであったが、しかし確かに自分の撒いた種である。拳を握り、真っ直ぐに彼を見て。深呼吸をした後、こうなりゃヤケだと全力の営業スマイルを浮かべた。
「素晴らしいですね、ご主人さま☆」
「うわ、気持ち悪っ」
「ぶっ殺すぞ!」
ギルドの酒場に戻ってきた一行は、討伐したジャイアントトードだったものをギルドの職員に渡すとクエスト完了の手続きを行った。そこそこの稼ぎと、肉の追加。下処理まで終わっているそれは、通常より高値となった。
「しかし、カエルも飽きてきたな」
冒険者カードに記される討伐数を眺めながらカズマはそんなことをぼやく。今の所まともな討伐がジャイアントトードとキャベツの二種類しかない。初心者なので地道に行くというのは間違いではないためそこに文句は言いたくないが、それでも流石に同じモンスターでレベルアップを続ける作業はゲームにしろ現実にしろ飽きが来る。
「そうですね~。確かにカズマくん、結構成長しましたし。何か違うクエスト、行ってみます?」
「何かご要望はございますか? 主さま」
そんな呟きに二人が同意を返したので、じゃあ遠慮なくとカズマはクエストの貼ってある掲示板を眺める。駆け出し冒険者の街という名目ではあるが、そこそこの難易度のクエストも当然ながら多数存在している。そして中には絶対に無理だろうと思われる難易度のクエストも貼られていた。
「……グリフォンとマンティコアの縄張り争い?」
明らかに年単位で貼られっぱなしの、ボロボロになったそのクエストを眺める。物凄く聞き覚えのあるモンスター二種類、それを討伐するというクエストらしい。ふむふむ、と眺めていたカズマは、無理だなと一蹴した。こういうのはもっと魔王を倒す勇者とかの仕事だ。自分のようなそこそこ面白おかしく生きていければいいと思っている人間の出番はそこにはない。
「やるんですか? グリフォンとマンティコア」
「やらん。俺はまだ命が惜しい」
「……そうですか。カズマくんがそういうなら」
ペコリーヌがカズマの見ていたクエストを覗き込みながらそんなことを述べる。じゃあ違うの選びましょうと一歩離れると他の貼ってあるクエストを眺め始めた。
そしてカズマはそこから動けなかった。気合を入れて、むさいおっさんのスク水を思い浮かべて深呼吸をする。そうした後、危なかった、と心中で安堵の溜息を述べた。ペコリーヌはカズマの後ろからひょいと覗き込んだ。密着したのだ。でっかい二つが、背中に思い切り。
幸いにして誰にも気付かれていないらしく、カズマは何事もなかったかのようにクエスト検索に戻る。そんな彼の後ろから覗き込むように、キャルがいいのあったのと尋ねてきた。
「いや、今探しているところだ」
「……何その優しい顔は。何か無性にムカつくんだけど」
「いや、よく考えてみれば俺はお前に酷いことをしていたな、と」
「何で急にその考えに至ったのか小一時間ほど問い詰めたいんだけど……」
密着しなかった。そのことを認識したカズマは、期限を三日から二日に引き下げてやってもいいかもしれないという謎の慈悲が目覚めた。
ともあれ、選ぶのはとりあえずそこそこのものだ。自分にあった丁度いいもの、そんなことを思いながら視線を巡らせ。
「ん? 湖の浄化?」
少し毛色の違うクエストが目についた。内容は、水源となっている湖の水質悪化のためブルータルアリゲーターなるモンスターが住み着き始めたので、浄化をして追い払って欲しいというものだ。浄化さえすればモンスターを倒す必要がない、というのが討伐とは異なる部分で、場合によっては戦闘をする必要がない。
「……まあ、プリースト向けって書いてあるし、俺には関係ないか」
住み着いているモンスターを倒すことは出来ても、湖の浄化は出来ない。そういうわけでこの依頼は却下だ。そんなことを思いながら別のクエストを。
「湖の浄化、ですか」
いつの間にかカズマの隣に立っていたコッコロが、彼の視線の先のそれを見ながら一人呟いていた。どうやらそのクエストを受けようか迷っていると思ったらしい。成程、と条件を見ながら考え込んでいる。
「あー、コッコロ?」
「はい。何でしょうか主さま」
「別に見てただけで受けるわけじゃないぞ」
「そうなのですか?」
「ああ、それくらいの難易度のクエストで、もうちょい俺のスキルが使えそうなのを」
「ないわね」
言葉が途中で遮られる。は、と視線を向けると、キャルがピックアップしてきたらしいクエストの張り紙をヒラヒラとさせながら溜息を吐いていた。
「カエル以外で難易度的に丁度いいのが、アンデッドの討伐とゴーレムの討伐くらいよ」
「一応、ジャイアントアースウォームの討伐とかはありますけど……多分カエルとそう変わりませんよ、歯ごたえとか」
その歯ごたえはどういう意味なのだろうか。そこは少し気になったが、どちらにせよペコリーヌの言葉にキャルも反論しない以上、現状受けられるクエストの中で妥当なのはその二つの系統のみらしい。
アンデッドもゴーレムも、どちらも毒は役に立ちそうにない。が、しかし。
「一応アンデッドなら弓は効くだろ」
「……良かったの? あんた結構あの毒矢気に入ってたじゃない」
「まあそれはそれだ。とりあえず今は他のモンスターと試しに戦ってみてもいいんじゃないかってな」
「成程。頑張っておられるのですね、主さま」
「お、おう」
もう少し基準を見比べて、ダメそうだったらカエル倒しながらのんびり生活しようとか考えていただけなので、コッコロのその眼差しは大分痛い。案の定その反応で何かを察したキャルは、ふーんとジト目でカズマを見ている。
そして最後の一人はというと。
「アンデッド、ですか……」
「何かあったのか?」
「ゴーレムは頑張ればいけるかもしれませんが、アンデッドは流石にちょっと」
「……何が頑張ればいけるのか、何が流石にちょっとなのかは聞かないでおく」
「あ、でもお肉って腐りかけが一番美味しいって話を」
「はい、この話はもうやめよう。はい、やめやめ」
カズマのそれに反論をするものはいなかった。
尚、とりあえずクエストはアンデッド討伐に決まったらしい。
夜の墓地は、場所も相まって中々不気味な雰囲気が漂っている。月が出ているからいいものの、そうでなければ、あるいは雲で隠れてしまえば周囲も見えず、もしこんなところで戦闘になってしまえば苦戦は必至。
そんな状態で、カズマは何故か余裕の表情を浮かべていた。
「どうしたのよ。ご主人さま」
まだ期間中なのでわざわざ律儀にそう呼ぶキャルに視線を向け彼はニヤリと笑う。毒こそ役に立たないかもしれないが、この間手に入れたスキルはそれだけではないのだ、と。
目を細める。す、と視界が切り替わり、まるで暗視ゴーグルのような景色が浮かび上がった。
「《千里眼》、アオイの持ってたアーチャースキルの一つだ」
「おお、カズマくん、大分万能になってきましたね」
「ははは、そうだろうそうだろう」
惜しむらくは別に通常と同じように見えるというわけではないことか。この状態ではある程度の形は分かるが、それが何かは分からない。ここにペコリーヌ、キャル、そしてコッコロがいるということを理解しているからそれぞれどこにいるか認識できるのであって、未知の何かがいた場合は改めて確認の必要がある。
「まあ、それでも敵感知と組み合わせれば楽勝だろう」
「多数の職のスキルを組み合わせられる冒険者ならではの動き、流石は主さまです」
「まあ、その点に関しては素直に称賛してあげるわ、ご主人さま」
「やばいですね☆」
いつになく自分の評価が高い。そのことでつい調子に乗ってしまったカズマは、先導は任せろとパーティーの先頭を歩き出した。二つのスキルを使い分け、敵らしい敵がいないかを確認し、そして。
「……んー?」
「どうしました?」
とりあえず周辺をぐるりと回ったが、何も遭遇しない。アンデッドが徘徊しているという話だったのに、何もいないのでは詐欺だ。おかしいと首を傾げるカズマと同じように、三人もこの状況を訝しんでいた。
「そもそも、ここって教会のプリーストが定期的に供養とかしてるんじゃないの?」
「そのはずですけど……こういう共同墓地だと手が回らないこともありますし」
キャルの疑問にペコリーヌが答える。だから迷える魂が出た時にクエストとして発注しているのだろうと続けながら、近くの墓石を手でなぞった。
「その割には、案外手入れされてますね、ここらへん」
「確かに。供養のされた跡があります」
コッコロも周囲を見渡しながら同意する。しかしそうなるとますますクエストを出した意味が分からなくなる。きちんと供養されているのならば、どうしてアンデッドの討伐などという名目でこの墓場に冒険者を呼んだのか。
「罠?」
「駆け出し冒険者を嵌めて何するってんだよ……仕事ブッキングでもしてんじゃねぇの?」
険しい表情になるキャルとは対象的に、カズマはそんなことを言ってやる気を無くす。来て損した、と呟きながらもう帰ろうと踵を返し。
その足をピタリと止めた。千里眼に反応があったのだ。墓地の中心部、そこに、何かがいる。それに気付いた途端、彼の心臓がドクンと鳴り始めた。先程のキャルの言葉が、妙に頭から離れない。
「おいキャル。ちょっと見てこい」
「はぁ!? 何であたしが! ご主人さまが行きなさいよ、千里眼持ってんでしょ!?」
「しー。静かにキャルちゃん。もし相手がこっちの敵だったら」
「ぐっ……」
「どういたしましょう、主さま」
とりあえず適当な墓石に身を潜めながら、ゆっくりと件の反応があった場所へと距離を詰める。戦うにしろ、逃げるにしろ、接触するにしろ。まずは相手の確認をしなければどうにもならない。
中心部に近付くにつれて、そこにいるのが人影だということが分かってきた。が、あくまで人型をしているだけという可能性もある。慎重に近付きながら、灯りのあるその位置へと足を。
「うひゃっは~い! しゅわしゅわさいこぉおぉ」
「駄目です! まだ、まだ終わってないですから! もうちょっと待ってください! ああ、飲まないで!」
足を止めた。四人の目の前に広がっていた光景のあまりのアレさに思考が追い付かなかったのだ。
墓場の中心部で、二人の女性が酒盛りをしていた。否、正確にはエルフらしき女性が一人で酒を飲んでハッピーになっているのを、どことなく幸の薄そうなオーラを発している女性が止めている。が、酒を飲んでいる方はまるで聞いちゃいない。どこから取り出したのか分からないジョッキでガブガブと酒を体内に染み込ませていく。
「……帰るか?」
「そうね……帰りましょうか、ご主人さま」
「主さま!? キャルさま!? 現実逃避をしないでくださいませ」
「段々慣れてきました」
ともあれ、とりあえず関わらないという選択肢はなさそうである。ペコリーヌは逃げ出そうとしているカズマとキャルを引っ掴むと、いきますよ~と中心部へと歩き出した。
えれぇことに