プリすば!   作:負け狐

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スキル名をプリンセスナイトにするのもなぁ、と思ったんであえて名前を出さない


その17

「はい、久しぶり」

「――へ?」

 

 ガバリと起き上がったカズマは、そこが先程まで自分がいた場所とは違う空間だと気付いて目を見開いた。そして同時に、目の前にいる存在がどんなものかも。なにせ、一度出会っているのだから。

 そう、己が死んでしまった時に。

 

「俺、死んだの?」

「その時はエリスっていう女神が案内するから、違うわよ」

 

 目の前の少女の姿をした存在に、アメスにそう言われて胸をなでおろす。とりあえず死んだわけではないということだけ分かれば一安心だ。

 そこまで考え、本当に一安心なのかと思い至った。視線を彼女に向け、なんで自分はこんな場所にいるのかと問い掛ける。

 

「今ちょっと気絶してるから、丁度いいって呼んだの」

「軽いな女神様」

 

 そうツッコミを入れたものの、気絶という単語に眉を顰める。記憶を辿ってみるが、どうにもおぼろげではっきりしない。

 確か、何か黒い布を見たような。

 

「まあ、向こうでのトラブルには関与しないから、そこは頑張んなさい」

 

 こほん、と咳払いをする。ダウナー系の無表情はそこまで変わっていないが、その口元は僅かに上げられていた。

 

「佐藤和真さん。むこうで、随分と頑張っているようね」

「お、おう? 俺ってそんな頑張ってたっけ?」

「まさかアクセルの街にアメス教会が出来るとは思ってもみなかったわ」

 

 ああ、そのことかと手を叩く。別にあれはなんか知らないうちにそうなっていただけで、別に自分の頑張った結果ではない。が、とりあえず自分の成果だと言われたからにはそういうことにしておこうとドヤ顔を決めた。それほどでもないですよ、といけしゃあしゃあと言い放った。

 

「それで、教会も出来て、少しずつアメスの名前が知られてきたのよね」

「いやぁ、頑張った甲斐がありましたね」

「ええ。コッコロたんは凄くよくやってるわ」

「おい今『たん』って言った?」

 

 そういう人なの、と思わずカズマが後ずさる。そんな彼を見ながら、大事な信徒なんだから当然でしょうと言い切った。そう言われるとそうかもしれない、とちょっぴりカズマは日和る。

 話を元に戻す。そんなわけで、とアメスはカズマに笑みを浮かべた。

 

「あんたの加護を、強化できるようになったの」

「……おお、これはひょっとして、ファンタジーによくあるパワーアップイベント……!」

「まあ概ねそういう感じで構わないわ」

 

 そういうわけで、とアメスはカズマの胸に手を添える。これでよし、と彼本人は何の感覚も得られないまま、アメスは満足そうに頷いた。

 

「じゃあ、そろそろ起きるみたいだから。頑張ってね」

「いやちょっと説明何も受けてないんですけど!? チュートリアルはもう少し親切に!」

「冒険者カードにスキルが載っているから、そこの説明を読んでちょうだい」

「投げやりだな! ちょっとアメ――」

 

 ガバリ、と起き上がった。場所はここ最近見慣れた教会の一室。視線を巡らせると、心配から安堵に変わった表情のコッコロとペコリーヌが。そして、バツの悪そうに、それでいて機嫌が悪そうで、それでも心配そうな顔で立っているキャルの姿も見える。

 

「主さま! よかった……」

「コッコロ、俺は……?」

「カズマくん、頭は大丈夫ですか?」

「何でいきなり罵倒されにゃいかんのだ!?」

「そうじゃなくて、頭、コブとか出来てません?」

「へ?」

 

 ペコリーヌの言葉を聞いて頭を擦ると、確かに後頭部が膨れている。いうほど痛みはないが、しかし強打したことは間違いなさそうだ。となると、気絶していた原因はこれで。

 そして何故そんなことになったのか、といえば。

 

「ああ、そう言えばキャルのパンツスティールしたんだったか」

「……何よ。あたしは謝らないからね。あんたがあんなことするから」

 

 むすー、とした表情のまま、キャルはカズマに近付いていく。それで、大丈夫なの? とペコリーヌと同じような言葉を紡いだ。

 

「……そうだな。ちょっと女神様と会話したくらいで後は何もないぞ」

「――っ」

「コッコロちゃん!? 大丈夫ですよ! ほら、カズマくんピンピンしてますから!」

 

 ふ、とコッコロがノーモーションで倒れた。それを慌てて抱きとめたペコリーヌは、彼女の頬をペチペチさせながら必死で呼びかけている。

 流石のカズマも軽口でコッコロが倒れたとなれば一大事、急いで立ち上がると彼女の手を取り大丈夫だと声を掛けた。

 

「ほ、んとう、ですか……? 主さま」

「ああ。ほれこの通り」

 

 そう言って笑いかけると、彼女はホッとした表情で立ち上がる。目に見えて狼狽えているキャルの姿が見えて、大丈夫ですからと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 コッコロも落ち着き、そしてカズマも段々と思い出してきた。確かあれは、と棚を見やる。

 

「あそこの上の荷物を取るのが面倒だからって《スティール》したんだったな」

「そうしたら、たまたまキャルちゃんがそこを通りかかって」

 

 不幸な事故であった。とりあえずカズマはそういうことにしておく。ともあれ、突如スカートの中身が消失したキャルがパニックを起こし犯人に向かって手当たりしだいに物を投げ。

 クリーンヒットした結果後頭部を強打し失神した。そう、不幸な事故であった。

 

「何にせよ、主さまが無事でよかった……」

 

 若干涙目のコッコロを見ていると、なんだか自分が極悪人のように思えてくる。とりあえずあの程度を横着するのはやめておこうと心に決めた。

 そうしながら、そういえばと右手を見る。確か気絶するまで自分はキャルのパンツを握りしめていたはずだ。そこまで考え、死亡フラグが立ちそうなので振って散らした。

 あ、と声を上げた。自身の冒険者カードを取り出すと、スキルの一覧から覚えているものだけをピックアップする。その中に、見覚えのないものが一つ見付かった。

 

「どうしたのよ、いきなり」

「いや、さっき女神様に会ったって言っただろ」

「またコロ助が倒れるわよ……」

「まあ聞け。その時に、俺に新たな力を授けると言ってくれたんだ」

「ペコリーヌ、病院の手配お願い」

「ユカリさんがいますから、すぐ診てもらいましょう」

「主、さ、ま……」

「待て待て待て! これ見ろって! ほら、本当だろ!?」

 

 頭おかしくなった。そう判断した三人がカズマを診てもらおうと行動をし始めたので、慌てて止めると自身のカードを突き付けた。そこに書いてあるスキルを見せて、ほらどうだと言い放つ。

 

「ほんとだ、見たことないスキルね……」

「素晴らしいです、主さま」

 

 へー、と単純に驚いたリアクションをするキャルと、褒め称えてくれるコッコロ。そんな二人とは違い、ペコリーヌは首を傾げていた。どうしてカズマなのか、と。

 

「これ、見る限りコッコロちゃんが信仰してるアメス様の加護ですよね? カズマくんって、いつの間にアメス教徒に?」

「いや、別に俺は違うぞ。ただ、俺が……」

「俺が?」

「選ばれし者だからだな」

 

 沈黙が降りた。あーはいはい、とまともに聞く気のないキャルはうんうんと頷いているコッコロをよそに部屋を出ていくことにする。頭ぶつけたんだから安静にしときなさいよ、と去り際に言い捨てていくのが何とも彼女らしかった。

 

「じゃあ、わたしもそろそろ部屋に戻りますね」

「流したな? 思い切り流したな!?」

「わたくしは知っております。主さまがアメス様に選ばれしものだと」

 

 分かってくれるのはコッコロだけだ。つい思わず彼女の胸へと誘われるように向かい、そしてハグされよしよしと撫でられる。その一連の行動をするコッコロは非常に満足そうであった。

 大丈夫そうだな、とペコリーヌもキャルに続いて部屋を出て自室へと向かう。そうしながら、彼の言っていた言葉を少しだけ考えた。女神に選ばれたもの、それは確か、王宮でもよく言われている勇者候補と呼ばれる者達で。

 

「……もしそうだったら、やばいですね☆」

 

 ふふ、と笑顔を浮かべ、ペコリーヌは鼻歌を歌いながら自室までの道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 そんな事があった二日後。ちょっと頼みたいことがあるのとシラフのユカリがやってきていた。麦しゅわならないですよ、というカズマの言葉に、そっちじゃないと唇を尖らせる。

 

「もう、真面目な話なのよ」

「俺も真面目に言ってますが何か?」

「うぐ……そりゃ、ちょこちょこ仕事サボってここに来て麦しゅわ飲んでるのは認めるけど」

「ユカリさま。この間、魔道具店にてアキノさまが捜しておられましたが」

「その時は非番だったもの……アキノさんの無茶振りに付き合う理由もなかったし」

 

 目を逸らしながら、まあいいじゃないかとそれらを流した。そんなことより、頼みたいことがあるのだ。そう言って改めて一行を見る。

 一枚の紙を取り出すと、それを机に置いた。何だ何だとそれを覗き込むと、どうやらクエストの説明らしきものが書かれている。内容は、湖の浄化。

 

「これは、確か以前に見たことが」

「あー、そういやあったっけか」

 

 何となくおぼろげだが、言われてみれば。そんなことを思いながら、それがどうしたんだとユカリに尋ねた。尋ねはしたが、わざわざ持ってくるということはそういうことなのだろう。色々察しつつカズマは彼女の言葉を待つ。

 

「実はね。受けてくれる人がいないからって、教会のプリーストが持ち回りでやることになっちゃったんだけど、エリス教とアクシズ教がやり終えた後に」

「アメス教にも、ですか」

 

 コッコロの言葉に、ユカリがコクリと頷く。ぽっと出の教会に無茶なことを、と抗議をしたものの、街の貢献は教会ならば当たり前のことだと返されてしまい、渋々ながら了承する羽目になったらしい。

 

「エリス教会一つ潰して作ったから、結構風当たり強いのよねぇ」

「それは……」

「いーのいーの。割とすぐに浸透して、信徒も増えてきたからやっかんでるのよ。特にアクシズ教が」

「何かちょくちょく聞くけど、そのアクシズ教って? あんまり良い話聞かないが」

「はぁ? 悪い話しかないわよ。好き勝手に生きて、別の宗教に嫌がらせして、それで最後は誰かのせいにして……」

「キャルちゃん……?」

 

 あからさまに嫌そうな顔でそうぼやくキャルを、ペコリーヌがどうしたのだと見やる。は、と我に返った彼女は、なんでもないと視線を逸らした。そんなことより話の続きだと強引に今の自分の発言を消し去る。

 まあ言いたくないのなら、とユカリも話を戻す。他の三人もそれに習い、特にカズマは完全に聞かなかったことにしていた。

 

「この浄化を、手伝って欲しいの」

「わたくしは構いませんが、その」

「コッコロがやるなら俺は反対しない」

 

 毎度のやり取りとも言えるそれを聞いて、キャルもはぁ、と溜息を吐く。何だかんだで世話にはなっている以上、こういう時に断る気もない。そうは思ったが、正直自分が手伝えることなどないような。隣を見ると、ペコリーヌもわたしやれることありますかと首を傾げている。

 

「汚染された湖にはブルータルアリゲーターが住み着いちゃったのよ。だから」

「護衛ってわけね。いいわよ」

「任されました」

 

 浄化をしている間は無防備。なので、何かあった時に守ってもらえる存在がいると心強いというわけだ。それくらいなら問題ない、とキャルもペコリーヌも二つ返事でそれを受ける。

 ありがとう、とユカリは笑顔でお礼を述べ、それじゃあ早速向かいましょうと皆を促した。あまりにも急だったので一行は一瞬呆気にとられたが、まあ水源に関係するのならば急いだ方がいいのも事実。途中ギルドに寄ってクエストの手続きとアルバイトを休むことを伝え、そのままの足で街から少し離れた場所にある湖へと向かった。

 成程確かに水は濁り淀んでおり、これである程度浄化をした後なら元々はどのくらいだったのだろうと思わず顔を顰めてしまうほどだ。

 

「まあ、元々持ち回りでやることだし、私達が浄化し終える必要もないわよ」

 

 だからそう身構えなくて大丈夫、とユカリはコッコロに述べる。はい、と頷いてはみたものの、彼女は目の前のこれを途中で放置して帰ることを許せそうになかった。

 

「それで、どのくらい浄化するんですか?」

「そうね……向こうは八時間くらいとか言ってたけど」

「なげぇよ!」

「あっちは数がいるから持ち回りだからね。私達は二人だけだし、まあ二・三時間で丁度いいわよ」

 

 それでも長いな、と思いながらカズマは二人が湖に近付いていくのを眺める。キャルとペコリーヌは湖にいるブルータルアリゲーターが出てきた時のために警戒をしつつ、少し離れたところから同じように見学をしていた。

 ふと、カズマは思う。冒険者カードを取り出し、あの時のスキルをもう一度確認すると、これは丁度いいんじゃないかと口角を上げた。

 

「おーい、コッコロ、ユカリさん」

「どうされました? 主さま」

「何か問題でもあったの?」

「いや、ちょっと試したいことがあるんだが、いいか?」

 

 やけに自信満々でそう述べるカズマを見て、ユカリは怪訝な表情を浮かべた。向こう側のキャルとペコリーヌも、何をやる気だという目で彼を見ている。つまり、これは彼の独断。

 

「分かりました。どうぞ、主さまのお好きになさってください」

 

 とはいえ、コッコロが了承したのならばこちらとしても無理に断る理由もなし。もし本当に、どうしようもないことだったのならば、コッコロはちゃんと断るはずだ。多分、きっと。

 よし、とカズマが気合を入れた。確かこうしてこうやって、と対象を決めるようにコッコロとユカリを視界に入れると、右手を突き出し目を見開く。

 

「っ! これは……!」

「な、何!? これ」

 

 瞬間、コッコロとユカリは自分の能力が急激に跳ね上げられたのを感じた。プリーストの使う支援魔法とは違う、まるで自分自身が底上げされるような感覚。まさしくこれは、神の如き。

 そのまま湖に浄化魔法を行う。底上げされた二人の魔法は、水の淀み濁りを塗り替えるようにきれいな水へと変えていった。力の底上げは程なくして終わったが、短時間でもその効果は驚きを隠せない。

 

「凄い……! カズマくん、こんな力を隠し持って――」

「主さま! 流石です。わたくし、感動いたしま――」

 

 賞賛の言葉を述べながら振り向く。そして、二人は目を見開き言葉を止めた。慌てるようなキャルとペコリーヌも視界に映る。

 それはそうだろう。なにせ。

 

「カズマ!?」

「カズマくん!?」

「主さま!?」

「カズマくん!」

 

 気合を込めたポーズのまま力尽きぶっ倒れているカズマの姿があったのだから。

 




ド、ドラ、ワニゴ~ン(予定)

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