プリすば!   作:負け狐

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これボス戦でいいんだろうか……


その147

「今更なんだけど。何で俺達は鮭相手にガチバトルしてるんだ?」

「確かに今更ね。……いやほんと何でなのかしら」

 

 武器を構えたカズマとキャルのやる気が一気に萎える。そうはいっても実際高級食材はそれなりに高レベルであることが多いため、状況としてはそこまでおかしいものではない。ないのだが、それを許容できるかどうかはまた別である。これがせめてもうちょっと敵らしいビジュアルならまだマシだったのだが、目の前の相手はデカイだけで基本鮭である。

 

「ちょっと二人共! 呆けてると身ぐるみ剥がされるよ!」

 

 は、とクリスの言葉で慌てて我に返った二人は、斗鬼白頭の水泡から全力で離脱する。特にカズマは大分切実だ。ほぼほぼ女性だけ、それも美女美少女の集まりの中で全裸とか特殊な趣味に目覚めるか憤死するかの二択である。

 それでも自分とコッコロ以外は被害に遭わないかなぁ、と一瞬考えてしまうあたりが彼らしいと言えるかもしれない。

 

「とりあえず、あの泡が厄介だな」

「そうね。あれさえなければダクネスを盾にでもして突っ込んでいけば問題ないもの」

「もはや完全に人扱いされていない……ふ、まあ望むところだがな」

「望んじゃ駄目だよ……もう手遅れなのは知ってるけど」

 

 はぁ、と溜息を吐くクリスの横では、ペコリーヌがあははと笑っている。苦笑ですら無いのが彼女の言ったように手遅れを熟知している感を醸し出していて何とも言えない。

 ともあれ、現状カズマとキャルが述べたように斗鬼白頭、というより荒魔鬼鮭の問題点は装備解除だ。防具はともかく、武器が吹っ飛んでしまえば戦う手段が失われてしまう。そしてその隙をついて攻撃を行うというのが向こうの鉄板なのだろう。逆に言えば、装備さえ剥がされなければどうにかなる。

 

「あの反撃は大丈夫なのか?」

「びかびかびりびり、あぶないよ?」

 

 ひょいひょいと攻撃を躱しながらドラゴン兄妹が呑気にそんなことをのたまう。二人の言っているのは鮭の周囲の雨雲だろう。あれらが向こうの弱点になりそうな属性を防ぎ、あるいは吸収して跳ね返す役目を担っている。生半可な相手は装備解除などしなくても撃退できるからこそ、目の前の鮭は斗鬼白頭なのだ。

 

「ま、だからこそ跳ね返されない攻撃をするって決めたんでしょ。じゃあ、行くわよ!」

 

 杖の魔導書がバラバラと捲れる。そこから生み出された火球が、連打となって鮭へと叩き込まれた。バシャリと水面から跳ねた斗鬼白頭は、雨雲でカバーをしつつも被弾を無くすよう回避を行う。

 そこだ、とクリスとペコリーヌが一気に間合いを詰めた。相手は空中、その位置では流石に逃げ場はない。そう考え、二人は各々の得物を鮭へと。

 

「はぁ!?」

「えぇ?」

 

 雨雲が斗鬼白頭の尻尾に集まったと思ったら、そこから水流が生み出され、空中で水面が出来上がった。泳ぐように横移動、跳ねるように縦移動を行った鮭は、お返しだと言わんばかりに振り抜いた格好の二人へと水泡の雨を降らせる。

 このぉ、とペコリーヌはその状態のまま勢いを殺さず一回転。独楽のように回転しながら、自身に浴びせられる水泡を力任せにぶった切った。それでも数カ所は被弾し、スカートの後ろ側を覆っていた部分が流されていく。普段そこまでしっかりと見えないミニスカート部分が顕となり、肩口が無いことも踏まえて眩しいくらいに肌が露出していた。

 クリスはガッツリ命中した。

 

「いやぁぁぁぁぁ!」

 

 盗賊職の真骨頂とばかりに猛スピードで一行の視界から消えたクリスは、木々や茂みで大事な部分を見られないように隠しながら半べそ状態で服を探し始める。くりすもはだかー、と笑っているシェフィの無邪気な一言で彼女の心は見事に致命傷を負った。

 

「流石だな。凄い速さでフラグ回収した」

「そういうのいらないからぁぁぁ! パンツどこぉぉ!」

 

 木の上に引っかかっているそれを取るには道具を使うか木に登るかだが、彼女は全裸である。登り始めたら流石に気の毒だから録画切りましょうと提案する誰かさんと、流石にギャグで済まないものねと頷く誰かさんの呑気な会話など露知らず、クリスは必死で姿勢を出来るだけ低くしながら移動を行っていた。

 

「なんかここまで必死だとエロさより気の毒さの方が勝ってくるな」

 

 ううむ、と何かを考え込んだカズマは、視線をちらりとキャルに向けた。クリスは期待はずれだったので、今度は。そういうわけである。

 

「ぶっ殺すわよ」

「別にやれって言ってるわけじゃないだろ。もし食らった時はそれ相応のリアクションして欲しいってだけだ」

「あんた五回くらい死んだほうがいいんじゃない?」

 

 完全にゴミを見る目である。そのまま視線を前に戻すと、上下に水面を作った斗鬼白頭が三次元に泳ぎながら雨雲を周囲に設置し始めていた。戦力を減らしたことで、向こうは大分攻め気になったらしい。

 

「主さま」

「コッコロは駄目だって言ってるだろ」

「……わたくしは、大丈夫です」

「俺が大丈夫じゃないの!」

 

 世間体的に。そういう意味を込めて叫んだカズマのそれは、何だか色々足りてない感じだったので微妙に意味がねじ曲がった。まあ実際彼女に何かあったら彼が大丈夫ではないのはこの間のコロリン病の際に証明済みなのだが、今回のはちょっと違うわけで。

 尚それに挟まれて大分扱いが雑な少女が隣にいる。

 

「こいつごとあの鮭ぶっ殺せないかしら……」

「キャルちゃんが何だか物騒なこと言い出し始めましたね」

「いつものことのような気もしますが……」

 

 それよりも、とダクネスはペコリーヌを見る。最初の時とは違い、服を回収している暇がなかったので彼女は先程の露出マシマシ状態のままだ。戦う分には支障がないということだが、ダクネスとしては何とも言えない気分である。

 

「まあ、確かにちょっと恥ずかしいですけど」

「それならば服の回収を優先しませんと……」

「いえ、これ以上長引くのもマズいですし。何より……そんなことさせてくれなさそうです!」

 

 周囲の雨雲が真っ黒になる。中で光が瞬き、次いでゴロゴロと音もした。先程の反射とは別に、ある程度の準備をすれば自身でも雷雲化出来るらしい。勿論その雷が狙っているのは鮭の目の前にいる邪魔者達。

 

「ユースティアナ様!」

「ララティーナちゃんはカズマくん達を!」

 

 雷の雨が降り注ぐ。前傾姿勢で一気に駆けるペコリーヌに顔を顰めつつ、ダクネスは彼女の命令に従いカズマとキャルの盾となった。範囲外に逃れていたコッコロは、それが放たれる前に即座に呪文を詠唱、ペコリーヌとダクネス両名に支援を掛ける。

 

「く、うぅ。これは流石に、中々」

「ちょ、ちょっと大丈夫なの? 流石にあんたでも」

「この刺激、やみつきになりそうだ……っ」

「別の意味で大丈夫じゃねぇな」

 

 ダクネスという名の盾から視線を外すと、カズマとキャルは斗鬼白頭に突っ込んでいくペコリーヌを見た。降り注ぐ雷の嵐を剣で弾き、ステップで躱し。空中と地上を泳ぎ分けながらこちらに攻撃を加える鮭を、間合いに入れんと足を踏み出す。

 

「これ、俺の出番ないな」

 

 貧弱ステータスの冒険者が足を踏み入れていい領域じゃない気がする。そんなことを思いながら見学者にジョブチェンジしかけたカズマは、しかし横のキャルも同じように観客に転職を考えている素振りを見せていたことで目を細めた。いやお前は行けよ、と。

 

「無茶言わないで。あんたあたしの耐久値どんなものだと思ってんのよ。紙よ紙、ペラッペラなの。あれに近付いたら即死しちゃうわ」

「シェフィのタックルで鍛えられてんじゃないのか」

「あれで鍛えられたら苦労しないっての」

 

 ドラゴンのタックルを毎回食らっているというのは割とそれなりなんじゃないだろうか。そうは思ったが、そこツッコミ入れていたらキリが無さそうだったので、カズマははいはいと流すことにした。

 

 

 

 

 

 

 それはそれとして。ペコリーヌも周囲の雷が邪魔をして中々鮭に攻撃が当てられない。《プリンセスストライク》で雷雲ごと薙ぎ払うという手段は取ったら最後、作戦失敗と同義である。

 

「とはいっても、本当の本当に危ない時はしょうがないですね……」

 

 飛来した雷を薙ぎ払う。弾けたそれが露出している肌に当たってビリリと痺れたが、この程度ならば別に大したことはない。足に力を込め、跳躍すると空中の水面に向かって剣を振り上げた。

 水面が割れる。が、その剣閃から退避していた斗鬼白頭により、瞬く間に修復されてしまった。

 

「う~ん。これは中々にやばいですね」

 

 よ、と着地したペコリーヌは縦横無尽に泳ぐ鮭を見てぼやく。せめてもう少し手数があればと思わないでもないが、雷雲を処理しない限りまともに動けるのは彼女だけだ。そして処理しようにもペコリーヌでは難しい。

 

「……よし。カズマく~ん!」

 

 ほんの僅か迷った。だが、すぐさま顔を上げると、ペコリーヌは振り返る。ダクネスで雷を防ぎながらちょっとずつ前進しているカズマとキャルを視界に入れ、やばいですねと呟いた。

 

「どうしたペコリーヌ」

「何かいいアイデアありませんか?」

「ふわっとし過ぎだろ。まあ、雲さえどうにか出来ればいいんだよな。流石にダクネスも同じ刺激で飽きてきたみたいだし」

「変態が極まってるわね」

「人聞きの悪い事を言うな! そもそも、私もそれなりにダメージを負っているんだぞ。コッコロの支援が的確だからこうして立っているのだ」

 

 コッコロがドMの介護に完全に適応してしまうのは非常にマズいので、そういうわけだからこちらとしても早いほうがいい。ペコリーヌに言われるまでもなく、カズマはカズマで自身の思考を巡らせていた。先程も言ったように今の自分では戦線に紛れ込めない。なので、あくまで動いてもらうのは他の面々だ。

 

「あ、待てよ。風ならどうだ?」

「風?」

「雲が取り囲んでるのが問題なんだから、それを吹き飛ばせば」

 

 風の強い日に物凄い勢いで流れていく雲を思い出す。あれと同じ状況に出来れば、この場に雷雲が留まることを防げるはずだ。そう結論付けたカズマは、まずキャルを見て、いや違うと振り返った。コッコロ、と声を掛けた。

 

「はい。主さまのご命令とあれば、わたくし」

「いや違う違う。コッコロはそこで暇してる二人に支援掛けて欲しいんだ」

 

 紅魔の里での戦いと同じように。そう思ったのか、表情を引き締め前に出ようとしたコッコロをカズマが止める。それにほんの少しだけ不満そうな顔をした彼女であったが、先程の彼の言葉を思い出し、分かりましたと小さく微笑んだ。

 

「んでそこのドラゴン二人! はばたきで雲吹き飛ばしてくれ!」

「構わんが、お前達は大丈夫か?」

「みんなぴゅーっとしちゃうよ?」

「ダクネスなら耐えるだろ」

「なっ、私はそこまで体重が重くはないぞ!」

「いきなり乙女出してんじゃねーよ。壁は壁らしくドシンと構えてろ」

「言ってることは最低だけどまあ今回は同意ね。頼んだわよ、ダクネス」

「うぅう……」

 

 先程とは違い、若干涙目になりながらダクネスが二人を守るように仁王立ちする。これでいいんだろう、とヤケクソになって叫んだ彼女に向かい、二人は頼んだ壁、と容赦ない。

 

「主さま、キャルさま……流石に、それは」

「いやまあ確かに若干言い過ぎかもしれんが、いやほら、今状況が状況だし!」

「そうそう。後で謝るから、ね?」

「絶対謝らないんだろうなぁ……」

 

 ようやくべっちょべちょの服を回収し終えたクリスがコッコロよりも後ろでぼやいていたが、話はもう進んでいたので向こうにそれが届くことはなかった。

 では、とコッコロがゼーンとシェフィに支援を掛ける。羽ばたきだけで吹き飛ばすとなると、ドラゴンでもある程度の労力がいるだろうというカズマなりの試算であり、当の本人達もあったほうがありがたいので遠慮なくそれを受け止めた。

 

「シェフィ、大丈夫か?」

「がんばる~」

 

 何とも呑気な声と共に顕現するホワイトドラゴンが二体。大きく歴戦を感じさせるドラゴンは、地面にどしりと足をつけると、思い切りその翼を広げた。その隣の少し若く美しいドラゴンも、それに合わせるように無邪気に翼を広げていく。

 瞬間、周囲の木々がまとめて吹き飛ぶ勢いで風が吹き荒れた。耐えきれない葉はあっという間に千切れ飛び、地面の落ち葉はそれに巻き込まれ周囲を覆い隠すほどの吹雪さながらとなる。

 

「おわぁぁぁぁ!」

「ヤッヴァイわよぉぉぉぉ!」

「私は重くない……重くないもん……」

 

 ダクネスの後ろで必死に耐える。ただそこにいるだけでは無理なので、恥も外聞もなくダクネスにしがみついていた。

 そうして吹き荒れたその羽ばたきは、カズマの予想通り斗鬼白頭が周囲に配置した雷雲をまとめて吹き飛ばすことに成功し。同時に空中の水面も風により流された。突如として陸にあげられた鮭は、ビチビチと跳ねながら残っている水面に向かって移動を行う。普通の魚ならばチャンスなのだが、いかんせんこの鮭は巨体である。ビッチンビッチンしているだけでも大分危ない。潰されたらぺちゃんこだ。

 

「まあ、でもこれで攻撃のチャンスだ」

「よし、行くわよペコリー……ヌ?」

 

 カズマとキャルが武器を構え直したタイミングで、あ、と気が付いた。そういえばペコリーヌは吹き飛ばされなかったんだろうか。何か大丈夫な気がする、と流していたが、どうにもさっきから反応がないのだ。

 

「ふひぃ~。ちょっとやばかったですね」

 

 大丈夫だったらしい。風の勢いで大分ボロボロになってはいるが、吹き飛ばずに耐えきったようだ。髪に葉っぱが付きまくっている。

 

「よし、じゃあ改めて」

「はいっ。行きますよ!」

 

 ぐ、と足に力を込める。一足飛びで鮭に近付いたペコリーヌは、水面に向かうより水面を作ったほうが早いと判断した斗鬼白頭へと剣を叩き込む。体をしならせた尻尾とぶつかり、甲高い音を立てた。

 

「今すげぇ音したけど、あれ食えるのか?」

「荒魔鬼鮭は食べられるし、いけないことはないでしょ」

 

 そう言いながら弓と魔法で牽制を行う。これらがトドメにはならないのは重々承知。ペコリーヌが活け締めするチャンスを作り出せればそれでいいのだ。

 そこだ、と彼女が鮭の頭に向かって剣を振るう。手早く仕留めて、きちんと下処理を済ませるまでが今回の勝負だ。そんなことを思っていた。

 だからだろう。そのほんの僅かな油断で、向こうの反撃に気付くのが遅れた。いつの間にか水面に仕込んでいた、装備解除の水泡の対処が一瞬遅れた。とはいえ、ペコリーヌの装備で戦闘に重要な部分はほぼ王家の装備だ。それらは吹き飛ばないので、最悪ティアラと剣と細かいパーツ以外全裸になってもトドメを刺す分には問題ない。

 だが、彼女は攻撃を止めてまでそれを躱した。どうしても吹き飛ばしたくないものがあるとばかりに、左手を庇うように無理矢理体を捻って、体勢が崩れるのも気にせず。

 ゴロゴロと地面を転がる。素早く立ち上がりもう一度、と前を向いたその時には、体勢を立て直した斗鬼白頭がもう一度生み出した雷雲をペコリーヌに向けていて。

 

「し、まっ……」

『こんにゃろぉぉぉぉ!』

 

 何かが突っ込んできた。突っ込んできた一つは杖を思い切り振りかぶりながら呪文を唱える。鮭が吠えた。邪魔だ、と水泡で装備品もろとも押し流そうとしたが、あろうことかその魔法使いは装備品が吹き飛んでも構わず、杖などいらんとばかりに素手で呪文を完成させるとほぼゼロ距離で火球をぶっ放した。雷雲と一緒に吹き飛び、若干香ばしい匂いが上がる。

 衝撃で悶えながらも、鮭は大きく強靭な尻尾で魔法使いを弾き飛ばそうとする。装備品もない状態で喰らえば、間違いなく致命傷だ。

 

「《ワイヤートルネード》ぉ!」

 

 尻尾にワイヤーが絡みつく。ギチギチと音を立てながらも、全裸のキャルに当たる直前で尻尾は動きを止めた。ギョロリと魚眼を動かすと、突っ込んできた二人とは別口で、倒れている騎士の少女に寄り添うようにべっちゃべちゃの服を着た盗賊の少女とエルフの聖職者、落ち込んでいるのか興奮しているのか分からない怪しい聖騎士の姿が。

 

「カズマ君!」

 

 さっきの鬱憤を晴らすかのごとくスキルをぶっ放したクリスが、突っ込んでいたもう一人の名前を呼ぶ。その声に、斗鬼白頭も反応した。即座に視線をもうひとりに戻すと、迎撃するため水魔法を放つ。雨雲はまだチャージに時間がかかるが、見る限り魔法使いではない。ならば、装備品を吹き飛ばしてしまえば。

 そう考えた鮭は水泡でカズマの装備を流すが、彼も先程のキャルと同じように構わず突っ込んできた。それで何が出来る、と斗鬼白頭はチャージの終わった雨雲を。

 

「ダブル、ドレインタァァァァッチ!」

 

 雨雲が消えた。同時に、鮭の中の魔力が急激に失われていく。水も生み出せず、自分が泳ぐ水面も消え去り、そして最終的にはビチビチと跳ねる体力すら。

 そうして光の失われていく鮭の視界に映ったのは、全裸でぶらぶらさせながら仁王立ちする一人の少年の姿であった。無念極まりない。

 

 

 

 

 

 

 動かなくなった斗鬼白頭を見て、カズマはふう、と息を吐いた。全裸で。

 そしてそんな彼の隣に立ったキャルも、やったわね、と笑みを見せた。全裸で。

 そのまま、二人揃って満足気にパァン、とハイタッチをした。全裸で。

 

「あ、ははは……。あの、二人共、喜んでるとこ悪いんだけど」

 

 そこに声。クリスが非常に申し訳無さそうに、それでかつカズマを視界に入れないようにしながら、とりあえず隠した方がいいんじゃないかな、と述べた。

 隠す? と視線を下げる。まっぱだった。

 

「いぃぃぃやぁぁぁぁ!」

 

 即座にキャルはしゃがみ込んだ。おいどうしたキャル、とこちらを見てくるカズマをぶん殴ろうとしたが、そうすると見えるので動けなかった。というか改めて向こうに視線を向けると見たくないモノが見えてしまう。

 

「キャルさま。吹き飛んだ服でございます」

「うぅぅぅ……ありがとう、コロ助ぇ……」

 

 べっちょべちょの服を受け取る。が、ここでパンツ穿いたらカズマに丸見えなのでしゃがんだままずるずると茂みに移動を開始した。

 その途中。

 

「それにしても、やっぱりそのチョーカーは外れないんだね。……流石、先輩の加護が詰まってるだけはあるなぁ」

 

 クリスのそんな呟きが聞こえてキャルの目が更に死ぬ。ついでにどこぞで当たり前でしょとアクアがドヤ顔をしていたがまあ蛇足である。

 そして残ったカズマだが。

 

「……死にたい」

「主さま!?」

「俺、もうお婿に行けない……」

 

 同じくコッコロからべっちゃべちゃの服を手渡されたカズマは、世の無常を嘆き、新たな性癖が目覚めることもなかったことで絶望の淵にあった。性癖が目覚めていればまだ楽だったのに、と現実逃避をし始めた。

 まあ悔やんでも仕方がない。ここにいる面々にカズマのカズマさんをフルオープンしてしまったことは、とりあえず歴史の奥底にでも沈めておこう。どこか遠い目をしながら、彼もキャルと同じようにどこぞの茂みで着替えようと足を。

 

「か、カズマ……!? お前、それは!」

「ん?」

 

 そんな折、何かに気付いたダクネスが叫んだ。彼を指差しながら、先程とは違い真面目に顔色を悪くしながら。突如のそれに、彼は一体どうしたんだと彼女に問い掛ける。

 

「何故、お前がそんなものをぶら下げている!」

「え、何故って。そりゃ男なんだから、これはぶら下げているに決まってんだろ」

「そっちではない! お前の首に掛かっている、その指輪だ!」

 

 指輪、とカズマは視線を動かす。そこにはいつぞやにペコリーヌからもらった指輪をペンダントにしたものが、装備解除にも負けずに残っていた。流石は王家由来の指輪だな、と彼は変なところに感心してしまう。

 ともあれ、これのことを言っているのならばとカズマは説明しようとした。ペコリーヌに指輪を渡して、その代わりに貰ったものだと。何かこれだと婚約者の指輪交換みたいだな、とか思いながら口を開き。

 

「それは、王族が子供の頃から肌身離さず身に付け、婚約者が決まった時にのみ外し、伴侶となるものに渡すものだ。……なのに、何故お前がそれを。い、いや、それ以前に、それは一体誰の……っ!?」

 

 閉じた。え、それってじゃあ、と思わず視線をペコリーヌに向けてしまう。彼女は先程からこちらを見ていない。視線を外し、頑なにこちらを見ようとしていないのだ。それは、つまり。

 

「カズマ、お前、まさか……」

 

 勿論ペコリーヌはカズマが全裸なので見れないだけである。早く服を着てくれませんかね、と恥ずかしそうに呟いていたので、ぶっちゃけ向こうの会話もそこまで聞いていない。

 ただ問題は、ダクネスのそれがそこまで勘違いではないことであった。

 

 




指輪バレのシチュエーションとしてはかなり最低の部類。

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