プリすば!   作:負け狐

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プリフェス


その168

 ベルゼルグ王都。それぞれの国の代表戦を勝ち抜いたアイドルユニットがここで鎬を削り、最終選考に残った四組が、レジェンドアイドルとのエキシビジョンに挑む。そんなアイドルフェスの本選の行われるこの場所では、普段とは違う異常なほどの熱気に包まれていた。

 

「ふーむ……」

「めぐみん、どうかしたの?」

 

 そんな出場ユニットが集められているその場所で、めぐみんは一人難しい顔をして周囲を見渡してた。シェフィが彼女に問い掛けるが、大したことではないのですが、と返すのみ。

 

「めぐみんさま。何か気になることでも?」

「ああ、いえ。だから大したことではないんですよ。あの時私にライバル宣言をしたあの子がどこにもいないなぁ、と」

「あの子?」

「ええ。二人はカズマに色々指導されていたから見ていないかもしれないのですけど。あれは間違いなくアイドルとして最高峰の実力を持っていたはずなんです。我が目に狂いはない、必ずや本選にて相見える! はずだったんですけど」

 

 確かに各国の代表戦をくぐり抜けるだけはあり、どのアイドルも一線級の輝きを持っている。だが、あの時の彼女がそれに劣っていたとはとても思えない。むむむ、と考え込み始めためぐみんに、シェフィは大丈夫よ、と声を掛けた。

 

「今この場にいないだけかもしれないでしょう?」

「いえ、あの、シェフィ? ここ、本選出場者が全員集まる場所ですよ?」

「後から来るかもしれないわ」

「それはもうただの乱入者ですよ! いや目立ってかっこいいかもしれませんが、流石にルールぶっ壊して登場されても困ります」

「うーん。なるほど、そうなのね」

「はい。シェフィさまのお考えは中々に着眼点が面白いものですが、今回はそちらではないと仮定しておきましょう」

「分かったわ、ママ」

 

 頷いたものの、しかしそうなるとどうなのだろうとシェフィは首を傾げる。普通に予選敗退したのだろうか。それとも。

 

「めぐみんが気付いていないだけで、ここにいるんじゃ?」

「私の目が節穴だとでも? まあ、確かに、変装を解いたことで別人と化している可能性も無きにしもあらずでしょうけれど」

「どちらにせよ、めぐみんさまとの約束があるのならば、向こうの方も接触してくるのではないでしょうか」

「そう、ですね」

 

 よし、と気を取り直しためぐみんは、本選の出場者を改めて見渡す。強敵が揃っているのは間違いない。油断など全く出来ない。

 というか、王都代表のあれは大丈夫なのだろうか。見知った顔が連なっているユニットを見て、めぐみんはふと思う。

 

「クリスティーナさまがプロデューサーをしておられるようですし、恐らく了承済みかと」

「でも、ダクネスが泡吹きかけてましたよね? 私は直接面識ないですけど、ペコリーヌの横にいるのはアイリス第二王女でしょう?」

「アイリスは、私もシルフィもお友達だから大丈夫よ」

 

 ドラゴンの常識で語られても。そんなことを思いはしたが、まあ深く考えても仕方あるまい。めぐみんはとりあえず流すことにして、改めて気合を入れ直した。

 

 

 

 

 

 

「お? カズマ、お前はこっちでいいのか?」

「ああ。てかむしろ何でお前ここにいんの?」

 

 一応プロデューサーの体をとってはいるが、本選の控室には流石に入れない。ということで、用意された関係者席へやってきたカズマは、何故かそこにいたダストに声を掛けられ怪訝な表情を浮かべた。お前まさか無理矢理来たんじゃ。そんな疑惑の目を向けると、違う違うと首を横に振られる。

 

「チケット貰ったんだよ。フェイト、あー、いや、昔の相棒に」

「ふーん」

 

 何だか訳ありっぽかったので、面倒な自分語りとかされる前にカズマは会話を打ち切った。アイドルフェスである。何だかんだ美女美少女が歌って踊る場所である。お触り出来ないとはいえ、そんなイベントでダストが一人で、さらにほぼほぼ平常テンションな時点で聞くのはもうめんどい。彼の結論はそれであった。

 

「まあ、本選参加者はそれ専用のチケット渡されてるし、そういうこともあるか」

「そうですね。あまり深く詮索しないその姿勢は正しいですよ」

「うぉあ!?」

 

 振り向くと狂人がいた。二十を超えているとはとても思えない小柄なエルフの女性は、横にちょむすけを伴って関係者席で観戦の体勢に入っていた。何でここに、と尋ねかけ、今自分が口にしたそれのことを思い出す。めぐみん、この人に渡したのかよ。そんな文句が一瞬浮かんだが、よくよく考えずともそれは普通だ。視線を動かすと、シェフィが呼んだのであろうゼーンと、ミヤコ、イリヤ、シルフィーナの姿もあるし、コッコロが招待したユカリやウィズ、バニルの姿もある。向こうで色々諦めた目をしているダクネスと、その横でいい加減開き直りなさいなと肩を竦めているアキノ達はペコリーヌが呼んだのだろう。

 その一方で、頑なに誰かを呼ぼうとしなかったキャルというのもいる。チケットはぬいコロとぬいペコ用となったが、一応魔物とはいえほぼぬいぐるみなのでチケット不要でここに来ていた。

 

「まあ、呼んでも都合つかなかった人もいるだろうしな」

 

 特に他国はそれが顕著であろう。最初からこの遠征についてきた人達以外はこの席にはいなさそうであった。余談だが、クロエはマリアにチケットを渡したものの、生徒会長の仕事があるし、そもそも生徒がそんな遠出は出来ないと断られている。勿論マリアは家で泣いた。

 

「そうだね。ま、アタシ達みたいに半ば無理矢理来ちゃうのもいるけど」

「ん?」

 

 横合いから声。視線を動かすと、やけに赤い服装をしたメガネの女性が目に入った。そしてその横には、着物のような服を着た狐耳の獣人の見た目女性の姿も見える。

 

「……え?」

「お久しぶりね、キャルのパーティーリーダーさん」

「え、あ、はい。お久しぶりです」

 

 何でいんの? 彼の頭の中はその疑問で埋まったが、しかしすぐにまあアクシズ教徒だしなぁで片付けた。代表例はお姉ちゃんである。

 

「ああ、心配には及ばないよ。ちゃんとキャルちゃんのチケットを盗――いただいてここに来てるからさ」

「おい今盗んできたって言った?」

「人聞きが悪いわね。私はキャルのことをよく知っているわ。あの子がこういう時何処に仕舞うかも、全部」

「後はそことアタシの手元をちょちょっと組み替えて繋げればあら不思議、チケットが手に入っちゃいました、ってね」

「犯罪はアウトなんじゃなかったのかよ新最高司祭」

「キャルのものを私が使って何か問題が?」

 

 マジ顔だった。この人本気でこれを悪いことだと思っていない。それを察したカズマはもう触れないでおこうと誤魔化した。ゼスタはゼスタで人としてアウトな変態であったが、こいつはこいつで別の意味で人としてアウト気味だ。勿論隣のラビリスタも含めて、である。

 

「そんな警戒しないで頂戴。大変だったのよ、ゼスタの再封印は」

「アイドルフェスをちゃんとアルカンレティアに中継するって言っても聞かなかったからね。まったく、骨が折れたよ」

 

 今さらっとキャルの精神が死ぬのが確定しなかっただろうか。そうは思ったがやっぱり口に出さない。カズマは命が惜しいのだ。

 ともあれ。今この空間には特別やべーやつらが集結しているといってもいいだろう。めぐみんの招待に残念ながら来られなかったあるえとアンナ、そしてミツキ診療所の面子がいないのは不幸中の幸いかもしれない。

 そんなカズマを横目で見ながら、ダストは盛大に溜息を吐く。素直に一般の観客席にリーン達といればよかっただろうか。そんなことを考えた。

 

「それは、姫様もフェイトフォーちゃんも悲しんじゃうかな~。勿論、モニカちゃんもね」

「んなこと言っても、俺は俺で――」

 

 言葉を途中で止め、思い切り振り向いた。紫がかった長い髪をした糸目の美女が、楽しそうにクスクスと笑いながらこちらを見ている。その美女を視界に入れたダストは、叫ばなかった自分を褒めてやりたくなった。

 

「……何でいる?」

「何でって。フェイトフォーちゃん一人で国を越えさせるわけにはいかないからね。貴重なホワイトドラゴンだもの、管理は徹底しておかないと」

 

 当然でしょう、と笑顔のまま述べる美女に舌打ちをすると、ダストは視線を彼女から外した。自身のかつての相棒をまるで道具のように扱っているが如くの物言いだが、彼はそこには何も言わない。実際そういう扱いをしている側面は否めないものの、それでも彼女はブライドル王国の守護竜ホマレ、国の仲間たるドラゴンを見捨てることはない。

 

「いや、そこは別にカヤでいいだろ……」

「カヤちゃんはこういうのに興味ないからね~。イノリちゃんは論外だし」

「だとしても。後継者育てとくための経験とかにしとけばいいだろ」

「そういうのは別口でやってるから大丈夫☆」

 

 笑みを変えることなくそう返される。ああそうかい、とぼやいたダストは、もういいと彼女との会話を打ち切った。打ち切られたホマレも、そうそう、とどこか楽しそうにステージを見ていた。

 

「さあ、本選が始まるね~」

「お待たせしました! 只今より、アイドルフェス本選を開催します!」

 

 ブライドル王国のユニット一組目の出番はこの次だ。プログラムを見ながらダストにそう告げたホマレは、実に嬉しそうであった。

 流石は代表戦を勝ち抜いたアイドルユニット。歌も踊りもレベルが高く、見ているダストはフェイトフォー大丈夫なんだろうなと心配に。

 

「ん? いや待て。カヤもイノリもいないってことは、フェイトフォーは一体誰と――」

「次の登場ユニットは、ブライドル王国代表『ヴァイスフリューゲル』!」

「こんにちはー! キューティー☆リールよ!」

「こんにちはー。んと、ぷりてぃー☆ふぇいとふぉー」

「よ、よろしく……ら、ラブリー☆モニカだ!」

 

 盛大にダストが飲み物を吐いた。横のホマレは滅茶苦茶楽しそうであった。

 

 

 

 

 

 

「あ゛ぁぁぁぁぁ。これもう逃げられないやつですよね。アイリスちゃんが見てるとこでわざと失敗とかするのは無理無理カタツムリですし……。もう詰んでて出れない略してツンデレとかそういう感じになってません?」

「いや今更だし訳わからんし。ほれ、いいから覚悟決めな」

「然り。チエル君、最早君がやれることは最良のパフォーマンスをアイリス君達に見せつけることだけだ。諦めてユニちゃんズの名を世界に知らしめるといい」

「……ああぁぁぁもぉぉぉぉ! 分かりましたよ! 諦めてなかよし部の名をちぇるちぇるっと世界に知らしめてあげちゃいますよ!」

 

 深呼吸をし、チエルは表情のギアを普段より一段階上げる。アイリスが見ているからというのは勿論あるが、やると決めたのならばカルミナに失望されないだけの姿を見せなければならない。彼女はそんな決意を固めていた。どっちみちここで自分達に負けるようなアイドルユニットはカルミナに挑戦する資格なし。何様だお前的な発想で、カルミナすこすこ侍はレジェンドアイドルの頂点のためのバリケードになろうとしていた。

 

「では、次の登場ユニットは! ブライドル王国代表『聖テレサ女学院なかよし部』!」

「は~い! ちぇるるるる~ん♪ みんなお待たせー! ただいまご紹介に預かっちゃいました、ご存知テレ女のアイドル、私たち~――」

「ユニだ」

「クロエ」

「ちえるんでっす☆ 三人合わせて~――」

「ユニちゃんズです」

『なかよし部です!』

 

 おー、と控えの舞台袖で三人の姿をアイリスは見ている。その目はキラキラとしており、そして負けませんと闘志も燃えていた。ペコリーヌはそんな妹を笑顔で見ており、これは負けられませんねと隣の少女に言葉を紡ぐ。

 

「……そうね」

「あれ? どうしたんですか? キャルちゃん」

「あたしは、あんたたちみたいに神経図太くないのよ……。アルカンレティアの時だってやりたくてやってたわけじゃないし」

「あ。……そう、ですよね。ごめんなさい、無理矢理誘っちゃって」

「いや、もうそれはいいのよ。ちょっと愚痴りたくなっただけだし。そうじゃなくて、失敗したらどうしようって緊張してんのよ」

 

 はぁ、と溜息混じりでそんなことを言ったキャルを、ペコリーヌはキョトンとした顔で眺める。何言ってるんですか、と割とマジトーンの疑問を飛ばした。

 

「キャルちゃんが一番上手でしたよね?」

「上手じゃない! あたしは全然! これっぽっちも! 上手じゃない!」

 

 アルカンレティアとアクシズ教徒が育んだ誇り高き驚異の猫耳美少女は伊達ではなかった。あのイカれた宗教団体を虜にするだけのことはあり、身体能力でゴリ押す王女姉妹より洗練されたパフォーマンスを見せ付けたのだ。クリスティーナはそれをもってしてアイリスとペコリーヌをとことん煽ったが、結果として上達したのでまあ良しだろう。

 そんなこんなでなかよし部のパフォーマンスも終わる。次のユニットが壇上へと向かう中、その次の出番であるペコリーヌ達も準備を整えていった。

 

「ユニさん、クロエさん、チエルちゃん。凄く良かったです!」

「そうだろうそうだろう。まあ、結果として君達の出番を食ってしまう形になってしまったのだが、これも勝負、致し方あるまい」

「パイセンパイセン、言い方が悪役くさい。うちら別にヒール路線進まないから」

「そうですよ、ヒールは回復呪文だけで十分ですって。ま、そんなわけなんで――アイリスちゃんのパフォーマンス、がっちぇる楽しみにしてるからね」

「――はい。任せてください!」

 

 会場の歓声を聞く限り、どうやら向こうのパフォーマンスは終わったようだ。となれば、次の出番は自分達。スタッフが準備はいいですかとアイリス達に声を掛け、アイリスとペコリーヌは元気よく、キャルは諦め気味に返事をする。

 

「ありがとうございました! では次は――これほんとに大丈夫?――ベルゼルグ王国代表ユニット『プリンセスナイト』!」

「はい! こんにちは! イリスです! よろしくお願いします!」

「おいっす~☆ お腹ペコペコの、ペコリーヌです!」

「――きゃるきゃる~ん♪ アイドルキャルちゃん、華麗に登・場・にゃ~♪」

 

 ばばん、と登場する三人組。関係者席にいる二人――クレアはもう開き直ったのかサイリウムを振っていたが、レインは完全に目が死んでいる。そしてダクネスもやっぱり目が死んでいた。

 

「な、なあ……カズマ」

「心配するな。あいつはちゃんと覚悟の上だ」

 

 そしてダストはリオノールが先に登場したせいで感覚が麻痺したらしく、アイリスとペコリーヌよりキャルの方に注目してしまった。思わず彼はカズマを見たが、カズマが迷いなくそう言ったので、ダストはああそうかと返事をすることしか出来ない。

 

「いやぁ、いい感じに仕上がってるねぇ、キャルちゃん」

「そうね。アルカンレティアの皆も喜ぶでしょう。ラビリスタ、録画も出来ているわね?」

「当然。永久保存版だよ」

 

 勿論カズマは、これを向こうに中継しているアクシズ教徒のやべートップ二人のことはガン無視である。

 

 

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