プリすば!   作:負け狐

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結局この辺原作では触れられなかったんでちょっと盛る。


その12

 灯りのおかげでそこで酒盛りしている二人の姿を視認できる。月明かりだけでは不明瞭だったその二人は、予想していた以上に若かった。そして、美人であった。こんな場所で、こんな謎なシチュエーションで出会っていなければもっと違う感想をカズマも持ったであろう。そんな二人である。

 勿論現在のカズマには、また変人が沸いて出たという感想しか出てこない。

 

「夜の墓場で酒盛りって……何なの? この街何でこんな変人の人材豊富なの?」

「あ、ひょっとして墓場と酒場を掛けました? やばいですね☆」

「掛けとらんわ! 言っとくがお前もその変人の一人だからなペコリーヌ」

「……それは、ちょっと」

「ガチトーンで凹むな。俺が悪いことしたみたいだろ」

 

 そんなことよりも、と視線を再度酒盛り軍団に戻す。墓場のど真ん中で、ジョッキ片手にへべれけになっているのは控えめに言って危ない人だ。出来れば関わりたくないしすぐにでも帰りたいが、ここまで連れてこられた以上向こうにだって気付かれる。

 現に、へべれけの方はともかくもう片方の女性はこちらを見て目をパチクリと。

 

「……コッコロさん?」

「ウィズさま……」

「え? 知り合い?」

 

 同じように目をパチクリとさせているコッコロを見ながら、カズマはゆっくりと天を仰ぐ。夜空を暫し眺め、視線を元に戻すとコッコロの肩をポンと叩いた。

 

「コッコロ、その、知り合いは……選んだ方が」

「い、いえ! 主さまの思っているようなことはありません!」

 

 絞り出すようなカズマの声に、流石のコッコロもわたわたと慌てる。そうしながら、彼女は自分が手伝いをしている魔道具店の主人なのだと言葉を続けた。それを聞いて、ペコリーヌもああそういえばと手を叩く。

 

「あれ? でも、ギルドにアルバイトの話を持ってきたのは」

「あ、それは多分、店のオーナーですね」

 

 そう言って小さく微笑んだ女性、ウィズは、ところでこんな場所に何故と問い掛けた。

 勿論それはこちらのセリフである。何をどうすると町外れの共同墓地のど真ん中で酒盛りを始めるのだ。初対面でかつコッコロの知り合いであるということを差っ引いても擁護のしようがないので遠慮なくカズマはそこを問い詰めた。

 

「あの、その……お酒は、違うんです」

「いや思い切り飲んでんじゃねぇかよそこの人」

「え~、違うわよぉ。これはしゅわしゅわ、お酒じゃないの。本当なら麦しゅわ一番搾りをぐいってやるところなんだけど」

「などと意味不明なことを言っていますが」

 

 視線をウィズに向ける。さっと視線を逸らしたことから、とりあえず向こうの彼女の言い分はガン無視で問題ないらしい。ちなみにしゅわしゅわの正式名称はクリムゾンビア、紛うことなき酒である。

 

「それで? 結局ここでお酒飲んでる理由ってなんなのよ」

 

 キャルの言葉に、ウィズはだから違うんですと返す。酒を飲んでいるのは間違いないが、それが理由ではないし目的でもない。どうやら彼女はそう言いたいらしい。

 となると、ならば結局何をやっているのかという最初の疑問に戻るわけで。

 

「その、ここの迷える魂の供養を……」

 

 そう言いながらちらりとへべれけの女性を見る。ん? とウィズを見て小首を傾げていたので、駄目だ役に立たないと溜息を吐いた。仕方ないと自身の気合を入れ直すと、目の前の四人へと言葉を紡ぐ。

 ここの共同墓地の魂はあまり供養してもらえないらしく、定期的にアンデッドとして彷徨ってしまうことがあるらしい。なので、その前に、あるいはそうなってすぐにこちらで導いて供養をしてあげようとたびたび訪れているのだとか。

 

「ふーん。……でも、あたしたちも同じクエスト受けてるんだけど」

「え?」

 

 胡散臭い、と言わんばかりの表情でそう述べたキャルの言葉に、ウィズは本気で驚いた表情を見せた。今までそんなことは一切しなかったのに。そんなことを呟きつつ、隣にいるへべれけの肩をゆする。

 

「もー、そんなに揺らさなくても分かってるわよ」

「本当に分かってるんですか!?」

「だからぁ、こんなのは飲んだうちに入らないってば~」

 

 そう言いながら手に持っていたジョッキを呷る。ぷはぁ、と酒臭い息を吐きながら、へべれけは四人の顔を一通り眺めた。

 

「ん~。見たことない顔ばっか。みんな最近アクセルに来たの?」

「え? はい、そうですけど」

「あたしはちょくちょくこの街来てたわよ」

 

 代表してペコリーヌがそう答え、キャルが補足する。ふむ、とキャルを見たへべれけは、そういえば確かにキミは見たことあるなぁと頷いた。

 それがどうしたんだ。カズマが話の先を促すようにそう言うと、彼女は慌てない慌てないと赤くなった顔を笑みに変える。

 

「とりあえず、キミたちの仕事を済ませた方がぁ、いいんじゃない?」

「仕事、でございますか?」

「そ~そ~。まだ少し迷える魂が残ってるから、その浄化を、お願いしよっかなぁ」

「やっぱり途中だったんじゃないですかユカリさん……」

「違うわよ~。ちょっと景気付けの一杯だったから、これ飲み終わったらやる予定だったの」

 

 そうは言いながら更に飲むユカリと呼ばれたへべれけ。話が通じているのかどうか分からない、というよりむしろ通じていない寄りな気がしないでもないが、しかし。先程の彼女の言葉にはどうやら嘘はなかったらしい。カズマの敵感知に複数の反応が表れる。

 

「なあ、えっと、ユカリさん?」

「なぁに?」

「これ、俺達が普通に倒しても大丈夫なのか?」

「そうね。もし心配なら、お姉さんが後で浄化もしておいてあげるけど~」

「ご心配なく。わたくしも、アークプリーストの端くれですので」

 

 コッコロがカズマの隣で槍を構える。それを合図にしたように、ペコリーヌもキャルもそれぞれの武器を構えた。そうしながら、それで敵はどこにいるのかとカズマに問い掛ける。

 

「位置は俺達の方で合ってるから、このまま迎撃すれば大丈夫だ。距離はまだ少しあるな、コッコロ、支援よろしく」

「了解いたしました、主さま」

 

 全員にバフを掛け、向こうから来るのを待つ。そうして現れた複数のゾンビを、一行は危なげなく撃退した。というよりは、ほぼキャルとカズマで始末した。

 

「出番ありませんでしたね」

 

 持っている大剣をヒラヒラとさせながらペコリーヌが笑う。ちらりとカズマを見て、最初と比べて結構強くなりましたねと言葉を続けた。

 そうですね、と倒したゾンビを浄化しながらコッコロも同意する。最初のクエストで、ジャイアントトードから逃げ回っていたのが遠い過去のような、そんな思い出を振り返るような素振りを見せながら、彼女は立ち上がり彼を見る。

 

「ご立派に、なられました」

「そ、そうか? いやぁ、まあ、俺ってば女神に選ばれしものだし?」

「何か変なこと言い出したわねこいつ……」

 

 はっはっはと調子に乗るカズマをジト目で見ながら、とりあえずクエスト自体はこれで達成だろうと息を吐く。そしてそのまま、視線をカズマからユカリへと向けた。

 

「さっき何か言いかけてたわよね? この状況に関係することなの?」

「そうねぇ。多分、だけれど」

 

 そう言ってジョッキを呷る。どうでもいいが既に五杯目である。まとめておいた空の酒瓶を片付けるウィズが色々と雰囲気ぶち壊しであった。

 そんなことは気にせず、彼女は飲み干したジョッキから口を離しぷはぁと息を吐く。そして。

 

「騙されてるわよ」

 

 簡潔にとんでもないことを言いだした。

 

 

 

 

 

 

 ギルドの受付にて報告を済ませる。が、その内容を見たルナは怪訝な表情を浮かべ、そして確認のために引っ込んでいった。

 それを横目で見ていたカズマとキャルは予想通りだと冷めた目である。戻ってきたルナが、非常に申し訳無さそうな表情で雀の涙ほどの報酬を持ってきても、そうだろうなという感想しか出てこなかった。

 ギルドを出る。待ち合わせ場所へと向かいながら、とりあえずその報酬を財布に突っ込んだ。

 

「さて、クソみたいな報酬で教会が仕事してます感を出すダシに体よく使われたわけだが」

 

 どうする? と隣のキャルを見る。その視線を受けた彼女は、その口元を三日月に歪めた。そんなもの決まってるだろうと笑った。

 

「ちょっと痛い目にあってもらおうじゃない」

「その通りだ。まあコッコロやペコリーヌは乗り気じゃないかもしれんが」

「その時はあたしと二人でやればいいのよ。でしょ、ご主人さま」

「言うじゃないか奴隷」

 

 くくく、と顔を合わせて笑う。その光景は大変怪しいものであったが、アクセルでは割と日常なので幸いにも通報されるということはなかった。

 そうして向かった先は一軒の魔道具店。地図によるとここで合っているはず、と確認をしてから、その店の扉をゆっくりと開いた。

 

「いらっしゃいま――主さま、キャルさま」

 

 店の商品のホコリを取っていた店員、コッコロがこちらに気付いて笑顔を見せる。ぱたぱたとこちらまでやってくると、既に皆様は待っていますと店の一角を指差した。

 魔道具店のはずなのに何故か喫茶スペースのようなそこには、紅茶を飲んでいるペコリーヌと、そして先日のへべれけ、もといユカリが。

 

「来たわね。どうだったの?」

 

 そう言って笑うユカリは、昨日と違いシラフらしい。綺麗な金髪とアメジストのような瞳、そして青を基調とし十字架が随所にあしらわれたエプロンドレスや修道服を綯い交ぜにしたような騎士服を押し上げる二つの大きな。

 

「そっちの予想通りよ。ふざけんなってくらいの報酬だったわ」

「やっぱり……。ところでそっちの子は、どうしたの?」

「お気になさらず」

 

 あの時はともかく、今なら全然いける。というか大人のお姉さんはいいよね。謎の感想を抱いたカズマは、うんうんと頷きながら視線をテーブルの縁辺りで固定していた。

 そのタイミングでコッコロが紅茶を運んでくる。名残惜しいが仕方ないとテーブルについた彼は、では改めてと咳払いをした。

 

「昨日言ってた、騙されてるってのを信じていいのか?」

「ええ。だって、おかしいもの。あそこの墓地の浄化は、この街のプリーストが全然やらないから私が始めたんだし」

 

 まあ既に先客がいたけど。そう言って笑いながらカウンターにいるウィズを見た。ビクリと肩を震わせた彼女は、その節は大変お世話になりましたと頭を下げる。

 

「さらにここのお店の面倒も見てもらってしまって」

「だって、あまりに酷かったもの。アキノさん、マジギレしてたし」

「あの時のオーナー怖かったですね……」

 

 あはは、とどこか遠くを見ながら乾いた笑いを上げる。見る限り、そこまで酷いようには見えないが、オーナーとやらが色々とやった結果なのだろう。

 棚の一角にある謎のオーラを発する品々は見なかったことにした。オーナーのおすすめ、というポップは意図的にカズマの視界から消した。

 

「それで、結局今はユカリさんが浄化してるんですよね?」

 

 先に来ていたペコリーヌがそう問う。そうそうとそれに頷いた彼女は、ちゃんと申請も出しているのだと言葉を続けた。申請先は、勿論ギルド。

 

「……あー、だからあの時向こうも変な顔してたのか」

「そんなことになるなら最初から弾けばいいのに」

「だからこそ、騙されたっていう話になるのよ」

 

 ギルド側に協力者がいるのか、それとも端から全てだまくらかすつもりだったのか。それは現状では分からないが、ともかく真っ当な依頼とは程遠いクエストであったのは確かだ。

 

「そもそも、おかしいと思ったのよ。金にならないからって放置してたプリースト達のいる教会が、わざわざ冒険者にクエストを発注するなんて。そうしたら、案の定お金ケチってたから」

「でも、エリス教の教会がそんなことやりますか?」

 

 紅茶のおかわりを飲みながら、うーむとペコリーヌが首を傾げる。キャルはその辺のしがらみのある会話はついていく気もないので聞き役に徹していた。

 ともあれ、彼女の質問にユカリはあははと苦笑する。そういう場所もあるんでしょう、とバツの悪そうに頬を掻いた。

 

「この街は広いし、同じエリス教会でも多少は縄張り争いみたいなものがあるわ。それに加えて、アクシズ教の教会もある。駄目な場所の一つや二つ、出てきてもしょうがないと思うの」

「しょうがないであんな報酬の仕事やらされる方はたまったもんじゃないけどな」

 

 け、と吐き捨てるようにカズマがぼやく。それに対しユカリはその通りだと頷いた。ちゃんと仕事を頼むならば、きちんと見合った対価を払わなければならない。そう言って、す、と目を細めた。

 

「経費削減は確かに大事。でもそれは削減じゃないわ。クエストの最低報酬を下回らないようにして合法にするあたり、悪どさも随分と増してきてる」

 

 そこで言葉を止める。視線をカズマとキャルに向けると、二人はどうやらやる気みたいねと口角を上げた。

 そこの言葉に首を傾げたのはペコリーヌである。やる気とは一体何をやる気なのか。そんなことを思わず口にした。

 

「んー。私から言ってもいい?」

「いや、俺達から言おう」

 

 ユカリの提案を断る。それを見ていたキャルは、あんたにしちゃ珍しいと目をパチクリさせた。

 

「嘗めんな。俺はな、こういう時はきっちりと仕返しをするタイプだからな」

「成程。じゃ、どうぞ」

 

 頬杖をついたまま、キャルが手でカズマの言葉を促す。ユカリは面白そうにそれを見ており、ウィズとコッコロは店の仕事をしつつ遠巻きに聞き耳を立てている。

 その状態で、カズマはペコリーヌに宣言した。これからやることを彼女に告げた。まあ大したことじゃない、と前置きをした。

 

「ちゃんと相場の報酬を依頼主から取り立てにいこうじゃないか」

「そういうことよ」

 

 くっくっく、と笑うカズマとキャルは、傍から見ていると悪人にしか見えなかった。否、当事者であるペコリーヌから見ても悪人以外の何者でもなかった。

 




キャルノリノリ

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