プリすば!   作:負け狐

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元々書くのが難しいのに久々だからさらに難しい


その164

 剣と剣がぶつかり合う。同じ顔をした美少女二人は、そこで一度距離を取った。片方は落ち着いた表情、もう片方は無表情ではあるものの少し悔しげに。

 顔こそ同じであるが、その装いは異なる。青と白を基調としたバトルドレスに身を包んでいる少女は、頭上のティアラを光らせることなく、目の前の同じ顔をした少女に剣を振るう。一方の少女は白と黒を基調としたバトルドレス。ノースリーブに、両手には黒い長手袋、そして両足は黒いガーターブーツと、相手と比べると少し露出が多い。そんな彼女は相手の剣を受け止めるとその無表情の顔を顰めた。

 

「限界ですか?」

「……いいえ」

 

 青と白の金髪美少女――ペコリーヌのその言葉に、白と黒の同じ顔――人型になったぬいペコは首を横に振る。この程度で負けていては、あの時勝ち逃げした意味がない。そんなことを思いながら、彼女はペコリーヌへと踏み出した。

 

「よくやるわねぇ」

 

 そんな二人を見ながら、キャルは庭に用意した椅子に座って飲み物を啜る。ここは幽霊アンナの屋敷、シェフィの新たな拠点となった場所だ。案の定というか、ぬいコロを連れて行ったシェフィはほぼ改善されなかった。一応一日一回呪いでも何でもなく子供化していた頃と比べればマシになったが、結局何かしらのきっかけで子供化する癖は治っていない。そしてコッコロもカズマのお世話をいつも通りにするだけでは物足りない体になってしまっていたため、定期的にシェフィのお世話に出向いていた。ある意味ウィンウィンだ。

 そんな日々がここ最近は続いている。教会と幽霊屋敷を往復するという行為は中々魔物の活性化にも繋がったのか、ぬいコロとぬいペコも順調にボディが馴染んでいた。以前カズマに言った時よりも改善し、何かしらのサポートがあれば多少の時間は以前のような人型ボディでいることも可能となったのだ。

 そんなわけで、ぬいペコはペコリーヌと模擬戦中である。仕方ないというべきなのか、オリジナルであるベルゼルグ王国が誇るバーサーカー王女が相手では彼女は敵わない。桃源郷の時よりステータス自体は上がっているはずなのだが、目の前の規格外の腹ペコ相手では誤差である。

 

「まだ――です!」

「っ甘い!」

 

 横薙ぎの一撃を剣の腹で受け止めたペコリーヌは、そのまま巻き込むように回転、相手の剣を跳ね上げた。その勢いのまま、剣の柄をぬいペコの土手っ腹に叩き込む。彼女の体がちょっと浮き、衝撃で巨乳が揺れた。

 人ではないぬいペコはそこで呼吸どうこうにはならない。すぐさま地面に足をつけ、しかしこのままでは再び防がれると判断した彼女は、全身へ溢れんばかりに魔力を流し込んだ。ペコリーヌとは違う小さめのカチューシャのような髪飾りから青白い炎のようなオーラが噴出し、ティアラの形を作り出す。それと同時、彼女の両手足の関節部にも同じような青白い炎のオーラが纏わりついた。

 

「行きま――」

「はい《バインド》ぉ!」

「え、きゃ、ぁん」

 

 その状態で一歩踏み出そうとしたぬいペコにワイヤーが絡みついた。彼女の体を拘束すると、そのまま地面にごろりと転がす。

 そんな光景を作り出した張本人であるカズマは、お前何やってんのと半目で彼女を見下ろしていた。

 

「模擬戦だっつってんだろ。なに体ぶっ壊そうとしてんだよ」

「……大丈夫ですよ」

「はいダウトー。おーい、コッコロ、ぬいコロ、支援終了」

「はい、主さま」

「かしこまりました」

 

 視線を転がっているぬいペコから、彼女をこの状態にさせておくための支援役である二人に移す。彼の言葉に頷いた二人は、言われた通りぬいペコへの支援を止める。あ、と転がっている彼女が短く声を上げ、ゆっくりとカズマに向き直った。そのタイミングで、等身大の人から普段通りのデフォルメぬいぐるみへと体が戻る。表情こそほとんど変わっていないが、思い切り不満であると顔に書いてあった。

 

「お前が約束破るからだろうが」

「あはは。カズマくん、大分大切にしてますね。ぬいペコのこと」

 

 ぬいペコの不満を一蹴したカズマは、ペコリーヌのそれを聞いて彼女に向き直る。別にそんなことないだろうと返すと、ペコリーヌは微笑みながらそういうことにしておきますねと述べた。

 

「まあ、でも。今の状態なら多少はクエストに連れて行っても大丈夫だと思いますよ」

「そうか。まあ当分クエストに行く予定はないけどな」

 

 別段生活には困っていないし、冒険らしい冒険はついこの間やったばかりだ。のんびり何もせず過ごす日々を送ったところでバチは当たらないだろう。カズマの中ではそういうことになっている。

 

「それは、いいの?」

「いいんだよ」

 

 模擬戦を見学しつつ、人間社会勉強用の本を読んでいたシェフィが口を挟む。が、彼が堂々と言い切ったので、彼女はそうなんだと納得してしまった。

 

「そういうわけで。模擬戦も終わったし、何か適当に――」

「たのもう! っと、ああ、いましたね」

 

 ん? と視線を向ける。屋敷の門に一人の少女が立っていた。赤い服にマント、帽子に眼帯、そして紅魔族特有の赤い瞳。この場にいる面子で彼女を知らないのは幽霊アンナくらいだろうか。

 どうしたんだ、とカズマは彼女に問い掛けた。カズマ達のいる方へと歩みを進めながら、それは勿論これですよと一枚の紙を取り出す。

 

「何だこれ? えーっと、『アイドルフェス』?」

「はい。毎回開催国を変えて、世界で一番のアイドルを決める聖なる祭典です。それが今回はここ、ベルゼルグ王国で開かれるんですよ」

「ふーん。で、めぐみん、これがお前と何の関係があるんだよ」

 

 アイドルという存在とは間違いなく縁遠い。そんなことを思いながら問い掛けたそれに対し、めぐみんはふっふっふと不敵な笑みを浮かべた。ならば教えてあげましょうとマントを翻した。

 

「そう、我が名はめぐみん! 紅魔族一の、いえ、世界一のアイドルの頂点に立ちしもの!」

「なんか変なものでも食ったのか?」

「ちがわい! 私は本気でアイドルの頂点を目指そうとしています。世界一の魔道士たるもの、やはりカリスマ性や人気は必要ですから」

 

 ふーん、とカズマは適当に流す。それで、とほぼほぼ聞く気のない状態で彼女の話を続きを促した。

 よくぞ聞いてくれました、とめぐみんは再度マントを翻す。アイドルフェスは現在活躍中のレジェンドアイドルの招待とは別に、国家代表戦を勝ち抜いた新たなアイドルを加えたドリームマッチが目玉だ。新たなアイドルとしてその代表戦に出場するためには三人以上のユニットが必要になるのだが、自身に相応しきパートナーはやはりそれ相応の魅力を持っていなければならないと彼女は考えたのだという。

 

「所長や師匠はアイドルとか無理ですし。あるえやアンナにも一応聞きましたが、原稿の執筆が優先らしく、そこを曲げさせると私のエピソードが向こうの創作活動の糧にされてしまうので却下したんです」

「じゃあ、同じ紅魔族ならゆんゆん――は、無理か」

「BB団は出場と同時に彼女達の命が尽きそうだったので……」

 

 そもそもアイドルらしい行動が出来るイメージが欠片も湧かないので、そういう意味でも無理だろう。そんな経緯もあって、条件を満たしている面々がいるこちらに来たのだとか。

 一応話は分かった。面倒事というほどでもないのも理解した。そしてカズマは自分にほぼ関係ないことも感じ取った。

 つまりは。

 

「というわけなので、ペコリーヌ、キャル、コッコロ。私とアイドルをやりましょう!」

 

 そういうわけである。確かにこの面々ならばアイドルをやらせても問題ないどころかお釣りが来るレベルの美少女ではある。アイドルフェスの参加者がどのくらいの輝きなのか知らないが、少なくとも予選落ちはしないだろう。そんなことを彼は思う。

 

「えっと、わたしは別に構わないですけど……大丈夫ですかね?」

「あ」

 

 あはは、と苦笑するペコリーヌを見て、そういえばそうだったと思い出した。こいつベルゼルグ王国の第一王女だったわ、と。この間のコロリン病騒動の時にめぐみん達にもバレてしまったので彼女もそこは知っていたものの、普段その肩書が役に立つことがないので正直どうでもいい二つ名程度の扱いであった。が、今回はその辺は重要な致命傷である。

 

「うーむ。では、キャル」

「絶対嫌」

 

 だろうな、とカズマは思う。アルカンレティアとアクシズ教が育んだ誇り高き驚異の猫耳美少女キャルちゃんはカムバックしないらしい。理由を語らないキャルではあったが、その意志が固いことだけはよく分かった。分かったので、めぐみんとしても切り崩す手段がなさそうな彼女は諦める方向に舵を切るしかない。

 

「じゃあ、コッコロはどうです?」

「わたくしは、構いませんが……。果たしてわたくしにアイドルが務まるのでしょうか?」

「いやコッコロなら大丈夫だろ。間違いなくアイドルになれる」

「主さまが、そうおっしゃるのなら」

 

 自信満々にカズマが断言したので、コッコロも二つ返事で了承する。これで二人、あと一人丁度いい人材がどこかにいれば。ううむとめぐみんが視線を巡らせ、まだ人型の状態であったぬいコロに目を付けた。

 が、時間制限がある以上フェスの参加者は難しいと断られる。実際会話の途中で彼女はぬいぐるみに戻っていた。

 

「と、なると……」

 

 視線を残っている一人に向ける。呪いは解けたという話は聞いたので、これまでより見た目相応の状態ではあるだろうが、果たして。めぐみんが接したのは子供状態の時のシェフィだけだ、どうしても考えが偏ってしまう。

 

「アイドルって、私にも出来るかしら?」

「おや、意外と乗り気ですね」

「ええ。せっかくだから、人の世界をもっと楽しみたいもの」

 

 そう言って笑うシェフィは、今まで見ていたものと同じで。三つ子の魂百までとはよく言ったもので、ホワイトドラゴンならば五百も六百も同じ魂でいるのかもしれない。そんなことを思いつつ、ならばよろしくお願いしますとめぐみんはシェフィの手を取った。

 

「では、ここにアイドルユニット結成です!」

「はい、精一杯頑張らせていただきます」

「ええ、私も全力で頑張るわ」

 

 えいえいおー、と拳を振り上げる三人を見ながら、カズマは頑張れよコッコロ、とどこか優しい表情を浮かべる。とりあえず何か問題が起きているわけでもなし、今回は応援するだけで済みそうだ、とついでにそんなことも考えた。

 

 

 

 

 

 

 そんなアクセルから街どころか国すら違うとある場所。ブライドル王国聖テレサ女学院の学院長室にて、一人の少女がううむと悩んでいた。机の上に広げられているのはアイドルフェス関係の書類である。学院の仕事しろよ、というツッコミを入れてくれる人物は背後にいるのだが、既にし終わっているので何も言わない。ツッコミも、仕事も、である。

 

「ねえ、どうしようかしらモニカ」

「諦めればいいのでは?」

「そういうわけにはいかないの。……確かに面白がっている部分はあるわ、そこは認める。でも、ブライドル王国第一王女として、世界規模のイベントで情けない姿を晒すわけにはいかないじゃない」

「言葉だけは立派ですが。……ならば、相応しいアイドル候補を探せばいいだけでしょう? 姫様自身がアイドルをやる必要がどこに」

「こういうのは上が率先して動いてこそじゃない」

「もっと違う場で行ってください」

 

 はぁ、と今日だけで何度目か分からない溜息を吐く。確かに彼女の、リオノールの言っていることは正しい。アイドルフェスは何だかんだ世界中の国々が一緒になって騒ぐイベントであり、無礼講の極みのような催しではあるものの、無様を晒すのはこれから先の国家間の関係にも影響する。手抜きのしょうもないアイドルを代表として選出してしまえば、非難の目で見られることは想像に難くない。

 だがしかし。だからといって、だったら自分がアイドルをやる、は流石にどうなのだろう。結局モニカの行き着く思考はここである。

 

「そもそも、ブライドル王国のアイドル志望者はそこまで層が薄くないでしょうに」

「んー。それはそうなんだけど……何ていうのかしら、インパクトが足らないのよ」

 

 言ってしまえば小綺麗にまとまっている感じが否めない。アイドルというのは様々な要素の集合体だ。それらを極限まで高めればそれだけで武器にはなるし突出するだろうが、それが出来るのは選ばれた一握りの存在だけ。

 

「結局カルミナには絶対に敵わない」

「アイドルの頂点と比べるのが間違いです」

「アイドルフェスのエキシビジョンはカルミナも含めたレジェンドアイドルとの勝負よ。負けると決まってる勝負はつまらないじゃない」

「では、どうするのです? 姫が出たところで結果は一緒でしょう」

「やってみないと分からないわよ」

 

 やらなくても分かる。そんな思いを込めた視線をジト目で向けると、リオノールはふふんと笑った。そういう考えをひっくり返すから面白いのだ。そんなことを口にしながら、彼女は再度新たなアイドルの構築に取り掛かった。

 

「アユミはあの特性上アイドルは厳しいわよね」

「でしょうね。……ん?」

「ニノンは……素のままだとどう頑張ってもイロモノだし」

「いや、あの、姫?」

「ユキはいけそうだけれど、あの性格がなぁ……」

「姫! 何をどうするつもりですか!?」

「アイドルユニットの構成案だけど」

「あれが! アイドルを! やれるわけが! ないでしょうが!」

 

 ゼーハーと肩で息をしながらモニカが叫ぶ。その声量に耳を塞ぎながら、リオノールはぶうぶうと反論した。インパクトは十分だろうと言ってのけた。

 インパクトしかない、と即座に返された。

 

「情けない姿を晒すわけにはいかないという言葉は嘘ですか!?」

「私が言うのもなんだけど、情けない姿確定扱いはどうかと思うわ」

「別にあいつらが駄目だと言っているわけではありません。アイドルには致命的に向いていないと言っているだけです」

「はいはい。んー、じゃあ、仕方ないか」

 

 リオノールはそう言うと目の前の書類に記入を始める。アイドルフェス代表戦に参加するための応募用紙、そこのユニットメンバーの欄に名前を書いた。リオノールと、モニカ。

 

「あと一人は」

「姫」

「何よぉ」

「私の名前が書かれているのですが」

「アイドルに向いてると思うわ」

「それで丸め込めるとお思いですか!?」

 

 再度絶叫ツッコミ。そろそろ喉枯れるのではなかろうかと思うようなそれを聞き流しながら、リオノールはまあまあと彼女を宥めにかかった。第一王女である自分が出場するとなれば、どのみち護衛騎士であるモニカはついていかざるを得ない。そしてただの護衛騎士だとステージ上まではついていけない。

 

「……」

「あと、ラインにアイドル姿見てもらえるわよ」

「御免被りますが」

「えー」

「何が悲しくてあいつにそんな姿を見せなければならんのですか!」

「あ、フェイトフォー。フェイトフォー三人目にしましょう」

「聞かなかったことにしないでもらえますか!?」

 

 鼻歌交じりに三人目の欄に名前を書いていくリオノールを見て、モニカの目がゆっくりと死んでいく。ああでもこの面子ならばラインは姫とフェイトフォーを優先させるだろうから、自分への注目はそこまでされないかもしれない。現実逃避気味にそんなことを考えた。

 

「よし、これで。……もう一組くらい用意できないかしら」

「アユミとニノンとユキで組ませたら大事故です」

「そこはちゃんと分かってるわよ。んー」

 

 誰かいないかなぁ。そんなことを考えながら頬杖をついていたリオノールは、学院長室の扉をノックする音で我に返った。はいどうぞ、と声をかけると、物凄い勢いで扉が開かれる。学院長室のドアぶっ壊れるんじゃないかってなくらいで。

 

「学院長! ちょっと小耳どころか大きくお耳に挟み込んじゃってこれどう考えても無視したらだめなやつですよねってなくらいの情報があるんですけど! そこんとこどうなんです!? これおこぼれ頂戴してドリームドリーム叶っちゃったりとかしません!?」

「チエル、ちょい落ち着き。本題すっ飛んでっからそれ。いつも以上に意味不なワードだから」

「そ、うだぞ……少し、落ち着きたまえ……ゼヒィ、フヒィ」

「ゆに、ちにそう」

「……ぼくは頭脳労働が主であり、ふう、ひぃ……肉体労働は忌避すべき悪魔の所業だと断じて疑わない根っからのインドア派だ。極々普通になかよし部の拠点からここまで来るのならば問題はないが……ぜぇ、ぜぇ……チエル君の全力ダッシュに並走できるだけの肉体的余裕は持ち合わせていない。……端的に、換言すると……もう、無理」

 

 そうして入ってきた四人組を見たリオノールは、何か天啓を得たかのように目を見開いた。そうだこれだ、と言わんばかりに手を叩いた。

 

「いたわよモニカ! もう一組!」

「……いましたね、もう一組」

 

 まあこいつらなら別にいいか。色々疲れたモニカは心中でそんな結論を弾き出した。

 

 


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