プリすば!   作:負け狐

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なぜかここから


第十章
その172


「おい、あれがそうなのか?」

「ん~?」

 

 アルカンレティアのとある場所。そこに集まっているスライムを覗き込みながら、フードを被った少年は隣の褐色の少女に問い掛けた。が、彼女はのらりくらりと気怠げな生返事をしたのみで、彼の言葉を肯定も否定もしない。

 

「おい! 聞いてんのか! あれがそうなのかって言ってんだよ!」

「も~。コエ大きいよ~。向こうに気付かれたら~、めんどくなーい?」

「だったらさっさと答えろよ! ほれ、あれ!」

 

 少年の指差す方に視線を向けた少女は、やる気なさそうな顔でスライムの群れを暫し眺め。

 そーそー。と非常に適当な肯定を告げた。

 

「テメーふざっけんなよ!」

「別に~、ふざけてるとかないし~。何かあっちのめっちゃ弱くなってそうでー、あんま面白くなさそ~っていうか」

 

 ぴょこんと頭に生えている角のような半透明なものを長い銀髪と共に揺らしながら、少女は口元に手を当てそう述べる。対する少年は、フードの下の顔をあからさまに歪め、まだ幼さの残るものの鋭い目付きを彼女に向けた。勿論少女は動じない。

 

「弱くなってるって、どの程度だ?」

「ん~。まあ、カリザきゅんのオトモにする程度には~、強いんじゃなーい?」

「……要するにテメーよりは弱ェってことか……んだよ、つかえねぇな」

「ン・ン・ン~。そんなに心配しなくても、おねえちゃんが~、カぁリザきゅんをしっかり可愛がってあげるし~♪」

「それが嫌だっつってんだよ!」

 

 がぁ、とカリザと呼ばれた少年が叫ぶ。そんな彼をニヤニヤと楽しそうに見ていた少女は、あ、と何かを思い出したように目を瞬かせた。憤懣やるかたない様子のカリザに向かい、ね~ね~、と声を掛ける。

 

「んだよ。オレはテメーの話なんぞ聞いてる暇は」

「あっち、こっちに気付いたっぽい~?」

「……はぁ!?」

 

 ば、と振り向く。先程まで集まって何かをしていたはずのスライムたちが、こちらをじっと見詰めていた。その視線からすると、友好的とは言い難い。

 それがどうしたとばかりにカリザは鼻で笑った。自分はその辺のガキとは違う。スライムが群れていようとも全く怖くない。

 

「て・ゆ~か~、あれほとんどところてんスライムだし~、ぶっちゃけコワいとかなくな~い?」

「だからうるっせぇっつってんだろ! ってか、真ン中のスライムは違ぇだろうが!」

「そだね~。で・も~、それだけっしょ~? あー、カーリザきゅん、ホントはコワいんだ~」

「なわけねェだろ! おいそこのクソスライム! オレはテメェに用があんだよ」

 

 隣で思い切り煽ってくる少女にあっさりと乗せられ、カリザはスライムたちの中心部に指を突き付けた。ところてんスライムはそんな彼の気迫に圧されたのか、その直線上からザザッと離れる。動じていない中心部のスライムだけが、ゆっくりと彼の方を振り向いた。

 とりあえず黒い。そして何だか触手のようなものが下に生えている。スライムというよりクラゲのようなそれは、カリザを見ると目を細めた。

 

「何だ小僧。俺に何の用だ?」

 

 スライムが喋る。普通ならばそれはかなりの異常事態であり、場合によっては即座に逃げ出す状態だ。人型でもないのに人語を話せるモンスターはよほどの上位種。それを分かっていない無知無謀な者は即座に屍へと変わり得る。

 では知っていて尚その態度ならばどうだ。

 

「決まってンだろ。おい、テメェ、オレの手下になりやがれ」

「……ふざけてるのか? この俺が貴様のような子供の手下になるはずがないだろう」

「あァ? テメェに拒否権なんざねーよ。クソみてぇなスライムの分際で、何強キャラぶってんだよ。いいから黙ってオレの手下になってろ」

「小僧……死にたいらしいな」

 

 触手が伸びる。ふんぞり返って立っているカリザを貫かんとするそれに、彼は避ける素振りも見せない。そのままカリザは触手にあっさりと貫かれる。などということもなく。べし、と彼の体に軽く当たるに留まった。

 黒いスライムはそれを見て目を見開く。予想以上に自分の力が落ちている。そんなことを考え、そして、何故そう思うのか自問自答を始めた。

 

「おかしい……。いや、違う、俺は強かった……そのはずだ。触れるだけで敵の息の根を止め、俺を見るだけで恐怖し、そして」

「何自分語り始めてンだよ。オレはテメェが触っても死んでねぇし、全ッ然恐怖もしてねーぞ。調子乗りすぎだろ」

「ま・カリザきゅんがヘーキなのは、アタシの守護のオカゲなんだけど~。強がってるカリザきゅん、か~わいー♪」

「テメーは黙ってろ!」

 

 ぷにぷにとカリザの頬を突く少女を鬱陶しげに手で払うと、彼は再度スライムを見る。いいから黙って手下になっとけ。そんなようなことを言い放った。

 

「……覚えがあるぞ。お前たちみたいなふざけた奴らに、俺は……っ!」

 

 は、と何かに気付いたように周囲を見渡す。離れた場所に温泉を引いているパイプが見え、思い出したと彼は呟いた。

 

「そうだ、俺は、あいつに……あの女神の力を借りた猫娘に――」

「おい、話なげーんだよ。いいからさっさと来やがれ」

「いやいやいや、今思い切り話し始めだっただろうが! じゃない! そもそも、俺は魔王軍幹部でデッドリーポイズンスライムの――」

「はいは~い。ソーユーの、い~から。て・ゆーか、デッドリーポイズンスライムなら、アタシもそ~だしー?」

「……は?」

 

 スライムが少女を見やる。ニンマリと笑った彼女は、右手をドロリと変化させ、そのままカリザを包み込んだ。

 

「ぶおッ! テメっ! ネアぁ!」

「ネアおねえちゃん、でしょ~? あ・そーそーアタシ~、毒らせないのトクイなんよ~。もち、猛毒も作れっけど~、今はめんどいかな~」

 

 ケラケラと笑いながら、少女、ネアがスライムを見る。カリザの代わりに、というわけではないだろうが、彼女は彼が先程言っていた言葉をもう一度口にした。そーゆーわけだから、と言葉を紡いだ。

 

「カリザきゅーんのオトモ、ゲットってことで~。こっち来てもらおっかな~♪」

「ふざけるな! 誰が貴様らなんぞとぶぉ!」

「はいは~い。ホカク、しゅーりょ~♪♪」

「出来んなら最初からやりやがれクソボケぇ!」

「えー、めんどー。あ・じゃ~、カリザきゅんがプリンセスのドレス着てくれたら、次は頑張っちゃおうかな~」

「ざっけんな! オレは絶対にやらなぶおぁ――テメっ、ちょ、うがぁぁぁぁ!」

 

 ズルズルとカリザとスライムを引きずりながら、ネアは上機嫌でその場を後にした。

 残されたのは、主を失い統率が取れなくなった大量のところてんスライムの群ればかり。

 

 

 

 

 

 

 変人奇人のテーマパークアクセル。その街の一角にあるアメス教会に、一人の女性が訪ねてきていた。ギルドでもよく見る女性職員ルナで、珍しい訪問者に一行は首を傾げる。

 

「どうしたんですか? 今日はわたし、アルバイト入ってませんよ?」

「いえ、ペコリーヌさんを呼びに来たわけではなくて」

 

 教会にいる面々を見る。ペコリーヌ、キャル、コッコロ、そしてカズマ。その隣のぬいぐるみも見ながら、彼女は実はと言葉を紡いだ。

 指名依頼が来ています。ルナはそう言って一枚の紙を取り出した。

 

「指名依頼、でございますか」

「珍しいわね、そういうのってもっと有名で高レベルに来るもんじゃないの?」

「いえあの、この街にいるから感覚麻痺しているかもしませんけど、皆さん有名で高レベルですからね?」

 

 ルナがなんとも言えない表情でそう述べる。言われた方は暫し考え、そしてペコリーヌを見た。そういやそうだった、と納得した。いやお前らもだからなとカズマのツッコミが飛ぶ。

 

「んで、そんな有名な一流冒険者パーティーである俺達に、一体どんな依頼が?」

「自分で言いやがったわよこいつ」

「ですが、主さまの仰ることもあながち間違いではないのでは?」

「さっきの話じゃないですけど、何だかんだわたしたち色々やってますしね」

「はい。そんな一流冒険者の皆さんへの依頼が、こちらです」

 

 す、と改めて依頼書を差し出す。どうやら大量に現れたスライムの駆除作業をして欲しいようだが、種族はところてんスライム。正直、指名依頼などせずとも適当に貼っておけば誰かが受けるであろうクエストだ。

 その辺りを問い掛けると、ルナは小さく溜息を吐いた。内容自体はそうですけれど、と紙に書かれているとある箇所を指差す。その依頼があった場所を、指差す。

 

「アルカンレティアなんです」

 

 物凄い音を立て、キャルがダッシュで部屋まで逃げた。バタンと扉が壊れかねないくらいの勢いでドアを閉めると、鍵をかけて開けられないようにする。そうした後、部屋の隅でガタガタ震え始めた。

 

「……何かあったんですか?」

「あ、気にしないでください。で、何でアルカンレティアの依頼がアクセルに?」

「ああ、はい。実はですね、向こうの最高司祭の方の依頼なんです」

 

 そっかー、とカズマはそこで諦めの境地に入った。これ依頼受けない方向に進むと碌な目に遭わないやつだ。そんなことをついでに思う。

 一方のペコリーヌとコッコロは、部屋に閉じこもったキャルのことを考えた。あの様子では、アルカンレティアに行くことは無理だろう。そういう判断をした。

 

「えっと。それって、わたしだけだと駄目ですか?」

「ペコリーヌさま?」

「コッコロちゃんとカズマくんはキャルちゃんを看ててください。その分、わたしが頑張ってきます」

 

 ぐ、とサムズアップをするペコリーヌを見て、コッコロが眉尻を下げる。彼女を一人で行かせるのは心配だが、しかしキャルをあのままにしておくことも出来ない。ベルゼルグ王国第一王女を心配するのは余計なお世話と言われるかもしれないが、大切な仲間を心配しない理由はどこにもないのだ。

 そんなわけで悩み始めたコッコロを見ていたカズマは、ガリガリと頭を掻きながら決定しようとしていた彼女を止めた。待った、とペコリーヌへ声を掛ける。

 

「どうしました? カズマくん」

「俺も行く。な? コッコロ」

「主さま……。はい、お願いしてもよろしいでしょうか」

 

 察した。やはり自身の主は心優しい。そんなことを思いながら、よろしくお願いいたしますとコッコロは頭を下げる。そんな彼女に、じゃあ頼んだとカズマは返した。

 背中に衝撃。おっとっと、とたたらを踏んだカズマは、そのまま肩によじ登ってきたぬいペコが、わたしも行きますと主張してきたので顔を顰める。

 

「いや、お前は留守番してろよ」

「大丈夫です」

「大丈夫じゃないから言ってんだけどな」

 

 ジト目で彼女を見たが、どうやら主張は曲げないらしい。どうする、とペコリーヌを見ると、少し考えはしたが、いいんじゃないでしょうかという返事が来た。

 ペコリーヌがそう言うのならば、実際大きな問題はないのだろう。そう判断した彼は分かった分かったと折れる。が、今度はぬいペコが若干不満そうになった。

 

「えっと、ではサトウさんとペコリーヌさん、ぬいペコちゃんで依頼を受けるということで良かったですか?」

「ルナさま。わたくしとキャルさまもそこに加えていただけませんか?」

 

 大丈夫かどうかは分からないが、キャルが正気に戻れば参加する可能性がある。そんなことをコッコロが述べたので、分かりましたとルナは手続きを行った。もし不参加となっても、このクエストの依頼料は人数で変わらないし、元々パーティーメンバーなので揉めることもない。そんな確信を持っていたので、彼女は別段気にせず進めていく。

 ではお願いしますね、とルナは帰っていく。それを見送った一行は、では早速と準備をし始めた。コッコロは行ってらっしゃいませ、とカズマたちを見送り、そのままキャルの部屋の前へと歩みを進める。

 

「キャルさま」

「……何よ。行かないからね、あたしは絶対に行かないからね!」

「無理に、とは申しません。ですから、まずはこちらに出てきて頂けますでしょうか」

「知ってるわよ。出てきたらカズマがあたしのこと縛ってペコリーヌが担いで連れてくんでしょ!? 絶対に騙されないわよ!」

「いえ、主さまとペコリーヌさまは一足先にクエストに向かわれました」

 

 は、と扉の向こうから素っ頓狂な声が届く。次いで、それは本当なのかという問い掛けが投げ掛けられた。嘘を吐いているわけでもなし、コッコロは扉の向こうの彼女にその通りだと肯定の言葉を返した。

 

「あの、キャルさま? どうかなされたのですか?」

「いや、どうしたもこうしたも……それって、ちょっとマズくない?」

「え?」

「いやだって、あいつら一応付き合ってるのよ? その状態で、二人っきりでクエストでしかも別の街って……」

 

 アルカンレティアは観光地だ。クエストだとはいえ、それなりの宿に泊まれば温泉にも入れるし、くつろげる。二人きりでそんなことになれば、コッコロがいない状態で、恋人同士という免罪符を持っているのならば。

 キャルの頭に嫌な想像が過ぎった。親友と悪友が致している想像は非常に精神に悪い。

 というかそもそも王女と婚前交渉ってアウトじゃないの? そんなことをついでに思った。

 

「ヤバい、ヤバいわよ……あいつ今度こそペコリーヌと混浴する気よ……」

「きゃ、キャルさま?」

「あ、でもペコリーヌが抵抗すればカズマの頭とかトマトみたいにグシャッとなるわよね」

「キャルさま!?」

 

 安心だ、と言わんばかりのそれに、コッコロが思わず叫ぶ。冗談だと彼女は返したが、しかし冗談では済まなさそうな問題はしっかりとぶら下がっていた。

 コッコロはそんなキャルに言葉を紡ぐ。カズマは自分の心配を察してくれただけなのだから、何の問題もない。彼が依頼を受けると述べた時のことを話しながら、彼女はそうキャルへと語った。

 

「いやそれはそれとしてあいつは絶対スケベなこと考えてるわよ」

「キャルさま……」

「何よ。コロ助だって分かってるんでしょ? あいつあんたに知られてるってバレてからその辺緩まってるし」

「それは、その。確かにそうですけれど。……ですが、わたくしは主さまを信じておりますので」

「……はいはい。ったく、しょうがないわねぇ」

 

 やれやれ、と大きな溜息を吐く。ある意味トラウマがぶっ飛ぶ話を聞いたおかげで、引きこもる気分ではなくなっていた。鍵を開け、扉を開く。そこにいたコッコロを見て苦笑すると、彼女は行くわよ、と声を掛けた。

 

「まあ、でも。あたしはあそこに長居したくないし、行くのはもうちょっと後でもいいかしらね」

「かしこまりました。では、ゆっくりと準備をいたしましょう」

「そうしてちょうだい」

 

 ひらひらと手をさせながら、キャルは廊下を歩く。まあ何だかんだいいつつ、二人きりならあいつはヘタレるだろう。首で後ろ手に組みながら、彼女はそんなことを考え。

 

「あ、そうでした。キャルさま、クエストに向かわれたのは、主さまとペコリーヌさまの二人ではございません」

「はい?」

「ぬいペコさまも、同行しております」

 

 キャルの動きが止まる。ぬいペコはペコリーヌを模した魔物だ。分類としては魔王軍でも悪魔でもないのでアルカンレティアでどうにかなることはないだろう。

 問題は、オリジナルと違って割と肉食系なことだ。そうなった原因はカズマだが。

 

「コロ助」

「どうされました?」

「やっぱり、出来るだけ早く行くわよ」

 

 変なことが起きてませんように。そう願いたかったが、あの場所で起きないはずがないだろう、と彼女はほぼほぼ諦めていた。どういうベクトルか、は別である。

 

 

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