(`0言0́)<ヴェアアアアアアアアオネエサマトラレルウウウウウウ!!
土砂の中に埋もれていたアイギスを発掘したクリス達は、持って帰って泥を落とし、そしてその惨状を見て思わず声を出した。具体的には、うわ、である。
「酷いね、これ」
「ああ。だがまあ、ユースティアナ様があれだけ怒ることも滅多に無い以上、必然とも言えるな」
「神器同士のぶつかり合いがこの程度で済んで御の字、といったところですわね」
うんうん、とアキノが頷き、控えていたタマキやミフユはそんなものだろうかとアイギスを見やる。
〈うぅ……あぁぁんまりだぁぁぁ〉
「いや、割と自業自得にゃ」
「そうね」
ぼやく鎧にツッコミが入った。そこまでか、とリアクションを取ったアイギスは、己の状態を触れて確かめ、そして再度項垂れる。すんすんめそめそとすすり泣く全身鎧は非常に鬱陶しかった。
「ああもう、泣かないの。神器でしょ」
〈うぅ……だってよ……俺っちの――――頭が!〉
物凄くひしゃげていた。間違いなく中に収納するスペースがないほど、それは見事に潰れていた。
「確か分解は出来ないのだったな」
「となると。現状はただの役立たずですわね」
「修理、かぁ……。神器の修理の当て、誰か持ってたり……?」
クリスが皆を見渡すが、揃って首を横に振る。だよねぇ、と肩を落とす彼女だったが、そこに新たな声が二つ。連れてきたわ、というユカリの声と、そして。
「話は聞かせてもらいました。直りさえすれば、その過程は多少無視しても構わないのですよね?」
「え? ま、まあ。そうだね」
〈ひぃぃぃぃぃ!? 姐さん!?〉
笑顔を浮かべた、ネネカである。
そんな鎧の末路はどうでもいいとして。所変わってアメス教会。結局アイギスの騒動を祭の三日目のイベントとして組み込んでしまったため、件の約束は翌日、女神祭最終日と相成った。
「えっと、じゃあ」
「はいはい。行ってらっしゃい」
「お、おう。よし、じゃあ」
「は、はい。えっと」
「いいからさっさと行けぇ! あんたら玄関でいつまでモタモタしてんのよ! 祭の最終日なんだから、グズグズしてると出店も終わっちゃうわよ」
がぁ、と吠えるキャルに促され、ペコリーヌとカズマはどこかギクシャクした動きで揃って教会から出掛けていった。付かず離れずなポジションを維持している背中を見ながら、彼女は呆れたように溜息を吐く。
「まだまだ女の子のエスコート力が足りないね」
「まあ、お兄ちゃんですから。戦士の道も尻尾から、そのうちレベルアップしてくれますよ、きっと」
「そうだね。あとリノちゃん、『千里の道も一歩から』だよ」
「で、あんたらは何で当然のようにここにいるわけ?」
「弟くんのデートを見守るのはお姉ちゃんの努めです」
「お兄ちゃんのデートを見守るのは妹として当然ですよ」
迷いなく言い切った。追加の溜息を吐きながら、キャルはもういいと視線を外す。偽姉妹とは別に、多少の心配をしつつも穏やかな表情で見送っていたコッコロを見た。
「コロ助。あんたはどうなの? 心配?」
「少しは。ですが、ペコリーヌさまと主さまですから」
「……ま、そうよね。あんたはそういうやつよね」
そう言いつつも、キャルはだったら別の方向の心配はどうなのかと口を開きかけた。が、途中で踏みとどまる。聞いてもしょうがない、と判断したのが一つ。
そしてもう一つは。
「どうしたの? キャルちゃん、やきもち?」
「そんなわけないでしょ。ぶっ殺すわよ」
そう言われるのが嫌だから。だったのだが、口にしなくとも結局シズルが絡んできたので台無しとなった。まだ昼前なのにも拘らず、彼女は既に数えるのも馬鹿らしくなった溜息を吐く。
そもそも、そのやり取りはペコリーヌがカズマをデートに誘う下りの際に既にやったやつだ。もう一度蒸し返しても答えが変わるはずもなし。
「さて、と。じゃあお姉ちゃんもそろそろ行こうかな」
「ですね」
「待て」
ぐわし、とシズルの肩を掴んだ。どうしたの、と笑顔で振り返る彼女を見ながら、キャルはジト目で何をする気だと問いかける。勿論答えは分かっている。
「さっきも言ったでしょ。弟くんのデートを成功させるために、見守りにいくんだよ」
「却下よ却下! あんた絶対余計なことするでしょ!」
「信用ないなぁ。大丈夫、お姉ちゃんだよっ」
「だから言ってんだけどぉ!」
「もー。しょうがないなぁ。じゃあ予定より早いけど、あっちの準備を始めようか」
くるりと反転。そうしてリノとコッコロの二人とアイコンタクトを取るシズルを見て、キャルは何を企んでいると睨み、問うた。が、当の本人は別に何も企んでいないと笑顔を浮かべるのみで、残り二人もそれは同様だ。
「じゃあ、始めようか」
「はい」
「お任せください」
「え? ちょっと! 何!? 何なの!? コロ助まで一緒に何する気!? ちょっと! ねえってば! 教えなさいよ! 無視すんなぁ!」
三人に詰め寄りつつ、彼女はどこか他人事のようにこう思った。
これもう昼過ぎた頃には声枯れるんじゃないだろうか、と。
「お、今日は二人か」
「あれ? ペコちゃんと、あれ?」
「おう。おう? あ~」
街を歩く。出店を冷やかしながら歩いていた二人は、人々の反応に何とも言えない表情を浮かべた。単純に気にしていない人、このタイミングでこの組み合わせは珍しいと首を傾げる人。
そして、謎の察しを見せる人。特に三番目が二人にとって問題であった。
「あ、あはは。なんだか、余計な気を使わせちゃったみたいですね」
「お、おう。そうだな」
サービスの品を貰いながら苦笑するペコリーヌの横で、カズマが歯切れの悪い返事をする。誘われた時もそうであったが、彼にこの手の経験は皆無。どうすればベストコミュニケーションなのかさっぱり分からないのだ。
そもそも。別に二人で街を歩いているという状況自体は別段変わったことではない。普段、買い出しなり散歩なり、パーティーメンバー全員ではなく、ペアで何かしらすることは珍しくないのだ。だからカズマの緊張は、状況そのものではなく。
デート、という、この状態を特別なものに変えた単語そのものにある。
「な、なあ、ペコ――」
「おいひいですね、カズマくん」
それでも。何とか気を取り直した彼は、多少なりともそれっぽいことを言おうと顔を隣の彼女に向けたわけなのだが。
その時には既に、ペコリーヌはもらった出店の食べ物にかぶりついていたわけで。
「むぐむぐ。んっく。どうしました?」
「いや、なんでもない。……意識した俺が馬鹿だったわ」
色々あろうがとりあえず食欲が優先順位のトップに来るこの娘に期待してもしょうがない。はぁ、と溜息を吐いたカズマは、少しだけ気が楽になったのか硬かった表情を元に戻し。
「あ。……あの、カズマくん」
「ん?」
「えっと……。手を、繋いでもいいですか?」
「お前何言っちゃってんの!?」
「あ、ははは。そうですよね、ごめんなさい」
「いやそうじゃなくて! 食欲優先したじゃん! 今!」
「温かいうちに食べないと美味しさが落ちちゃいますから」
「違う、そうじゃない!」
振り幅どうなってんの。と聞きたいが、意図してやっているわけではないのが分かるのでそれを聞いたところで何か変わるわけでもなし。でも油断したところにボディブロー打ち込むが如き所業は間違いなく致命傷である。
それはそれとして。しゅんと項垂れながらもぐもぐと食事を続けるペコリーヌを見ていると、カズマとしても放っておくことなど出来ないわけで。というかデートなのでそもそもしない理由がない。
「こ、これでいいか?」
「っ! ……はい。ありがとうございます、カズマくん」
「別にお礼言われるようなことじゃないだろ」
気恥ずかしくなってそっぽを向く彼を見ながら、ペコリーヌはえへへと笑う。そうして二人、手を繋いだまま祭の町並みをゆっくりと歩く。アクセルでは顔も名前も性格もよく知られている二人のその姿に、やはり街の人々は思い思いの反応をした。とはいえ、概ねプラスの印象である。多少の妬みもあるが、その程度。
「けっ。ガキみたいなことしてやがんなぁ」
「何、ダスト。僻み?」
「バカ言え。俺だったらあんなじれったいことしてないでさっさと宿屋に連れ込むって話だ」
「ふーん。……リールさんを?」
「あれは関係ねぇだろ!?」
後は精々このくらいである。お前も人のこと言えねぇだろというキースのツッコミに、チンピラはそんなわけあるかと逆ギレしていた。
勿論聞こえているわけでもなし。段々と慣れてきたのか、カズマもペコリーヌもその距離の近さに違和感を覚えなくなってきた頃。
二人に声をかける出店の店員が一人、いた。
「やあやあ、普段の食べ歩きと変わらんと自分に言い聞かせていた割にバリバリ意識しまくっていた小僧よ、我輩の屋台に立ち寄っては如何かな?」
「いきなり何言ってんだお前!?」
そう言って笑う仮面の店員、言うまでもなくバニルなのだが、彼はほれほれと屋台を指し示す。あはは、と苦笑しているウィズがそこに立っていた。
カズマの隣にいたペコリーヌは目をパチクリとさせると、せっかくですからとそちらに足を向ける。屋台とは思えないバリエーション豊かなラインナップが、悪く言えば節操のない品揃えが目に飛び込んできた。
「お前これ許可取ってんの?」
「無論だ。そもそも我輩の雇い主はウィスタリア家の令嬢アキノ、オーナーがそのような抜かりをするはずもあるまい」
「ま、まあ最終日だからって見逃されている部分もありますけど」
「駄目じゃねぇか」
どちらにせよ、この出店を摘発したところで何の得もない。まあいいやと溜息を吐いたカズマは、ペコリーヌと同じように屋台の品物を順繰りに眺めていった。
目立つ場所に飾られているのは仮面、バニルの趣味なのか以前アキノが作った在庫処分なのかは判断つかないが、とりあえずこれを買うことはないだろうと視界から外す。
それ以外はちょっとしたアクセサリーが主で、祭の怪しい屋台っぽいなぁ、と彼はそんなことを思った。案外こういうところで買った指輪を、彼女に渡したりするのがラブコメの定番だったりするのだ。
「いやいやいや」
「どうしたんですか?」
「い、いや、何でもないぞ」
「ふむ。腹ペコ娘よ、そこの小僧はここで指輪を買ってプレゼントするのもデートっぽいかもしれんと考えただけで、確かに何かあったわけではないぞ」
「え? あ、そ、そうなんですか」
「やめろよそういうの暴露するの! ちょっと俺死にたくなるだろ!」
「何を言う。我輩は商品を買ってもらえるよう努力を怠らんだけだ。それにほれ、腹ペコ娘も満更でもないだろう?」
「えぇ!? いえ、その、それは、えっと」
「おいやめろ。そういう空気にするのマジやめろ」
うむうむ、と笑顔で頷いているバニルは、そこで一旦引き下がる。ウィズが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていたが、彼はどこ吹く風。挙動不審に、しかしちらちらと指輪を見ているカズマを、実に楽しそうに眺めていた。
「あ、ちなみに私のオススメはそこの赤い宝石です」
「じゃあそれ以外にするわ」
「賢明であるな」
吹っ切れたのか開き直ったのか。ウィズがそんなことを言い出したので、カズマは即答する。バニルも同意し、ペコリーヌは特に何も言わなかった。反論も、である。
そして同時。彼は自分がうっかり勢いで口走ってしまったことに気付いた。それ以外にする、と言ってしまったのだ。
「フハハハハハ。では小僧、どの指輪にする?」
「……この、青いやつで」
「ふむふむ。腹ペコ娘の瞳と同じような透き通る蒼の宝石の指輪だな。まいどあり」
「だからそういう言い方やめろよ!」
先程からバニルは上機嫌だ。カズマからいい具合に羞恥の悪感情を頂いているからだろう。それを分かっているのか、ほどほどにしてくださいよとウィズも彼を窘める。そうしながら、ラッピングしたそれをカズマへと手渡した。
そのまましばし動きを止めていたカズマは、やがて意を決したように振り向く。急なそれにビクリとしたペコリーヌを見ながら、彼は手に持っていた小包を差し出した。
「……本当に、いいんですか?」
「べ、別に元々そのために買ったやつだし? いいも悪いもないというか?」
「ヘタレだな小僧」
「カズマさん……それはちょっと」
「そこ! ちゃちゃ入れない!」
元魔王軍幹部二人による、えぇー、という視線を振り切りながら、カズマはいいから受け取っておけと半ば無理やり押し付けた。わっとっと、とそれを慌てて受け取ったペコリーヌは、しかしすぐさま笑顔になる。
「ありがとうございます、カズマくん」
「お、おう」
恥ずかしくなってそっぽを向いたカズマを見てクスクスと笑った彼女は、じゃあ早速と小包の中の指輪を取り出し、自身の指へと。
「あ、あれ?」
「どうした?」
「いえ、ちょっと。……大きさは問題ないはずなんですけど」
指輪を近付けると、何かに反発されたように弾かれはまらない。どういうことだろうと首を傾げていると、それを見ていたバニルが言い忘れていたと声を上げた。
「その指輪は少々特殊でな。何か別の意味合いを持つ指輪と同時に装備が出来んのだ」
「はぁ? なんだよそれ? 詐欺じゃねぇか」
「いやはや、普通はその制限に引っかかるような指輪を装備している者がおらんのでな、失念していた。……どうする? 腹ペコ娘よ」
バニルが問い掛けたのはカズマではなくペコリーヌ。彼の質問の意味を理解したのか、彼女は苦笑すると、左手の薬指にはめていた指輪を取り外した。そして、その指輪の代わりに、カズマから貰った蒼い宝石の指輪をはめる。
「これで、いいです」
「そうか。汝の選択だ、我輩がとやかく言うことではあるまい。まあ趣味は悪いと思うが」
「あはは。やっぱりお見通しなんですね」
「さてな」
そう言って笑うバニルの横では、ウィズがハテナマークを飛ばしている。同じく何のことだか分からないカズマも、じゃあそろそろ行きましょうかというペコリーヌの声で我に返った。
そうして別の出店へと向かう二人の背中を見送ったバニルは、いい加減起きろとウィズを小突く。大分いい音が響き、彼女の頭から煙が出た。
「うぅ……」
「ぼーっとしている汝が悪い」
「むぅ。――それにしても、バニルさんも意外と」
「ん?」
何の話だ、と彼は彼女を見る。どこか優しい笑顔を浮かべていたウィズは、あの二人ですよと言葉を続けた。
「二人の仲を進展させようとしてたじゃないですか」
「ああ、あれか。我輩の見立てによれば、あれによってまた新鮮な悪感情を自動摂取出来そうだったのでな」
「……はい?」
「フハハハ。とりあえずドM娘はあれを見ても胃痛で悦べるかどうか、実に楽しみだ」
ちょっとでも見直した自分が馬鹿だった。表情をジト目に変えたウィズはそう思った。
そろそろ日も傾いてくる。祭も撤収を始めており、恐らくこの後は皆で宴会でもするのだろう。道行く人々が笑いながら歩いていくのを横目に、カズマとペコリーヌも今日一日を終え、教会へと歩みを進めていた。
「カズマくん」
「ん?」
「……今日は、楽しかったですか?」
「ん、ああ。そっちはどうなんだ?」
「わたしは。わたしも、凄く楽しかったです!」
「そっか。それならよかった」
そこで会話が途切れ、二人は暫し無言で歩く。別に気まずい空気ではないが、ただ何となく流れている空気が気恥ずかしくて、カズマは思わず空を見た。空はそろそろ星が見える頃。夕方と夜の境界のようなそれを見て、彼はああそうだと全く関係のない、しかし思いの外重要なことを思い出した。
「そういえば、俺今日誕生日だったわ」
「え!?」
ば、と勢いよくペコリーヌが振り向く。本当ですか、と詰め寄り、次いであたふたと慌て出した。誕生日のお祝い、何も用意していない。そんなことを呟き、どうしようと頭を抱える。
「いや、このデートで俺は十分お釣りが来るレベルなんだけど」
「……そんなことで、いいんですか?」
「いや、そんなことって。自慢じゃないが、俺は生まれてこのかた女子と付き合ったことなんか一度もなくてさ。初めてのデートがペコリーヌみたいなめちゃくちゃ可愛い子で、むしろこっちがお礼をしたいくらい」
「そ、そう、なんですか」
どこか泣き笑いのような表情を浮かべた彼女は、それならよかったです、と小さく呟く。そうしながら、彼女は口には出さず、心中だけで言葉を続けた。
お礼を言うのはこちらの方だ、と。こんな自分と出会ってくれてありがとう、と。
そして――
「あ、あの!」
「ん? どうした?」
もう少し進めばアメス教会が見えてくる。そこでペコリーヌは足を止め、カズマを呼び止めた。視線を少しだけ彷徨わせ、大きく息を吸い。
彼女は、あの時指から取り外した指輪を、カズマへと差し出す。
「も、もしよかったら。この指輪、貰ってくれませんか?」
「これって、さっき取り外した指輪か? そういや、バニルが言ってたっけ。なんか特別なやつなんだろ?」
「それは、そうなんですけど……。えっと、その、……た、誕生日のプレゼント、とか……駄目、ですよね」
しゅん、と項垂れるペコリーヌを見て、カズマは状況がよく分からずガリガリと頭を掻いた。何がどうなってこうなったのかさっぱりだ。だが、ならそんなものいらないと断るかと言えば答えは否なわけで。
「さんきゅ。じゃあ、ありがたくもらうな」
「――っ! はいっ!」
先程と一転、ぱぁ、と明るい笑顔を浮かべる彼女は、普段通りのペコリーヌだ。やっぱりこいつはこうでなくちゃな。そんなことを思いながら、受け取った指輪をくるくると手の上で転がす。自分の指には入らないので、チェーンでも通してペンダントにでもするか、とそのままポケットに押し込んだ。
『ハッピーバースデー!』
「うぉっ!?」
アメス教会に帰ってきた途端に、中の面子が一斉に祝いの言葉を投げかける。コッコロ、キャル、シズルにリノ。何故かいるセシリーと既に出来上がっているユカリ。
「お誕生日おめでとう弟くん。久しぶりにお祝いできるから、お姉ちゃん、張り切っちゃった♪」
「私も! 私も頑張りましたよお兄ちゃん!」
「……お、おう。ありがとう、二人とも」
「お誕生日おめでとうございます、主さま。わたくし、今日という日は精一杯、力の限りおもてなしをさせていただきます」
「あ、ありがとうコッコロ」
満面の笑みでそう述べるシズルとリノ、そして当事者以上に幸せそうなコッコロに言葉を返し、カズマは流されるまま席につく。料理から始まり何から何までとにかく手が込んでいた。
ちらり、とキャルを見る。疲れた、とぐったりしているところを見ると、かなりのものだったらしい。
「……なあ、キャル」
「なによぉ……。ったく、あんた今日誕生日なら最初から言っときなさい。おかげであたしてんやわんやだったんだから」
「あー、それは悪かった。いや、でも」
「カズマくん。コッコロちゃん達には教えてたんですか。今日誕生日だって」
彼が口を開きかけた瞬間、ペコリーヌが割り込んできた。その表情はどこか寂しそうで、特に考えずとも理由は察せる。
「いや聞けって。だからな」
「何よ」
「どうしたんですか?」
だからこそ、彼は誤解を解くべく口を開く。間違いなくこの空気に似つかわしくないであろうその答えを、カズマは口にするのだ。
「俺、こっちに来てから誕生日が今日だって言ったことないんだよ」
「は?」
「え?」
ば、と向こうの三人を見る。セシリーやユカリと共にプレゼントの山を積んでいる、コッコロと、シズルと、リノを見る。
「……だってあいつら、当然のように準備してたわよ」
「なにそれ怖い」
「あ、ギルドの登録を見たんじゃないですか? それなら」
「確かにコッコロは俺が冒険者登録した時にいたから、その可能性はあるな。なーんだ、そっかー」
「そうね。うん、そういうことにしておきましょう」
当時を思い出す。間違いなくコッコロがそれを見るチャンスなど無かった。そして、百歩譲ってコッコロはいいとしてもシズルとリノは謎のままだ。ギルドの登録など見せてと言われてはいどうぞと渡されるものではないからだ。
が、そうでないと正気を失うような気がしたので、三人はそういうことにした。
「よし、俺の誕生日だし、遠慮なく食べて飲むか!」
「そうね、飲みましょう!」
「わたしも、食べますよー!」
そういうことにした。
第六章、完!