プリすば!   作:負け狐

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今更というかようやくというか


その161

 シェフィの呪いも解け、カズマ達の調子も戻ったアメス教会では、普段通りの日常が戻ってきていた。皆で揃って、ご飯を食べる。何の憂いもなくそれが出来るというのが、ここでは当たり前で、幸せなのだ。

 そんなわけで。

 

「はい、シェフィさま。あーん、でございます」

「あーん。……おいちー♪」

「ふふっ。まだまだありますので、たくさん食べてくださいませ」

 

 いつものようにコッコロが手ずからシェフィにご飯を食べさせ、シェフィはそれを嬉しそうに食べる。そんな普段通りの朝食を終えたコッコロが魔道具店の手伝いに、ペコリーヌは酒場のアルバイトに向かった後の話だ。

 

「……このままじゃ駄目になる……」

「手遅れだよ」

 

 頭を抱えるシェフィを見ながら、カズマは端的にそう述べた。子供化から戻ったのにコッコロにお世話されている時点でどうしようもない。頬杖をついていたキャルも、そうよね、と割とどうでもよさげに頷いていた。

 

「だ、だって。これまでもそうだったから、つい」

「手遅れね」

 

 つい、であの状態ではもう無理だろう。もう素直にもう一回子供になったらいいんじゃないだろうか。そんな結論まで出した。勿論シェフィは反対した。

 反対はしたが、しかし行動が伴っていないので全く説得力がない。ついでに言ってしまえば、既に駄目になっているのをどうすればいいのかという悩みは、カズマやキャルに相談してもしょうがないのだ。

 

「住処を変えるか?」

 

 そんなやり取りを眺めていたゼーンは、段々絶望し始めてきたシェフィに向かいそう告げた。え、と顔を上げた彼女は、自身の兄へと向き直る。

 

「コッコロに世話をされるのが問題なら、ここから出ていけばいい」

「妹追い出しにかかったぞこのドラゴン」

「多分引っ越すかっていう提案なんだろうけど、ほんと言葉足りないわねこいつ」

 

 ぶっちゃけ他人事の二人はそんなことを呟く。そして言われたシェフィは、何だかんだ兄なのできちんと言葉の意味は伝わっていた。伝わった上で、それはどうだろうかと渋い顔をする。

 

「ここを離れたら、マ――ッコロさんが寂しがらないかしら」

「もう諦めろよ」

 

 子供が母親から離れたくない時にする言い訳である。はい終了、とばかりにカズマは話を打ち切る態勢に入った。キャルは既に話すら聞いていない。

 どうして、とシェフィが抗議をするが、むしろこの流れで何故抗議されにゃいかんのだとカズマが逆にジト目で彼女を見る。それに少しだけ怯んだシェフィは、助けを求めるようにキャルを見た。ボードゲームの手入れをしている姿が見えて、えぇ、と若干ショックを受けた。

 

「もう、私は真剣に悩んでるのに……!」

「真剣に悩んでそれなら無理よ」

 

 カチャカチャと手入れを済ませた駒を仕舞いながら彼女を見もせずにキャルがトドメ。シェフィには最早頼れる味方がどこにもいなかった。

 

「それなら、近場に引っ越せばいいんじゃないですか?」

「教会近くの物件を探せばよろしいかと」

「え?」

 

 ぽてぽてとぬいぐるみがシェフィに近付く。この間の一件で教会の新たな居候というかマスコットになったペコリーヌとコッコロのぬいぐるみ型魔物である。どうやら先程までのやり取りを聞いていたらしい。

 

「な、成程。確かに近くならママに会いに行くのも簡単ね」

「ぬいペコ、ぬいコロ。だからこいつもう手遅れだってば」

 

 それだ、と手を叩いたシェフィが立ち上がる。さっそく探しに行きましょうと教会を飛び出していくのを見ていたカズマは、盛大な溜息を吐いて立ち上がった。あれほっといたらこっちに迷惑がかかる。そう判断したのだ。

 

「おい行くぞキャル。余計な問題が起きる前に」

「ほんと、中身変わってないわねあいつ」

 

 

 

 

 

 

「それで、予算はいかほどに?」

「……予算、って何かしら?」

「え?」

 

 不動産屋の扉を開けたカズマ達が見たのは、人の常識を基本持ち合わせていないドラゴンの末路であった。予算? 敷金? 担保? 初めて聞いたとばかりに首を傾げるシェフィを見て、ほらやっぱりとカズマは溜息を吐く。

 

「おいこらシェフィ、行くぞ。じゃ、お騒がせしました」

「あ、ちょっとカズマ!? 私はまだ何も見てないわよ!」

「予算も分からないドラゴンが不動産屋にいても何にもならないわよ。ほら、さっさとこっち来る」

「で、でも私は住処を引っ越すために……」

 

 いいから来い、と二人に言われ、シェフィはそのまま引きずられていく。何だったんだ、と首を傾げる不動産屋がそこに取り残された。

 とりあえず適当なベンチに座らせ、カズマは彼女を仁王立ちで見下ろす。この馬鹿、と短くばっさり切って捨てた。

 

「なっ! そんな言い方はないじゃない!」

「だったら人の生活圏でどれだけ暮らしたことがあるのか言ってみろ」

「馬鹿にしないで頂戴。私はこれでもあなた達の何十倍も生きているのよ」

「あそ。じゃあどうやったら土地が買えるか言ってみなさい」

「お金を払えばいいんでしょう?」

 

 だめだこいつ。自信満々にそう答えたシェフィを見たカズマとキャルは、もうこのまま連れて帰ろうかなと割と真剣に悩み始めた。違うの? と聞いてきた彼女に、そういう意味じゃないと二人はツッコミを入れる。

 

「そもそも、そんな風にはいお金払うから土地よこしなさいとか出来るのはそれこそ大貴族か王族レベルよ。……身近にいるからあれだけど」

 

 少なくとも庶民が出来ることではない。そういうのはアキノやペコリーヌの領分だ。

 そこまで考えたキャルは、ならばいっそそうするかと思考を巡らせた。ペコリーヌはペコリーヌである限り無理だろうから、やるとしたらアキノだろう。ダクネスも該当者ではあるが、ダスティネス家は家柄はともかく財力はあまりないので期待できない。

 よし、とキャルはカズマに向き直った。先程考えた意見を話すと、それはありだなと彼も頷く。まあ早い話が誰かに丸投げ、だからである。

 というわけで。シェフィを引っ掴むと二人はウィスタリア家の、アキノの屋敷へと向かった。普通ならばアポ無しなど門前払いなのだが、そこら辺は付き合いの深さで割と簡単に押し通れる。

 

「成程。お話は分かりましたわ」

 

 アキノに経緯を伝えたところ、アメス教会付近に丁度いい屋敷があるとの答えを貰った。地図を広げ、ここですわと指し示す。それを覗き込んでいたシェフィは、あれ、と目を瞬かせた。

 

「ここって」

「地図は読めるのか」

「知識偏ってるわねぇ」

「もう! いいじゃないのそんなこと」

 

 茶々を入れられたシェフィが顔を顰めたが、ぶんぶんとそれを振って散らした。そうしながら、前に行ったことがあるとアキノに述べる。

 でしょうね、と彼女は軽く返した。管理区域としてはウィスタリア家だが、現在この土地を預かっているのはダスティネス家だ。そして。

 

「ミヤコさんたちの遊び場ですわ」

「ええ。私もここで遊んだ記憶があるもの」

 

 成程確かに、ここならば自分の新たな住処にちょうどいい。うんうんと頷きながら、シェフィはありがとうアキノさんと笑顔で感謝の言葉を述べた。こんなに簡単に見付かるなんて、と喜びを隠すことなく続けた。

 お待ちなさい、と声が掛かる。物事はそう上手くはいかないもの、そんな前置きをしながら、彼女は指を一本立てた。

 

「まず第一に。先程告げたようにあの場所はダスティネス家の預かり。ララティーナさんに話を通す必要がありますわ」

「分かったわ。この後ダクネスさんにも会ってくる」

「そうしてくださいな。それで、向こうでも言われるでしょうが、もう一つ」

 

 現在屋敷が幽霊のたまり場になっている。それだけを告げると、アキノはでは頑張ってくださいと丸投げの態勢に入った。視線をカズマとキャルに向けながら、である。どうやら最初から彼らの考えはお見通しだったらしい。

 素直に頷いたシェフィが二人に行きましょうと声をかけるのを見ながら、彼女はひらひらと手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

「めんどくせぇ」

「ほんとよね……」

 

 たらい回しにされた結果、アメス教会から少し離れたその屋敷へとやってくる羽目になった二人はげんなりした表情でぼやいていた。ついでだしゼーン呼んできて戦力増強しようぜ、と一度戻ったものの、既に彼は出掛けていておらず、代わりに二人の肩にはぬいぐるみが引っ付いている。

 

「なあ、お前ら戦えるの?」

「カズマくんのスキルを貰えば、一時的にあの状態になれるとは思いますけど」

 

 肩のぬいペコの言葉に、カズマは嫌そうに眉を顰めた。ついこの間それでこいつ体砕け散ったじゃん。そんなことを思い出し、じゃあいいやと諦めた。

 

「まあ、そこまで心配するような規模ではないからな」

 

 二人のやり取りを見ていたダクネスが苦笑しながら述べる。幽霊のたまり場とは言っても、脅威になるような存在が住み着いているわけではない。精々があの時の、ミヤコが暴れまわっていた時にいた幽霊レベルだ。

 

「そもそも、あいつが調子乗ってるからこうなるの」

 

 ダクネスの説明を補足する、と言っていいのだろうか。ミヤコがふよふよ浮きながら不機嫌そうに屋敷を睨んでいた。最初から素直に言うことを聞いていればよかったのだ、などと抜かしているので、間違いなくこの状態に一枚噛んでいるのだろう。

 

「おい元凶」

「は? いきなり何言ってるの? 頭おかしくなったの?」

「いやお前がやらかしたんだろ?」

「人の話聞いてなかったの? ここをこんなにしたのはあいつなの」

「あいつって誰よ」

「この屋敷に住み着いてる幽霊なの」

 

 大した力もないくせに調子に乗ってる。ダボダボの袖をブンブンさせながら追加でボロクソ言い出したミヤコであったが、しかし次の瞬間どこからか植木鉢が飛んできて彼女の頭に激突した。ふげ、と悲鳴をあげるとそのまま地面にポトリと落ちる。

 

「ミヤコさん、あまりアンナさんを悪く言っちゃ駄目ですよ」

「こんな事するやつなんだから悪口言われても当然なの!」

 

 がばぁ、と起き上がったミヤコは、ダクネスの横――今回の件の関係者でもあるらしいシルフィーナに食って掛かる。やめんか、とダクネスに首根っこを捕まれ、彼女はそのままブラブラと揺れた。

 

「アンナ、って。ここにいたあの幽霊の女の子よね? こんなことする子だったかしら……」

「だから調子乗り始めたの。ちょっとミヤコがその辺の幽霊を呼び寄せるやり方教えたからってやりたい放題やりやがってなの」

「やっぱりお前が元凶じゃねぇか」

 

 シェフィの疑問に答えたミヤコのそれを聞いてカズマがジト目になる。そのままダクネスに視線を向けると、なんとも言えない表情でこくりと頷いていた。

 とりあえずドレインタッチでミヤコを吸っておく。はんぎゃぁ、と彼女の悲鳴が木霊した。

 

「で? これどうにかしたらこの屋敷俺達のものにしていいのか?」

「正確には、幽霊アンナを落ち着かせたらだな。彼女はこの屋敷に憑いているからな、引き離すのは難しい。だからここは元々曰く付きではあったのだが」

 

 ミヤコが知り合いだったおかげで、シルフィーナも件の幽霊少女とは仲良くなってしまったらしい。以前のシェフィも交え何度か交流している以上、本人が望まない限り除霊は出来ないと結論付けた。なので、その辺りを折り込み済みならば問題はあるまいとダクネスは判断したらしい。

 

「まあ、知り合いならシェフィは問題ないでしょうしね」

「とはいえ、まずは説得をしなければなりません」

 

 ミヤコの態度や向こうの反応を見る限り、間違いなく喧嘩中だ。これをどうにかしないと交渉以前の問題である。ぬいコロの言葉に、また厄介事かぁ、とキャルは溜息混じりでぼやいた。

 

「それで? あたしやカズマはそのアンナって幽霊のこと知らないんだけど。どういうやつなわけ?」

「は、はい。アンナさんは、少しいたずら好きですが、悪い人ではないです。冒険話と人形やぬいぐるみが好きで、このお屋敷にはそういったものが保管されています」

「ふーん。まあ割と普通の女の子って感じだな」

「そういえばあの子、お酒も好きだったわね。あまり気にしていなかったけれど、あの年の人間ってお酒駄目なんじゃ?」

「まあ幽霊だし、別にそれはいいんじゃない? そもそも、無理に我慢するより食べたい時に食べて飲みたい時に飲んだほうが幸せよ」

 

 そんなものかしら、と首を傾げるシェフィにそこまで極端じゃなくていいからなと釘を刺したカズマは、とにかくその少女を見付けないことには始まらないと建物を見やる。この流れでは、間違いなく屋敷の中にいるであろう。集めた幽霊の影響なのか、屋敷は昼であるにも拘わらずどこか薄暗い雰囲気を醸し出していた。

 

「考えててもしょうがないし、行くわよ」

 

 そう言ってキャルが足を踏み出す。が、一歩目で彼女は足を止めた。あれ、と急に肩の重みがなくなったことに首を傾げる。

 

「おい、あれ!」

 

 カズマの声に視線を動かすと、そこにはいつの間にか西洋人形に捕まえられたぬいコロが。ふわりふわりと彼女を持ったまま、西洋人形は屋敷の正面玄関へと戻っていく。そういえば、ぬいぐるみが好きだとか言ってたな。そんなことをぼんやりと考え。

 

「って! 待ちなさい!」

 

 我に返ったキャルが慌てて追いかけた。そんな彼女を馬鹿にするように左右に揺れた西洋人形は、開かれた扉をくぐって屋敷の中へ。勿論キャルも扉へと走り、そのまま中へと侵入する。

 

「待ちなさいって言ってぎゃ!」

 

 そして急に閉まった扉と激突して屋敷へと放り込まれた。バタン、と屋敷の中と外とを遮断した扉は、暫しの後再びゆっくりと軋んだ音を立てて開く。

 キャルは影も形もなかった。

 

「やばいですね」

「あ、お前も言うんだ」

「呑気に言ってる場合じゃないでしょう!?」

「いや、まあキャルだし。どうせそのうちどっかから出てくるだろ」

「そんな雑な扱いでいいの!?」

 

 シェフィがカズマにそう述べるが、彼はいいよと軽く流す。そのあまりにも自然な反応に、彼女もそうだったかもしれないと思い始めてきた。

 そんなわけないでしょうが、とツッコミを入れてくれる人物は残念ながら先程消えた。

 

「まったく……そういう扱いはキャルではなく、私にするべきだ」

「ママ?」

「オホン。いや、何でも無いぞシルフィーナ」

「コイツらダメダメなの……」

 

 やれやれ、とミヤコが呆れていたが、そもそもの原因はこいつである。だがやはりその辺りについてツッコミを入れてくれる人物は先程消えたので流された。

 

 

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