プリすば!   作:負け狐

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祭りの後に。


その171

 シェフィの住処、もとい、幽霊アンナの屋敷。そこでファンレターを広げているめぐみんは、しかし満足とは言い難い表情であった。理由は言わずもがな、カルミナとの勝負に負けたからである。

 

「沢山応援してもらったのね、私たち」

「はい。みなさまの暖かいご声援、とてもありがたく思います」

 

 が、いかんせんユニット残り二人がこういう時はポワポワなので、思い切り悔しがることも出来ない。まあ彼女としても普段アクセルで『頭のおかしい研究所の爆裂娘』扱いなので、こう手放しで称賛されると心地よい。頭のおかしい、が両方にかかっているのがミソである。

 

「とはいえ、やはり負けっぱなしというわけにはいきません。次こそは、カルミナに勝ってみせます」

 

 ぐ、と拳を握り宣言する。そんなめぐみんを見て、コッコロもシェフィも笑顔を見せた。その通りだと言わんばかりに頷いた。

 とはいえ。ここから向こうに対抗するためには、更なるレベルアップの他にも、新しい要素を加えたいところである。そんなことを思いながら、めぐみんは考え込むように腕組みをし。

 ファンレターを覗き込んでいる幽霊とぬいぐるみに目を付けた。

 

「幽霊の方のアンナ、ぬいコロ。どうです? 次はあなた達も出演するというのは」

『面白そうだけど、私地縛霊だから無理かなー』

 

 彼女の提案に、残念そうに幽霊アンナは返す。性格上、やれるのならばやりたいのだろう。移動できる範囲でライブをやればワンチャン、とめぐみんは割と本気で考えた。

 そしてもう一方だが。

 

「……どう思われますか? 本物のわたくし」

「……? そちらのお好きなようにすればよいのでは?」

「ですが、わたくしは所詮偽物の…………いえ、そうですね。わたくしはわたくし、コッコロではなく、ぬいコロとして存在している。それを、失念しておりました」

「そうよ、ぬいコロ。あなたはママとは違うもの」

「……わたくしを抱いて寝る免罪符にしておられるようにしか聞こえませんが、まあとりあえず置いておきましょう」

 

 本物のコッコロとは少し違う皮肉混じりの返しをしながら、ぬいコロはめぐみんに視線を戻す。そういうことでしたら、やれるだけやってみましょう。そう答え、ペコリと頭を下げた。

 

「ありがとうございます。これで新たなる『真紅眼の白妖精龍(レッドアイズ・フェアリー・ドラゴン)』がアイドル業界に牙を向くわけですね」

「ええ。新たな獲物を狙うわ」

「シェフィさま、その発想は少し……」

「ドラゴンの感性はどちらかといえばわたくしたち魔物寄りですので」

 

 ぬいコロの言葉に、まあそういうことなら仕方ないでしょうとめぐみんも流す。コッコロも若干苦笑気味ではあるが、それならばと頷いた。

 次の機会が果たしていつになるのか。それはこれからの活動次第だが、ともあれ、彼女達のアイドル活動はこれからも続いていくようである。

 

「さて、ではまずはアクセルハーツに挨拶に行きましょう」

「成程。早速相手の縄張りを奪うのね」

「いえ……うちの研究所のエロ鎧が煩いので、アイドルの先達に筋を通しに行くつもりだったのですが……。あの、シェフィ? 流石の私もそこまで常に弱肉強食思考はしてませんからね?」

「……そうなの?」

「急角度からドラゴンの流儀ぶっ放すのやめてくれます!?」

 

 流石にそこらへんはもう少し育ててやってください、とめぐみんの視線が物語っていたので、コッコロはお任せくださいと笑顔でそれを了承した。ぬいコロはオリジナルほどイッちゃってはいないので、そんな彼女を一歩下がった場所から眺めるのみである。

 

 

 

 

 

 

 そんなアメス教会の周囲の騒がしさとは裏腹、でもなく、アクセルは今日も賑やかであった。変人密度も絶好調である。アイドルフェスも終わり、各国の要人も参加アイドルも帰国していく中、よりにもよってブライドル王国代表戦を勝ち抜いた連中が残留したからだ。

 ちなみに表向きは聖テレサ女学院の特別短期留学である。ここで何を学ぶのか、というのは基本的に詳しく語られないが、まあメンバーがメンバーなので問題ないだろう。

 

「ふむ。他国の文化に触れるのは新たなインスピレーションを得るための刺激足り得る。ぼくとしては願ったりではあったが、クロエ君とチエル君はよかったのかね?」

「ん? いやまあ、これ何だかんだ別口に学院長から報酬出るみたいだし、親や弟も遠慮すんなとか言ってくれちゃったし……」

「そこら辺は何だかんだ姫様なんだなぁってやつですよね学院長。普段適当ぶっこいてやりたい放題してるようでやっぱり適当でやりたい放題ですけど、ちゃんと国民のこと考えてるみたいな。ノブレス・オブリージュ的な? まあその分、自分が守らなくてもいいやみたいな感じのポジにセットした人相手にはめちゃくちゃ迷惑かけるんですけどねあの人。おかげでチエルはか弱いのに先輩たちとちぇるっとひとまとめにされてこんな理不尽な……。あ、チエルは留学は勿論オッケーでしたよ?」

「もうちょい会話の容量削ってくんない? 一々消去すンのも疲れんだわ」

「然り。我々の知識の量は有限だ。ぼくはその程度で一杯になるような柔な脳をしていないが、それでも出来るだけ無駄を省きたい。端的に換言すれば、聞き流すのめんどい」

「えちょっとそれ酷くないです? 可愛い後輩の可愛いトークをアクシズ教徒の宗教勧誘みたいな扱いとか、チエルが踏まれてもくじけず咲き誇る野に咲く可憐な花系後輩じゃなかったら、そのままぺしゃんこ枯れ枯れですよ?」

「んで、ユニ先輩。どする? アイリスんとこでも行っとく?」

「そうだな……。フェイトフォー君は例のご主人さまと一緒らしいし、学院長はいわずもがな。ならば、我々は我々で友情を深めに行こうではないか」

「ガン無視!?」

 

 確か今日は王都ではなく、ここアクセルのアメス教会とかいう場所にいるはずだ。そんなことを言いながら、クロエはさっさと歩き始める。ユニもそれに続き、ぶーぶー言いながらチエルも続いた。

 たのもー、と教会の扉を開く。丁度ファンレターの整理を終わらせていた一行は、やってきたなかよし部を見て思い思いの反応をした。ペコリーヌはこんにちはと笑顔で、キャルは大して反応せずああいらっしゃいという態度で。

 そしてアイリスは目を輝かせ、カズマは非常に嫌そうな顔をした。ぬいペコは初対面なので傍観者になるつもりである。

 

「皆さん、どうしたのですか?」

「ん? いや、うちらも特別短期留学でこっちいることになったじゃん? だから、どうせなら友達と一緒にいようかっつって」

「……っ! はい! では――あ、えっと」

「ふふっ。行ってらっしゃい、アイリス」

「行ってきます! お姉様!」

「ちょいちょい待ち待ち。まだどこ行くかとかノープランだから。もうちょいここいるから」

「あ、そうでしたか」

「アイリス君はどうやら姉君がいると年相応になるようだな。ふむ、成程、これがギャップ萌えというやつか」

「ん~、それはちょっと違うくないです? だって元々アイリスちゃん可愛いじゃないですか。普段のアイリスちゃんも今のアイリスちゃんもどっちも可愛いですし、ギャップにやられるというより二属性持ちの倍々ダメージみたいな。大抵の相手に有利取れる強キャラみたいな方向性のが正しい感じしません?」

 

 ほんと煩いなこいつら。そんなことを思いながら、カズマは関わらない方向に舵を取る。初対面の時のやり取りの時点でそうだが、あの三人は間違いなくこちらのペースに引き込めないタイプの変人だ。ああいうのは厄介だし、何よりアイリスの友人という部分がだいぶマズい。そんなことを思いながら、彼はぬいペコを抱えたままキャルやペコリーヌのいる場所へと合流した。

 

「何ていうか、あんたに似てるわよね、あの三人」

「お前それ訴えたら勝てるやつだぞ」

「何でよ。好き勝手にペース作ってくところとか似てるじゃない」

「ん~。まあ、確かに言われてみればそんな感じもしますね」

「お前までそういうこと言うのかよ」

「え? でも、ふざけてるように見えて、大切な仲間のことはしっかり考えてるところとか。似てると思いますよ」

「そうですね。そこはわたしも本物に同意します」

 

 純度百パーセントでそんなことをのたまったペコリーヌとぬいペコに、カズマはなんとも言えない表情になる。何これ俺どういうリアクションしていいやつ? と視線を彼女たちから思い切り逸らした。

 

「何か向こうラブでコメっちゃったりしてますね」

「それな。なんあれ、アオハルかよ」

「……そうですね」

「おや、アイリス君。君は姉君の恋愛事情に異を唱える立場なのか。……ふむ、君が望むのならば、手伝うのも吝かではないが」

 

 ユニの言葉に、アイリスは視線を向こうから彼女に戻す。そうしながら、ゆっくりと首を横に振った。確かに文句は腐るほど出てきますけれど。そう続けながら、少しだけ困ったように笑った。

 

「お姉様のお相手は、あの人がいい、と思ってしまうのです」

「ふーん。……ま、アイリスがいいなら、いいけど」

「ですね。チエルとしてはイマふたつくらい足らないですけど」

「私としてもお義兄様はナシです。……嫌いでは、ないのですけれど」

「成程。大好きな姉を取られたような気がして、中々認められない複雑な妹心というやつか。ここにきてまさかの妹キャラ大爆発とは……これは、ぼくの立場が脅かされかねない」

「パイセンパイセン。あんたこの四人で一番年上だから」

「しかしクロエ君。実年齢で見てしまえばフェイトフォー君が一番年上だ。見た目との差異を考慮すれば、ぼくも十分妹キャラとしてやっていくだけの素質を持ち合わせている」

「いや無理ですって。ユニ先輩普段から小難しい単語並べてこまっしゃくれたクソガキ感醸し出してるじゃないですか。百歩どころか百万点ばらばらっと譲っても背伸びした子供博士ですよ?」

「ふぇぇ~、そんなことないよ~。アイリスおね~ちゃん、あのお姉ちゃんがユニのこといじめるの~」

「え? ……え?」

「ほらアイリス怯えてンじゃん。――いや違うな、この人こんなことするんだって何か評価書き換えてる顔だわこれ」

「待ち給え。アイリス君、恐らく今の君の評価には訂正すべき部分がある。まずは下方修正を止めて欲しい」

「え? いえ、ご心配なく。私の周りと比べればこの程度で失望することはありません」

 

 普段自分の近くにいる騎士はクレアであるし、姉の昔馴染はポンコツ大富豪とどうしようもないドMだ。そもそも王城で宴おっぱじめて半壊させる大貴族の当主がいるので、今更この程度で付き合いを考え直すはずがない。嘘偽りなく、アイリスはユニにそう言ってのけた。

 

「あ、でも。コッコロさんと会うのは少し控えてもらってもいいでしょうか」

「何かめちゃくちゃ低評価連打されてますね」

「はは、ウケる」

 

 残念ながら、アイリスのこれは彼女達の思っている理由とは若干違う意味である。

 

 

 

 

 

 

 さて。短期留学生がそんなことをしていることなど露知らず、というか放任しているブライドル王国の第一王女が何をしているかといえば。

 

「ほれほれ。どう? ダスト?」

「何がですか?」

「何って、ハーレムよハーレム。こんなに可愛い子が沢山いるんだから、最高でしょう?」

「はんっ」

「鼻で笑った!?」

 

 そのままダストは件のブライドル王国第一王女、リオノールを引き剥がす。これ前回もやったぞ、と盛大に溜息を吐きながら、彼の後ろにいたモニカに押し付けた。押し付けられた方も同じく溜息を吐き、彼女の首根っこを引っ掴む。

 

「さて、姫様」

「別に今回は制限もないでしょ? ホマレのお墨付きだし」

「……それは、そうですが」

 

 ふふん、と勝ち誇った顔のリオノールを見て、モニカの顔が顰められる。その隙に少々強引に彼女の拘束から抜け出したリオノールは、今度は逆にモニカの手を掴み前に出た。

 

「はいどーん」

「うわっぷ」

「あだぁっ!」

 

 そしてダストにぶつける。もんどりうって倒れた二人を見て、彼女はケラケラと笑っていた。彼の横にいたフェイトフォーが、何をしているのか分からないと首を傾げている。

 そんな彼女と目線を合わせ、あなたも混ざったらどうかしら、とリオノールは悪魔の囁きを放った。

 

「ん。だちゅと、ふぇいとふぉーもまぢゃる」

「え? うおっとぉ!?」

「ん? 待てフェイトフォー、貴公まで来たら、うわっ」

 

 三人でもみくちゃになる。幸い場所は舗装された道なのでそこまで酷く汚れはしないが、しかし綺麗かといえば当然否なわけで。

 ああもう、と転がったままモニカがぼやいた。アイドルをやらされ、あの格好をよりにもよってかつての同僚で悪友のこいつに見られた。その上で暫くベルゼルグ王国に滞在するので、距離をおいてほとぼりを冷ますことすら出来ないときた。

 

「私が一体何をしたというのだ……」

「……あー、そのだな。……似合ってたぞ」

「違う! 嬉しくない!」

 

 叫ぶ。ダストを引っ張りながら立ち上がると、一緒になって転んでいたフェイトフォーも立ち上がらせ服の汚れをパンパンと払った。そうしながら、ギロリと後ろを振り向くと。

 気は解れた? と笑っているリオノールの姿が見えた。

 

「だから最初からラインは別に気にしないって言ったでしょ? いやまあ、巻き込んだのは私が悪いからそこは素直に申し訳ないけれど」

 

 そう言って頭を下げたリオノールは、視線を彼女からダストに向ける。その視線を受けた彼は、やれやれと頭を掻くと、モニカに向き直った。

 

「あそこまで姫様の被害者だと、流石の俺もネタにしにくいというか」

「おいやめろ。それはむしろ私がいたたまれん」

「うん。もにか、結構たのちんでたよ?」

「フェイトフォー!?」

 

 ここでホワイトドラゴンの援護射撃である。見事にフレンドリーファイアを食らったモニカは、違う違うんだと両手で顔を覆いながら逃げ出した。流石にやりすぎたなぁ、とリオノールも若干バツの悪そうな顔で頬を掻いている。

 

「……姫、モニカに愛想尽かされたら終わりですよ」

「わ、分かってるわよ……。うん、後でちょっと土下座して謝っておくわ」

「それはそれであいつの胃に悪いと思う」

 

 はぁ、と溜息を吐いたダストは、リオノールの手を取る。いきなりのそれに目を見開く彼女に向い、彼はどこか意地悪そうに口角を上げた。

 後で、とかそんな悠長なことを言ってるんじゃない。そう述べ、彼は先程モニカが走り去っていった方向へと歩みを進めた。

 

「だちゅと、もにかとひめちゃまの仲直りちゃちぇに行くの?」

「おう。あの二人が喧嘩したままだと面倒くさいからな」

 

 くしゃりともう片方の手でフェイトフォーの頭を撫で、ダストはそのまま彼女の手を握る。真ん中にダスト、左右にリオノールとフェイトフォー。そんな状態で、彼はスタスタと歩いていく。

 

「……ねえ、ライン」

「何ですか?」

「手、握ったままでいいの?」

「離したら逃げるでしょう?」

「……まあ、そうだけど」

 

 だけれども、これは。この握り方は。お互いの指を絡ませ合うようなこの握り方は。意図せずなってしまったものの、流石に恥ずかしいのではないだろうか。そんなことを思いながら、リオノールはダストの横顔を見て。

 

「……あれ?」

 

 こちらを見ていない。その事に気付いた彼女は、ニンマリと笑って彼との距離を詰めた。

 

「ちょ!? 姫」

「どうせ逃さないんなら、これくらいくっついていたほうがいいでしょ?」

「さっき転んだから、汚れてますよ」

「私は気にしないわ」

「……はぁ」

 

 振り解かない。それを確認したリオノールは先程とは違う笑顔を見せた。いたずらに成功したかのようないつものものではなく。

 恋する、一人の少女のような笑顔を。

 

「ん? ひめちゃまとだちゅと、らぶらぶ?」

「そうよ☆」

「違う!」

 

 もっとも、フェイトフォーのその言葉にすぐさまいつもの笑みに戻ったのだが。

 ちなみに、勿論モニカはこの後彼女を一時間ほど説教した。

 

 




第九章、完!
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