プリすば!   作:負け狐

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今回のボス戦の方向が決まってきたような気がしないでもない


その130

「おはようございます、ペコリーヌさま」

「おいっす~☆ おはようございます、コッコロちゃん」

 

 アクセル、アメス教会。朝食を作っていたペコリーヌは、食堂にやってきたコッコロに笑顔で挨拶をする。そうしながら、彼女の顔を見てあははと苦笑した。

 あんまり元気じゃなさそうですね。そう述べたペコリーヌに、コッコロはそうでしょうかと首を傾げる。傾げるが、しかし自分では予想がついていたので小さく溜息を吐いた。

 

「まあ、カズマくんもキャルちゃんも帰ってきてませんしね」

 

 寂しいですよね、と続ける彼女に小さく頷いたコッコロは、それにと呟いた。勿論そんなことはないし、向こうでは無事であり何も心配いらないというのは分かっているのだが。そんなことを思いつつも、眉尻を下げ、言葉を紡ぐ。

 

「やはり、気になってしまうのです」

「コッコロちゃん……」

「主さまはきちんとご飯を食べておられるのか、ぐっすりと眠れているのでしょうか」

 

 コッコロちゃんらしいですね、とペコリーヌは笑う、そうしながら、とりあえずは朝食を食べましょうと出来上がったそれをテーブルに。

 

「お風呂には嫌がらずに百数えてから出られているのでしょうか、苦手なお野菜もイヤイヤせずにごっくん出来ているのでしょうか」

「……コッコロちゃん?」

「一人でおトイレに行ってしーし」

「ご飯食べたらわたしたちも行きましょうか、紅魔の里」

 

 あ、これ駄目なやつだ。瞬時に結論付けたペコリーヌは、コッコロの心配がカズマの尊厳をアレしかけたあたりで打ち切るように言葉を被せた。どうやらこの間の騒動のせいで、彼女のお世話欲が大分高まりすぎていたらしい。全部発散する前に離れてしまったおかげで、捌け口がなくなっているのだろう。

 

「それは、よろしいのでしょうか?」

「別に来るなって言われてませんし。寂しいなら、会いに行けばいいんですよ」

 

 笑顔でそう述べるペコリーヌを見て、コッコロも笑顔でそうですねと返す。そんな彼女を見て、ペコリーヌは笑顔の裏でほっと安堵の溜息を吐いた。何だか生贄にするみたいでちょっぴり心苦しいですけど。そんなことを思いつつ、まあでもと口にする。

 

「わたしも、カズマくんやキャルちゃんに会えないと寂しいですしね」

 

 やっぱり四人揃っている方がしっくりくる。後半は口にしていないつもりであったが、どうやら漏れていたらしい。対面のコッコロがその通りですね、と微笑んでいるのを見て、彼女はあははと頬を掻いた。ほんのちょっぴり、照れくさかったのだ。

 そんなわけで。朝食をしっかりと食べた二人はユカリに断りを入れると紅魔の里へ行かんと教会を後にした。普通であればアルカンレティアへテレポート屋に転送してもらい、その後は馬車なりなんなりで時間を掛けて向かうものなのだが。

 

「あ、はい。この間から登録先は変えていませんから、紅魔の里へ送ることは出来ますよ」

 

 向かった先はウィズ魔道具店。ユカリから、ウィズがテレポート先に紅魔の里を持っているという話を聞いてやってきたのだ。彼女にそのことを尋ねると笑顔で頷かれ、別に問題ないですよと返される。ありがとうございます、とそんなウィズに頭を下げた。

 そのやり取りを見ていたバニルが、ほんの少しだが残念そうな顔をする。向こうでは直接摂取できんので旨味半減だな。そんなことを言いながら、しかしまあいいと口角を上げた。

 

「バニルさん。また何か企んでます?」

「人聞きが悪いな。我輩は何も企んでおらんぞ。その必要がないからな」

「……バニルさん」

「そんな顔をしても無駄だ。これは我輩とは何ら関係のない事件であるからして、その結果も過程もこれっぽっちも関与していない」

 

 きっぱりと断言されたが、ウィズの表情は不満げなままだ。何がどうなろうが恐らくバニルの求める悪感情が発生する事態になるのだろう。そう確信は持てたのだが、同時にここで二人を送る限り不可避であるということも察した。

 ならば断るかといえば答えは否なわけで。ぐぬぬ、と唸りながら、彼女のそれを摂取していたバニルを睨んだ。

 

「分かった分かった。エルフ娘、腹ペコ娘よ」

「はい」

「なんですか?」

「一つだけ忠告してやろう。小僧のあれは無理に治そうとしても碌な結果にならんぞ。諦めるか受け入れるか、どちらを選ぶかは汝ら次第だ」

「それはどちらも同じでは……?」

「さてな。それを判断するのは我輩ではない」

 

 そこで会話を打ち切ったバニルは店内の清掃に戻る。意味深、というほどでもないようなそれを聞いた二人は、若干首を傾げながらもウィズのテレポートで紅魔の里へと転送されていった。

 その頃のカズマがどんな状態だったのかは、ここでは語るまい。

 

 

 

 

 

 

 では件の兵器を防衛するにはどうすればいいか。そんなことを扉の前で考えていたあるえとアンナであったが、ここはやはり最終防衛ラインで立ちふさがるのが一番いいだろうと結論付けた。何がいいのかといえば、勿論絵面である。あまりにも手前で守り切るとかっこよくない、という理由である。

 

「とはいえ、時が来るまで扉自体は閉めておいたほうがいいだろうな」

「守れないのは駄目だろうからね」

 

 アンナの言葉にあるえが返す。見守っていたホーストは、これだから紅魔族はと肩を竦めていた。一応念の為言っておくが、アンナは紅魔族ではない。溶け込んでいるが、厳密には種族的に無関係である。

 

「で、どうするんだ? 魔王軍をおびき寄せでもするのか?」

「確かにそれも一つの手だけれど、考えなしにそれをやってしまうとその過程で里に被害が出かねないからね」

「うむ。無駄に被害を増大させては疾風の冥姫(ヘカーテ)の名折れだからな」

 

 だが、その案自体は有用だ。要は被害が出ないようにこちらへ誘導すればいい。無駄に探し回らせず、ここだとピンポイントに知らせれば魔王軍も寄り道をしないだろう。と、そういうわけである。

 実際、前回の襲撃で向こうはある程度学習している。搦手を使ってまで、大っぴらに行動するのを控えているのだ。こちらに動線を引くのは容易いはず。

 

「こちらを監視していた人形を全て破壊してしまっていなければ、この会話も向こうに届いているだろうから」

「当然、罠だということも奴らは承知。その上で、尚もこちらに向かってくる気概があれば」

「……それもう素直に諦めて帰るんじゃねぇのか?」

「それは魔王軍としてどうかと思う」

「失望したぞ。我が宿敵は、そのようなことで逃げ帰るほど腑抜けてしまったのか」

 

 何か俺が責められてるみたいなんだけど。そんなことを思いながら、まあこのやり取りも向こうの挑発を兼ねているのだろうとホーストは思う。何の考えなしにポンポン口にするような奴らではあるが、一応多分。思いつつも自信がなくなってきた彼は、まあいいと溜息を吐いて視線を扉から外へと向けた。

 そこに、人影を見付け首を傾げる。お前は、と零す。

 

「おや、キャルじゃないか。どうしたんだい? さっきめぐみんとカズマの対策に向かったと思ったんだけれど」

「……あー、あれね。こっちはいいから向こうの手伝いをしてくれって」

「ふむ……。何か問題でも起きたのか?」

「そういうわけじゃないけど」

 

 なんとも淡白な反応のキャルは、ただ単にこちらの地理に疎い自分では別行動が出来ないからだと述べた。それを聞いて成程、と頷いたホーストだが、あるえとアンナは少しだけ怪訝な表情を浮かべる。

 

「別に、二人で行動すればいいのでは?」

「カズマは診療所で療養中だろう? 単独行動を予測しているのは、奴の身に危険でも迫っているのか?」

「え? 別にそういうわけじゃないけど」

「なら何故……」

「……キャル。めぐみんに何か変わった様子はなかったかい?」

 

 あるえがそう問い掛ける。それに対し、キャルは少し考え込むような仕草を取った後、分からないと首を横に振った。誤魔化しているようには見えなかったが、しかし何とも言えない違和感を覚える。まるで、与えられた会話パターンに沿って反応しているような。

 

「まあいいか。じゃあキャル、君もここで防衛に参加してくれ」

「分かったわ」

 

 あるえの会話を流すようなそれに、アンナは少しだけ眉を顰めた。が、同じようにまあいいかと小さく息を吐くと、彼女もそこで会話を打ち切る。

 そんなわけで、もう一度作戦の確認を行った。こちらに動線を引き、里の被害を出来るだけ少なくさせる。そのために、ここが本当に兵器の格納されている場所だと相手に周知させる必要があるのだが。

 

「ここに、本当にあるの?」

 

 キャルがそんなことを述べた。自分は見たことがないので、この場所がダミーなのか本命なのかの判断はつかない。そう続け、そもそもその兵器がどんなものなのかも分からないしと締める。

 言っていることはもっともだ。そうだね、とあるえはホーストを見て、好きにしろとリアクションを取ったことで口角を上げた。

 

「きちんと本物だよ。この扉の奥に《魔術師殺し》は眠っている」

「……見れないの?」

「そこの装置に決められた手順を入力すれば開放されるぞ」

 

 ほれ、とアンナが指を差す。キャルはそこに視線を向け、そのまま暫し固まった。視線を戻すと、どうやって、と二人に尋ねる。

 

「だから今言ったであろう。決められた手順を入力せよと。古代文字を解読せし選ばれし者がその資格を得るのだがな」

「じゃあ、二人は無理なのね」

「聞き捨てならないな。私もアンナも、解錠は可能だよ」

「解いたのはあの性悪チビエルフだけどな」

 

 ホーストが口を挟んだ。そもそもあいつ解読したの扉開いてからだし、と当時を思い出してげんなりとした表情を浮かべる。

 そんな彼の言葉を聞いているのかいないのか。キャルはそれならばこの扉は開くのね、と淡々とした口調で述べた。勿論だ、とあるえは頷き、アンナもそれに同意する。

 

「見せてもらってもいいかしら」

「それは構わないが。動力が尽きているらしく、現状はただの置物だよ」

「来たるべき時に力満ちし兵器はかつての栄光を取り戻す。そういうわけだからな」

「どういうわけだよ」

 

 ホーストのツッコミは流された。キャルはノーリアクションで、二人が扉を開けるのを静かに待っている。

 では、とあるえが装置にコマンド入力を行っている横で、アンナがゆっくりと彼女を見た。ところで、と口を開いた。

 

「貴様は随分と寡黙になったな。つい先程までとは異なり、まるで人形のようだぞ」

 

 

 

 

 

 

「これ、カズマの手袋の切れ端じゃない?」

「そうなのですか?」

 

 キャルが道端に落ちているそれを拾い上げた。めぐみんはじっと見詰めた後、気配は向こうに続いていますねと視線を動かす。ついでに何だか見覚えのない残滓も察知した。

 

「てことは、あいつやっぱりオークに捕まったのね」

「……言いたくありませんが、その役目は本来ヒロインが担うものでは?」

「言いたくないなら言わないでよ。あたしもちょっと思ってうげってなったんだから」

 

 囚われのカズマを想像し、キャルが吐きそうな顔になる。そうしながら、とにかくさっさと助け出そうとめぐみんが指した方向に足を向けた。

 その途中、待ってくださいと声が掛かる。

 

「なによ」

「いえ、もう一つ気配があります。……これは、エリコですね」

「エリコ?」

「診療所の手伝いをしている冒険者です。恋に恋する乙女で、二つ名は《壊し屋(デストロイヤー)》」

「その二つ繋がってなくない? というかデストロイヤーって……」

「彼女の通った後にはアクシズ教徒くらいしか残らないあたりが共通しているらしいですよ」

「危険人物じゃない! え? カズマもう死んでる?」

「いえあの、見境なく襲いかかるわけではないですからね? あなたは何でたまに思考がぶっ飛ぶんですか……」

 

 やっぱり根底がアクシズ教徒だからなのだろうか。非常に失礼なことを考えつつ、めぐみんは歩みを再開しながら言葉を紡いだ。もし彼女がオークの対処に動いたのならば、と告げた。

 

「カズマが余計なことをしていない限り、彼は助かっていると見ていいでしょう」

「してないわけないじゃないあのバカが」

「流石に命の危険を犯してまではやらないのでは?」

「甘いわね。あいつは予め察していれば回避するけど、そうでなければやっちゃってから頭を抱えて解決策を練るタイプよ。じゃなかったら無闇に出歩いてオークに捕まるわけないじゃない」

「成程。よく理解してますね、彼のこと」

「コロ助には負けるわよ」

「いえあれは何というか別次元というか……」

 

 ちょっと自分の言ったニュアンスとはベクトルが違うというか。そんなことを思いながらめぐみんは困ったように頬を掻く。そうしながら、まあ自分がこの手の話題をするのもおかしな話だと頭を振った。

 ともあれ。それならば出来るだけ早く対処を考えなくてはいけない。カズマがエリコによってミンチにされる前に。

 ふと頭上に影が差す。え、と見上げると、何やら人のようなものが落ちてきているところであった。

 

「うおぁあ!?」

「いつも思うんですけど、キャルのリアクションって女の子としてどうなんでしょうか」

 

 ドスン、と地面に落ちたそれ、気絶したオークを回避したキャルを見ながらめぐみんが溜息を吐く。あんたに言われたくないわ、と反論した彼女を見つつも、そのまま視線を落ちてきたオークに向けた。死んではいない、無駄に耐久力が高いおかげで、始末するのに手間がかかるのがオークだ。同時に、戦闘不能に追い込むのもまた手間が掛かる存在でもある。

 

「……一撃でのされてる感じだけど」

「まあ、エリコでしょうね」

 

 当分目を覚ます様子もない。起こす必要もないため問題ないのだが、しかしそうなるとこれが行われた現場はどうなっているのかという疑問、というか不安が湧いてくる。

 

「集団でカズマをさらったのか、あるいはエリコが来たことで応援を呼んだか。後者ならば大分事態は進んでいるでしょう」

「この様子ならカズマも全身複雑骨折くらいで済んでそうね」

「助かっている可能性をもう少し信じましょうよ」

 

 どのみち行けば分かる。そんなことを思いながら二人はオークが飛んできたと思われる方向をさらに進む。定期的に降ってくるオークに半ば慣れつつ、晴れ時々ぶたの天気をかき分けて。

 

「やめて! もうやめてあげて! 俺巻き込まれてるから! さっきから紙一重だから!」

「クスクス。そうは言いながら、的確に避けているでしょう? 更にはお互いの被害を減らすように立ち回ってすらいる。――少し、興味が湧いてきましたわ」

「ダーリン……スワティナーゼ、感激でもう溢れちゃいそう!」

「違うから! 俺が! 危険だから! 俺の命が危ないからだから!」

「ひょっとしたら、本当に私の運命の人なのでしょうか……なんて。クスクスクス」

「駄目よ。彼は私のダーリンなんだから!」

「どっちも違う! ごめんなさい! 女性の誘いを断るのは心苦しいけど、違います!」

 

 倒れ伏すオークの群れの中、大地を踏みしめているスワティナーゼと。それを見ながらクスクスと笑うエリコ。

 そしてそれに挟まれて半泣きのカズマという何が何だか分からない光景が二人の目に飛び込んできた。

 

「なにこれ」

「私に聞かれても」

 

 




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