プリすば!   作:負け狐

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「ぐあぁぁぁぁぁ――――ッ!!」


その118

〈くっ! 殺せっ……!〉

「勿論です」

「当たり前じゃないですか」

「よいしょ、っと」

〈即答やめて!? 後そこの巨乳美人のねーちゃん言葉より先に剣振りかぶったよね! というか俺っちの宣言全く聞いてなかったよね!?〉

 

 料理の後片付けをするかのように、生ゴミを捨てるかのようにアイギスを処理しようとするシズルは、ただただ恐ろしかった。これならばまだヤンデレオーラを放ちながら呪詛を呟いて来る方がマシだ。神器の特性ともいうべきか、無駄に高い防御力のおかげでなんとか原型を保っているものの、持ち主のいない鎧が目の前の三人に勝てるかと言えば答えは否。

 一応念の為。忘れがちだがここは駆け出し冒険者の街である。普通ならば、その枕詞通りならばアイギスをボコせるような冒険者はこの街に存在しないはずである。

 

〈何なんだよ……! 何なんだよこの街っ……! 見た目は俺っちの好みがあちこちにいるくせに、中身やべーのしかいねーじゃねぇか!〉

「そりゃそうですよ。ここはアクセル、変人の宝石箱です」

〈俺っちの知ってるアクセルじゃなぁい!? いや姐さんの時点で薄々感じてたけどね!〉

 

 コッコロ、リノ、シズルのトリオによってズタボロにされるアイギスを楽しそうに観察していた変人窟筆頭ネネカ。その横でどこか呆れたようにめぐみんがそんなことを述べ、己の知識との差異に鎧は叫ぶ。そうしながら、彼はガシャガシャとゴキブリのような動きで三人から距離を取った。念の為に言っておくが、めぐみんも思い切り変人側である。

 ともあれ。このままでは間違いなくアイギスは鉄くず、もといオリハルコンくずへと変化させられる。間違いなく死ぬ。意思を持った神器の最後としては大分お粗末なものだが、それを回避する手段が現状ほとんど見付からない。土下座して謝って向こうでドン引きしているあの冴えない男の靴でも舐めればワンチャンあるくらいか。

 

〈ふっ……。確かにそうすれば、俺は明日が来るかもしれない〉

 

 ゆっくりと立ち上がる。ギシギシと体を軋ませながら、アイギスは真っ直ぐにコッコロを、リノを、そしてシズルを見た。

 

〈けどな! それをしたら俺の心は死ぬんだよ! 心を無くしたアイギスは、ただの鎧だ。それじゃあ、何の意味も、ねーだろうが!〉

「何言ってるかよく分かりませんけどとりあえずさっさと死んでください」

〈容赦ねぇ!?〉

 

 豪雨のような矢がアイギスを襲う。ぎゃぁ、と汚い悲鳴を上げながら地面に転がったアイギスは、その視界一杯に広がる空を覆い隠すように飛来してくる少女を見た。

 

〈意外とエロい下着履いてるな嬢ちゃん。だが残念、俺っちは十代前半のロリっ子じゃあビンとこなぁぁぁぁぁ!〉

 

 鎧の顔面、纏った人間の視界を確保するその場所に、容赦なくコッコロの槍がねじ込まれた。中に人がいれば間違いなくアイギスの内側で頭部が潰れたスイカみたいになっているであろう。

 幸い、中に誰もいませんでしたので惨劇は回避出来たのだが、ならばアイギス本体も無事かというとそういうわけでもない。

 

〈おごぉぉぉ! 目がぁ! 目がぁ!〉

「……」

〈無言で突き刺した槍を更にねじ込むのやめてぇぇぇ! らめぇぇぇ! 壊れちゃうぅぅぅ!〉

 

 コッコロの目がゴミを見るものに変わっていく。顔面に槍を突き刺したまま、彼女はアイギスをフルスイングした。すっぽ抜けた鎧は再度ゴロゴロと転がり、蜘蛛の子を散らすように逃げていった野次馬のいた場所でボロ雑巾のように倒れ伏す。

 

「こ、コロ助……?」

「はい。どうされましたかキャルさま」

「いや、あの、その……。か、カズマカズマ! ちょっと何か言ってやって!」

「俺!? いやまあ、そのだな……もうちょっと、落ち着いてくれ、なんて」

 

 恐る恐るそう述べるカズマに、コッコロはクスリと笑みを浮かべた。大丈夫ですと言葉を紡いだ。

 

「わたくしは落ち着いております。なので、もう少しだけお待ち下さい。あのアイギスを片付けてまいりますので」

「……やばいですね」

 

 ペコリーヌの呟きにカズマとキャルもうんうんと頷く。多分言葉では止まらないやつだ。そう判断したので、彼ら彼女らとしては何かしら行動でどうにかするしかない。

 が、いかんせん目の前の鎧自体には同情心は欠片も湧いていないので、どうにも必死さがいまいち足りない。

 そんなやり取りをしている隙に逃げ出そうとしていたアイギスは、シズルのスキルによって地面に磔にされていた。完全に詰みである。

 

〈ねえいくらボコされて弱まってるからって俺っちにここまで出来るのはおかしくない!? 何なの!? どういう原理!?〉

「お姉ちゃんパワーだよ」

〈どういう原理っ!?〉

 

 お姉ちゃんパワーはお姉ちゃんパワーである。それ以上でも以下でもない。

 

 

 

 

 

 

 ジタバタと往生際悪くもがくが、お姉ちゃんパワーに女神力をおまけしたそれはびくともしない。アメスの夢空間で状況を見守るアクアがもう好きにすればいいじゃないとやさぐれながらチューハイを空け始めるくらい、アイギスに希望はなかった。

 

〈まだだっ……! まだ、俺はやれる……! やらいでか! 目の前に、こんな、こんなおっぱいと、尻と、太ももがパラダイスしてるのに……何も出来ずに、死ぬ? そんなこと……許されるはず、ないだろうがぁ!〉

「どうしようもないですねこれ。バカにつける薬はないってやつですか」

「リノちゃん、それは――あれ? 合ってる」

「どちらにせよ、さっさと片付けてしまいましょう」

 

 アイギスの叫びを聞いたところで、攻撃の手が鈍るはずもなし。遠巻きになった野次馬ですら、トドメ刺しちまえと応援する始末だ。彼らは共感こそすれど、あの鎧側に立つことはないのである。

 それでも。アイギスは諦めなかった。戦闘中揺れるシズルの胸や、ちらちらと見えるパンツ。リノのスパッツによる曲線。コッコロは対象外なので置いておくとしても、それらを目にして、彼女らに匹敵する美女美少女が闊歩するこの街で、彼は生き残ることを決意したのだ。

 

〈……我が名は、アイギス……! 女神によって賜れし神器にして聖鎧……。女神よ、勇者の誓いよ――俺に、力を!〉

 

 何を、と一瞬皆が身構えるが、何も起きない。何だハッタリかよ、とカズマが呆れたように溜息を吐いたそのタイミングで、どこからか女性の悲鳴が耳に届いた。

 

「今のは、セレスディナ?」

「店番してたはずですよね。どうしたんでしょうか」

「……成程。アイギスの力は腐っても女神由来ということですか」

 

 え、とネネカの言葉に振り向いためぐみんとちょむすけだが、そんなことよりもと彼女が指差した方向に向き直る。その先にあるのは自分たちの屋台で、そこにあるのは。

 

〈そうだ……俺はアイギス……諦めの悪い鎧……〉

「何か飛んできてますよ!?」

「ちょっと!? 何よあれ!?」

「アイギスに似てるっぽいけど……いやほんと何だあれ!?」

 

 カズマたちの驚きを他所に、アイギスに似た形の飛来物は一直線にオリジナルへと向かっていく。羽虫を落とすようにコッコロ達がそれらを叩き落としていくが、しかし落としても壊しても勢いが止まらずアイギスへと。

 

〈オ、オオオオオオオオオオッ……!〉

 

 破片が、欠片が、壊れなかったものが。次々にアイギスへと吸収されていく。ネネカが用意した、《戦えデストロイヤー》をベースにアイギスの要素を付け加えた試作量産品。それが、本物のアイギスに呼応して自立起動を果たしたのだ。一斉起動した結果、セレスディナは屋台ごと吹っ飛んで爆心地で転がっている。

 

「レジーナの加護を組み込んだ人形をベースにしたことで、本来のアイギスの能力と相乗効果を生み出し余計な機能が追加されたのですね。中々に興味深い」

「言ってる場合ですか!? なんか凄いことになってますけど!?」

「これはまた……随分と」

 

 ちょむすけがアイギスを見上げる。そう、見上げているのだ。急なことで一瞬緩んだお姉ちゃんパワーを跳ね除け、アイギスは再び立ち上がった。立ち上がり、ネネカの試作量産品を取り込み、そして。

 

〈オッパァァァァイ……尻ィィィィィ……太モモォォォォォ……!〉

 

 巨大な鎧へと変化を遂げた。その代償なのか、先程までの何か鬱陶しい口調は鳴りを潜め、ただただ己のエロ欲望を垂れ流すようになっている。

 ズン、と巨大アイギスが一歩踏み出した。振動が空気を震わせ、それだけで単純な恐怖を煽る。流石にこれ以上ここで見るのは危険だと判断したのか、遠巻きだった野次馬も避難を開始し始めた。

 同時に、近くにあった屋台の人々も慌てて撤収を始める。そして、それに合わせるように、一人の少女が前に出た。

 

「ペコリーヌ?」

「このままだとお祭りが中止になっちゃいます」

「……ここの連中がこの程度で祭やめるか? いやまあ、今日は確かに無理かもしれないけど」

「そうよ、ほっといてもあの辺のがぶっ倒すでしょうし、明日には何事も」

「今日中止になったら、駄目じゃないですか」

 

 うぇ、とキャルかカズマのどちらかが変な声を上げた。ペコリーヌの表情は真剣で、ふざけている様子は見られない。なので、間違いなく彼女は素で言っている。それがどういう意味なのか、分かっているのか無意識なのか。カズマにそれを聞く勇気はないので、やたらとぎこちない動きでお、おうとだけ返事をしていた。

 

「……ま、確かに今日この後中止になったら花火も上がんないし、アクセルの連中は不満かもしれないわね」

「お、おう、そうだな? てか何? 花火ってそんな人気なの?」

「そりゃそうよ。花火ないと駆除しそこねた虫の残党を殲滅できないでしょ?」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

「あんたこそ何言ってんのよ。花火は祭の宣戦布告の合図じゃない。あれで集まってきた虫の残党を一網打尽にするのよ」

 

 これだから異世界は、とカズマは思わず叫ぶ。ほんのちょっとだけ、夜空に咲き誇る大輪の下でイチャコラできるかもとか思っていた希望が潰え、ひっそりと盛り上がっていたテンションが萎えていく。もっとも、いざ実際その場になったらヘタれる程度のものではあったが。

 

「あー……んじゃペコリーヌもそういう意味で」

「……あんた、何言ってんのよ」

「いやもうそういう意味でいいじゃん! 俺は何も聞いてない! あーあー聞こえない!」

「ヘタレ」

「何とでも言え! とにかく、今はあのクソ鎧をぶっ倒すのが先決だろ」

 

 そうね、とキャルも杖を構える。が、現在の場所は街の広場。ここで魔法をぶっ放してしまえば、たとえアイギスを倒したとしても祭がすぐに再開できるかどうかが怪しくなる。

 ちらりとペコリーヌを見た。同じ考えに至ったのか、彼女も出来るだけスキルを使わずにどうにかする方向でいくようだ。

 

「つっても、あれ腐っても神器だろ? 普通の攻撃チマチマやってちゃ結局その間被害増えるんじゃ」

「そ、そそそそういうことならば!」

 

 カズマの呟きに反応するように、明らかに避難する側だろと言わんばかりのテンションの叫びが挟み込まれる。視線を向けると、突如三人に見られたことで視線の暴力に耐えきれず悲鳴を上げながら半透明のプリーストの後ろに隠れる姿が見えた。勿論隠れられていないので丸見えである。

 

「リーダー! えっと、その、あ、あれ? 私、何言おうとしてたんだっけ?」

「お前もかよゆんゆん……。とりあえず落ち着け。あのエロ鎧をどうにかするアイデアかなんかだろ?」

「あ、そうだそうだ。リーダー、とりあえずあれを街の外に出せればいいんですよね?」

「出来るのか?」

「あ、はい。それで、リーダーのあのスキルを使って欲しいんですけど……いえあの! おこがましいとは思うんですけど!」

 

 手をブンブン振りながら後ずさるゆんゆんを見て、それは別に構わないとカズマは即答した。別段渋る理由もないし、むしろいい加減この程度のお願いで遠慮するのをやめて欲しいくらいだ。そんなことを思いながら、じゃあ早速とゆんゆんに繋げるように剣を構え。

 

「あ、えっと、私じゃなくて。いえ、私も勿論手伝うんですけど、今回の方法で重要なのはアオイちゃんと安楽王女さんで」

「え? こっち?」

 

 ぐりん、と対象を切り替える。相も変わらずルーシーの後ろに隠れているアオイを見て、本当に大丈夫かよと彼はジト目になった。

 

「てか普段より酷くないか?」

『お祭りに参加したせいで、ぼっちラキシーショックを起こしたみたいなの』

「帰れよもう」

「私もそう思ったんだけどなぁ。一人で祭の端っこをこっそり一周して終わりじゃない年なんて生まれて初めてとか言われると、なぁ?」

「心が痛い!」

 

 アオイの肩に乗っていた安楽王女の言葉に、カズマの中で何とも言えない、同情というか同調というか、そういう感情が生まれてくる。いや流石にここまで酷くはなかったような気もするけど、と頭を振ってそれを散らした。

 

「で、だ。アオイと安楽王女でいいんだな?」

『ええ、私とゆんゆんはサポートに回るから、それでお願い』

「お願いします、リーダー」

「よし。……いや本当に大丈夫か? アオイが微振動とかそういうレベルじゃない揺れ方してるけど」

「だ、だだだだ大根人参いんげん豆!」

「大丈夫じゃねぇな」

「い、いいえ! や、やや、やりますぅ!」

 

 相変わらず目はグルグルしているままだが、それでも生まれたての子鹿のような足を一歩踏み出し前を睨む。そんなアオイを見て、安楽王女がほれ早くやれと笑みを浮かべながらカズマを促す。

 

「しょうがねぇなぁ。いくぞBB団!」

 

 アオイと安楽王女にブーストを掛ける。よし、と彼女の肩から飛び降りた安楽王女は、後ろにいるアオイに向かって叫んだ。よしやれ、と声を掛けた。

 

「び、BB団の絆と、私の知り合いになってくれた皆さんのために……!」

「別に友達でいいだろうに……」

「そ、そそそそそんな恐れ多い! 私みたいなのがそこまで高望みしたら、世界のバランスが」

『若干紅魔族の影響受けてるわね』

「わ、私は違うわよ! あ、友達じゃないとかそういう意味じゃなくて、むしろアオイちゃんは大切なBB団のおともだ――」

「早くやれよぼっちども!」

 

 カズマが叫ぶ。今の所押し留めているだけに抑えている三人も、時間が掛かり過ぎれば優先順位も変わってしまう。やるならば、急がなくては。

 そんな彼の声に姿勢を正し、アオイは安楽王女へと手を向けた。彼女はぼっちを極めしエルフ。植物を友人にしようと試みたことも両手の数では足りない。だから。

 

「植物と――絆の力です!」

 

 マスコットサイズであった安楽王女が急成長をする。本体の森とは別ベクトルで、どんどんと大きくなっていく彼女を見て、カズマ達はなんじゃこりゃと目を見開いていた。

 

「よし。そこのエロ鎧!」

〈オッパイィィィ!〉

「やかましい。暴れるんなら――」

〈尻ィィィィ?〉

 

 巨大化した安楽王女が巨大化したアイギスを掴む。そのまま持ち上げると、狙いを定めて思い切り投げ飛ばした。落下地点は、勿論街の外。

 

「人様の邪魔んならんとこでやっておけっての!」

〈太モモォォォォ!?〉

 

 安楽王女。かつて塩漬けクエストの討伐対象にまでなっていた魔物だが、その実彼女の行動自体は割と今の発言に即していたりもするわけで。

 

「モンスターが常識人の範疇の街って、何なんだろうな……」

「いやむしろ魔物以上に頭おかしい連中が闊歩してる方を問題視しなさいよ」

「あははは……」

 

 ともあれ、これで遠慮なく叩きのめせる。行くぞ、とアイギスの落下地点へ、カズマ達は急いで駆けた。

 安楽王女はデカイままである。

 

 




戦隊モノのお約束みたいなアレ
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