プリすば!   作:負け狐

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宴は終わりだ!


その170

 アイドルフェス会場。関係者席とはまた別枠の、厳重な警備が敷かれている王族達の貴賓席。そこで、一人の男性が難しい顔をして第二部の始まりを眺めていた。その横にいる赤毛の少年が、そんな男性に怪訝な顔を向ける。

 

「どうした? ラグクラフト」

「ああ、いえレヴィ王子。大したことではありません」

「そうか。いや、父上がお前の手腕を称賛していたにも拘わらずそんな顔をしていたからな。少し気になってしまった」

 

 レヴィ王子と呼ばれた少年がそんなことを述べると、ラグクラフトははははと苦笑した。勿体ないお言葉です、と頭を掻く。そうしながら、本当に大したことではございませんと彼に述べた。

 

「先程小耳に挟んだのですが、何でもこの会場にモンスターが侵入しようとしていたとか」

「何だと!? そ、それで、ここは大丈夫なのか?」

「……はい。会場に辿り着くことなく、魔物の群れはチリ一つ残らず殲滅させられたらしいとのことです」

「そ、そうか。まあ、武闘派で野蛮なベルゼルグ王国なのだから、その程度は出来て当然だろう」

「だとしてもあの数のトロールを瞬殺とか頭おかしいんじゃないのかこの国……」

「どうした?」

「いえ、何でもありません」

 

 レヴィにそう返すと、ラグクラフトは小さく溜息を吐いた。あのアクセルハーツ推しの男の手下をわざわざこちらで誘導してやったというのに、こんな結果になるとは。心中でぼやきながら、彼はまあいいと気を取り直す。これで、あのアイドル狂いの元魔王軍幹部候補が再び暴れてくれるのならば、こちらとしては願ったりだ。幸いエルロード国王はまだ帰国する予定はなし、隣のレヴィ王子は子供で御しやすい。このまま自分が実権を握っていれば、エルロードの経済を潤わせることなど造作もないだろう。

 

「……ん? 何か違うぞ……? まあいいか」

 

 魔王軍としての仕事を他者に押し付け、自分は完全に宰相としての仕事に集中しようとしているこの男。その名はラグクラフト、魔王軍諜報部隊長のドッペルゲンガーにして、国の上層部でカルミナの活躍を誰よりも喜んでいる者である。カジノで経済を食い潰す国から、トップアイドルが所属するエンターテイメントの国に押し上げた立役者である。既に自分の手から離れたカルミナを、後方パトロン面で眺めている男である。

 ぶっちゃけホマレもこのままなら放置でいいかな、と若干考えている状態である。

 

「しかし、王子も何か浮かない顔ではございませんか?」

 

 ラグクラフトは少年を見る。エキシビジョンで勝つのはカルミナだから、と後方パトロン面全開の彼は、その余裕でもってレヴィの表情を指摘した。対するレヴィは、まあ少しな、と小さく溜息を吐く。

 

「わざわざここまで来たのだから、婚約者だというベルゼルグの姫の顔でも見ておこうかと思ったのに、まさかいないとは」

「所用で欠席、とのことですが」

「こんな田舎で何の用があるのやら……」

 

 はぁ、と今度は大きく溜息を吐いたレヴィは、そろそろ第二部の始まるステージを見ながらぽつりと呟く。

 

「顔も分からない田舎姫より、向こうで輝いているアイドルの方がよっぽど」

「何か言いましたかな?」

「……別に。あの、『プリンセスナイト』とかいうアイドルユニットは悪くないかもな、と思っただけだ」

「推しが出来ましたか」

「別に、そういうわけじゃないからな。違うからな」

 

 

 

 

 

 

 トロールを殲滅させたカズマ達が関係者席に戻ってこられたのは、それからもう少し経ってからであった。理由は言わずもがなである。

 

「まったく、王国騎士というのはあんな落ち着きのない人ばかりなのでしょうか」

「まあまあ。それだけアタシ達のこと買ってくれたってことで、いいんじゃない?」

「軽いわね。まあ、私としては間に合えば何でも良いけれど」

 

 若干ボロったネネカ、ラビリスタ、マナが席に着く。そこから少し離れた場所にカズマが座り、その後ろにはやはり若干ボロったゼーンが座った。向こうの三人とは違い、彼はクリスティーナの奇行にはそこまで思うところはないらしい。

 

「ドラゴンにとっちゃこういうのは慣れっこってことか」

「あそこまで突拍子もないのはそうそうないけれどね」

 

 カズマの少し横の席、ダストのぼやきにちょっぴりボロったホマレがそう返す。彼女とマナはクリスティーナを見た時点で予想が付いていたので他の面子より被害が少ない。誤差だが。

 どのみち、クリスティーナ自身もユースティアナとアイリスのステージを見たかったので早々に切り上げ、ルンルン気分で戻っていったので普段の彼女と比較すれば被害はゼロと言っていいだろう。カズマとダストの心は大ダメージを負ったが。

 

「ほらほら、気を取り直して、ラインくん。姫様とフェイトフォーちゃん、モニカちゃんの出番が来るよ」

「モニカはぶっちゃけ見られたくないと思ってるだろ絶対……」

 

 まあ見るけど。からかうネタ探しも兼ねて、ダストはかつての主君、相棒、そして同僚の晴れ姿を焼き付ける。その視線は『かつて』などではなく、今でも繋がりを感じさせるものであることを、当の本人は気付いていない。知るのはめちゃくちゃいい笑顔でステージとダストを見比べているホマレのみだ。

 

「なあ、ゼーン」

「何だ?」

「いや、滅茶苦茶今更だけど。良かったのか?」

「何がだ?」

 

 その一方で。カズマはシェフィの出番をじっと待っているゼーンに声を掛けた。が、どうやら彼の心配は杞憂だろうと確信できるような声が返ってきたので、じゃあいいやと話を打ち切る。こいつまさか自分とシェフィがホワイトドラゴンという超貴重種なの忘れてないだろうな。そんなことも若干思った。

 勿論ゼーンは忘れていない。が、ベルゼルグ王国が保証するという言葉を一度信用したからには疑わないし、何より他国のブライドル王国もホワイトドラゴンをアイドルとして出場させている。守護竜も見ているので何の問題もないだろう、というのが彼の考えである。当然ながらカズマはその辺り何も知らない。

 ともあれ。騒動など何もなかったことになったアイドルフェスは、いよいよ第二部、エキシビジョンが始まる。それぞれ国を代表するレジェンドアイドルが控えの空間に現れ、参加者達はほぼ皆一様に盛り上がった。

 まあ、勿論例外は存在する。ブライドル王国のレジェンドアイドルは、よろしくお願いしまーす、と軽く挨拶された自国の第一王女に苦笑していた。いつもこんなことやってますね、と返され、リオノールは若干気まずそうに視線を逸らす。アイドルにも言われるって相当だぞ。

 そしてベルゼルグ王国のレジェンドアイドルは、いわずもがなアクセルハーツ。アクセルの面々と挨拶を交わし、まあアタシの方が可愛いけど、と返されるお馴染みのやり取りもあった。

 なにより。

 

「……ようやく、会えましたね」

「うん。待ってたよ」

 

 めぐみんの目の前には、一人の少女。この場にいるアイドルの中でも最も輝いているといっても過言ではない、トップオブアイドル。カルミナのリーダー。

 

「まさか、あなたがかの有名なカルミナのリーダーだったとは」

「あはは、ごめんね。……怖気付いちゃった?」

「むしろワクワクしていますよ。そっちはどうなのです? あなたが認めた私達は、ちゃんとここまでやってきましたよ」

 

 そう言って不敵に笑うめぐみんを見て、彼女は楽しそうに笑った。勿論こっちもワクワクしている。そう言って、パチリとウィンクをした。様子を窺っていたすこすこ侍が流れ弾で倒れたが、特に関係ないので割愛しておく。

 

「――では、改めて名乗りましょう! 我が名はめぐみん! 紅魔族の、いえ、世界一のアイドルに到達せしもの!」

「――歌って戦うアイドル『カルミナ』のリーダー、ノゾミ。ファンからの愛称はノゾミン。アイドルのことだけは、負けないし、譲らないよ」

 

 視線がぶつかり合う。火花が散るかのように、背景に雷が鳴るかのように。二人のそこには、誰も割り込めない空気が存在していた。

 シェフィはそんな二人に思わず圧される。が、横で彼女を支えるようにコッコロが立っていたことで、すぐに気持ちを持ち直した。そんな二人を見ていたカルミナの残り二人も、笑みを浮かべ一歩前に出る。

 

「同じく『カルミナ』メンバー、チカです。お互い、悔いのないようにしましょう」

「改めて名乗るのも若干恥ずかしいですけど、『カルミナ』メンバー、ツムギです。手加減はしませんからね」

「ええ。トップアイドルですもの、胸を借りるつもりで行くわ。……え? あ、シェフィよ」

「コッコロ、と申します。こちらも、精一杯、やらせていただきます」

 

 フェス代表戦の一位と、レジェンドアイドルの頂点がぶつかり合う。エキシビジョンはこれ以上ない盛り上がりが期待できるのは間違いないであろう。当然、他のレジェンドアイドルも、残りの代表戦選出組も、それに負けるつもりなど毛頭ない。歴代でも類を見ない、伝説となるアイドルフェスが今、始まろうとしていた。

 

「さて、我らもそろそろ出番だろう。いくぞチエル君……し、死んでる……」

「いやアホやってないで。チエルー、いい加減起きとけー」

「うぅ……カルミナが……ライバルと真っ向からぶつかり合うとか……。ちょっとこれどういうことです? こんなのチエルの知ってるカルミナじゃない……だが、それがいい! 新たな一面大発見で尊み凄いんですけどこれどうなってんですか!? いや勿論カルミナが他のアイドルを下に見てるなんてことはこれっぽっちもチリ一つないことは分かりきってることで今更説明する必要なんかなしんこなんですけど、それでも先輩後輩みたいな? そういう立ち位置になってるんじゃないかってのがチエル調べだったんですよ。でも違ったんです、カルミナは、アイドルを目指す人は皆ライバル! それでいて皆志を共にする仲間! っかー! チエル解釈違いしてました、そうですね、そうなんですね! あぁそうか、新たな一面とかじゃなくて、これこそが本当のカルミナ! シン・カルミナ! なんてことですか! これを知らずに今までチエルはカルミナカルミナ言ってたなんて……! あー恥ずかしい! チエル恥ずかしかっ! 生きておられンゴ! あ、勿論言葉の綾なんでこれからもふつーに生きてきますけど、でもそれくらいの衝撃っていうか、こう人生の転機ってこんなところに転がってたんだって。こうして人はまた一つ大人になるんですね。ああ、チエルはどうして大人になるんでしょう、なんてちょっぴりおセンチメンタルを抱えながら、ちぇるちぇるっと前を向いていこうと思いました。かしこ」

「量が多くてしつこい。胃もたれするわ」

「ちょっとクロエ先輩、人のポップでキュートな語りをアブラマシマシラーメンみたく言うのやめてくれます?」

「ぼくもクロエ君に同意だ。もう少し読者のことも考えたまえよチエル君」

「いやそういう配慮とか別にいらないんで」

 

 

 

 

 

 

 アイドルフェスは大盛況であった。結局カルミナを筆頭にしたレジェンドアイドルに代表戦選出者達は敵わなかったが、それは決して見劣りしていたというわけではなく。

 

「わぁ……凄い量ですね」

 

 今彼女達の目の前にドドンと置かれているファンレターの量がそれを物語っているだろう。アイリスが持ってきたそれを見て、ペコリーヌは思わず目をパチクリとさせている。ユニット全体のものと個人個人のものは別らしく、それぞれ箱に分けられていた。

 

「あ、これ、見てください。ペコリーヌさんの笑顔に癒やされました、って……。わたしも、こんな風に人を笑顔にできたんですね……」

「何を言っているのですかお姉様! お姉様は常に沢山の人々を笑顔にしています。もっと誇るべきです」

「そうそう。あんたもうちょっと自分に自信持ったら?」

 

 ファンレターを見てじんわりしているペコリーヌに、アイリスとキャルがそんなことを述べる。そうですか? と首を傾げる彼女に向かい、そうだそうだと追撃をした。

 そうしながら、キャルは横にいるカズマを見る。こういう時励ますのはお前の仕事だろと言わんばかりに。

 

「ほら、あんたも言ってやんなさいよ。ペコリーヌのファンが増えたからって妬いてないで」

「お前そういう勝手な決めつけは良くないって教えてもらわなかったのかよ」

「お生憎様、アクシズ教にそんな教えは欠片もないわ」

「完全復帰してんなお前……」

 

 ふふん、とドヤ顔で言葉を返すキャルを横目に、カズマはやれやれと肩を竦める。そうしながら、別にそんなんじゃないとはっきり言ってのけた。彼の考えていることはそのことではなく違うことだ。

 そもそも、彼の中ではファンレターが届こうが気にすることではないのだ。

 

「大体だな、俺はペコリーヌの彼氏だぞ? 遠くから見てる奴らとは立つステージが違うんだよ」

「うざっ」

「そういう簡潔なのやめてくれない? 地味に傷付く」

 

 二人のやり取りを見てペコリーヌが笑う。そうですね、と笑顔で彼に言葉を紡ごうと口を開き。

 それよりも前に、ちょっと待ったとばかりにぬいぐるみが割り込んできた。

 

「大丈夫です。本物と違って、わたしはカズマくんだけのものですよ」

「ぬいペコ……」

「……え? あれ? 今ここってわたしが甘えていい場面でしたよね?」

「早いもの勝ちです」

 

 カズマの腕にひっついたぬいペコは、無表情気味ではあるもののドヤ顔を隠すことなく本物に向ける。それを暫し眺めていたペコリーヌは、ゆっくりと立ち上がると無言でカズマに近付いた。

 

「てい」

「いや何してんのお前!?」

「駄目、でしたか?」

「……全然。むしろもっとしてくれても、いいんだぜ?」

 

 腕に抱き着いたペコリーヌ相手に、キメ顔でそんなことをカズマは抜かす。そうして両手にペコとなった彼を、キャルは呆れた様子で、アイリスは若干の殺意を持って眺めていた。

 

「ま、すぐに終わるからほっときましょ」

「……ぶぅー」

「心配しなくても、あんたのお姉様はちゃんとこっちも構ってくれるわよ」

 

 ぺしぺしとアイリスの頭を撫でながら、キャルはファンレターを眺めていく。個人宛のそれを見ながら、あれ、と怪訝な表情を浮かべた。二人に比べて、自分宛のファンレターがやたらと多い。

 

「まあ、キャルさんは私達の中で一番目立っていましたし」

「そうですそうです。キャルちゃん、とっても輝いてましたよ! やばいですね☆」

「ほら戻ってきた。いや、それにしたってこの量はおかしくない? っていうか、何か見覚えのある字が混じってるような……」

 

 ううむ、と悩むキャルだが、その理由を知っているのはこの場でカズマだけだ。ペコリーヌもアイリスも、そしてぬいペコも知らない。そしてカズマも決して口にしない。口止めされているからだ。マナとラビリスタに。だから絶対に言わない。

 ――アルカンレティアに、アイドルフェスが中継されていたことは。

 

「ま、いいわ。別に顔を合わせることもないでしょうし」

 

 知らないことは幸せだ。カズマは一人、うんうんと心中で頷いていた。

 尚、セシリーがバラしてキャルが絶叫し一週間ほど引きこもるのがこれから三日後である。

 

 

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