プリすば!   作:負け狐

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『希望の迷宮と集いし冒険者たち』で多分一番有名(負け狐調べ)な例のアレ


その154

 件の領域は街であるらしい。らしい、というのは仕入れた情報だからであり、何よりそこが特定の場所ではないからだ。現れては消える街、いうなればそういう存在。ぶっちゃけ移動するダンジョンだ。

 

「まあ、そんなわけでドラゴンの兄妹さんもなかなか見付けられなかったわけなんですなこれが」

「あー……まあ、情報収集とか苦手そうだもんな」

 

 半ば移動手段と化しているゼーンの背中から彼の顔を見る。特に何かリアクションをしてはいなかったが、何となく図星を突かれたような空気は察せられた。

 

「おにーたん、どらごんなかまさがすのもたいへんしてたよ」

「シェフィ」

 

 変身せずにゼーンの背中に乗っていたシェフィが補足する。ほんとだもん、と兄の反応に反論していた。事実そうなのだろう、彼はそれ以上何も言えない。

 

「まあ、その辺はどうでもいいわ。そんなわけで、ワタシたちが持っていた情報から、それらしいものを選んで提供してあげたのよ。感謝することね」

「タダで戦力が追加出来るってほくそ笑んでたのはどこのどいつだったかね?」

 

 フフ、と笑う着物姿の女性――ルカの言葉に露出の多い盗賊の女性――メリッサが不機嫌そうに鼻を鳴らす。そしてそれを笑いながら眺める、魔法少女を自称する割には露出過多な少女ナナカ。改めて見ても統一感はまるでない。ミツキの関係者というくくりならばエリコもここに入るだろうが、統一感のなさが追加されるだけである。

 唯一、共通点と言えるものがあるのならば、間違いなく豊満であると断言できるその胸部の。

 

「カズマ」

「な、なんだよ」

「鼻の下伸びてる」

「の、のびてねーし!?」

「弟くん、大丈夫? おっぱい揉む?」

 

 キャルの視線が絶対零度になる。まあ確かにここまでおっぱいが並んでいたらちっぱい猫耳少女は肩身が狭いだろう。普通乳仲間になるであろうリノが置いてきぼり食らっているのも拍車をかける。

 ちなみにカズマはシズルのその発言に是非と答えかけ、コッコロがこちらを見ているのを確認すると必死で飲み込んだ。そうだよな、お姉ちゃんに元気付けてもらうならこんな人のいる場所じゃ駄目だよな。うんうんと一人言い訳を心中でしつつ、ジト目を通り越しているキャルを見なかったことにした。

 

「ところで、何故貴女がそのような反応を?」

「え? 彼女の横で別の女にデレデレしてる奴を見た反応としては普通じゃない?」

 

 そんな様子を眺めていたエリコが問う。それになんてことないように答えたキャルであったが、問い掛けた方が訝しげな表情に変わるのを見て首を傾げた。

 おかしいですね、とエリコは呟く。そうしながら、視線をキャルからペコリーヌに向けた。

 

「彼の恋人は、貴女では?」

「な、何だかそうやってはっきり言われると照れますね」

 

 たはは、と頬を掻くペコリーヌを見て、彼女はもう一度視線をキャルに戻す。当の本人がこんな感じだが、お前は何なんだ。そんな意味合いが視線に込められている気がした。

 

「こいつが怒らないからあたしが何か言わないとこの馬鹿が調子乗るのよ」

「姑でしたか」

「誰が姑だ!」

 

 そもそも姑ってのは嫁をいびる方だから逆だろう。謎の偏見に満ちた反論をしながら、キャルはグリンと顔を動かす。ペコリーヌを睨み、お前が言えとばかりにカズマを指さした。

 

「え? でもカズマくんがちょっぴりエッチなのは今に始まったことじゃないですし」

「受け入れんな! あんたこいつの彼女でしょうが!」

「だそうだよ、弟くん」

「あ、はい。反省します」

 

 叫ぶキャルの横で微笑みながらシズルが述べる。姉に諭されるとカズマとしては弱いのだ。最近はママがその辺寛容になっているので余計に、である。

 とはいえ、と彼は思う。この三人の格好が格好だ。エリコは以前も見たし《壊し屋(デストロイヤー)》の異名もあってまだ耐えられる。だが、谷間は丸見えだわへそ出しだわホットパンツだわのメリッサや、同じく谷間見せてるわハイレグだわで魔法使いっぽい帽子と仮面にも近い眼鏡が辛うじて魔法少女を主張しているナナカなど、若い少年が目を向けない理由がない。着崩した着物にサラシのルカも大概だが。

 そんなこんなで別段緊張などすることはなく。情報によるとそろそろだというメリッサとナナカの言葉通り、一行の視界になにやら建物が立ち並ぶ空間が広がっていく。

 成程、これは確かに街だ。そんなことを思いながら入り口へと辿り着き、そこで一度立ち止まる。ゼーンも人型になり、眼前に広がる不思議な光景を見詰めていた。

 

「確かにここは、以前見たことがある」

「おはながきれーだった」

 

 満開の桃色の花が彼女の言葉を肯定するかのようにさらさらと揺れている。そして、それに囲まれた建物はアクセルや王都、紅魔の里やアルカンレティアとも違う形で。

 

「何だか、昔の中国みたいな。いや、どっちかっていうと仙人の住んでる桃源郷に近いか」

「ん? お前さん、知ってるのかい?」

 

 カズマの呟きにルカが反応する。何が、と振り向くと、彼女はこの場所についてさと口角を上げた。

 

「アタシたちはこの手の情報や噂を手に入れては向かう口でね。この場所もその一つだったんだが」

「おやおや、君は中々話せる口だったり? 同士キタコレ!」

「別にいいけれど。報酬は山分けしないわよ」

 

 彼女達曰く。ミツキの診療所の居候であるこの三人は、理由こそ全員異なるものの、伝承に語られる幻の都を探すために情報を集め世界を渡り歩いているらしい。そして、その候補の一つとされる場所の名前がここ、桃源郷。

 

「……え、待った。じゃあ何か? この呪いって仙人由来なのか!?」

「さてね。そこはアタシたちの専門外さ」

 

 マジか、とカズマの顔色が変わる。ここが本当に桃源郷だとして。カズマの知っているそれと近しいあるいは同じものだとして。

 仙人って大分ヤバい相手なのではなかろうか。

 

「ここで考えていても仕方ありません。主さま、まずは進むことが先決かと」

 

 そんな彼に寄り添うようにコッコロが述べる。そうですよ、とペコリーヌもそこに並び、ほれ行くわよ、とキャルがそんなカズマの背中を叩いた。

 では気を取り直して。そんな空気になったところに待ったがかかる。見る限り、分類上はダンジョンとはいえ広さも見た目も街、全員で行動していては時間が掛かり過ぎるだろう。そう述べたエリコは、手分けして探索することを提案した。

 

「それに、シェフィさんの呪いの原因がここであるのならば、あまり中に入らせない方がいいでしょう」

「……そうだな」

 

 エリコの言葉にゼーンが同意し、自分とシェフィはここで待つことを選択すると述べた。元より面倒である上、ミツキの代理として来ているエリコも彼女の診察を名目にそれに続く。

 

「ワタシは元々ここのお宝が目的だもの。調査は二の次、原因排除の手助けはしてあげるけれど、他は期待しないでちょうだい」

 

 それを皮切りに、メリッサもひらひらと手を振りながら一人で街へと向かっていく。まったく、と溜息を吐いたルカが、こっちはこっちでやっておくよと彼らに苦笑を返した。

 

「ではでは、吉報をお待ちあれー」

 

 ナナカのテンション高い挨拶とともに、三人が揃って去っていった。いいのかあれ、と思いはしたが、紅魔の里の診療所面子、ミツキ、アンナ、そしてエリコを思うと何だか大丈夫な気もしてくる。

 

「俺たちも行くか」

「そうですね」

「参りましょう」

「はいはい」

「お姉ちゃんに任せて」

 

 当然のようにシズルはこっちについてきたが、まあそうだろうと誰も異を唱えなかった。

 

 

 

 

 

 

 満開の桃の花に囲まれた街を一行は歩く。ダンジョンならば当然のように出てくるはずの魔物は見当たらず、それどころか、遠くには人影もちらほらと。

 あれが仙人だろうか。そんなことをカズマは思う。そして同時に、仙人だとしたら自分の、正確にはシェフィの呪いについて何か知っているかもしれないと考えた。

 

「ん~……平和な街にしか見えませんねぇ」

 

 キョロキョロと辺りを見渡していたペコリーヌがそう呟く。そうだよなぁ、とカズマは同意し、先程思っていた意見をついでに口にした。

 成程、とコッコロが頷く。そして、そういうことでしたらと視線を向こうの人影へと移動させた。

 

「わたくしが、聞いてまいります」

「いや、一人で行くのは危険じゃないか? いやまあ、確かに敵感知も反応していないけど」

「じゃあ、わたしがコッコロちゃんについていきますよ」

 

 二人なら何とかなるだろう、とペコリーヌが述べる。そこまでするなら全員で行けばよくないかと思わないでもなかったが、そういうわけなのでそっちは別の人に聞いてくださいと彼女に言われれば、それもありかと頷いてしまうわけで。

 

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

「はい。ついでに向こうの小川で釣りをしている人から美味しいお魚の情報も貰ってきますね」

「そっちが目的か!」

 

 行ってきます、とコッコロを連れて魚釣りをしている人影の方へ駆けていくペコリーヌを見ながら、ああもうとキャルは溜息を吐く。こんな訳の分からない場所でもブレない腹ペコ具合に、感心すればいいのか呆れればいいのか。

 まあいい、と彼女は気を取り直す。そういうことならば、こっちはこっちで真面目に情報収集するだけだ。そう二人に告げると、シズルはともかくカズマも渋ることなく首を縦に振った。

 

「どうしたのよカズマ。変なものでも食べた?」

「俺の息子の一大事にふざけてられるか」

「駄目だよ弟くん、そういう時こそ落ち着かないと」

 

 そう言ってシズルがカズマを抱きしめよしよしと撫でる。当然のことだがそのバストは豊満なので、彼はおっぱいに埋もれるわけなのだが。残念ながら今のカズマはカズマさんが子供である。幼いそれはまだ起き上がるほどの経験を積んでいないのだ。

 

「…………」

「ちょ!? カズマ、何で泣いてるの!?」

「俺の、俺のぉ……何でだよ」

「死ねば?」

 

 即座に状況を理解したキャルが短く告げる。そしてそんなカズマを見たシズルは、聖母のような笑みを浮かべながら、彼を抱きしめ撫で続ける。大きくしたかったら、いつでも言ってね。彼女はそう囁いた。間違いなくいかがわしいことへの誘いにしか聞こえない。

 姉の抱擁を終えたカズマは、目覚めない自分の息子を一瞥し、必ず元に戻してやるからなと決意を固めた。キャルのやる気ゲージがモリモリと下がっていく。

 

「もういっそそのままのほうが平和なんじゃない?」

「何言ってんだお前。むしろこのままだと一大事だろ」

「あーはいはいそうね」

 

 真面目に返すのがバカらしくなったのか、キャルも段々と返事が適当になる。最初こそ本人が深刻だったので心配していたが、この様子だともう心配するだけ無駄だろうと結論付けた。

 そんなことを言いながらも、三人は情報収集のために歩いている人影に近付く。遠目ではおぼろげであったそれは、はっきりと視認できるようになったことでその正体が何なのか判明し。

 

「え?」

「何だこれ? 人形?」

「木の上の小鳥も、作り物だね」

 

 人影が人でなかったことに驚愕した。どういうことだ、と周囲を見渡すと、流れていると思っていた小川はガラスで、人工物でないと思われるのは満開の桃の花くらい。そう思って花びらを手にとって見ると、これも造花であった。空気以外は全て作り物らしい。

 キャルの表情が変わる。ここは街なんかじゃない。最初から分かっていたことだが、やはりダンジョンの一部なのだ。

 

「でも、この人形。襲ってくる様子はないみたいだね」

 

 一定の思考ルーチンに沿って動いているのか、こちらに反応すらしない人形を見ながらシズルが呟く。本当だ、と試しにカズマが軽く突いてみたが、やはり無反応であった。

 ダンジョンのモンスターとかではなく、ただの設置物扱いなのだろうか。そんなことを考えはしたが、とりあえずその答えは後回しだ。まず重要なことは、今この場にいないペコリーヌとコッコロに合流すること。

 

「戻るぞ」

 

 カズマの言葉に二人は頷く。即座に踵を返し、先程の場所へと戻ろうとした三人は、既に情報収集を終えたのか、こちらへと向かってくる二人を見付けた。特に戦闘を行った形跡も見られないので、恐らく自分達と同じ経験をしたのだろう。

 

「コッコロ、ペコリーヌ!」

「主さま、キャルさま、シズルさま」

「カズマくん、キャルちゃん、シズルさん」

 

 彼の声を聞き、二人もカズマを呼ぶ。そうしながら、どうしましたかと二人揃って問い掛けた。いやどうしたもこうしたも、とキャルが顔を顰めながら彼女達へと口を開く。ここ明らかにおかしいでしょうに。頭を掻きながら、彼女はそう続けた。

 

「そうですか?」

「そうですか、って……ちょっとあんた、ちゃんと調べたんでしょうね」

「はい。何も聞けませんでした」

「そりゃそうでしょうよ……」

 

 ペコリーヌのどこかズレたような答えに、キャルはやれやれと溜息を吐く。どことなくテンションが低めな気もするが、どうせ魚が作り物だったことで落ち込んでいるのだろうと目を細めた。

 

「主さま、先へ進みましょう」

「へ? ああ、そうだな。この様子じゃ、そうするしかないよな」

 

 コッコロに促され、カズマも視線を街の中心部へと向ける。人や自然がほぼ作り物ならば、そうでないものを探すしかない。そして恐らく、それこそが呪いの元凶だ。

 

「……ねえ、コッコロちゃん、ペコリーヌちゃん。本当に大丈夫?」

 

 じゃあ行くか、と歩みを進めようとしたそのタイミングで、シズルが二人に声を掛けた。いきなり何言ってんだとキャルは彼女の方を向き、そしてふざけている様子がないのを確認してコッコロとペコリーヌへと向き直る。カズマも同じく、シズルの言葉を聞いて二人に目を向けていた。

 

「はい、わたくしは大丈夫でございます」

「そうですよ。問題ないです」

 

 そして二人はシズルの問い掛けにそう答える。別段無理をしている様子はない。ならば本当に大丈夫なのだろう。そうは思うのだが、しかし。

 何故そんな質問をしたのか。それがカズマとキャルにはどうにも引っ掛かった。

 

「……ねえ、カズマ」

「なんだよ」

「どう思う? コロ助とペコリーヌ」

「どう思うって……何かテンション低いかなってくらいか」

「……そうよね。でも、んー」

 

 少し様子を見よう。キャルの言葉に、カズマも、ついでに聞いていたシズルも小さく頷いた。

 

 

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