プリすば!   作:負け狐

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美食殿vsメカ美食殿(ノーパン)


その157

「とは、言ったものの」

 

 カズマの目の前には司令塔だと思われるカズマ人形と、傍らで構えるキャル人形。そしてその二体をサポートするべくこちらを睨んでいるコッコロ人形がいる。

 

「やりづれぇ……」

「うん、まあ、気持ちは分かるわ」

 

 恐らく司令塔をどうにかすれば瓦解する。そう判断したものの、現状そのためには厄介なサポート役を潰す必要があるわけで。

 つまりはコッコロ人形を破壊する必要があるわけだ。

 

「ただでさえ俺のステータスだとコッコロとガチバトルしたら普通に負けるってのに」

「いやそこ堂々と宣言するのもどうなの?」

「しょうがないだろ、俺は《冒険者》だぞ! 高レベルアークプリーストにステータス勝負で敵うわけないだろ!」

 

 キャルのツッコミにカズマはそう返す。確かにね、と納得したように頷いた彼女は、そうしながら向こうへと視線を戻した。だったら、相手も条件は同じだろう、と。

 

「向こうのあんたもへっぽこなんじゃない?」

「ま、まあステータスはそうだろうな」

 

 自分で認めるのはよくても他人に言われるとなんか嫌だ。そんな思いを抱きながらカズマは頷き、それならカズマ人形だけを倒すことも不可能ではないかと気を取り直す。

 

「やらせません。主さまは、わたくしが命に替えてもお守りいたします」

「……」

「怯むな! 望み通り偽コロ助ごとぶっ殺せばいいのよ!」

 

 そうは言いつつキャルも非常にやり辛そうな顔をしていた。口にはしたが、恐らくいざその時になったら間違いなく躊躇するであろうことを感じさせた。

 そんな二人を見て、カズマ人形とキャル人形は笑みを浮かべる。どうした、かかってこないのか、と挑発するように彼らに述べた。コッコロ人形を盾にするように前に立たせたまま、そんなことをのたまった。

 

「……は?」

「……あ?」

「俺達の攻撃はコッコロがかばってくれる。こいつを先に倒さない限りは、どうにもならないだろう?」

「コロ助があんたたちの攻撃を受けてくれれば、あたしも存分に魔法が撃てるしね」

 

 そう言って笑う二体の人形を見たカズマとキャルは、さっきまでの表情を一変させた。お前今なんつった。そんなことを思いながら、滅多にないほどの真顔で前を睨みつける。

 躊躇なくコッコロ人形を捨て石にするのだと言い切ったのだ。破壊されることを気にせず作戦を組んでいるのだと抜かしたのだ。

 

「カズマ」

「何だキャル」

「あたし今キレそう」

「奇遇だな。俺もだ」

 

 なにやら振り切ったらしく、二人は目が据わった状態で笑う。よし決めた、とカズマとキャルは目の前に立っている自分の顔をした人形を真っ直ぐに見た。その眼光に、人形二体も思わず怯む。

 

「コッコロを盾にするようなやつは俺じゃないな」

「コロ助を犠牲にするようなのはあたしじゃないわね」

 

 きっぱりとそう言い切った二人は、そのまま一歩踏み出した。それを見て一歩下がりコッコロ人形を押し出す二体を見たカズマとキャルの怒気が更に膨れ上がる。

 決めた。いや最初からそうだったけど、改めて。こいつらは、こんなやつは。

 

『ぶっ殺す!』

 

 

 

 

 

 

「うんうん、コッコロちゃん、すっごく愛されてますね。やばいですね☆」

「……うぅ」

 

 カズマとキャルがキレているその後ろ。そこではルカ達に送り出されたペコリーヌとコッコロが合流していた。二人の啖呵を聞き、ペコリーヌはほんわかとした笑みを浮かべ、コッコロは恥ずかしさで縮こまっている。

 そんな彼女を見ながら、ペコリーヌは笑みから表情を少しだけ真剣なものに変えた。まあ、わたしも気持ちは同じですけれど。そんなことを言いながら、目の前を相手を睨み剣を構えた。

 

「カズマくんとキャルちゃんにコッコロちゃんを盾にするような真似をさせるとか、偽物でもちょっと見逃せません」

「そうですか」

 

 彼女のその言葉に、ペコリーヌ人形は短く返す。だとしても、お前は向こうに行けないだろう。そんな意味合いを含んでいるようなそれに、す、とペコリーヌの目が細められた。

 

「ペコリーヌさま、支援を」

「大丈夫です。コッコロちゃんは二人の方に行ってください」

「行かせませんよ」

「――いいえ」

 

 その言葉に頷き駆け出したコッコロを迎撃するようにペコリーヌ人形は剣を振るったが、しかしあっさりとペコリーヌに防がれる。その一連の動作の間、コッコロは微塵も動揺することなく、足を一瞬たりとも止めずに走っていった。

 

「こういう言い方はあんまりしたくないんですけど。あなたは、所詮偽物です。本物のわたしには勝てません」

「……」

 

 ペコリーヌの言葉に、ペコリーヌ人形は思わず怯む。疑うことのない事実をただ告げているだけ。そんな彼女の物言いに、偽物の人形は圧されたのだ。

 ほんの僅か、人形の表情が歪む。そうしながら、どこか苦し紛れに口を開いた。本当にそうでしょうか、と述べた。

 

「わたしは、カズマくんとキスをしましたけれど。もちろん、本物の」

「え?」

 

 物凄い勢いで本物が動揺した。目を見開き、そしてぱちくりとさせ。ついでに視線をキョロキョロと彷徨わせ。

 

「……えぇ?」

 

 完全に錆びついた鉄扉のようなギシギシとした動きで一歩後ろに下がった。隙だらけである。どこから攻撃してもクリティカルになる勢いである。

 

「てい」

 

 ペコリーヌ人形の攻撃が面白いようにペコリーヌへと叩き込まれた。目をグルグルさせながら、先程までの姿が嘘のように情けなく吹っ飛んでいく。そのままゴロゴロと転がり、そしてべしゃりと倒れ伏した。

 

「ペコリーヌちゃん!?」

「……わたし、まだ、なのに……」

「精神的ダメージのほうが強そうだね」

 

 シズルがぶっ倒れたペコリーヌへと駆け寄ったが、どうやら肉体のダメージはそれほどでもないらしい。ほんの少し安堵し、でもこれはまずいなぁと彼女は頬に手を当てる。

 とはいえ、じゃあ代わりにと眼の前のペコリーヌ人形を倒してもおそらく事態は解決しない。大切な弟であるカズマの彼女が立ち直らないというのは、お姉ちゃんとしては見逃せない部分であった。

 

「しょうがないなぁ。向こうはとりあえず置いておいて」

「……弟くんの、邪魔は、させなイ」

「この、お姉ちゃんの風上にも置けない人形の始末を先にしておこうかな」

 

 そう言って武器を構えたシズルは、しかしああそうだと何かを思い付いたように手を叩いた。弟くーん、と戦闘中にも拘わらず呑気に向こうのカズマを呼ぶ。

 

「何だよお姉ちゃん、俺今真面目な――」

「お姉ちゃんの人形、後で使う? もし使うなら、なるべく残すけど」

「……じゃ、じゃあ」

「あの、主さま。使う、とは?」

「何でもないです! 気にしないで大丈夫だお姉ちゃん!」

「うんうん、分かったよ弟くん。じゃあ、そうするね」

 

 笑顔で頷くシズルから視線を外すカズマ。その横で、どこぞのスナギツネのような目をしたキャルがジーっと彼を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 ドシャリ、と倒れ動かなくなった背後のシズル人形を気にすることなく、カズマとキャルは目の前の相手を睨む。が、先程のやり取りで若干真剣さが薄れ始めていた。意味がよく分かっていなかったコッコロだけが、真面目なテンションを維持し続けている。

 

「主さま、キャルさま。わたくしがお二人を命に替えてもお守り――」

「よし行くぞキャル。コッコロは支援よろしく!」

「ええ、行くわよ。コロ助、支援頼んだからね!」

 

 が、それでもそこは譲れないので二人は彼女が言い終わる前に突っ込んでいった。冒険者とアークウィザードが何やってんだというツッコミを入れてくれる人もいないので、カズマもキャルもそのまま自身の偽物に接敵する。が、当然それを防がんとコッコロ人形が立ち塞がるわけで。

 

「かしこまりました。――ならば、偽物の相手はお任せを!」

「きゅ」

 

 高く跳び上がったコッコロが、コッコロ人形へと襲い掛かった。咄嗟に槍を掲げ攻撃を防いだものの、突っ込んでいく二人の迎撃は失敗してしまう。しまった、と人形が思うよりも先に、コッコロは槍を回転させ柄で人形の顎をかち上げた。コッコロの姿をしているとは言え、生物ではなく所詮人形である。それで脳が揺らされるなどということはなかったが、衝撃で思わずたたらを踏む。

 そこを逃すことなく、彼女は更に追撃を行った。一瞬掻き消えるように素早く懐に入り込むと、そのまま連続で斬撃を叩き込む。それによって吹き飛ばされたコッコロ人形は、二体の人形の援護に向かえない距離まで離された。

 

「な、何よあれ?」

「どういうことだ? コッコロはアークプリーストだろ?」

「はあ? なに言ってんのお前」

「コロ助なんだから当たり前でしょ。これだから偽物は」

 

 人形共の驚愕を鼻で笑った二人は、しかし無理するなとコッコロに叫ぶ。承知しております、と元気な返事が来たので、ならばよしとカズマもキャルも前に出た。

 

「この調子じゃ、あたしの偽物も大したことなさそうね」

「そうだな。俺の偽物も雑魚だろ」

「そうね。あんたみたいな狡っ辛い手や支援とか無理そう」

「なあそれ誉めてる?」

 

 そう言いながらカズマはほれ、と小石を投げ、同時に駆け出す。こちらに当てる気配すらないそれを一瞬だけ目で追った偽物は、そんなものに気を取られるかと即座に武器を構え直した。

 こつん、と地面に落ちた小石はその場で麻痺のトラップを発動させる。当然ながらカズマは急ブレーキを掛けブービートラップの範囲外で立ち止まっていた。

 

「なぁ!?」

「ひゃぁぁぁっん!」

「ほらこれよこれ。っていうかあんたそれいつの間に仕込んでたのよ」

「そりゃ、向こうがコッコロに気を取られてる時だよ。その辺ちゃんと分かってくれてるからな、コッコロは」

「コロ助が派手に動いたのも作戦のうちだったわけね……」

 

 はぁ、と溜息を吐いたキャルは、麻痺して動けない自分の人形を見下ろす。そういえば、こうして偽物をぶち殺すのはこれで二度目だ。思い出したくもない記憶がフラッシュバックし、彼女は思わず顔を顰めた。

 

「なあ、キャル」

「なによ」

「痺れてるお前の人形、悲鳴とか本物よりエロくない?」

「一緒にぶっ飛ばしてあげるからちょっとそこ動かないで」

 

 魔法陣を展開させた。待て待て、と本物のカズマが必死で制止するが、非常に冷ややかな目をした彼女は全く気にすることなく呪文を唱え続ける。勿論人形の方も抵抗した。

 

「ぐ、ま、待て! そうだ、話し合おう。俺達が悪かった!」

「待て待て待て! 話し合おう! な! 俺達仲間だろ!?」

「そういうところだけ本物に似なくてもいいのにね……」

『躊躇いなし!?』

「――《アビスバースト》!」

「あたしだけついでみたいに倒されるんですけどぉ!? 偽物登場二回目だからって雑すぎない!? ねぇ!」

 

 盛大な爆発と共に、三つの人影が吹き飛んだとか吹き飛ばなかったとか。

 なお、言うまでもないが、カズマは無事であった。お姉ちゃんパワーの賜物である。

 

 

 

 

 

 

 そうして倒されたカズマ人形とキャル人形、そしてシズル人形を見ながら、残されたペコリーヌ人形は溜息を吐いた。向こうではコッコロ人形が本物にボコされているので、倒れるのも時間の問題だろう。

 

「これ以上は詰みですよ、マスター」

 

 虚空に向かって呟いたそれに反応するかのごとく、一体の人形がカシャリと動いた。いつのまにかそこに存在したその人形は、不機嫌そうに鼻を鳴らすと、倒れていた人形達を引き寄せる。

 

「まったく……人間というやつは、何故こうも目障りなのだろうな」

 

 静かに述べたその言葉に、カズマたちが反応した。誰だ、と視線を動かすと、ペコリーヌ人形の横に見知らぬ何かが立っているのが見える。その何かは、手招きするように右手を動かすと、やられかけていたコッコロ人形を自身の傍らに呼び寄せた。

 

「申し訳ありません、マスター……」

 

 ボロボロのコッコロ人形を見た何か――ドールマスターは、そのまま無言で手をかざす。傷が修復され、人形は元通りとなった。同じように倒れているカズマ人形、キャル人形、シズル人形にも同様の処置を施す。だが、コッコロ人形とは違い、既に倒された三体はどうやら先程までとは違い意思を持っていないようであった。

 

「さて、人間どもよ。わざわざ我が領域を荒らし回りに来たその所業、許せんな」

「はぁ!? 許せねぇのはこっちだ! 俺はな、お前の呪いのせいで……呪いのせいで! 今回だけでせっかくのチャンスが何回もふいになったんだぞ!」

「ちょっと何言ってるか分からない」

「とぼけるな! 俺の、カズマさんのカズマさんを子供にしやがって!」

 

 心の底からの怒りの叫び。周囲の女性陣の反応とかその他諸々ガン無視のその主張を聞いたドールマスターは、想定外で理解の範疇を超えたので思わず動きが止まる。

 

「知らん……何それ……怖」

 

 そして出した言葉がこれである。何がどうなってそうなるのか。まったくもって意味不明な怒りをぶつけられたドールマスターは思わず怯んでしまった。

 だがそれも一瞬、即座に我に返ると、今度は何でそんなことをこちらのせいにされんといかんのだという怒りが湧いてくる。

 

「貴様、まさかそんな、身勝手な理由でここを荒らしに来たのか」

「だから――」

「あんたちょっと黙ってて。勿論違うわよ。あたしたちはシェフィに掛けられた幼児化の呪いを解きに来たの。こっちは分かるわよね?」

 

 ぐい、とカズマを押しのけてキャルが前に出た。シェフィ、と言う名前に怪訝な表情を浮かべたドールマスターであったが、心当たりがあったのか成程と口角を上げる。あの時実験台にしたホワイトドラゴンのことか。そう返すと、キャルはふうんと笑みを浮かべた。

 

「どうやら当たりみたいよ。ってことは、あんたをぶっ殺せばシェフィの呪いも解けるのね」

「威勢のいいことだ。だが、たかが人間風情がこの私を倒せるとでも? この、魔王軍新幹部ドールマスターを」

「はん。そっちこそ、これまで散々魔王軍倒してきたこのあたしたちに勝てるとでも思ってんの? さ、行くわよカズマ、コロ助、ペコリー……ヌ?」

 

 あれ、と横を見た。そういえばここにいる面子はカズマ、コッコロ、そしてシズルだ。あれがやられるはずもないし、逃げるはずもない。一体どうしたんだとキョロキョロ視線を動かすと、後方の離れた場所で膝を抱えている彼女の姿が見える。

 

「え、ちょっとペコリーヌ。あんたどうしたのよ」

「……キャルちゃん?」

 

 慌てて近付くと、ペコリーヌはゆっくり顔を上げた。その表情には覇気がない。以前の王宮で見た時には及ばないが、しかし普段と比べると間違いなく焦燥していた。

 何かあったのか。目線を合わせそう尋ねると、ペコリーヌはあははと乾いた笑いを上げ、そして俯いた。そうしながら、先を越されてしまったんです、と呟く。

 

「……何を?」

「わたしの人形に、カズマくんへのキス、やられちゃいました……」

「……」

 

 どうしよう、これ。自分では何も言えないのを察したキャルは、とりあえず立ち上がるとドールマスターへと向き直った。真剣な表情の彼女を見て、ドールマスターも同じように空気を引き締める。

 

「ちょっとタイム」

「嘗めとんのかお前ら」

 

 これだから人間は。ドールマスターの吐き捨てるような言葉に、ペコリーヌ人形とコッコロ人形はそっと顔を逸らした。

 

 




キャルちゃん人形とキャルちゃん入れ替えてたらバレなかったんじゃないかなこれ

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