プリすば!   作:負け狐

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前章よりはのんびりするような、しないような


第八章
その136


 それは、実に唐突であった。アクセルのギルド酒場、そこでいつものように暇を潰しているカズマとキャル、そしてバイトをしているペコリーヌ。その他の冒険者も同じように、そんな当たり前のように過ごしていたその場所に。

 

「大変なの! 一大事なの! 重大発表なの~!」

 

 扉を開ける前にすり抜けてきたプリン幽霊がかっ飛んできた。突如現れたそれに一瞬注目が集まるが、なんだミヤコかと警戒を消す。消すが、彼女のその叫びで再び何だ何だと注目が集まった。

 一体何が大変なんだ。酒場にいる誰かがそう彼女に問い掛けると、ミヤコはダボダボの袖をブンブンと振りながら何だかいつになくテンパった様子で口を開いた。今日、とんでもないやつが来た、と述べた。

 

「ダクネスの子供が来たの! アイツ子持ちだったの!」

 

 は、と一瞬皆が呆け、そして次の瞬間には大騒ぎになった。マジかよ、と驚く者、何となく納得する者、微妙にショックを受ける者など様々だが、割と誰一人冷静ではない。

 それは勿論、この三人も例外ではなく。

 

「いやまあ、あの性癖だと処女じゃないのもなんか納得というか」

「生々しいわ! というかだったらクウカはどうなんのよ」

「いやあれはさ、ちょっと無理じゃね? ……だったらダクネスも無理か」

「あの、二人とも……一応ララティーナちゃんはわたしの昔馴染なので、その辺で」

 

 そうは言いつつペコリーヌも言葉に元気がない。はっきり違うと言い出せないのがその証拠だ。カズマとキャルも、そんな彼女を見て怪訝な表情を浮かべた。昔から知ってるんなら分かるんじゃないのか、と問い掛けた。

 

「それは……」

 

 ちらりとミヤコを見る。酒場にいた連中に尋ねられ、ダクネスの子供とやらの説明を語っている彼女の言葉を聞きながら、ペコリーヌはあははと寂しそうに頬を掻いた。

 ちなみにその子供はダクネスによく似た可愛らしい金髪の女の子で、歳は凡そ五・六歳程度なのだとか。

 

「丁度その頃って、わたし一番やさぐれてた時ですし……」

 

 アイリスがめきめきと才能を伸ばしていた頃である。もしその時にダクネスが子供を作っていたとしても、視野狭窄なユースティアナでは気付かなかった可能性がなきにしもあらず。

 彼女のそれを聞いた二人は思わずごめんなさいと謝った。そうしながら、いやちょっと待てと下げた頭を再び上げる。

 

「その頃って、ダクネスまだ十二とかその辺だろ?」

「コロ助と同じくらいの歳で子供作ったのあいつ……?」

 

 流石に貴族とか関係なくアウトじゃないだろうか。窺うようにペコリーヌを見ると、若干顔色を悪くした状態でコクリと頷いた。もしそうだったとしたら、大切な昔馴染がそんな状態であったのに気付いてあげられなかったことになる。

 

「わたし……ララティーナに、なんて言えば……」

「ペコリーヌ……」

 

 そのタイミングで酒場のドアがぶち破られん勢いで開かれた。再び全員の視線が新たなる乱入者に集中する。

 まあ当然というか、ダクネスであった。

 

「ミヤコの馬鹿はどこだぁ!」

「ミヤコさんなら、言いたいこと言って向こうにプリン食べに行きましたよ」

「手遅れかっ……!」

 

 ルナの言葉を聞き、がくりとその場で膝をつくダクネス。そしてそんな彼女を見た酒場の面子は皆一様に頷いた。頷いて、問う。

 それで、お前ほんとに子持ちなの? 遠慮というものを知らないのがアクセルの住人なのだから。

 

「そんなわけあるか!」

 

 全力否定である。でもなぁ、と納得できない連中を見て、こいつら全員ぶち殺そうかなとダクネスは思わず拳を握った。

 そんな彼女の前に一人の少女が立つ。少女は、ペコリーヌはダクネスの手を取ると、今にも泣きそうな顔でごめんなさいと頭を下げた。

 

「わたし、ララティーナがそんなことになっていたなんて知らなくて……」

「誤解です! 違いますから! どうか頭を上げてください! 貴女様が心配するようなことは何一つありませんので! ああもう、ミヤコのプリンは当分抜きだ!」

「横暴なの!」

「妥当だ! 私は最初から違うと言っていただろうが!」

 

 プリン抜きのキーワードにホイホイされたミヤコを引っ掴んでこめかみをグリグリする。ぎゃぁぁ、と断末魔の叫びを上げて、彼女はその場に倒れ伏した。

 そうしてミヤコが沈黙した辺りで新たなる乱入者である。まったくもう、と呆れたような顔をしたイリヤが、一人の少女の手を引いていた。その顔立ちは、先程ミヤコにグリグリをお見舞いしていた人物に非常に似ていて。

 

「ダクネスよ。追い掛けるのは構わんが、こやつを放置しておくのはいただけんぞ」

「あ……そ、そうだったな……。すまないイリヤ。……置いてきぼりにしてすまなかった、シルフィーナ」

「い、いいえ。大丈夫です、ママ」

『ママ!?』

 

 誤解が真実へと昇華された。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの。ダスティネス・フォード・シルフィーナと申します」

『やっぱりダクネスの』

「違うと言っとろうが! この娘は私のいとこで、ついこの間この街に引っ越してきたのだ!」

『へー』

「まったくもって信じていないな!?」

 

 うがぁ、と叫ぶダクネスを見ながら、カズマもだってなぁ、と眉を顰める。性癖はともかく、見た目だけならば特級のダクネス。その彼女に非常に良く似た可愛らしい顔立ちの少女は、二人並んでいると姉妹というよりも親子のほうがしっくり来るように思えて。

 

「ねえペコリーヌ。どうなの? あの娘本当にダクネスのいとこ?」

「えっと……確かに、ダスティネス公爵の、ララティーナちゃんのお母様の家には娘さんがいたはずですけど」

 

 いかんせん先程も言っていたように、その頃の自分は割とやさぐれていたので詳しいことが分からない。ダクネスの母親の家系は魔力や魔法抵抗力に秀でていたが体が弱く、彼女の母親も幼い頃にこの世を去っている。それくらいは知っているが、そこから離れると流石に。

 

「その通りですユー、ペコリーヌさん。彼女の母親もまた幼い頃に他界しておりまして、私が何かと世話を」

「そういう設定か」

「ぶっ殺すぞ貴様!」

「あれ、何かあたしの出番取られた気がする」

 

 とにかくそういうわけだから、とダクネスは全力で彼女が自分の娘ではないと述べる。母親がいなかったからこそ、自分がその代わりとなれればという意味合いも込めているだとか、自分と同じような寂しい思いをさせたくなかっただとか。そういう説明をされると体の大半が悪ノリで出来ているアクセルの住人も、この場にはいないが主にコッコロという良心というかそれを飛び越える母性というかママみの塊に背く真似は出来ないわけで。

 

「……理解してくれたようでなによりだ」

「ごめんなさい、ママ……ララティーナ様」

「シルフィーナだったっけ? 無理に呼び方変える必要もないでしょ。ダクネスのこと遠慮なくママって呼んじゃいなさい」

「え?」

「そうだな。別に事情はもう知ったんだから大丈夫だろ」

「で、ですが」

 

 不安そうにダクネスを見上げる。そんなシルフィーナを見たダクネスは、しょうがないなと苦笑しながら彼女の頭を優しく撫でた。

 気にせず、好きに呼びなさい。そう告げると、シルフィーナは嬉しそうにはいと頷いた。

 

「じゃあ、これで一件落着ですね」

「ご迷惑をおかけしました」

「そんなことは。むしろわたしの方が、改めてララティーナちゃんに恩を返さないとって思いましたし」

「いいえ。私は貴女様がそうして元気な笑顔を見せてくださるだけで――」

 

 そこまで言って、いやそれだけで本当に大丈夫かと若干不安になった。こうして酒場のアルバイトをしているのもそうだし、アレな連中と馴染みまくっているのもそうだ。

 何より、何か最近パーティーメンバーのあいつと距離近くないかと思うことがしばしばで。

 

「ユースティアナ様」

「どうしました?」

「何かあったら、相談に乗りますので。抱え込むのだけはおやめください」

「は、はぁ……。わかりました」

 

 必死過ぎるとも言えるような表情だったので、思わず気圧された。が、別にその言葉自体は今の自分に否定する理由もないため、ペコリーヌも素直に頷く。その反応で安堵の溜息を吐いたダクネスは、気を取り直すように視線をシルフィーナ達へと向けた。

 

「え、っと。プリン、ですか?」

「そうなの。オマエは見所があるから、ミヤコにプリンを献上することで手下にしてやるの」

「プリンが食べたい、ということでいいのでしょうか……」

「シルフィーナよ。あやつの言葉は話半分に聞いておくとよいぞ」

「イリヤ、余計なこと言うななの! いいからミヤコにプリンをよこすの!」

「……で、ではプリンを一つ」

「オマエはケチなの!? ミヤコに渡すプリンはもっと沢山なの!」

「え? で、では三つ」

「この大馬鹿者!」

 

 ゴツン、とゲンコツが落ちた。あんぎゃぁ、と頭を押さえてプルプルするミヤコを見ながら、お前は一体何をやっているとダクネスが彼女を睨む。イリヤはやれやれとそんな光景を見て肩を竦めていた。

 

「ねえ、カズマ」

「どうした。いや、言いたいことは何となく分かるけど」

「母親と我儘言う長女に大人しめの次女よね」

「イリヤは、近所のお姉さんポジか何かだな。もしくはしっかりものの長女」

「あはは。やばいですね☆」

 

 聞いていたペコリーヌも内心同意したのだろう。思わず笑ってしまうと、どこか微笑ましい表情でダクネス達を見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけでアクセルに新しい騒がしさが増えた。ミヤコがシルフィーナを連れてよく街を歩いているのを見かけるようになったし、イリヤもお目付け役なのかそれに同行する姿がたびたび目撃された。

 今日も今日とてプリンを食べるのだと壁をすり抜けて酒場に乗り込んできたミヤコを、普通に扉を開けて入ってきたシルフィーナとイリヤが追い掛けるという光景が広がっている。

 

「ミヤコよ。こやつは体があまり強くはないのだぞ。手下だというのならば、もう少し考えてやれ」

「む~。分かってるの。だからプリンも泣く泣くおすそ分けしてやってるの」

「あの、イリヤさん。私は大丈夫ですので」

「そうは言うがな。おぬし、元来こうして走り回るのは苦手じゃろう? 無理をして倒れられたりもすれば、わらわもダクネスにお説教を食らうのじゃ」

 

 称賛と賛美の悪感情を得る機会が減るのであまりよろしくない。だから自分自身のためにも、もっと体を労れ。そんな彼女の言葉を聞いて、シルフィーナは心からの笑顔でありがとうございますと頷いた。

 

「完全にあれだな」

「あれね」

「あれ、でございますか」

 

 そしてそんな三人を見ているカズマとキャル、そしてコッコロのいつメンである。今日は魔道具店の仕事はせずに、久しぶりにクエストでも受けようかと珍しく普通の理由でギルド酒場に集まっていた。ペコリーヌは仕込みだけしてから合流予定だ。

 

「まあ、忙しい母親の代わりに面倒を見るってのはお約束だしな」

「いえ、恐らくですが。本当は付いていきたいけれど、我が娘の成長を妨げてはいけないと断腸の思いで見守ることにしたのではないかと」

「あ、うん、そっか。何か、やけに具体的ねコロ助……」

 

 詳しく聞いたら駄目なやつだとキャルはそれ以上触れなかった。そうこうしているうちにペコリーヌがやってきて、じゃあ何か依頼受けましょうとクエストボードへと足を進める。

 毎度毎度のクエストがずらりと張り出され、しかし張りっぱなしであった塩漬けクエストは見当たらない。駆け出し冒険者の街という謳い文句に違わないようなものもちらほら存在しており、いつも通りのアクセルだと認識させてくれる。

 

「で、何かリクエストはあるのか?」

 

 正直何でもいいカズマは他の三人にそう問い掛ける。見る限りそこまで面倒なものはなく、これまでのアレコレから考えるとヌルすぎるくらいだ。それが彼にとっては丁度いいのだが。

 そうですね、と彼の言葉を受けてぐるりと依頼を見ていたペコリーヌであったが、あれ、とその中の一つで視線を止める。依頼自体はそこまで大したことのないモンスター退治ではあったが、他と違い備考欄に注釈がいくつかついていた。

 

「……白い竜らしきものが目撃されている?」

「は? げ、ほんとだ。これヤバいやつじゃないの?」

「これが本当ならば、クエストの難易度が釣り合っていないように思えますが」

 

 ペコリーヌの呟きを聞いてその依頼書を覗き込んだキャルとコッコロがそんなことを述べる。そしてカズマはじゃあこれは却下だなと即座に話を打ち切ろうとした。

 が、ペコリーヌはそこから視線を外さない。白い竜、と小さく呟いているところからすると、何かしらその単語に思うところがあるらしい。

 

「……一応聞くけどな、それ食べたいって思ってないよな?」

「カズマくんはわたしのこと何だと思ってるんですか?」

「何でも食う腹ペコだよ」

「酷くないです!? いや、まあ、確かにそうなんですけど……」

 

 認めるのかよ、とカズマは一人ツッコミを入れながら、だったら理由は何なんだと彼女に問う。食欲以外の理由ならば、とりあえず言ってくれないと反応も出来ない。そんな意味合いの言葉を聞いたペコリーヌは、やっぱり優しいですねと微笑んだ。

 

「……ふふ」

「ふーん」

「コッコロ、キャル、その表情やめてくれない?」

 

 いいから早く言え。そう促すと、彼女はコクリと頷いた。そうして、もしこれが本当だとしたら、と口にする。

 

「ひょっとしたら、わたしの知り合いが関係しているかもしれません」

「……は?」

「白い竜といえば、既に絶滅したと言われている希少種です。でも、今現在存在が一体だけ確認されています」

 

 ブライドル王国にかつて所属していたドラゴンナイト。その相棒が、白い竜、既に存在しないと言われたホワイトドラゴン。

 

「え? じゃあ何? ブライドル王国の誰かがそこで何かやってる可能性があるってこと?」

「……ひょっとしたら」

 

 いえーい、とピースしているリオノールが浮かんできて、いえいえまさかそんなと振って散らす。が、不安は中々消えない。一応念の為、と酒場にいるであろう一人のチンピラを視線で探すが、見渡す限りどこにもおらず。

 ちょっとごめんなさい、と目の前の依頼書を引っ掴んでからペコリーヌはギルドカウンターへと向かい、とある人物についてを尋ねた。ダストは今クエストを受けているか、と。

 

「ダストさんでしたら、先程クエストを受けましたよ。ああ、丁度その依頼と殆ど同じ場所のやつですね」

 

 ルナがカリンと情報共有をして、二人で答える。そうですか、と言葉少なく頷いたペコリーヌは、何かを決意したように振り返った。コッコロは微笑みながら頷き、キャルは呆れたように肩を竦め、カズマはしょうがねぇなぁと頬を掻く。

 

「これ、受けます」

 

 ばん、と持っていた依頼書を叩きつけ、承認印を貰うと同時に彼女はカズマ達へと駆け寄った。ごめんなさい、ありがとうございます。そう言って、ペコリーヌは頭を下げる。

 

「いいからとっとと行こうぜ。あれだろ、ダストも受けてるってことは、リールさんが関係してる可能性あるんだろ」

「……何か思い出したくないこと思い出したわね」

「あれは、大変でございました……」

 

 ドMレギオンの件である。とにかく再び街がえらいことになっては堪らない。クエストに行く準備自体は終えていた四人は、そのままの勢いで酒場を飛び出していった。

 

「心配し過ぎなだけだと、いいんですけど」

 

 そんなペコリーヌの呟きは、街の喧騒へと消えていく。

 

 




リオノール「まあ今回は関係してないんだけれどね!」
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