プリすば!   作:負け狐

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プリコネ公式ツイッターより
この中で男の娘は誰?
1:ユニ 2:キョウカ 3:ユキ 4:キャル


4:キャル


その131

 あるえも、ホーストも。アンナの言葉について何も言わない。正確にはあるえは織り込み済み、ホーストは展開についていけてないだけなのだが、それはそれとして。

 キャルは彼女の言葉を聞いて、何を言っているのか分からないというような仕草を取った。一体何を言っているのか、と首を傾げた。

 

「言葉通りだ。貴様はもう少し喧騒を好み、静寂を打ち破るような人間だと思っていたのだが」

「……そこまで親しい相手がいないと、こんなものよ」

「おや、ということは私達は親しくない相手ということか。やれやれ、何とも寂しい」

 

 あるえが会話に割り込む。装置のパスワードは途中で止められており、扉が開く様子もない。その状態で、彼女はゆっくりとこちらに近付いてきた。

 相変わらずホーストはどう反応していいのか迷っている。

 

「そんなことはどうでもいいじゃない」

「否。我々は絆を紡がぬ者とは相容れん。それがこちらの一方通行だったのならば、尚更だろう」

「そうだね。信用されていない相手を信用するのは難しいものだよ」

 

 一歩踏み出す。二人のそれを受けて、キャルは一歩後ろに下がった。表情は変わらず、しかし視線は二人から別の場所へと動いている。入力途中の装置を眺め、す、と目を細めた。

 

「……なら、それでもいいわ。自分でやるもの」

「自分で? 何を言って」

 

 あるえの言葉を無視して、キャルは装置に近付く。文字盤と、そこに書かれている文字を手でなぞりながら、成程成程と頷いた。

 これは魔法に頼らない装置。道具として機能しているものだ。それならば、人形を、打ち捨てられた道具を統括する自分ならば、解析は容易い。無表情であったキャルの口元が歪む。ニヤリと笑みを浮かべながら、装置のボタンを押していった。あるえの入力していたその途中を、迷うことなく。

 

「キャル、何故それを……っ!?」

「くっ。やはり貴様、操り人形か」

「はぁ!? こいつ偽物だってのか!?」

 

 ホーストの素っ頓狂な言葉に、あるえとアンナは是と頷く。とはいっても、完全な偽物なのか、あるいは本人が操られているだけなのかは不明だが。そう続け、敵は中々に巧妙だと小さく笑った。

 

「言ってる場合か! このままじゃ向こうに取られちまうだろ!」

「そうだね。――辿り着けるのならば!」

 

 あるえが呪文をぶっ放す。容赦なくキャルに命中し、彼女は盛大に吹き飛んだ。ゴロゴロと転がったキャルは、そのままピクリとも動かない。

 ホーストがドン引きした。

 

「マジかよ……こいつ顔見知り躊躇なく殺りやがった……」

「人聞きが悪いね。私はそこまで冷血非道じゃないよ」

「どの口が言ってんだよ。おいアンナ、お前も何か」

「矢張りな。こいつは完全な偽物だ」

 

 倒れているキャルの手を持ち上げブラブラと動かした。放り投げるように手を離し、次いで顔に触れる。光のない瞳を覗き込み、よく出来ていると顎に手を当てた。

 

「まるで本物のキャルの死体のようだ」

「いや本物なんじゃねぇの!?」

「ふっ。私がそのような間違いをするとでも? 我が魔眼は如何様な偽りも暴き出し、崇高なる真実のみを映し出す。こいつが本物ではないことなど、とうに看破しているのだ」

「さっきどっちか分からないっつってなかったか?」

「さて、何か情報はあるかい?」

「おい」

 

 こいつらノリで喋ってやがったな。そんなことを思いながら、まあつまり分かっていたが展開を優先したのだろうとホーストは諦める。そして傍から見ると猫耳美少女の死体を漁る美少女二人という正気を疑うような光景を眺め、もう帰っていいだろうかと溜息を吐いた。

 

「ん?」

「おや?」

 

 ピクリとキャルの指が動いた。それにすぐさま反応した二人は、素早く距離を取ると再度呪文を叩き込もうと詠唱を始める。

 だが、それよりも再起動したキャルのほうが早かった。人の構造を無視したような動きで跳ね起きると、そのまま開きっぱなしの扉の奥へと消えていく。うおキメェ、というホーストの言葉は流された。

 

「くっ。油断した。あの偽物、まだ破壊されていなかったのか」

「キャルの姿をしていたからね。どうしても躊躇ってしまった私の失態だよ」

 

 詠唱を中断、二人も即座に扉の奥へと駆けていく。フォローはよろしく、とホーストに頼むのも忘れない。ここで聞き返すほど彼も経験が浅いわけでもないので、ああちくしょうと二人とは別の場所に、外の研究所へと飛んでいった。

 二人はそのまま格納庫を走る。向こうの動きは尋常ではなく、追いつくどころか背中を見失わないのがやっとだ。恐らく人形であることを利用し負荷を無視しているのだろう。

 キャルが止まった。目的地まで来たのだろう、それを見上げながら、彼女はブツブツと何かを呟いている。

 

「これが、魔術師殺し……? 起動は……無理ね。ああもう、アタシの本体なら取り込めるんだけど。え? 嫌よ、絶対嫌! 遠隔操作ですら渋々なのに。というか、あなたこれ動かせるんでしょう? いいから早くやりなさいよ!」

 

 それが聞こえる距離に来た二人は怪訝な表情を浮かべた。先程より随分と感情豊かな口調、というか別人のような喋り方をしている。ついでに、一人のはずだがまるで誰かと会話をしているような様子すら見られた。

 ともあれ。それを起動されるわけにはいかない。あるえとアンナはキャルの背中に向かって宣言し、そして呪文を叩き込んだ。

 ぐるん、とキャルの首だけが回転する。本人とは似ても似つかない笑みを浮かべながら、彼女はその攻撃を飛んで躱した。

 

「追い付かれちゃったわね。さて、どうしようかしら」

「随分と余裕だが、この状況を打破する手立てがあるとでも?」

「勿論よ。ほら、ここ。魔術師殺しがあるじゃない」

「動力が尽きている、という話は聞いていたはずだけれど」

「そうみたいね。……というか、この状況は動力が尽きているとかそういうレベルじゃないでしょう……」

 

 ちらりと見上げる。いたるところの装甲が外され、内部構造はバラされ。解体途中と言ったほうがしっくりくる状態のそれを視界に入れながら、キャルは溜息を吐いた。これを起動させたところで、果たしてちゃんと役に立つのだろうか。

 

「ネネカ所長が解析していたからな。かつての大国の技術と記憶を刻み、そして紡ぐ。古の兵器は別の名で呼ばれ、やがて平和の礎へと」

「ちょっと何言ってるのか分からない」

「やれやれ。これだから魔王軍は風情を理解しないと言われるんだ」

「アタシが悪いの!? ああもう、紅魔族はこれだから!」

 

 きぃぃ、と地団駄を踏むその姿は割と本物のキャルっぽかったが、その辺りはどうでもいい。ともあれ、疲れにイライラを混ぜたような表情を浮かべた彼女は、しかし嘲るように鼻で笑った。まあ、だとしても、と口角を上げた。

 

「こっちはこの状態でも何とか出来るのだけど。……本当でしょうね?」

 

 不敵に宣言して、何故か不安げに誰かに問い掛けた。望んだ答えをもらったのか、だったらいいわと小さく溜息を吐いた。

 瞬間、キャルの顔が変わる。歪んだ人形のような表情を浮かべ、そしておもむろに魔術師殺しへと手を伸ばした。それに合わせるように、魔術師殺しがゆっくりと光を帯びていく。

 解体されかけているそれが、軋んだ音を立てて動き始めた。ククク、と笑うキャルに寄り添うように移動すると、そのまま彼女を守るように周りを囲む。

 

「さて。彼女の特性へとこの素体を近付ければ融合も可能だろう。後は任せたよ。――ったく、だからアタシは嫌だって言ったのに」

「……アンナ、あれは」

「ああ。恐らく一つの体を二つの魂が操っている。成程、人形という器を使うことで、ああも容易く再現可能だとは……」

「惜しむらくは、今が余裕のない状態だということだね」

「まったくもって口惜しい」

 

 解体途中の魔術師殺しを纏うように合体していくキャルを見ながら、あるえもアンナも残念そうに武器を構えた。

 そのためというかなんというか。魔術師殺し相手に魔法は効果がないということを思い出すのが一瞬遅れた。

 

 

 

 

 

 

―7―

 大地をつんざくような音の後、紅魔の里全体が暗雲に覆われた。里の紅魔族は何事かと大地と空を見上げ、そして渦巻くそこに一体の魔獣らしき影が見えたような気がして目を見開く。

 思い切りテンションを上げていた。

 

「……まあ、里の人達は問題ないでしょう」

「問題ありありでしょ!? 里に被害が出たらどうするのよ!?」

「そうならないように、今向かっているんじゃないですか」

 

 ゆんゆんがめぐみんをガックンガックン揺らしていたが、当の本人はしれっとそう返す。確かにそうだけど、とぐぬぬ顔で引き下がった彼女は、この場にいるもうひとりの巻き込まれに声を掛けようとした。

 

「ねえ、こめっこちゃんは――」

「おー、たけー」

「暴れんなよ、落ちるから」

 

 ホーストに肩車された状態で一緒に飛んでいるのを見て、ああ駄目だと諦める。そもそも幼い少女に何を求めているのか、という部分があるのだが、常時テンパっているような彼女は行き着かないらしい。

 

「それで」

 

 そんなゆんゆんを尻目に、めぐみんは先頭を行く小柄なエルフの女性に声を掛ける。一体どうする気なのか。それを、これからの流れを問い掛ける。

 対するネネカは、背後の彼女をちらりと見ると、薄く笑った。どうするも何も、と述べた。

 

「あれを撃退し、ウォルバクと融合させます。言わずとも分かるのではないですか?」

「いえ、それは分かっています。どうやってそれを為すのかを聞いているんです」

「おや、めぐみん。あなたからそんな言葉を聞くとは思いませんでした」

 

 何を、と彼女の表情が歪む。一体何の話をしているのか、と眉を顰める。

 だが、ネネカはそれ以上を語らない。既に分かりきっていることを話す必要など無いとばかりに、彼女は会話を打ち切り再度前を向いてしまう。

 

「私としては、今すぐにでも避難してもらいたいのだけれど」

 

 その横で、少し苦しそうな様子のウォルバクが呟く。それを耳にしためぐみんは、当然のことながら首を横に振った。何を言っているのですか、と視線をそちらに向けた。

 

「そもそも、私はもうあなた達の仲間です。なんと言われようとついていきますよ」

「……私は、魔王軍の幹部よ」

「もう辞めるのでしょう?」

「本気で言っているの?」

「勿論。お姉さんならば絶対にそうすると、私は信じています」

 

 迷いないめぐみんの言葉に、ウォルバクは盛大に溜息を吐く。付き従っている二人の悪魔に声を掛けると、迷うことなくウォルバク様の思うままにと返された。ホーストにいたっては別に元々人間に敵対するほどの理由もないとあっさり言ってのける。

 

「ホースト、いいやつ」

「お、そうか? もっと褒めていいぜ」

「くいもんくれたら褒めちぎる」

「現金だなお前……」

 

 肩の上のこめっことそんな会話をしているホーストを見て、アーネスは呆れたように肩を竦めた。こんな状態だから、自分も毒気を抜かれてしまったと苦笑しながら零す。

 そんな二人を見て、ウォルバクは困ったように笑った。バカね、と呟いた。

 

「魔王軍幹部をしていたような存在が、そこを抜けて一体どう生きれば」

「誤解をしているようですが」

「え?」

「私は、あなた達全員をスカウトしたつもりなのですよ」

 

 言葉に感情を乗せていないように。というか至極当たり前のようにネネカが述べた。え、とウォルバクが零し、ホーストとアーネスも目を瞬かせる。彼女に付き従うマサキだけは、その通りだと言わんばかりに頷いていた。

 

「ネネカネネカ。わたしも入りたい」

「ふふっ。いいでしょう。ではこめっこ、あなたもこちらの一員ですね」

「いえーい」

「嘘でしょ!? ねえちょっと! めぐみんも何か言ってよ!」

「……えらくあっさりでしたね。いえ、私の加入時のやり取りは心震えたので問題ないのですが、ううむ」

「今そういう問題じゃないでしょ!」

 

 再度ガックンガックンやるゆんゆんを引き剥がしながら、めぐみんは呆れたように彼女を見る。否、ように、ではなく、思い切り呆れた様子で見詰めた。

 だったらゆんゆんも入ればいいでしょう。しれっとそう述べた。

 

「む、むむむむ無理無理無理!? 上位悪魔と一緒に生活するとか、私は無理!」

「仲間の一員になるというだけで一緒に住むこと前提なのが既に重めですが、まあゆんゆんなのでしょうがないですね」

 

 自ら進んでぼっちを選択したのだ、何も言うまい。頭を振っためぐみんは、そろそろ目的地ですねと前を見た。邪神の墓よりも更に奥、女神が封じられた地を破壊しながら突き進んだらしい魔獣は、里を見下ろせるその位置に陣取ろうとしていた。そこに辿り着き、誰かに姿を見られてしまえば、成功には届かない。

 だから、まずはその進路を変えさせる。

 

「それで、そのための手は!?」

「心配いりません。ほら、そこに」

「……え?」

 

 彼女が指差した先には、魔獣の進路を塞ぐように立っているネネカの姿。先頭にいる彼女の背中と、向こうにいる彼女の顔を交互に見るが、間違いなく同じ姿だ。

 向こうのネネカが呪文を唱えた。上級魔法を連発し、ダメージを与えるのではなく進路を変更させるのに専念している。短くいなないた魔獣は、ふいと顔を逸らすと、魔人の丘から霊峰ドラゴンズピークの方へと進路を変えた。

 

「お疲れさまです、私」

「ええ。ですが、流石は邪神の半身ですね。撃退するには生半可な呪文では難しいでしょう」

 

 合流したネネカとネネカが会話している。もはや何がなんだか分からなくなったゆんゆんは理解することをやめて現実逃避をし始めた。めぐみんも正直そうしたい。が、それはそれで負けた気がするので必死で観察し、考察した。

 す、とネネカとネネカが彼女を見る。ビクリと震えためぐみんは、なんですか、と思わず戦闘態勢を取った。

 

『めぐみん』

「あなたは確か、爆裂魔法を覚えるのだと言いましたね」

「それならば」

「ちょ、ちょっと待ってください! その前にどっちか片方だけで会話してくれませんか!?」

 

 ああこれは失敬、と先程現れたネネカが最初からいたネネカに重なり消える。何かもうそういう存在なのだと割り切ったほうがいいのかもしれないと思いつつ、めぐみんは先程の会話を反芻した。お前は爆裂魔法を覚えるのか、という問い掛けを思い返した。

 

「では改めて。めぐみん」

「勿論です」

「おや?」

「私は、爆裂魔法を覚えます。いつか、などと言っていましたが、別にそれが今日でも何の問題もありませんよ」

「それは重畳」

 

 ぽい、とネネカが数本の瓶を投げ渡す。おっとっと、とそれを受け取っためぐみんは、小瓶がスキルアップポーションだということを確認し目を見開いた。

 

「本来ならばウォルバク本人にやらせるのですが。どうやら彼女は今腑抜けているので」

「……うるさいわね」

「だから、お姉さんから教わった爆裂魔法を持つ私が適任だ、と」

「ええ。足りないのならば追加しますが」

「いえ、大丈夫です」

 

 ぐい、とそれを飲み干す。元々あと一歩だったのだ。このチャンスを逃す手などない。

 では、と冒険者カードを取り出そうとしためぐみんだったが、待ったというマサキの言葉に動きを止めた。その前に、と武器を構える彼に続くように、ホーストとアーネスも戦闘態勢を取る。

 

「どうやら、こちらを邪魔者だと判断したようですね」

「……どうするの? ここだと」

「いえ、既にここは山の中。当初の予定よりは浅いですが、十分許容範囲内です」

 

 殺気が飛ぶ。へたりこんだゆんゆんを起き上がらせ、めぐみんはこめっこと共に後方へと下がった。悔しいが、今の自分では何の役にも立たない。

 自分が出来ることは、現状ひとつだけ。

 

「めぐみん……」

「名前で、呼んでくれましたね、お姉さん」

 

 ウォルバクのそれに笑顔で返しためぐみんは、迷うことなく冒険者カードを取り出した。そうしながら、大丈夫ですと続けた。最初から決めていましたから、と述べた。

 

「本当に、いいの?」

「ええ。……何より、ここまで燃える展開ならば、やるしかないでしょう!」

「さすが姉ちゃん」

「ふふっ。そうですね、流石はめぐみんです」

 

 小さく笑うネネカを見て、ウォルバクも同じように小さく微笑んだ。ありがとう、とめぐみんに告げた。

 いいえ、と彼女は返す。お礼を言うのはむしろこちらの方だ。そう言って、冒険者カードに記されたそのスキルを迷うことなく習得する。爆裂魔法を、自身の道を示してくれてありがとうと彼女は呟く。

 

「それに。私の最初の爆裂魔法をお姉さんに見せられることが、何より嬉しい」

「……ええ。しっかりと見ていてあげるわ。私が教えた――弟子の、爆裂を」

「――はいっ! 師匠!」

 

 頭に浮かんだそれを、爆裂魔法の詠唱を唱える。まるで最初から知っていたようにすらすらと。否、とうの昔に知っていたそれを、何度も何度も頭に叩き込んだそれを、淀みなく。

 これは、ただの爆裂魔法ではない。何年も思い続けた、自身の道を指し示す、最初の一歩だ。もはや遮るものなど何もない。自分だけの、道だ。

 

「私は、今日という日を忘れません。――」

 

 だから、たとえ邪神の半身であろうとも、歩みの邪魔などさせるものか。

―□―

 

 




過去話を繋げるのがやっぱり紛らわしかったみたいなので、ちょっと分かりやすい目印付けました。前までの話にもついてます。

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