プリすば!   作:負け狐

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アベンジャーズ


その169

「それではラストバッターは、ベルゼルグ王国代表、『真紅目の白妖精龍(レッドアイズ・フェアリー・ドラゴン)』!」

 

 名前が呼ばれる。それを聞いて、めぐみんはシェフィとコッコロに目配せをした。分かっているだろうな、と合図をした。

 

――お前が欲しいインパクトとかっこよさを重視するなら、初っ端に名乗りを上げるのはむしろ悪手だ。

 

 カズマの言葉が頭の中に木霊する。そうですね、自分達はアイドルの頂点に立つもの。セオリーに縛られていては何にもならない。

 

――観客の目を集めてからの方が、絶対に名前を覚えてもらえる可能性が高い。だから、まずやることは。

 

 シェフィとコッコロも、カズマのアドバイスをしっかりと心に留めている。コッコロにいたっては間違いなく刻み込んでいる。

 ん? と観客は一瞬ざわついた。名前を呼ばれたのに、肝心のアイドルユニットが出て来ないのだ。何かトラブルか、そんなことまで考えた。

 が、次の瞬間。ステージに突如吹雪が巻き起こる。驚きに声を上げた観客のその眼の前で、まるでそこから舞い降りたかのように、三人の少女がステージに出現していた。

 そのまま、三人は歌い出す。力強い歌声、突き抜けるような歌声、包み込むような歌声。登場のインパクトとそれらが合わさり、観客たちはあっという間に魅了された。

 

「うわぁ……やってくれるわねあいつら」

「凄いです……。あれは、お義兄様のアイデアでしょうか」

「でしょうね。ったく、そういうところだけしっかりやるのよねぇ」

「えっへへ~」

「何であんたが嬉しそうなのよ」

 

 キャルがジト目でペコリーヌを見る。が、彼女はそうでしたかと首を傾げるのみ。ちなみにめっちゃ笑顔である。アイリスはそんな姉を見て物凄く悔しそうな顔をした。

 そうこうしている間に、めぐみんたちのパフォーマンスは終わる。歌と踊りの最中に、それぞれの『らしい』名乗りをあげることによって、三人のキャラクターは強烈な個性として残ることになった。

 本選出場者全てのパフォーマンスが終わり、いよいよ審査と結果発表だ。ここでエキシビジョンへと進むアイドルが四組まで絞られる。出場者も、関係者席で見守る面々も、この瞬間ばかりは皆一様に固唾を呑んで見守っていた。

 

「発表します! アイドルフェスエキシビジョンに出場する上位四組、その中でも栄えある第一位に輝いたのは――『真紅目の白妖精龍(レッドアイズ・フェアリー・ドラゴン)』!」

 

 会場が割れんばかりの歓声に包まれる。めぐみんは堂々と胸を張り、シェフィとコッコロはそんな彼女を口々に称える。勿論、敗れたアイドルユニット達も、皆笑顔で拍手をしていた。

 

「では残りの三組、惜しくも届かなかったが、エキシビジョン進出を決めたアイドルユニットは――『プリンセスナイト』! 『ヴァイスフリューゲル』! そして、『聖テレサ女学院なかよし部』だぁぁぁぁ!」

 

 再び割れんばかりの歓声が響く。やりましたよ、とペコリーヌはアイリスとキャルに抱き着き、いえーいとVサインをするリオノールと真似をするフェイトフォーの横で、モニカが若干目の光を無くしかけていた。

 

「で、どするチエル」

「いやこれ無理無理の山盛りじゃないですか。アイリスちゃんの目が思いっきり言ってますもん。チエルたちとアイドル活動略してアイカツしたいって」

「うむ。間違いなく彼女は我らユニちゃんズとの共演を求めているだろう」

「それな。……んじゃ、ま、やっときますか」

 

 ぽん、とクロエがチエルの背中を叩く。そうですね、と短く返事をしたチエルは、一歩前に出てみんなありがとーと手を振った。

 

 

 

 

 

 

「コッコロたん! コッコロたーん! コッコロたぁぁぁん! こっ、ころ……こーっ、コロォォォォ、コアァァァァ!」

「手遅れね」

 

 自作のうちわをブンブンと振っている夢の女神を横目に、アクアはコーラをがぶ飲みしながら超大画面で映し出された向こうで行われているアイドルフェスを眺めていた。その横には、同じくジュースを片手に観客と化しているエリスの姿もある。

 

「でも……本当に、凄い熱気ですね」

「どっちが?」

「いや向こうですよ。アイドルフェスかぁ……私も、挑戦しても良かったかも」

「えー。ダクネスとか絶対断ると思うわよ」

 

 実際向こうで死んだ目してるし。ワイプでもうどうにでもなーれ状態のダクネスを映しながら、アクアは頬杖をついてポテチを齧る。それを見たエリスも、まあ確かにそうですね、と苦笑していた。

 

「それに? エリス程度じゃうちのキャルには敵わないし? なんてったってアルカンレティアとアクシズ教徒が育んだ誇り高き驚異の猫耳美少女だもの」

「……先輩も割と向こうのこと言えないですよね」

「なんでよ。アクシズ教の巫女として、日々アクシズ教徒を影で導いているキャルを可愛がって何が悪いの?」

 

 悪くない、というかエリス教徒を見守る自分としては非常に助かっている。そうは思ったが、それを口にすると間違いなく眼の前の先輩女神は調子に乗るので彼女は言葉にしなかった。

 

「というか。エリスの方はどうなの? アイドルフェス頑張ってくれてる信徒とかいないわけ?」

「あはは……。私のところは、その、根が真面目というか、こういうのに向いていないというか」

「ああ、面白みがないのしかいないってことね。駄目よエリス、時にはね、こうパーッと楽しむことも教えてあげなくちゃ。せっかくの人生なんだから、やりたいことはやりたい時にやりたいだけやらせてあげる、それが女神ってものよ」

「やりたくないことをやっているわけではないんですけどね……。でも、先輩の言う通りかもしれません。ダクネスも、もう少し緩くなってくれても」

「ごめんなさいエリス。手の平返すようで悪いけど、あの子は十分はっちゃけてると思うわ」

 

 ううむ、と悩むエリスにアクアが若干引き気味に返す。そういうところなのよね、と先輩風を吹かせるような表情で彼女はエリスを眺めていた。

 そんな二人をよそに限界オタク街道まっしぐらであったアメスが、ピクリと何かに反応するように動きを止めた。アイドルフェスの中継とは別のモニターを呼び出すと、そこの光景を映し出す。

 

「どうしたのよアメス。って、うわ、なにこれ?」

「トロール、ですか? 人に変装しているみたいですけど」

 

 何かあったのだろうか。そんなことを思いながらアメスを見たアクアとエリスは、即座に見るんじゃなかったと視線を逸らした。目が据わっている。一瞬しか顔を見なかったが、彼女が一体何を考えているのかなどその一瞬だけで即座に分かった。

 

「ま、まあほら。アイドルフェスを立ち見に来ただけのトロールかもしれないじゃない? ね?」

『ここが、お目当てのアイドルの集まるステージだな』

「そうですよ、ほら何だかそういう感じの会話が――」

『さあ、チャーリー様とダニエル様のために、アイドルを片っ端から奪っていくぞ!』

 

 指差していたエリスの動きが止まる。えぇ、と視線をモニターに戻すと、明らかに暴れてさらう気満々の顔が見えた。アウトである。

 

「コッコロたんの舞台を汚すなんて、どうしてくれようかしらあいつら……」

「お、落ち着いてくださいアメスさん! そんな心配しなくても」

「そうよ! あそこにいる連中のラインナップ見てみなさい、多分あんなの瞬殺だから」

 

 ここで止めないと女神の力を無断で行使して間違いなく始末書沙汰だ。せっかく最近平和なのに、こんなことで残業を増やしたくない。水の女神と幸運の女神の心は一つであった。

 そんな二人の必死な説得に、アメスは渋々であるが手を下ろす。分かったわよ。そんなことを言いながら、一応念のためとモニターに一人の少年を映し出した。

 

「ちょっとした天啓くらいならセーフよね?」

「ど、どうですか先輩? あれセーフです?」

「……多分、忠告レベルならいいんじゃない? 知らないけど」

 

 

 

 

 

 

 関係者席で敏腕プロデューサー面をしていたカズマがそれに気付いたのは偶然であった。周囲にいる面子が面子なので、無意識に敵感知やその他諸々の斥候スキルを使っていたが故だ。何だかそうした方がいいと猛プッシュされた気がしたのだ。

 

「何だか向こうが騒がしいな……」

 

 席を立ったカズマは、エキシビジョンのための準備で第一部が終了したステージを横目に、何があったのだろうかとそこに近付く。どうやら警備の兵士達のようだが、随分と慌てた様子である。

 

「お? どうしたんだ?」

「ダスト。いや何かあっちが騒がしくて」

 

 ほれ、と兵士達を指差す。ふーん、と興味なさげにそれを見ていたダストは、まあ気にすることはないだろと踵を返した。が、彼は席に戻らない。彼は彼で何だか無性に嫌な予感がしたのだ。こっちは女神の天啓とは無関係である。

 そんなダストを他所に、カズマは兵士達の会話を盗み聞いた。どうやら怪しい集団がこのフェスの会場へと突入しようとしているらしい。他国の王族や重鎮の警備に重きをおいているため、こちらへの対処がどうにも後手に回りそうだとかなんとか。最悪フェスを中止させ、避難を優先させることも検討しているらしい。

 そこまでを聞いて、何だその程度かとカズマは安堵の息を吐いた。魔王軍幹部が来たわけでもなく、デストロイヤーが突っ込んできたわけでもない。何だかよく分からない怪しい連中など、もし警備の兵士の手が足らなくとも、ペコリーヌ達がいれば瞬殺だろう。

 

「……あー、ったく」

 

 その代わり、アイドルフェスは中止になってしまう。ペコリーヌも、コッコロも、あれだけ頑張って、笑顔で楽しんでいたイベントが変な連中のせいで台無しになってしまうのだ。

 

「しょうがねぇなぁ! おいダスト!」

「あん? 何だよカズマ」

「フェスのエキシビジョンまでまだ時間あるだろ? ちょっと付き合え」

 

 何言ってんだお前、と言わんばかりのダストを無理矢理巻き込み、カズマは先程盗み聞きした情報を頼りに件の場所に向かう。道中に説明を聞いたダストは、何でそんな面倒なことをと非常に嫌な顔をしていた。

 それでもそのままついていくあたり、彼は彼で何か思うところがあるらしい。

 

「つーか、大丈夫なのか?」

「話を聞く限りチンピラの集団みたいだし、よっぽどの高レベルが紛れてたり、実はモンスターだったりしなけりゃ平気だろ」

「それもそうか」

 

 そんなことを言いながら、二人はそこに辿り着く。なるほど確かに、素行の悪そうな大柄な男たちがフェスの会場に向かってノシノシとやってきているところであった。警備の兵士らしき男が、そんな連中に警告をしている。これ以上こちらの言うことを聞かないのならば実力行使も辞さない。そんなことまで口にしていた。

 大柄な男たちは、それを聞いてふんと鼻を鳴らす。やれるものならやってみろと、逆に兵士達を挑発していた。数こそ少ないが、王都の兵士だ。そこまで言われたならば、後悔するなと暴徒鎮圧用の武器を構え。

 

「グルァァァァァ!」

 

 大柄な男の一人がトロールへと変貌したことで、対処が一瞬遅れた。持っていた武器ではモンスターを倒すことが難しい。それに加えて不意打ちを食らったことで、兵士はあっさりと吹き飛ばされてしまう。そこで動揺した隙を狙って、残りの男たちもトロールの正体を現すと兵士に襲いかかった。

 

「カズマ」

「……結構な数がいるな……。よし、なかったことにするか」

「おせーよバカ。気付かれた」

 

 数人の兵士を殴り飛ばしたトロールたちは、完全に油断していたことで気配を消していなかったカズマたちを見やる。何だお前ら、とメンチを切りながらノシノシ歩みを進めてきた。

 

「通りすがりの者です」

「だよな、カズマ。じゃあ、そういうことで」

「逃ガスト思ッテイルノカ?」

「やっぱり駄目かー!」

 

 ひぃぃ、と後退りするカズマを見て、トロールは見下したように笑いながら更に距離を詰めた。一歩、また一歩と足を踏み出し。

 そして見事にトラップに引っ掛かる。

 

「ぶはははははは! ぶぁぁぁぁぁか! そんな簡単に引っ掛かんじゃねぇよ!」

「ほれおまけ。《狙撃》!」

 

 先頭が麻痺したことでバランスを崩したトロールに、カズマがダメ押しで矢を放つ。当然罠入りなので、何の警戒もしていなかったトロールが纏めて吹き飛んだ。ドサリと数体のトロールがあっさり倒されたことで、残りが数歩後ろに下がる。

 

「俺を誰だと思ってやがる。魔王軍幹部を倒した凄腕冒険者、カズマさんだぞ!」

 

 ドヤ顔で宣言したそれに、トロールの顔色が変わった。顔を見合わせ頷き合うと、どこからか取り出した角笛を構え、思い切り吹く。

 先程までいた集団と同じくらいの数のトロールが、追加で二組、現れた。

 

「よし、凄腕冒険者カズマ。後は任せたぞ」

「待てよ大親友! こういう時は一緒だろ?」

「やなこった! 俺はさっさと帰って――」

 

 数が絶対有利になったからなのか、トロールがそんな二人に襲いかかる。一応罠を警戒したのか、今度は少数で道を塞がないように。

 ダストはそんなトロールの攻撃を槍でいなすと、お返しとばかりに突き上げた。カエルの引き潰れたような声を上げ、巨体が宙を舞う。帰るっつってんだろ、と動かなくなったトロールを見下ろしながら言葉を続けた。

 

「……お前、そんな強かったっけ?」

「あぁ? しょうがねぇだろ、約束だったんだからよ。ったく、勘取り戻すのに苦労したんだっつの」

 

 もしこの場にリオノールがいたら、間違いなく彼女は求婚していた。冗談半分ではなく、割とガチ目に。約束していたのだ、ライン・シェイカーが再び槍を振るう時は――。

 

「ま、いいや。じゃあダスト、前衛任せた」

「無茶言うな! この数俺一人でどうしろっつーんだよ!」

「え? お前強いし、いけるだろ?」

「てめぇんとこの脳筋腹ペコ王女と一緒にするんじゃねぇよ!」

 

 ギャーギャーと文句を言いながら、しかし警戒は緩めない。というかここで緩めたら死ぬ。元ドラゴンナイトであろうと、ブランクが有る上にドラゴンが傍らにいない以上そこまで強いわけではなし。カズマに至ってはそもそもステータスがガチバトル出来るようになっていない。

 トロールもそんな二人の様子を見て何となく察したのだろう。ジリジリと包囲するように、二人の行動範囲を狭めていく。その要所要所で遠距離罠を設置したカズマと追撃のダストにより数が多少減らされたが、それ止まりだ。

 

「ダスト、念の為に言っておくけどな、俺はもう魔力がない」

「詰みじゃねぇか。この数は無理だぞ……」

 

 ニヤリ、とトロールは笑う。それは良かった、と包囲を狭めていく。カズマもダストも、既に逃げる方向に舵を切っているので、この連中をどうこうする気が全くない。その代わり、周囲の様子をしっかりと観察することだけは怠っていなかった。

 だから、気付いた。

 

「やれやれ。何をコソコソしているかと思ったら」

 

 す、と大きな帽子を被った小柄なエルフが現れる。トロールはその乱入者を怪訝な目で見ていたが、だからどうしたと構わず踏み出した。先程それで痛い目にあっているのにも拘わらず。勿論、その一歩がトロールの最期の動きであった。一瞬にして蜂の巣にされた巨体は、立ったまま絶命する。

 

「何だ坊や。オマエもユースティアナ様達の出番までの暇潰しか?」

 

 際どいドレスに鎧のパーツをつけた美女が、剣の一振りでトロールを数体薙ぎ倒す。明らかに遊びの動きなので、彼女の言う通り暇潰しなのだろう。

 そこで動きの止まった別のトロールは、気付くと周囲が壁に覆われていることに気付いた。全く身動きが取れず、そしてその壁は段々と狭まり。

 グシャリ、と圧縮されたトロールの隣では、毒々しいほどの輝きを持った雷で作られた剣にズタズタにされている個体がある。

 

「まったく。これで中止になったらアルカンレティアの連中がうるさいからね」

「ふぅ。キャルのせっかくの晴れ舞台。きちんと残すためにも、余計な邪魔はいらないわ」

 

 真っ赤な装束の眼鏡の女性と、着物に狐耳の見た目女性。その言葉とは裏腹に、間違いなく何か企んでいるかのような口調であった。

 そうして現れた四人に、カズマとダストは呆気にとられる。え、どゆこと。そんなことを思いながら、まあでもこの四人がいるなら問題ないだろうと気を取り直し。

 

「ざ~んねん。ライン君、私もいるんだよ☆」

 

 空から舞い降りた紫がかった長い髪の糸目美女は、一瞬だけ目を開くと、その赤い瞳で視たトロールを纏めて消滅させた。文字通り、塵も残さず消されたことで、横にいたトロールが恐怖を覚え。

 

「シェフィの邪魔を――するな」

 

 飛んできた斬撃によりミンチとなった。もはやトロールであったことなど想像もつかないような肉塊になったが周囲に広がり、生き残ったトロールはそれに足を取られて尻餅をつく。

 そうしてカズマとダストの眼前に現れた乱入者は六人となった。

 

「さて、手早く片付けましょう」

「少しは楽しませてくれよ☆」

「やれやれ。随分と豪勢だね」

「何でも構わないわ。時間が掛からないのなら」

「うんうん。良いものが見れそうだね~♪」

「……行くぞ」

 

 ネネカと、クリスティーナと、ラビリスタと、マナと、ホマレと、ゼーンが。

 揃ってトロールの前に立ったことで、カズマとダストはそっと後ろに下がった。これ間違いなく俺達いらないな。そんな確信を持って。

 

 

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