プリすば!   作:負け狐

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ペコ人形(ノーパン)のスカートの下を見ちゃうカズマというネタは流石にアレだったのでボツにしました。


その156

「うぅ……」

「ぺ、ペコリーヌさま……」

 

 誰がどう見てもしょんぼりしているペコリーヌを見て、コッコロはどう声を掛けたものかと悩む。理由は分かっている、分かりきっているのだが。

 ならばどうすれば慰められるかと言えば。これがさっぱりなのである。

 

「お魚……木の実……」

「……全て、作り物でございますね……」

 

 そういうわけだからだ。食材、と言っていいのか定かではないが、まあとりあえずそれらは全て本物ではなかった。それも、作り物、人形の類である。間違いなく普通には食べられない。

 

「……焼けばいけませんか?」

「流石にそれは無理ではないかと」

 

 ピチピチと跳ねる魚の人形を掴みながら中々沸いたことを言い出すペコリーヌに、流石のコッコロもそう返す。そうですよね、とは言ったものの、彼女はそのまま魚から視線を外さない。

 まさか。そうコッコロが判断するよりも早く、ペコリーヌは魚の人形に串をぶっ刺した。ゴリゴリと魚の調理とはいえない音が出ている時点で既に結論が出ている感が半端ない。

 が、彼女は構わず続けた。ペコリーヌさま!? とコッコロが驚愕するのをよそに、そのまま焚き火を手早く作ると串に刺した魚の人形を焼き始める。香ばしい匂いが発生するものの、分類は食材としてではないのは明らかであった。

 

「ペコリーヌさま! いけません! ペッ、してくださいませ!」

「いいえ、出来ません。食材はきちんと食べるのがわたしの流儀です」

「それは食材ではありません、人形でございます!」

「……やっぱり人形ですね。焼き魚っぽい香ばしさはあるものの、ゴリゴリした食感はイマイチですし、味も染み込んでません」

「食レポされている場合ですか!?」

 

 キャルがいないから、というわけではないが、この場にいるのがペコリーヌとコッコロだけな以上、必然的にこういう時のツッコミはコッコロが担当することになる。そのまま大凡食事をしているとは思えない咀嚼音を響かせたあと、ペコリーヌは小さく溜息を吐いた。

 

「ついでですし、木の実もいっちゃいますか」

「ペコリーヌさま!?」

 

 どう考えても同じ結果にしかならない。割と必死でコッコロが止めるので、流石の彼女も冷静になった。ごめんなさい、とコッコロに謝った。

 そうして改めて周囲を見渡した二人は、はてさてどうしたものかと首を捻った。なにせ目に映るものは何から何まで全て作り物なのだ。魚しかり、木の実しかり。

 勿論、街をゆく人々も、だ。

 

「情報収集、出来ませんね」

「はい。ですが、これはこれで収穫ではないでしょうか」

 

 やはりここは街ではなくれっきとしたダンジョンなのだ。そして、この風景はそういうふうに見せかけるための仕掛けであり、罠。そう判断出来るだろうとコッコロが述べると、確かにそうですねとペコリーヌも同意する。

 

「でも、そうなるとこの状況はちょっとやばいですね」

「意図せず向こうの策にはまり、主さまたちと分断されてしまった。そう考えていいかと」

「さっきの道を戻って、カズマくんたちと合流できるといいんですけど」

 

 踵を返す。逸れた道から、先程の大通りへと戻るために足を動かした。が、広いその場所に辿り着いても、お目当ての人物は見当たらない。同じように聞き込みに向かってしまったのならば同じ結論に達したであろうからここに戻ってくるだろう。そう思いその場に留まっていたが、一向に戻ってくる気配もない。

 

「おかしいですね」

「主さまたちの身に、何かが……!?」

「でも、向こうはキャルちゃんもシズルさんもいますし、カズマくんだってこういう時の機転は凄いですからね。そうそうやられないと思います」

 

 だから、無事であることは前提として、戻ってこれない、あるいは合流できない状況に陥っている可能性はあるかもしれない。そう結論付け、こちらも動いたほうがいいかもしれないと彼女はコッコロに述べた。コッコロもペコリーヌのその意見に賛成し、では向かう先はと大通りの先を見やる。

 

「はい。中心部に行けば、きっとみんないるはずです」

「参りましょう、ペコリーヌさま」

 

 ペコリーヌは知らない。丁度そのころカズマが自分の偽者人形におっぱい押し付けられキスまでされた挙げ句に愛を囁かれたことでデレデレしていることを。呪いが解けたら続きをしようとか偽物人形相手に抜かしてキャルにシバかれていることを。

 

 

 

 

 

 

 そうして中心部へと向かった二人には、先程とはうってかわって大量の障害が湧いて出ていた。人形の住人とはまた違う、モンスターがそこかしこから襲い掛かってきたのだ。

 

「合流させない気ですね」

 

 モンスターを真っ二つにしながらペコリーヌがぼやく。あからさまに苦い顔を浮かべたコッコロも、彼女の背中を守るように眼前のモンスターを風の刃でズタズタにした。そうしながら、その死骸、否、残骸を見下ろし小さく息を吐く。

 

「これらも、人形でございますね……」

「ん~。何から何まで作り物なんでしょうか」

 

 むむむ、と唸りながら別の魔物人形を袈裟斬りにした。見た目も強さも本物と相違ないように感じられるが、しかし所詮その程度だ。特別強力な魔物ではなく、厄介なのは数の多さだけ。

 そして、数が多いだけならばコッコロの支援込みのベルゼルグ王家第一王女が不利になることはまずありえない。

 

「その辺りを織り込み済みなのでしょうか」

「倒そうと思ってないってことですか?」

「はい。これらはわたくしたちを足止めするためなのではないか、と」

「でもそうなると。狙いは向こうのカズマくんたちってことになりません?」

 

 そう言ってから、あ、しまったとペコリーヌは額を押さえた。こんなことを言ってしまったら、カズマの従者を自称するママがどう考えるかなど火を見るよりも明らかだ。

 中心部へと向かう道を塞いでいた魔物人形を吹き飛ばしたコッコロは、今向かいますとそのまま駆け抜ける。駆け抜けようとする。が、当然のように追加の魔物人形がワラワラとその進路を遮った。

 

「落ち着いてくださいコッコロちゃん」

「くっ……」

 

 邪魔だとそれでも前に進もうとした彼女に迫る魔物人形の爪を弾き斬り飛ばしたペコリーヌは、先程までの自分を棚に上げてそんなことをのたまった。ここにキャルはいないので、そこをツッコミされることもなく、コッコロは素直に申し訳ありませんと謝罪する。

 そうしながら、しかし、と彼女は呟いた。

 

「このままでは、どうしようもありません」

「そうなんですよね。どうしましょうか」

 

 ともすれば呑気に聞こえるようなその発言。だが、その実彼女がきちんと考えていることをコッコロは知っている。仲間達のことを心配しているのを知っている。

 それでも、焦らずに。そうであろうと努めているのだ。ならばコッコロがやれることは。

 

「支援はお任せください」

「コッコロちゃん?」

「……邪魔ならば、突き進めばよろしいかと」

「……ふふっ。何だかコッコロちゃん、キャルちゃんやカズマくんに似てきましたね」

 

 そういうことならば遠慮なく。自身のティアラに手を添えたペコリーヌは、それじゃあ行きますよとそこに力を集めた。変身、とキーワードを口にしようとした。

 

「ちょいと待ちな。切り札はまだ切るんじゃないよ」

「へ?」

 

 その直前、周囲の魔物が纏めてぶった切られる。そうして出来た空間に軽い調子で着地した着物姿の人物、ルカは、手助けに来たと笑みを浮かべた。

 

「まったく……面倒なのは勘弁してほしいわ」

 

 それに続くように倒れた魔物人形を踏み潰しながらメリッサが歩いてくる。その口調とは裏腹に、などということもなく、割と本気でやる気が無いらしい。それでも一応襲い掛かってくる魔物人形を倒している辺り、こういう事態には慣れ切っているのだろう。

 

「ルカさん、メリッサさん」

「見た感じ、分断されたんだろう? アタシたちがフォローしてやるから、お前さん方は合流しに向かいな」

「ありがとうございます。ルカさま、メリッサさま」

「ワタシは別に何もしないわよ。やるのはルカと」

 

 コッコロの言葉にメリッサは気怠げにそう返す。ほれ、向こうを指差しながら、もう一人の名を呼んだ。

 

「私、参上!」

 

 ナナカが着地しポーズを決める。紅魔の里にいると影響されるのかしらね、とメリッサがぼやいているのが二人の耳に届いた。

 

「さ、行った行った。今回はサービスしてあげるから、ワタシの気が変わらないうちに早くしなさい」

「やるのは私達なんですけどねー。いやー、流石メリッサさん、そこにシビれる、憧れるぅ!」

 

 言いながらナナカが進路上の魔物人形を魔法でぶっ飛ばす。ありがとうございます、とペコリーヌとコッコロはその空間を振り返ることなく駆け抜けた。

 

「さて、と」

 

 ルカが腰の刀の鯉口を切る。構えるのは一本。そこまで気合を入れなくてもいいか、と呟いているところから、どうやら彼女の本気はもう少しあるらしい。それでも魔物人形など相手にならない辺り、レベルとステータスは相当だろう。

 

「ふっふっふ。サイツヨ魔法少女ナナカちゃんは最初からクライマックスだぜぃ!」

 

 一方のナナカ。やたらハイテンションでワラワラといる魔物人形に魔法をぶっ放している。自分達の探索時より多いその数を見て、向こうをよほど警戒しているのだろうとそんな中でも冷静に判断していた。

 

「おんやぁ。てことは、ここのダンジョンマスター向こうと顔見知り?」

「一方的な知り合いだろうさ。呪い掛けられてるんだしね」

「悪質なストーカーかしらね」

 

 メリッサは関わりたくないと全身で表現しながら、これが終わったら今度こそ入り口に戻るのだと宣言した。誰が何と言おうとも、お前らが向こうの手助けをしようとしても。そう言い切った。

 

「ここで実は、とかじゃない辺りがメリッサさんですなー」

「何よナナカ。文句あるの?」

「いえいえ。滅相もない。まあ私もそこは賛成ですしおすし」

「そうさね。アタシもその方がいいと思う」

「……どうしたのよ、二人共」

 

 人情家のルカと、結果や過程はともかく何だかんだ正義の味方ムーブが割と好きなナナカがそんな事を言いだしたので、メリッサが怪訝な表情を浮かべた。それに対し、二人はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「まだ一波乱ありそうだからね。一旦準備を整えるのさ」

「そういうことでありますよ」

「……あっそう」

 

 エリコを巻き込むつもりだこいつら。それを理解したメリッサは、まあいいやと肩を竦めた。その時は後方で野次馬していようと心に決めた。

 

 

 

 

 

 

「逃げ切れない!」

「ですよねー!」

 

 一方のカズマとキャルである。元々誘導されているのは承知の上だったが、それでも何とか撒こうと足掻いて結局駄目であった。このまま走り続けても体力が尽きたタイミングで接敵して終了である。どうする、と隣のキャルに目で述べたカズマは、どうしようもないでしょうがという視線を受けて溜息を吐いた。

 足を止めた。どっちにしろもうここはほぼ中心部、向こうが誘導しようとしていた場所もこの辺りだろう。逃げ切れないし、逃げる必要もない。

 

「観念しましたか?」

「してるわけないでしょうが」

「ですが、お二人に勝ち目はありません」

「やってみないと分かんないだろ」

 

 ペコリーヌ人形とコッコロ人形にそう言われても、強がっているのかキャルもカズマも戦意を失わない。それぞれ武器を構えると、覚悟を決めたように前を見た。

 

「無謀だな」

「本当ね」

『やかましい!』

 

 尚、カズマ人形とキャル人形には普通にキレた。対応の違いがあまりにも過ぎて、思わず人形二体の動きが止まる。

 では行きます。律儀にもそう宣言したペコリーヌ人形は、本物もかくやという勢いで突っ込んでくる。げ、と顔を引き攣らせたキャルが慌ててバックステップするのに対し、カズマはその場から動かなかった。反応できなかったともいう。武器を構えて立っていたので、ペコリーヌ人形の剣とカズマの剣とがぶつかりあった。

 

「カズマ!?」

「キャルさま。よそ見をしていてよろしいのですか?」

「げ。偽コロ助!?」

 

 いつの間にか眼前にいたコッコロ人形が槍を振るう。少女らしからぬ悲鳴を上げながらそれを必死で躱したキャルは、バタバタとどこぞのゴキブリのような動きで距離を取ると、とりあえず適当に呪文をぶっ放した。

 狙いも碌につけられていないそれを、コッコロ人形はこともなげに回避する。所構わずであったので、剣と剣がぶつかり合っていたカズマとペコリーヌ人形の方にも影響が出た。す、と剣を引いたペコリーヌ人形は、ひらりとその魔法の影響下から逃れると武器を構え直す。

 

「ど、どうする? 次もう一回攻撃されたら」

 

 さっきはたまたま受け止められた形になっただけで、本来ならば最初の一撃でカズマは真っ二つであった。所詮人形であり本物には遠く及ばないと予想が出来ても、じゃあカズマでもなんとかなるかといえば勿論そんなことはないわけで。

 そんなペコリーヌ人形の横にもう一体。シズル人形が同じように武器を構えてこちらを見ていた。ペコリーヌ人形だけで彼にとっては十分オーバーキルなのに、ここでシズル人形まで加わってはどうしようもない。助けを求めようにも、キャルはコッコロ人形の攻撃を避けるのに精一杯でこちらをみている余裕はなさそうであった。むしろ仕切り直しの状態になっているカズマのほうがまだマシなくらいで。

 

「狙撃、とかやってる間にぶった切られる……。スティールで武器を……取れないよなぁ」

「もういいですか?」

「行くよ、弟くん」

「うんうん。頑張って色々考えているね、えらいぞっ」

「待った待ったタイムタイ――ん?」

 

 打つ手が見付からない。そんな中改めて攻撃を開始しようとしているペコリーヌ人形とシズル人形。その横に、もう一人シズルがいた。思わず首を動かしシズルとシズルを往復する。

 

「そんな弟くんには、お姉ちゃんの援軍をプレゼントだよ☆」

「え?」

 

 笑顔のまま、シズルはシズル人形の顔面に向かって剣を振り抜いた。ガシャン、と何かが砕ける音がして、吹き飛んだシズル人形がバウンドする。

 そうして、カズマの目の前でゴロリと倒れ伏した。

 

「オ、とうと、くン……」

 

 体が変な方向に折れ曲がったシズル人形が、ギシギシと音を立てながらカズマに手を伸ばす。そんな、突如本物の偽姉によって無惨な姿にされた人形の姉に、カズマは思わず悲鳴を上げた。確かにこうなる可能性を予想していなかったわけでは無いが、いざ目にするとショックがでかい。

 

「もう、弟くん。お姉ちゃんはここにいるよ」

「いや分かってるよ!? 分かってるんだけど」

「ううん、分かってない。それに、ほら、あれ」

「え?」

「弟、くン――」

「うげ」

 

 生物ならば間違いなく再起不能な状態であったシズル人形がゆっくりと起き上がる。折れ曲がっていた関節を無理矢理元に戻し、何事もなかったかのように武器を構え直すその姿は、先程とは違う恐ろしさがあった。いつの間にかこちらを見ていたキャルもその光景にドン引きしている。

 

「弟くんも、キャルちゃんも。向こうがそっくりだからってどこか遠慮していたでしょ? だから、お姉ちゃんが一肌脱いであげたんだよ。これでもう、大丈夫だよね」

「いや、そうかもしれないけど……もっと……こう、あるでしょ……」

 

 ドン引きしながらキャルが絞り出すように述べる。だがまあ、確かに相手が仲間の姿をしていたから吹っ切れなかったという部分はある。そういう意味では助かったと言えるかもしれない。

 いつの間にかコッコロ人形が距離を取っていた。自身の姿で動揺を誘う方向から切り替えるのだろう。そして、その指示を出したのは恐らく。

 

「カズマ」

「な、何だ?」

「あれ、どう思う?」

「……俺とキャルの偽物か。さっきからこっちに出張ってきてないってことは」

「多分、あいつらが司令塔よね。優先的に片付けるわよ」

「そうだな。そっちのほうがまだ心情的に楽だ」

 

 自分の姿をしてるなら迷うことなくいける。先程のシズルが行ったことをある意味踏まえたその結論を弾き出したカズマは、弓を取り出し構えた。先程とは違い、今度はちゃんと前衛がいる。だから。

 

「頼んだぜ、お姉ちゃん」

「うん♪ お姉ちゃんにお任せだよ」

 

 ペコリーヌ人形とシズル人形の攻撃を弾きながら、シズルは嬉しそうにそう述べた。

 

 


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