プリすば!   作:負け狐

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しゅらばらばらんば(大嘘)


その133

 時が止まった。ペコリーヌとコッコロの視界には、キャルが何とも言えない表情を浮かべながらカズマの目の前でスカートをたくし上げている光景が映っている。彼の手に女物の下着が握られていることを踏まえると、恐らくキャルは穿いていないのだろう。だというのにその行動をするということは、つまり。

 つまり、どういうことなのだろう。ペコリーヌはどうにも理解できず、頭にハテナマークが飛んでいた。考えていても仕方ない。もう一度尋ねようと彼女は口を開く。一体何をやっているんですか、と。

 

「ち、違う! 誤解だ!」

 

 我に返ったらしいカズマが叫ぶ。誤解も何も状況の把握が出来ていないんですけどと思いはしたが、あまりにも彼がテンパっていたので口が挟めない。

 

「俺はただ、キャルのスカートの中を見せてもらおうとしただけだ!」

「そ、そうよ。あたしはただカズマにちょっとスカートの中を見せようとしていただけなの! 何もやましいことなんかないわ!」

「やましいことしかない」

「破廉恥だよぉ……」

「あるえ、アンナ。私達は逃げておきますよ」

 

 やばいですよ、とめぐみんが二人を伴って退避する。幸いなのが最近猛スピードでアクセルの変人坂を駆け上がるあの姉妹がいないことだろうか。そうは思ったが、案外承知の上な気がして、彼女は考えないようにした。

 そんなわけでペコリーヌ達である。どうやら考えていた通りの行動をしようとしていたらしいと頷くと、今度は理由を考え始めた。とはいえ、カズマがスケベなのは周知の事実である。コッコロがいる手前自重してはいるが、そういうことに興味津々なのは知っている。

 

「えっと。……カズマくんは、キャルちゃんのスカートの中が見たかったんですか?」

「あ、ああ。そうだぞ、お前たちが思っているようなことは何も……」

 

 そこまで言ってから気が付いた。俺何言っちゃってんの、と。今の言葉を額面通りに受け止めた場合、カズマがやろうとしているのはただのセクハラ、あるいはそういうプレイである。

 

「ち、違う! 待ってくれ、これには重大な理由があってだな!」

「主さま」

 

 これはマズい。そう判断したカズマが口を開くよりも先に、先程から黙って聞いていたコッコロが割り込んできた。ど、どうした、と若干どもりながら返事をした彼の前で、彼女は少しだけ恥ずかしそうにしながらゆっくりと自身のスカートに手をかける。

 

「スカートの中が見たいのでしたら……わたくしでよければ、いくらでも」

「ちょいちょいちょいちょいちょーい! 違うから! そういうんじゃないから! コンプライアンス違反になるからそういうのちょっと控えて!」

「こんぷらいあんすいはん、でございますか……?」

「ちょっと何言ってるか分かりませんね」

 

 大慌てでコッコロを説得しに掛かるカズマを見ながら、ペコリーヌはもう一人のテンパっている方に視線を向けた。それでキャルちゃん、と彼女はその人物の名前を呼ぶ。

 

「何がどうなったんです?」

「ち、違うわよ!」

「落ち着いてください」

 

 目ン玉グルグルになっているキャルは、違うそうじゃないと頭を抱えて悶えている。そんなつもりはなかった、気付いたらああなっていた、勢いに押された。大体そんなことを呟いて、違う誤解だと弁明している。

 ちなみに、傍から聞いていると修羅場以外の何物でもないという感想になるのだが、あるえもアンナもめぐみんも今回は空気を読んで黙っていた。マサキとホーストは現状あれは見ないことにしている。

 そうしてたっぷり時間を掛けてある程度落ち着いたカズマ達一行は、もう一度改めてあの状況に陥った流れを説明することになった。

 なったのだが、結局そこまで誤解じゃないというオチが付く。

 

「わたしが言うのも何なんですけど……。この状況で何やってるんです?」

 

 一応戦闘中だったはずだ。そのことを指摘されたカズマとキャルは、いや全くその通りと縮こまった。そうしながら、あれおかしいなと視線を動かす。

 おっ勃ててた偽キャルが、腕組みしながら事の成り行きを見守っていた。

 

「何やってんのお前!?」

「それはこっちのセリフよ。何で戦闘中におっぱじめようとしてるわけ? おかげでアタシも何だか気まずくなって一時中断しちゃったじゃない」

「し、してないわよ! なんてこと言い出すわけ!? ぶっ殺すわよ!」

「説得力ないわよ? だってほら、ボウヤがその手に持ってるのあなたの下着でしょ? その状態でスカートなんか捲ったら、ねぇ」

 

 え、とキャルの視線がカズマの右手に移る。あ、ほんとだあれあたしのパンツだ。そんなことをどこか他人事のように考えつつ。彼女はゆっくりとスカートの中を確認した。

 穿いてない。

 

「……」

「待て、落ち着け。話し合おう? これは不可抗力だし、俺もすっかり忘れてた。だから見えても事故だ事故。な? そもそも見えてないし。あ、ちなみに本当に生えてないんだよな? 大丈夫だよな?」

「…………殺す」

「待て待て待て待て! 今はそれどころじゃないよ!? ほら、コッコロとペコリーヌだって」

「主さま、嫌がるお方にそのようなことをやってはいけません。ご心配なさらずとも、後でわたくしがやってあげますから」

「その反応間違ってるよ!? やらなくて大丈夫だよ!? どうしたのコッコロ!? あ、こないだの反動か、ダメだこれ! ペコリーヌ! ペコリーヌだけが最後の頼り!」

 

 縋るようにカズマはペコリーヌを見る。あいつなら、何だかんだこういう時はツッコミ役に回ってくれると信じているあいつならば。そんなことを思いながら、彼は彼女の顔を見て。

 

「……カズマくんのえっち」

 

 なんか違うベクトルでこっちもダメだったと崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「さて、ではシルビア。戦闘を続けましょうか」

「アタシが言うのもなんだけれど、あっちは放っておいていいの?」

 

 めぐみんが杖を構えるのを見ながら、偽キャル――シルビアは向こうを指差す。ペコリーヌに慰められながらパンツを穿いているキャルと、コッコロに甘やかされながらピクリとも動かないカズマを一瞥しためぐみんは、はいと頷いた。

 

「平常運転です」

「えぇ……」

 

 シルビアと、ついでにアンナもちょっと引く。何だか知らないうちにめぐみんも大人になったんだなぁ、とあるえが謎の感心をしていた。

 こほん、と誰かが咳払い。そこで空気を元に戻すように、シルビアは表情を不敵な笑みに変えると眼下にいるめぐみん達を見下ろした。

 

「さて、それで? 戦闘を続けるのはいいけれど、どうする気? アタシのこのボディは魔術師殺しを組み込んであるわ。あなた達紅魔族じゃ、傷一つ付けられないでしょう?」

「……それはどうでしょうか」

 

 杖に魔力を込める。生半可な呪文は弾かれるが、爆裂魔法ならば話は別だ。あのデストロイヤーの魔力結界と比べて、魔術師殺しの耐魔法は不完全。同製作者の以前の作品なのだろうというのがネネカの見解で、ベクトルこそ違えど、同じ方法で対処できるということも彼女が言っていたので知っている。

 

「あははははっ。いいわ、やってごらんなさい。その爆裂魔法に耐えきればもう打つ手なしなんでしょう?」

「めぐみん」

「あるえ、心配しないでください。私は負けませんよ」

「違うな、めぐみん。我らも力を貸す、と言っているのさ」

「アンナ……」

 

 そんな彼女の横に二人の少女が並ぶ。それぞれに武器を構え、真っ直ぐにシルビアを睨むその姿は、死地に赴く戦士のごとし。その覚悟を受け取ったのか、めぐみんも小さく笑みを浮かべると、では行きますよと杖を掲げた。

 それに合わせて、よし行くぞとあるえとアンナがめぐみんを掴む。

 

「へ?」

「今はまだその時ではない。機が熟すのを待て、ということだ」

「そういうことさ。退避ー!」

 

 えっさほいさ、とめぐみんを担いで盛大に距離を取る。なんですとー、とされるがままになるめぐみんを目で追いながら、シルビアは目の前に誰もいなくなるのをポカンと眺めていた。

 

「……さて、邪魔者もいなくなったことだし、遠慮なく」

「遠慮なく、どうする気かしら」

 

 横合いから声。ん、と視線を動かすと、一人の女性がこちらに歩いてくるところであった。眼帯をつけた、隈の深い紅魔族とは違う赤い瞳をしたその女性は、これ以上暴れられると困るのよねと軽い調子で言葉を紡ぐ。

 

「あなたは確か……」

「あら、知ってるの? 以前どこかで会ったかしら?」

「前にこの里を襲撃した時に見た女医でしょう? 見た目こそ違うけど、アタシはシルビア、魔王軍幹部のグロウキメラ、シルビアよ! 忘れたとは言わせないわ」

「ああ、成程。そういうわけだったのね」

 

 ふむふむ、と何かを考え込むような仕草を取った女医――ミツキは視線をシルビアから他の場所へと動かした。マサキとホーストは、いつでも大丈夫だと頷いている。めぐみんは彼女の登場で何となく察したのか、出番まで出来るだけ威力を高める算段を始めた。

 

「そこの坊や達。そろそろ落ち着いたかしら?」

 

 後は、と彼女はカズマ達四人に声を掛けた。段々と落ち着いてきていたキャルはその言葉で我に返り、あ、そうだ戦闘中だったと慌てて武器を構える。あははと苦笑したペコリーヌは、大丈夫ですよとティアラを装備しながら剣を構えた。

 

「主さま、はい、どうぞ。たっちできますか?」

「大丈夫です。大丈夫なんであの、もう少し」

 

 よしよしとカズマを立たせているコッコロにされるがまま、揃って視線を向こうに動かした。流れは完全にお母さんに連れられる幼児である。誰もツッコミを入れないところがもう既に手遅れ感を増していた。

 

「そいつらがどうしたっていうの?」

「分からないほど鈍くもないでしょう? あなたを撃退するのに必要な戦力よ」

「あはははははっ! 笑わせてくれるじゃない! 魔法が効かないこのボディに、一体何をどうするって? まさか物理攻撃? この巨体を薙ぎ倒せるほどの実力者がどこに」

 

 シルビアの言葉が終わらないうちに、彼女の足元に猛烈な衝撃が襲いかかった。巨体が揺れ、そのままバランスを崩し地面に転がる。何が起きた、と慌てて立ち上がったシルビアは、そこで見た。

 

「クスクスクス」

「ひっ!」

「そうね、巨体を薙ぎ倒せる物理攻撃はたしかに有効だわ。エリコちゃん、もう一回お願いできる?」

「ええ。……ですが、そこまで期待はなさらないでくださいね。私はあまりやる気が無いので」

「分かってるわ。でも、今はルカもナナカちゃんもメリッサもいないから、もうちょっとだけ我慢して頂戴」

「しょうがないですね」

 

 ふう、と息を吐いたエリコは、持っていた大斧を上段に構えた。それだけで猛烈な悪寒が走るほど、周囲の空気が変わっていく。観客の紅魔族がエフェクトを撒き散らし、そして《壊し屋(デストロイヤー)》の異名を伝えながら技の解説を行い始めた。

 

『あの一撃はまさに無慈悲。敵対する相手を破壊することそれだけに特化した、《壊し屋(デストロイヤー)》のデストロイヤーたる所以! だがしかし、それこそがむしろ慈悲であると言わんばかりの――』

「覚悟は、いいですわね」

 

 一撃。魔術師殺しの装甲が弾け飛んだ。げぇ、とシルビアが驚愕するのをよそに、エリコはそのまま再度斧を振り上げる。

 二撃。露出していた内部のパーツが砕け散る。それに加えて、丸太のような太さの蛇の巨体に亀裂が走った。

 惨撃。再度振り下ろしたそれにより、魔術師殺しの複数ある蛇の尻尾の一つが三分の一ほど寸断された。否、寸断などという綺麗なものではない。叩き潰され、千切られたのだ。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「《デッドリーパニッシュ》」

『後で言うんだ……』

 

 衝撃で吹き飛んだシルビアが悲鳴を上げる。確かに魔術師殺しは対魔法使い特化装甲。物理攻撃には特別強いものではない。だが、だからといってそう簡単に破壊されるような代物でもないはずだ。そうでなければ、かつて魔族が恐れたなどと言われるはずもない。

 

「な、何!? 何なの!? どういうこと!? 嘘でしょ? 魔術師殺しの装甲がこんなにあっさり」

 

 千切り飛ばされた箇所を見る。ズタズタにされたその場所に、何やら斧とは違う痕跡が残っていた。まるで液体でもぶっかけたようなそこから、侵食するように色が変わっている。

 

「何これ!?」

「何って、魔術師殺しの装甲を腐食させる薬剤よ。エリコちゃんなら無くても大丈夫だったでしょうけど、彼女が疲れちゃうものね」

 

 さらりとミツキが解説する。何でそんなものを、とシルビアが驚愕していたが、研究材料になっていたのだから当たり前だろうと返され、彼女は思わず口を噤んだ。言われてみれば、ただただ封印されていたわけでもなくあの頭のおかしい小柄なエルフが既にバラしていたのだ、その可能性も考えてしかるべきであった。

 

「ミツキさん」

「ええ。ご苦労さま」

「はい。では……少し観戦させてもらいます」

「あら珍しい。何か気になることでも」

「ええ、少し」

 

 視線を向こう側に向ける。マサキとホーストから伝えられたのだろう、そういうわけだからと物理主体で陣形を組まされたカズマ達が、ダメージを食らったシルビアへと向かうところであった。

 

「汚名挽回よ!」

「返上しろよ、挽回すんな」

「キャルちゃんもカズマくんも調子戻ってきましたね、やばいですね☆」

「はい。行きましょう、主さま、キャルさま、ペコリーヌさま」

 

 ペコリーヌとマサキを先頭に一行が駆ける。コッコロの支援によりステータスを底上げされた二人は、一気に肉薄するとその剣を振るった。

 

「ぐぅ! こ、んのぉぉぉぉ! 魔王軍幹部を嘗めんじゃないわよ!」

「マサキさん!」

「大丈夫だ、そちらこそ問題ないかい?」

「はい。コッコロちゃんとカズマくんの支援がありますから」

 

 残っている別の尻尾を振り回したシルビアの攻撃を避けつつ、マサキが牽制しペコリーヌが一撃を叩き込むというサイクルを繰り返す。先程とは違い決定打はなかったが、着実にダメージを与える戦い方だ。

 そんな光景を見ながら、ミツキはふむふむとエリコに声を掛けた。

 

「あの子達が気になるの?」

「ええ、少し。……クスクス」

「……ふーん。少し、ねぇ」

 

 あの子達、正確には一人の少年を見ながら、ミツキはほんの僅かに口角を上げた。

 

 

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