プリすば!   作:負け狐

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実際シェフィの赤ちゃん状態って何歳くらいを想定してんだろう


その138

「あそぼ! あそぼ!」

「うーむ。見た感じ年は問題ねぇが、胸も色気もねぇな、こいつ」

「ていっ!」

「メガっ!」

 

 復活し少女の品評を始めたダストを再び沈めたリーンは、シェフィと名乗ったドラゴンの少女に向かって声を掛けた。とりあえず落ち着いて、と述べた。

 

「しぇふぃ、あそべるよ? あそぼ?」

「あー、うん。そうね、そうなんだけど。まずはその格好を」

「だめ? あそべない?」

「う、ううん。そんなことないわよ、だから」

「わーい。あそぼ、あそぼ」

「あーもう! ちょっとは大人しくしてなさいよクソガキ! 後隠せ!」

 

 横で聞いていたキャルがキレた。さっきからもろ出しでピョンピョン飛び跳ねているその姿は、同性からしてもぶっちゃけ恥ずかしい。そんなわけで叫んだ彼女であるが、当然というかなんというか、シェフィはそれにビクリと反応して動きを止めた。そして勿論、くしゃりと表情が歪む。

 

「大体、遊んでやるってさっきから言ってんでしょうが。その前にまずその格好どうにかしろっつってんの」

「ふぇ……かっこう?」

 

 が、泣き出すよりも早くキャルが更に言葉を紡いだことで、シェフィの涙が引っ込んだ。遊んでやる、という言葉に反応した。そうして、かっこうかっこうと首を傾げながらクルクルと回り出す。相変わらずもろ出しで。

 

「ドラゴンなんだから、服とかも出せたりしないわけ?」

「ふく? ――おようふく!」

「そうそうお洋服。どうなの?」

「おようふくはね、おにーたんがきせてくれるの!」

「はいはいそれは良かったわ――今なんつった? 誰が着せてくれるって?」

「おにーたん!」

「……えちょっと待った。ここにあんた一人って、ことは」

 

 ギギギ、と錆びついた動きで辺りを見渡す。会話を聞いていたリーンが顔を青くしているのが見える。こちらを見ないようにしているキースとテイラーも、背中だけで緊張しているのが見て取れた。クウカは平常運転である。

 

「ぺ、ペコリーヌ……」

「そうですね。その可能性は十分あると思います」

「やばいじゃない……」

「ですが、キャルさま」

 

 よし決定とばかりに逃げだす算段を立て始めたキャルに向かい、コッコロは静かに首を横に振った。だとしても、この状態の彼女を置き去りには出来ない。そう述べると、鞄に入っていた外套を取り出しシェフィへと被せた。

 

「何より、主さまの《敵感知》が反応しておられません。シェフィさまのお兄様は、きっと心優しいお方なのでしょう」

「信頼が重い……。いやまあ確かに敵感知に反応ないけどさ」

 

 シェフィをあやしているコッコロを横目で見つつ、カズマはやれやれと息を吐く。同じように、他の面々も彼女のその動きで緊張を解いた。ダストだけは、どこか別の理由で警戒を薄めていたようであったが。

 ともあれ、何にせよ、そんな裸マントでは色々と問題があるだろう。一行はシェフィの姿を見て、一旦街に戻ろうと結論付けた。

 

「待て」

 

 そこに掛けられる短い声。皆一斉にその声の主の方へと振り向くと、そこには長髪の青年が一人。目つきは鋭く、あまりこちらに友好的には見えないが、ただ単に素の表情が怖いだけという可能性もあるので警戒しつつ、一行は彼の次の言葉を待った。

 

「街、というのは、向こうにあるアクセルとかいう場所のことか?」

「え、あ、うん。そうだけど」

 

 思わずリーンが答えてしまったので、じゃあ交渉よろしくとばかりにダストは彼女を前に押し出す。リーンは無言で彼に肘打ちを叩き込んだ。

 一方の青年、彼女のその返事で眉を顰める。その表情のまま、そこに行かせるわけにはいかんと言い放った。

 

「何でよ。こいつ裸のまんまでいいっていうの?」

 

 今度はキャル。お前余計なこと言うなって、とカズマが彼女を引っ張ったが、うるさいと払われた。相変わらず一度頭に血が上ると後先考えない少女である。

 

「そういう意味ではない。着替えならこちらに用意してある」

「あっそ。じゃあさっさと着替えさせて……ん? ――ちょっとシェフィ」

「んー?」

 

 コッコロに庇われる形になっていたシェフィをキャルが呼ぶ。なになに、と顔をひょこりと出した彼女は、キャルを見て、向こうを見ろという彼女の指に従ってその先を見た。

 

「あ、おにーたん!」

 

 ぱぁ、と笑顔を浮かべたシェフィは、そのままてててと青年のところまで走り寄ると勢いよく抱きつく。ちなみに格好は裸マントである。

 そして抱きついたまま、えへへ、と青年に体を擦り寄せた。裸マントで。

 

「……やべーよ、犯罪だよあの絵面」

「でも、ほら。こう、襲われていた妹を助けたお兄さん、っていう可能性もあるじゃないですか」

「あのねペコリーヌ。その場合襲ってた連中ってあたしらよ」

「あー……やばいですね☆」

「言ってる場合か!」

 

 そんな会話など露知らず。シェフィは青年に抱きついたまま、先程までの出来事を話している。といっても、向こうの人達が遊んでくれるということくらいしか言っていないが。

 それでも青年は口角を上げ、そうか良かったなと彼女を撫でる。えへへ、とシェフィは嬉しそうに撫でられていた。

 

「じゃあ、あそんでくる」

「待て」

「え?」

「……服を着ろ」

 

 はぁ、と小さくを溜息を吐いた青年を見て、カズマ達は思った。案外大丈夫そう、と。

 

 

 

 

 

 

「はーち、きゅー、じゅー」

 

 きちんと服を着たシェフィが、木にもたれかかりながら十数える。その間に、皆がバラバラと森を逃げた。とどのつまりが鬼ごっこである。遊ぶ、といってもこんな場所でやれることなど限られている。かくれんぼも候補に上がったが、シェフィを完全にフリーにしてしまうのは流石にどうかと見送られたのだ。

 というわけで。

 

「いくよー」

 

 見た目はともかく、中身はほぼ幼児の彼女相手に、いい年こいた男女が割と本気で逃げていた。それも当然であろう、なにせ彼女は少女の見た目をしているがつい先程までホワイトドラゴンだったのだ。否、正確には今もホワイトドラゴンではあるのだろうが、まあ見た目的な話である。

 ともあれ。キョロキョロと視線を動かしたシェフィは、にぱ、と笑うと突如滑るように移動をし始めた。走るよりも早いその滑走は、瞬く間に一人を間合いに捉え。

 

「つかまぇたー」

「がはっ――」

 

 テイラーがぶっ飛んだ。まだスピードに乗り切る前だったのが幸いしたのか、木に激突して呻くだけで済んでいる。が、あれを無事と呼んでいいのかは中々に悩むところであった。

 

「つぎは」

「あーこれは参った! 俺捕まっちゃった!」

 

 ぐりん、と視線を動かす。そのタイミングで、キースは全力でシェフィに近付いた。彼女の手を取って自分に触れさせる。いやー負けた負けた、と非常に白々しい口調でわざとらしい笑いを浮かべていた。

 

「つかまえた? しぇふぃ、かった?」

「そうそう。俺は捕まったから、狙うのは向こうの奴らにしとけよ」

「ちょ!? キース、あんた!」

「ふざっけんな! ぶっ殺すぞ!」

 

 向こう、とリーンやキャルを指差す。わかった、と無邪気に笑うシェフィを見送りながら、キースは安堵の息を零した。ついでにテイラーの介抱に向かう。

 

「あぁぁぁ! 待った待った待ったぁ! あんたスピード、もう少しスピード落としなさいよぉぉ!」

「きゃ♪ きゃ♪」

「笑ってんなぁ!」

 

 全力疾走するキャルに向かい、シェフィが猛スピードで滑走してくる。ターゲットから外れたリーンがごめんキャルと手を合わせているのが見え、こんちくしょうと彼女は叫んだ。

 森の木々をかき分けながら走るキャルと、スイスイ滑るように移動するシェフィ。どちらが有利かは明らかで、そしてその時が来るのがもう間もなくなのも明らかであった。そしてその結果キャルがどうなるのかも、何となく予想がつく。

 

「きゃーる、つーかまー」

「ね、狙うのならクウカを、クウカをお願いしま――あ」

 

 横からクウカが割り込んできた。飛び出すな、シェフィは急に止まれない。思い切り正面衝突をしたクウカは、そのまま錐揉みして木々を薙ぎ倒しながら地面に突き刺さった。ビクンビクンと痙攣しているのは衝撃のせいなのか、それとも性癖のせいなのか。別段分かりたくもないので、キャルはさっさと彼女を視界から消した。あれのおかげで首の皮一枚繋がったのだが、そこら辺は流す方向らしい。

 なにせ、所詮死期がほんの僅か伸びたに過ぎないのだから。

 

「きゃーる、きゃーる」

「やめろあたしの名前を呼びながら突っ込んでくんなぁ! ああもう、敵意がないのが厄介だわちくしょう!」

 

 全力で横っ飛び。ばばっと飛び込んできたシェフィを何とか避けると、キャルはそのまま再び全力疾走を開始した。割と体力的にもそろそろ限界である。誰か助けを、と視線を動かしたが、テイラーの治療ついでに観客になったらしいリーンを見付けて薄情者と吐き捨てた。

 

「ていうかペコリーヌはどこよ!? あいつなら受け止められるでしょ!?」

「呼びました?」

「うぉぁ!?」

 

 横合いから声。ビクリと反応したキャルは、いつのまにか並走しているペコリーヌを見付けて目を見開いた。あんたいつからそこにいたの、と彼女を指差した。

 

「さっきですよ。クウカちゃんを回収して、シェフィちゃんとお話したいからって言うんでコッコロちゃんを連れてきたんです」

「あ、そう。って、コロ助が何だって? お話?」

 

 思わず立ち止まって振り返る。そういえば追ってこないな、とシェフィの姿を探すと、どうやらコッコロが彼女に何かを教えているらしい光景を目にした。ふんふん、と頷いているところを見ると、シェフィも彼女の話をきちんと聞いているのは確からしい。

 なんぞや、と近付いていくと、どうやら先程の鬼ごっこのタックルについてらしかった。

 

「シェフィさま、鬼ごっこのつかまえた、は優しくタッチするのでございます」

「やさ、しく? たっち?」

「はい、痛くしないように。そーっと、たっち、でございます」

 

 そう言ってコッコロはシェフィに優しく、柔らかく触れる。そんな彼女の姿を見たシェフィは、じーっとそれを見て、こくりと頷いた。

 

「たっち、たっち。やーしく、たっち」

「ふふっ。はい、よく出来ました」

 

 ぺとぺとと彼女をタッチするシェフィを見て、思わず顔が綻ぶ。ゆっくりと頭を撫で、笑顔で、こちらにやって来た二人を見た。やさしくたっち、やってみましょうとシェフィに述べた。

 

「うん。やーしく、たっち!」

「わ、捕まっちゃいました」

 

 ててて、とペコリーヌまで移動したシェフィが、ぺち、と彼女に触れる。シェフィちゃん、強いですね~、と笑うペコリーヌにつられるように、シェフィも笑顔を浮かべている。それを見ていたコッコロも、慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべていた。

 

「しぇふぃ、つよい?」

「はい。やばいですね☆」

「やーいですね、やーいですね♪」

「ふふっ。シェフィさま、お強いですよ」

「つよい! しぇふぃ、つよい!」

 

 ふふん、と胸を張る。そんな光景を見ていたキャルはあーはいはい強い強いと流しながら、もうさっさと捕まって終わらせようと彼女の前に立った。シェフィはそんなキャルを見て、にぱ、と笑顔を浮かべ。

 

「しぇふぃ、つよい。つよい」

「……ん? え、ちょっと待って。あんたさっきのやさしくたっち忘れてないでしょうね!? 何で腰落とすわけ!? 何でそんなタックルの体勢なの!?」

「きゃる、つーかまーえたー」

「だからちょっと待げほぅ!」

「キャルちゃん!?」

「キャルさま!?」

 

 それはそれはいっそ見事なくらい、しっかりと『く』の字に折れ曲がったそうな。ついでに何だかキラキラとお見せできないものを吐瀉してしまったのは、本人の名誉のためになかったことにしておく。

 そんなことを思いながら《潜伏》スキルでひたすら逃げていたカズマは、結局誰かに語ったとか語っていないとか。

 

 

 

 

 

 

「それで」

「あん?」

 

 そんな騒動から少し離れた場所。シェフィの様子を見守っていた彼女の兄は、参加しなかったチンピラ冒険者をじろりと睨んだ。一体何の用だ、と。

 

「まあ、俺としても野郎と二人きりで会話すんなんざ本来はごめんだが。……少し、聞きたいことがある」

「……何だ?」

 

 彼の返答にダストは少しだけ言葉を詰まらせた。話すことなど無い、と打ち切られるのを予想していたからだ。それを感じ取ったのか、彼も小さく息を吐き、ほんの僅かに警戒を解いた素振りを見せた。

 

「お前達は碌でもない連中のようだが……少なくとも、悪人ではなさそうだ」

「へっ。そんな簡単に信じていいのか? 善人ぶって近付く魂胆かもしれねぇぞ?」

「その時は、その時だ。叩き潰すのみ」

 

 なんてことのないように述べたが、彼の発する威圧はそれがハッタリでも何でもないことを示している。それが分かったからこそ、ダストはガリガリと頭を掻くと冗談だ冗談と両手を上げた。

 

「まあそもそも、俺はあいつの同族に危害を加えないし、加えさせる気もないけどな」

「同族、か」

「……その反応、お前もそうなんだな?」

「ああ。……聞きたかったことはそれか?」

 

 彼の言葉にああそうだと頷く。そうしながら、なんでまたこんなところにと肩を落としながら呟いた。二人の様子からして、ダストの知っている彼女よりも年上だ。上位をとうに超えているであろうホワイトドラゴンが、人々のいる場所にわざわざ姿を現した理由が分からなかったのだ。

 

「同族を、探しに来た」

「っ!?」

 

 彼の言葉に反応したダストが、弾かれたようにそちらを見る。その反応を見た彼は、成程なと小さく頷いた。ベルゼルグ王国の反応の正体はこれか。そんなことを思いながら、彼は改めてダストを見る。

 

「未熟だ。いや、成らずに引いたか。どちらにせよ、悪手だ」

「うるせぇよ。何も知らねぇくせに勝手に決めんな」

 

 ダストが睨む。それが意外だったのか、彼は至極あっさりと自身の非を認めた。確かに知らずに語るのは間違っていたと続けた。

 そこまで述べて、だが、と彼はダストに視線を向けた。

 

「語る気は、無さそうだ」

「たりめぇだろ。何で初対面の野郎に話さなきゃならねぇんだ」

「当然だな」

 

 そう言って彼は小さく笑う。何だお前笑えるのかよ、と皮肉も交えた言葉を返したダストは、向こうで虹色の吐瀉物を生み出した猫耳少女を一瞥し、体を伸ばした。そろそろ帰るか、と呟いた。

 

「街に厄介になるんなら、あそこのお人好しが服着てるようなエルフの嬢ちゃんとその横の胸のでかいお姫様にでも頼みな」

「……街に行く気はない」

「そうか? あのガキンチョは多分こっちついてくるぜ? 無理に引き剥がしたら泣くんじゃねぇの?」

「……」

 

 苦い顔を浮かべる。そんな彼に向かって、ダストはまあ心配するなと言葉を返した。あの街は、ホワイトドラゴンより厄介なのがウジャウジャいるから、と続けた。

 それはむしろ問題なのでは。そう彼は思ったが、あまりにも普通にダストが述べたため、そういうものなのかとトチ狂ってしまった。

 

 


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