プリすば!   作:負け狐

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ここ数話は完全に性癖優先させています、ごめんなさい。


その158

「よし。じゃあこういうのはどう? 向こうの偽ペコリーヌをぶっ殺せばその事実は無くなるわ」

「真顔でなんてこと言うんですかキャルちゃん」

 

 凹んでいたペコリーヌが思わずツッコミを入れた。そうしながら、彼女はゆっくりと立ち上がり前を見る。このダンジョンの主であり魔王軍幹部だというドールマスターとそれが操る完全に人形となったカズマ人形、キャル人形、シズル人形。まだ固有の意思を持っているらしいコッコロ人形と。

 

「立ち直ったんですか、わたし」

「……まだ立ち直っていませんよ、わたし」

 

 普段よりもノロノロと剣を構える。それでも、彼女は真っ直ぐに見た。自分と同じ顔をした、自分の恋人に先んじてキスをしたらしい人形を、見た。

 とりあえずはよし。そんなことを思いながらキャルは彼女を見て、そしてドールマスターへと改めて向き直った。

 

「待たせたわね、偽物」

「無駄な時間を取らせた上に何を言うかと思えば。私達こそが本物だ。自分達の都合で道具を使い捨てる愚かな人間とは違ってな」

「はん、勝手に言ってなさいよキモ人形!」

「……今、私のことを何と言った?」

「何って、キモい人形って言ったのよ。鏡見てみなさい、女の子受けとか微塵もしない面が確認できるから」

「キャルさま!?」

「何ぶっちゃけてんのお前!?」

 

 何となしに状況を見守っていたコッコロとカズマも、急転直下で転がり落ちていくそれに思わず叫ぶ。横で凹んでいたペコリーヌですら目を瞬かせているほどだ。

 カタカタとドールマスターが震える。そうかそうか、と呟くように言葉を零すと、先程よりも強く、殺気を込めてこちらを睨んだ。

 

「死にたいのだな、人間」

「うわめっちゃ殺る気満々じゃん。どうすんだよ」

「まあ、どうせ元からそのつもりだろうし、しょうがないんじゃないかな?」

「軽いなお姉ちゃん!?」

「汝、我慢することなかれ。言いたいことは言わないと。アクシズ教徒だからね」

「アクシズ教徒だからかぁ……」

 

 にこやかにそう述べるシズルを見て、勢いだけで喋っているキャルを見た。そうしながら、アクシズ教徒だからか、ともう一度カズマは呟いた。

 ドールマスターは糸を繰るように指を動かす。それに連動し、カズマ人形、キャル人形、シズル人形がこちらへと襲い掛かってきた。

 

「お前達は、燃やして潰して捨ててやる!」

「ああもう、行くぞコッコロ」

「はい、主さま!」

「させません」

 

 迎撃態勢を取るカズマの横、サポートを行わんとしていたコッコロをコッコロ人形が邪魔をした。先程とは逆の構図となり、彼女は人形により距離を取らされる。

 

「これで、主さまの支援を行うことは出来ません」

「……ええ。そうでございますね」

 

 それでもコッコロは慌てず騒がず。コッコロ人形の槍の一撃を自身の槍で受け止めながら、それがどうしたとばかりに笑みを浮かべた。

 

「まだ向こうにはキャルさまも、ペコリーヌさまも、シズルさまもいらっしゃいます。……何より、主さまは強いお方ですから」

 

 コッコロの言葉が聞こえていたのだろう。同じく迎撃せんと杖を構えたキャルも、自然体のまま立っているシズルも。そういうことらしいとばかりにカズマを見た。

 勿論カズマは驚愕する。マジで、と思わず自分を指さした。

 

「コッコロの信頼が重い!? ……まあいいや、見せてやるよ、カズマさんの本気をなぁ!」

 

 いつになく真剣な表情を浮かべたカズマは、そう言うと後ろに下がった。今の流れで即座に後退できるのはある意味一種の才能である。が、自信満々なことを言いながら敵前逃亡したにしては、他の面々は文句を何も言わず。

 ドールマスターはふんと鼻を鳴らす。所詮は人間、下賤で下郎で救いようがない。そんなことを思いながら、人形を操り追撃を。

 

「――は?」

 

 ボン、と地面が爆発したことでカズマ人形が打ち上げられた。地面には模様が浮き出ており、罠が発動したことを示している。空中に投げ出された状態になったカズマ人形は、元々のベースである人間のステータスも相まって、そこから防御など出来ないわけで。

 

「再生怪人は弱いってのがお約束なんだよ! 《狙撃》っ!」

 

 ブービートラップを仕込んだ矢をそこに叩き込むと、そのままカズマ人形は爆発四散した。再生可能かどうかは定かではないが、とりあえず戦闘不能なのは間違いないだろう。

 バラバラと降ってくる残骸を見ながら、カズマはキメ顔で口角を上げた。欠片も残心せずに、何なら目まで閉じて笑みを浮かべた。

 

「ふ……どうだ、これが勇者カズマさんの本気だ」

「かっこいいですよ、カズマくん」

「そうだろうそうだろうってあれ?」

 

 声は前から聞こえた。慌てたように前を見ると、そこにはペコリーヌ人形のドアップが。おわ、と思わず声を上げたが、いかんせん可愛い彼女と同じ顔である。ドキドキしてしまってもある意味仕方ないといえよう。

 

「いつのまに!?」

「普通に近付きましたけど」

「な、なんで?」

「……わたし、カズマくんの恋人ですよね?」

「いやそれは本物のペコリーヌであって、お前偽物の人形じゃん!」

「キスしたじゃないですか」

 

 笑みを浮かべることもせず、ペコリーヌ人形は淡々と述べる。その表情とアンバランスな発言が、普段の本物とのギャップで何だかちょっぴりグッときてしまう。俺ってひょっとしたらクールなダウナー系も好きだったかもしれない。そんなことまで考えた。

 

「いや違う違う。大体俺は」

「好きですよ、カズマくん」

「俺は……」

 

 更に一歩距離を詰められる。むに、と同じ距離のキャルではまだ密着しないであろうそれがカズマの体に触れ、そしてゆっくりを顔を近付けてきたことで思わずゴクリと喉を鳴らした。これは、あれか、ひょっとしてしちゃうのか。さっきはほっぺただったけど、今度こそ。

 ぐい、と猛烈な勢いで引っ張られた。無理矢理ペコリーヌ人形と引き剥がされたカズマは、一体誰がこんなことをと後ろを見ようとする。むにい、と背中に柔らかい感触が伝えられ、あれこれさっき前面でも味わったぞと感想を抱いた。

 そして結論を出した。まあつまりそういうわけである、と。

 

「……駄目です」

「何がですか?」

「駄目なものは駄目です。わたしも――いえ、わたしの方が、カズマくんに恋してますから!」

「……あれこれ俺ヒロインポジじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 一歩踏み出す。向こうが構成した呪文を撃つより、キャルがゼロ距離でぶっ放した呪文の方が早かった。上半身が弾け飛び、呪文の唱え終わった右手が明後日の方向にそれを発射する。バラバラになった胴体の残骸と、目に光がないキャル人形の頭部が地面にゴトリと落ちるのと同時、残っていた下半身がガクリと崩折れた。

 それをふんと鼻を鳴らして見ていたキャルは、視線を別の方向へと動かす。なるべく壊さないようにしているのだろう。シズル人形を破魔呪文で作り出した光の剣で地面へと磔にしているシズルを見て、碌でもないこと考えているんだろうなとキャルの目が死ぬ。いかんいかんと頭を振り気を取り直すと、彼女は別の人物へと顔を向けた。

 

「コロ助!」

「キャルさま」

 

 その声に反応し、コッコロはコッコロ人形と距離を取り彼女に合流する。二人を相手にするのは厳しい、そう判断したのか、人形はそこで一度攻撃を止めた。

 

「人形のわたくし、これ以上は不毛かと思われますが」

「……そうですね、本物のわたくし」

 

 コッコロ人形はドールマスターを見る。思った以上に簡単に三体の人形が再度倒されたことで、その顔には焦りが見えていた。

 視線を戻す。そうしながら、コッコロ人形はですが、と言葉を紡いだ。

 

「まだ終わってはおりません。――あちらが」

 

 その言葉に、キャルとコッコロは目の前から別の方向へと視線を動かした。残っている戦闘は、一箇所。

 

「やめて! 俺のために争わないで!」

「……あいつぶっ殺そうかしら」

「キャルさま……」

 

 悲劇のヒロインムーブをしているカズマをジト目で睨む。そしてそんな彼とキャル達の間では、一人と一体のペコリーヌが剣を交えているところであった。本物が押しているのは当然と言うべきか。所詮ペコリーヌ人形はドールマスターによりカズマ達の記憶から複製された模造品に過ぎない。ベルゼルグ王国第一王女を完璧にコピーするには至っていないのだ。

 

「……くっ」

 

 剣を跳ね上げられ、そこに拳を打ち込まれた。人形なので肺から空気を押し出され呼吸が出来ない、などということは起きなかったが、その衝撃でペコリーヌ人形は吹き飛びゴロゴロと転がった。それを見て一瞬怪訝な表情をペコリーヌは浮かべたが、いやまさか気のせいでしょうと振って散らす。もしそうだとしたら製作者はとんだ変態だ。

 

「と、とりあえず念のためスカートが捲れないように気を付けて倒しましょう」

「……余裕ですね」

 

 起き上がったペコリーヌ人形が本物を見やる。それを見詰め返したペコリーヌは、表情を変えること無くそうかもしれませんねと述べた。

 

「さっきも言いました。あなたでは、わたしには勝てません」

「カズマくんとの距離は、わたしの方が近いですよ」

「……これから、縮めます。あなたよりも」

 

 そう言って視線を横に向ける。いっそペコリーヌ二人とイチャイチャするというのはどうだろうなどと悩んでいるカズマを見て、彼女は苦笑しながら溜息を吐いた。それでも、そんな彼だから好きになったのだ。恋は盲目とはよく言ったものである。

 

「あ、キャルちゃんがカズマくんぶっ飛ばしましたね」

「お説教……というよりも喧嘩を始めましたね」

「あはは、やばいですね☆」

「面白いですか?」

 

 クスクスと笑うペコリーヌが理解できないとばかりに首を傾げるペコリーヌ人形を見て、彼女ははいと迷いなく即答した。ああいうやりとりが、ああいった日常の姿が、ペコリーヌにとっては限りなく楽しくて。

 そして、ユースティアナにとってはどうしようもなく大切なのだ。

 

「そうですか」

「はい」

 

 どこかぼんやりと取っ組み合いをしているカズマとキャルを眺めていたペコリーヌ人形は、再度ペコリーヌに向き直ると剣を構え直した。その姿は先程までと変わらないように見えるが、しかしどこかが違う。

 

「だいたい、そう思うんなら止めに行きなさいよ!」

「馬鹿言うな。あそこに俺が割り込んだら間違いなく一撃死だぞ。俺はその辺のか弱いヒロインとは違って自分をわきまえてるんだよ」

「まず自分をヒロインだとか言い出すその腐った頭をわきまえなさいよ」

 

 ギャーギャーと喧騒が聞こえてくる。調子を取り戻したペコリーヌは自然体で剣を構え、人形の攻撃を全て迎撃するであろうことを窺わせた。

 そのタイミングで、ペコリーヌ人形の足元に魔法陣が浮かんだ。そこから糸が彼女へと絡みつき、そして吸収されるように消えていく。

 

「マスター……」

「このままでは埒が明かん。少し強引に開放させてもらうぞ」

「それは……いえ、分かりました」

 

 その後方ではその糸を生み出したであろうドールマスターがペコリーヌ人形を睨んでいた。工程を続けながら、やはり人間の模造品ではこんなものかなどと呟いているのが近くにいたコッコロ人形の耳に届く。一瞬だけコッコロ人形は目を見開き、そして戻した。

 

「ぐっ……」

 

 ペコリーヌ人形の姿が変わる。両手足が黒く染まり、青と白であった服装は白黒へと変わった。そして、関節からは何かが溢れ出るかのように青白い炎のようなオーラが漂っている。

 踏み込んだ。その一瞬でペコリーヌの懐に飛び込んだ人形は、手にしていた黒く染まった大剣を振るう。それを受け止めたペコリーヌは、しかし止めきれず弾き飛ばされた。

 

「ペコリーヌ!?」

 

 カズマが叫ぶ。その声でちらりとペコリーヌも人形も視線を動かしたが、それも一瞬。体勢を立て直したペコリーヌに向かい、彼女は追撃の剣を放つ。先程までとは桁違いの威力、オーラの出ている関節部はギシギシと嫌な音を立て、殆ど変わらなかったペコリーヌ人形の表情がほんの僅か苦しそうに歪んだ。

 

「……っとと。今のはやばかったですね」

 

 再度弾き飛ばされたものの倒れることなく着地したペコリーヌは、改めて人形の姿を見ると眉尻を下げた。その表情は、相手が急に強くなったから、余裕で勝てなくなかったから、というものではなく。

 カズマくん、キャルちゃん、コッコロちゃん、シズルさん。彼女はその場にいる全員の名前を呼ぶと、お願いがありますと言葉を続けた。

 

「『わたし』を、助けてください」

「……あんたって、ほんっと甘ちゃんよね」

「ふふっ。でも、それがペコリーヌさまの良いところですので」

「そうだね。弟くんの彼女さんとしては花丸だよっ」

 

 口々にそんなことを言いながら、視線を向こうの相手に向ける。それだけで何をするのか分かったとばかりに、倒すべき相手を見る。

 

「可愛い彼女の頼みだし、しょうがねぇなぁ」

 

 ついでにコッコロ人形も貰っちゃうか。そんな軽口を叩きながら、そこに続くようにカズマもそれを見た。

 自身の人形に限界を超えた負荷の強化を、道具を使い捨てるような行動をした相手を。

 

 


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