プリすば!   作:負け狐

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さまようよろい


その115

〈え? 何? 俺何も怪しくないよ!?〉

「怪しいやつのテンプレみたいな反応してんじゃねーよ……」

 

 ライブも終わり、アクセルハーツとファンの交流が始まった頃。我先に、とエーリカへと駆け出そうとする全身鎧をダクネスは呼び止めた。何だ何だ、と面倒そうに振り返った鎧は、まずダクネスの見た目に騙され色めき立ち、次いで横にいる警官を見て即座に雰囲気を変える。

 

〈いやでも実際俺のどこが怪しいってーわけ?〉

「全身鎧着てアイドルライブ見に来てる時点で怪しさ満点だよ」

〈はぁ? なにいってんのおまえ?〉

 

 本気の声であった。言われたカズマですら、何か間違ったこと言っただろうかと一瞬悩んでしまうほどの声色であった。

 もちろんすぐに我に返る。だったらお前のその恰好なんなんだよと指を突きつけると、鎧はハンと鼻で笑った。

 

〈いや俺これが本体だしー〉

「……何だって?」

 

 思わずダクネスが口を出した。それに反応したのか、よくぞ聞いてくれたと彼女の方へとずずいと寄る。動きの怪しさに、流石のダクネスもちょっと引いた。

 

〈我が名は聖鎧アイギス。喋って歌えるハイブリッドな神器たぁ俺のことさ。所有者をどこまでも守るこの力、一度身に纏ったらやみつきになるぜ。ささ、どうだい美人の騎士サマ? いっちょ俺っち装備しない?〉

「な、は? え? ……神器? いや、そういう報告は受けていたが、そうじゃなくて……え? 自立式?」

「ダクネス、落ち着け。お前がパニクったら現場も混乱するだろ」

「あ、ああ、すまない。……しかしカズマ、お前は随分と冷静だな」

「いやまあ、さっきコッコロと似たようなこと話してたから」

「流石は主さまでございます。このことを見越して、事前に心構えをしておられたのですね」

「……おう、そうだな」

 

 絶対たまたまなんだろうな、とその場にいた殆どの人間がそう思ったが、口にはしない。空気を読んだというか、いつものやり取りというか。そういう流れだったからだ。

 が、しかし。勿論そういうお約束を知らないやつもいるわけで。

 

〈なあ騎士のお嬢さん〉

「どうした?」

〈え? 何あれ? そういうプレイなの?〉

「い、いや違うぞ!? 彼女はカズマを主として慕っているだけの至ってまっとうなエルフの少女で」

〈あのパッとしない小僧を主として慕ってるって時点で既にまっとうじゃなくない?〉

「……」

 

 ぐうの音も出なかった。何だかいつの間にか慣れきってたけどそこ冷静にツッコミ入れられると反論できなかったのだ。何か苦労してるんだな、というアイギスの言葉に、ダクネスはそういうわけではないのだがと気まずそうに頬を掻くのが精一杯である。

 

「って、違う! 今の問題はお前だ! 聖鎧アイギスが自立稼働する神器だとして、何故こんな場所でアイドルライブに参加しているのだ!?」

〈エーリカちゃんにライブ見に行くって約束しましたしー?〉

「えぇ……」

 

 意味が理解できないわけではない辺りが余計に彼女を混乱させる。神器ってそういうものなの、とダクネスの中で常識が書き換わりかけて、いかんいかんと頭を振った。

 

〈で、終わったんならもういいか? 俺今からエーリカちゃんとのファンミに参加するつもりなんだけど〉

「い、いや待て! お前には神器としてこちらの管理下に置かれてもらう」

〈嫌だね。管理下ってのはあれだろ? 何か封印していざという時に使えるように整備してとかそういうやつだろ? 人に言われるままに装備させられるなんてまっぴらごめんだ。アンダインの屋敷から抜け出したのも、そういう理由だしな〉

「まあ、向こうの主張も分かるな」

「理解を示すな! 神器といえば魔王軍との切り札足り得る装備だ。最初こそクリスの要請であったが、しかしこのような状態を放っておくことはベルゼルグ王国の貴族として看過できん」

〈真面目だなぁ。いやでもそういう真面目な女騎士に装備してもらうってのもまありっちゃありだけどよ。一応聞くけど、そのいざという時に俺っちを装備すんのは誰だ?〉

 

 え、とダクネスの言葉が止まる。聖鎧アイギス。クリスの情報によれば、神器にふさわしい防御力と耐性を持った素晴らしい鎧。そうなると、勿論装備するのは魔王軍に対抗できるだけの実力を持った者で。

 ちらりとカズマを見た。こいつではないな、と一人納得したように頷くと、次いでよく見る勇者候補のもう一人を思い浮かべた。そうして、それも何だか違うような気がして選択肢から外す。神器を纏うとすれば、聖鎧を装備するにふさわしい名前を上げるならば。ベルゼルグ王国貴族として、ダクネスが思いつく該当者はやはり。

 

「…………ユースティアナ、様、か……?」

「よしコッコロ。ここはこの鎧の言い分を聞いて見逃そうぜ」

「主さま!?」

 

 カズマのその宣言にコッコロが目を見開く。が、彼の言いたいことを何となく理解した彼女は、隣に立つ主を優しげに見やる。そういうことでしたら、仕方ありませんね。そう言ってコッコロは微笑み武器を下ろした。

 

〈お、何だ小僧、物分りいいじゃねぇか。まあそうしてくれると俺っちとしては助かるけど、いいのか? 本気で逃げるぜ? エーリカちゃんのファンミ行くぜ?〉

 

 行け行け、とカズマは手で追い払うような仕草を取る。それを見てまるでニヤリと笑うかのような仕草をとったアイギスは、じゃあ遠慮なくと踵を返した。ちゃんと足止めしとけよ、と言い放つのも忘れない。

 

「あ、こら待て!」

「まあまあダクネス。ライブもまだ完全に終わったわけじゃない。これ以上騒ぎを起こすわけにもいかないだろう?」

「お前はいきなりどうした!?」

「ダクネスさま。わたくしも主さまと同意見でございます。ここはひとつ、お願いを聞き届けてはいただけないでしょうか……」

「ぐ、う……」

 

 深々と頭を下げるコッコロを前に、そんなことは出来んと振り払うことは彼女には無理だ。というか横の警官も無理だ。コッコロちゃんがそう言うなら、と警官の装備をしまい、アイギスと同じようにファン交流会の方に足を向けている。

 

「あ、こらお前達まで……! はぁ……」

 

 捕縛は失敗だ。というか妨害されたという方が正しい。それも、通報してきた張本人によってである。盛大に溜息を吐くと、ダクネスはガリガリと頭を掻いた。そうしながら、理由はあるのだろうなとカズマを睨む。

 

「んなこと言ったって。あいつ捕まえたらペコリーヌが装備するかもしれないんだろ?」

「あくまで可能性だ。ジャティス殿下の方がその確率は高い」

「ですが、可能性があるということは。もしかしたらペコリーヌさまがアイギスさまを纏い前線に赴く事態になるやもしれない、ということにもなり得るのでしょう?」

「それは、そうだが……」

 

 二人の言いたいことは分かった。同時に意図を察した。つまりは、カズマとコッコロはペコリーヌを魔王軍との前線に向かわせたくないのだ。

 

「しかしだな。ユースティアナ様は第一王女、王族として果たさねばならん義務というものが」

「知るかよ。俺んとこのパーティーの貴重な前衛が抜けるほうがよっぽど問題だっつの」

「以前、主さまがおっしゃっておられましたから」

 

 王都での会話を思い出す。結局そのスタンスは変わっていない、ということを再確認したダクネスは、ああもうと諦めたように肩を落とした。別に自分だって好き好んで幼い頃からの付き合いであるユースティアナを死地に送り込みたくはない。今こうして普通、とはあまり言えないような気もしないがまあ慣れてしまえばこれも普通だろう、という生活が続けられるのならばその方が良いとも思っている。

 だが、それでも。

 

「だとしても、だ。神器の所在を明らかにし、それを使用できるようにすれば魔王軍との戦いで有利になる。後々の平和に繋がるのだ」

「後々の平和の前に俺の今現在の平和が脅かされるんですけどぉ」

「ぐ……。な、ならば、然るべき時は私がユースティアナ様の代わりにお前のパーティーの前衛を務めよう。それで」

「いや攻撃当たらないドMの盾役とかお呼びじゃないんで。ていうか何お前? まさかペコリーヌの代わりが出来ると思ってんの? お前が? 冗談は休み休み言えよ」

「この場面でなんてことを! くぅ、お前は、くぅ……!」

 

 悦んだ。カズマも割と承知でボロクソ言ったので、彼女のその反応について何も言わなかった。

 ただ、コッコロの視界からダクネスを外すのは忘れなかった。

 

 

 

 

 

 

「みんな、ありがとー! 次もアクセルハーツと、カワイイエーリカちゃんをよろしくねー!」

 

 ワァァァァ、と歓声が上がる。ファンとの交流会も終わり、アクセルハーツのライブはさしたる混乱もなく大成功に終わったようだ。久々のアクセルでのライブを堪能したのか、ファン達はホクホク顔で帰路についていく。

 その集団の中に、全身鎧の姿もあった。

 

〈ふぅ……。久々に声枯れるかと思ったぜ。ま、俺っちの声念波でそれっぽくしてるだけだから枯れねぇんだけど〉

 

 笑いながらアイギスは街を歩く。女神祭真っ最中、日は落ちても活気は全く衰えていない。帰路につく、と先程は称したが、ライブ後も祭を続ける者達も大勢いるであろう。

 アイギスもそんな空気に当てられたのか、別段目的もないのにガッシャガッシャと街を歩いている。屋台を眺め、まあ食べられないからなぁ、と笑い。

 

〈……ん?〉

 

 視界に、やたら賑やかな一角が飛び込んできた。どうやら食べ物の屋台ではないのは聞こえてくる声から推測できたが、では何をやっているのかと言われると。

 うーむ、とアイギスは暫し迷う。が、どうせ目的もないし、ちょっと見るくらいならいいかと即座に結論を出した鎧は、その騒がしい一角へと歩みを進めた。

 

「ふ、よくここまで粘ったと褒めてあげましょう。しかしゆんゆん、そろそろあなたも限界なのでは?」

「くっ……。で、でも、私はまだ負けてないわ、めぐみん!」

「口では何とでも言えます。……さあ、我が爆裂魔法を食らい、吹き飛ぶがいい!」

「……待っていたわ、この時を」

「なん、だと……!」

 

 歓声が一際大きくなる。めぐみんが大技を放とうとしたその瞬間、ゆんゆんは一気に彼女へと間合いを詰めた。爆裂魔法は確かに大技だが、それ故に弱点も多い。その一つが、攻撃範囲だ。相手一人を吹き飛ばすにはあまりにも広い。故に、こうも近付かれては。

 

「ふっ。そんなことで我が爆裂魔法を防いだとでも!? 甘い、甘すぎですよゆんゆん!」

「ええ。この程度では無理よ。……だからっ!」

「なっ!? ゆ、ゆんゆん! まさかあなた……」

「防げなくてもいいの。――めぐみんと一緒に、吹き飛んでしまえば、それで」

「……言いましたね。ならば、どちらが耐えきれるか――勝負といきましょう」

 

 めぐみんの声に合わせるように、そこに光が集まり、そして。

 

「エクスプロージョン!」

 

 盛大な爆発が、リングに生まれた。ぼぼん、と吹き飛んだ《めぐみん》と書かれた人形と《ゆんゆん》と書かれた人形はそのまま仲良く宙を舞い、そして地面に叩きつけられバラバラになる。

 

「ふむ。……引き分けですね」

「あー……やはり耐久値が足りませんでしたか。中盤にダメージ食らい過ぎました」

「うぅぅ……また勝てなかった」

 

 ズタボロになっためぐみん人形を見ながら分析を行うめぐみんと、同じくボロボロになったゆんゆん人形を見てがくりと膝をつくゆんゆん。引き分けとはいえ、どうやらお互いの勝敗は明らかなようであった。

 観客はそんな二人を讃え、騒ぎ。当然そういうのに慣れてないゆんゆんはその都度パニックを起こし、目をビンビンに紅く光らせながら空間の隅で必死に息を殺しているアオイへと駆け寄っていた。めぐみんはそんな彼女を見て、やれやれ、と肩を竦めている。

 

「二日目なんですから、少しは慣れてもいいと思うんですけど」

「まあ、仕方ないわよ。あの子の人見知りは筋金入りだもの。それに」

 

 傍らにいたちょむすけが苦笑しながら視線を動かす。ゆんゆんの横、彼女が移動したことで観客達に認識され奇声を発しているベレー帽のエルフの少女を見やる。

 

「……アオイちゃんよりは、マシじゃないかしら」

「いや彼女は人見知りとかそういうレベルにいないのでは」

 

 ルーシーに宥められ、安楽王女が引っ叩いているのを見ながら、めぐみんは溜息混じりに視線を動かした。客寄せも兼ねて昨日から行っている勝負は、口コミもあって大盛況だ。屋台に置いてある人形は飛ぶように売れていき、そして買った客が用意してあるバトルスペースで勝負を行い破壊される度に追加で売れる。子供用のおもちゃであったはずの初期案から随分と様変わりしたものだ、と彼女は少しだけ呆れたような表情を浮かべた。

 

「おや、めぐみん。納得がいきませんか?」

「納得がいかないというか。最初の説明は何だったんだろうとは思いますね」

「仕組みは同様です。きちんと初期案の子供用も販売していますよ」

「あっちはあっちで売れているものね」

 

 ちょむすけの言う通り、当初の予定であった《トイフレンドくん》もきちんと陳列してあった。こちらは競技用のそれとは違い、名前の通りに子供たちの友達となるためのものだ。デザインも当初のままである。

 その一方で今現在そこかしこで破壊されている人形は、《戦えデストロイヤー》と銘打たれた自由にカスタマイズ可能な一品だ。起動させれば所有者の思考を読み取って自由に動かせるため、各々のデストロイヤーを使って相手を打ち倒すのが非常に好評であった。

 

〈うわぁ……〉

 

 そんな空間に踏み込んでしまったアイギスは、思わずそんな声を零す。ここだけ祭の雰囲気違わない? とツッコミを入れたくなるようなそれは、しかし人々が楽しんでいるという意味では間違いなく是であるだろう。

 が、それを受け入れるかはまた別問題である。

 

「おや?」

〈うぇ!?〉

 

 普段とは違い、大きな帽子を脱ぎ、浴衣を着ていたネネカがアイギスに気付いた。全身鎧のその姿を見て、ふむ、と頷くとその口元を三日月に変える。

 悪寒が走った。鎧である己が、言いしれない恐怖を感じたのだ。あ、これあかんやつや。そういう判断を瞬時に下したのだ。

 

「どこへ行くのですか?」

〈うぇぇぇ!?〉

 

 気付いたらネネカが後ろにいた。浴衣ではない、大きな帽子をかぶった普段の姿のそのネネカは、微笑を浮かべたままアイギスの逃げ場を塞ぐ。さあ向こうへ行くのだと促す。

 視線を動かす。浴衣を着たネネカが見えて、思わず振り向いた。

 

〈え? 双子?〉

「おかしなことを言いますね。私はネネカ、もとから一人ですよ」

〈ちょっと何言ってるか分かんない〉

 

 混乱したままネネカに連れられネネカのいる場所まで移動させられたアイギスは、そこでようやく他にも二人の人物がいることに気が付いた。片方は紅魔族だが、何というか色気が足りない。職業的にも体型的にもどちらも範囲外だ。

 

「この鎧、今非常に不愉快なことを考えてませんでしたか?」

〈気のせいだろ。それよりそこのキレイなお姉さん、どうです? よければ俺の中に入りません?〉

「こいつ変態ですよ師匠!?」

「変態は間に合ってるの。ごめんなさいね」

〈予想以上に厳しい返答!?〉

「ふふ。それくらいではなくては面白くありません」

〈こっちはこっちで何する気!? やめて! 俺っちに乱暴するつもりでしょ!? エロ同人みたいに〉

「師匠、所長。こいつ爆裂魔法で吹き飛ばしません?」

「待ちなさいめぐみん。彼には少し利用価値があるのですから、処理はその後でも遅くはありませんよ」

〈恐ろしいこと言ってるこのロリエルフ!?〉

「変態の鎧さん、一応言っておくけれど、ネネカは二十四よ」

 

 収拾がつかない。が、生憎とそこにツッコミを入れてくれるような人物は丁度近くにいないわけで。BB団も得体の知れない鎧と何かやっているということで様子見しているし、何より。

 

「お前らぁ! んな鎧どうでもいいからこっち手伝えよ! あたし一人でこれだけの客さばけるわけねーだろうが!」

 

 先程からずっと屋台の担当にされているセレスディナは、それどころではなかったからだ。

 

 




は にげだした!

しかし まわりこまれてしまった!
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