プリすば!   作:負け狐

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期待した場面はないので石は投げないでください


その174

 というわけで、案内された部屋でギルドに預けていた荷物を置く。クエストの延長上なので旅行時よりは少ないものの、何だかんだ時間がかかることを想定していたためある程度は用意済みだ。部屋は三人がちゃんと泊まれるようになっているためそこそこの広さがあり、ベッドもきちんと用意されている。寝る場所がないから一緒に、というドキドキエロエロハプニングが確定することはなさそうであった。

 

「……とりあえず、温泉入ってこようかな」

 

 誰ともなしにカズマは呟く。以前ここへ旅行に来た時の温泉イベントは二回。コッコロと混浴した時と、偽姉妹と混浴した時だ。紛うことなきドキドキエロエロハプニングであるが、彼は今回もそんなことをが起きるなどと期待はしていない。

 大嘘である。滅茶苦茶期待している。だから彼は迷うことなく混浴を選んだ。部屋を出る際に、さりげなく混浴に向かうことも口にした。

 

「よし」

 

 何がよしなのか分からないが、混浴温泉には人がいない。泊まる人は多けれど、混浴に入る人はそれほどなのだろう。左右の男湯と女湯からはある程度声が聞こえてくるので、本当にそういう目的ならば別途家族風呂でも予約しているのかもしれない。

 勿論カズマはそこまでするほど度胸がない。予約して、ペコリーヌに「それはちょっと……」と引き気味に断られたら致命傷だからだ。実際はそんな言い方はせずに、それはまだ恥ずかしいから無理ですとか顔を真っ赤にして言ってくれるのかもしれないが、どちらにせよ断られるのならば一緒である。

 だから彼は賭けに出た。この人がいない混浴に彼女が来ることを。ちなみにもし来なくとも、若くて可愛い女の子や美人のお姉さんがやってきたならそれはそれで勝ちらしい。

 

「いやまあ、来ないだろうけど」

 

 誰とはなしに呟く。気付いたら左右の喧騒も少なくなっていた。どうやら丁度穴のタイミングらしい。まるで貸し切りにでもなったような錯覚を覚えながら、カズマはさりげなく女湯側に移動した。このタイミングなら、向こうにやってきたペコリーヌとぬいペコの会話とか聞こえるだろう。そういう算段である。

 と、そのタイミングで扉が開く音がした。え、と思わず間抜けな声を上げ、そして彼は入り口を凝視する。まさかそんな。思わずゴクリと喉を鳴らしながら、カズマは湯気で曇るその入口からやってくる人影を。

 

「これはこれは、お久しぶりですな」

「何でだよ!」

 

 体にバスタオルを巻いたおっさんが立っていた。見覚えのあるそのおっさんを見て、カズマは思い切り叫ぶ。いっそ呪いでも籠もっているかの勢いで叫ぶ。

 勿論裸バスタオルのおっさんは、ゼスタはその程度でどうにかなるはずもなく。はっはっは、と笑いながら、湯船に浸かる前に体を洗い始めた。

 

「ここのところキャルちゃん効果で観光客が増えておりますからな。アクシズ教徒元最高司祭としては、街の治安を見守る必要があります」

「おい理由になってねーぞ」

「勿論、正規の警備隊が仕事をしているのは百も承知。ですが、彼らの目をかいくぐる輩も必ずや出てくるでしょう。そのことで起こる悲劇を少しでも減らしたい。一介の聖職者となった身ではありますが、私はそう思うのです」

「ねえそれで何で混浴に来るわけ? おかしくない?」

 

 カズマのツッコミに、ゼスタはふう、と小さく溜息を吐く。そうしながら、彼はゆっくりと首を横に振った。それは違いますと言ってのけた。

 

「温泉というのは身に纏うものを全て取り払い、無防備極まりない姿になります。もし何かあった時に対処が遅れてしまうこと必至。特に混浴は、男女が共に湯船に入るもの。恥ずかしさで動けないという可愛らしい姿を見られる可能性がある以上、優先的に見回らなければなりますまい」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

 

 理解できない、ではない。理解したくない、が正しい。言っていることは結局もっともらしい言い訳しながら混浴で合法的に美少女とお風呂に入りたいなのだが。それを理解してしまうと、自分が同じ穴のムジナになってしまいかねない。だからカズマはゼスタを理解するわけにはいかなかった。

 

「ふむ。ではカズマさん、あなたはどうなのですか? この混浴に来た理由とは?」

「え? そ、そりゃ、あれだよ。一人でゆっくり温泉入りたかった、とかそういうやつ」

「成程。それは申し訳ないことをしてしまいました」

 

 そう言ってゼスタは頭を下げる。え? 信じるの? そんなことを一瞬思ったカズマは、しかし彼が微塵もここから離れる気配がないことで即座にその考えを消した。とはいえ、ここで会うのも女神のお導き、ご一緒させていただきますよと思い切り居座る気な言葉を聞いて顔を顰めた。

 

「はっはっは、そう邪険にせずともいいではないですか。……ときにカズマさん、キャルちゃんはいつ混浴に来るのですかな?」

「来ねぇよ! こないだのトラウマでアクセルに引きこもり中だっての」

「なんと!? しかしトラウマとは……至高のアイドルキャルちゃんに何たる仕打ちを……エリス教徒、許すまじ!」

「お前らだよ! アクシズ教徒! 細かく言うならアルカンレティアの連中だよ!」

「我々が? はっはっは、何をおっしゃるやら。アルカンレティアのアクシズ教徒はキャルちゃんをとても大事に思っております。決して傷付けはしません。イエスキャルちゃんノータッチの精神ですぞ!」

 

 こいつが最大の原因なんだよなぁ。これ以上話していても疲れるだけなのを覚ったカズマは、もういいから出てけと締めた。キャルが来ないのだからここにいる理由はないだろうと続けた。

 その言葉に、ゼスタは暫し考える素振りを見せる。そうしながら、ゆっくりとカズマを見た。キャルちゃんがいないのならば、あなたは誰と来たのですかな。そう、問い掛けた。

 

「一応言っておくけど、コッコロもいないからな」

「なんと!? くぅ……いやしかし、幼女の汚れなき裸体はそれだけで至高の宝、そう簡単に目にすることが出来ないからこそ輝きは増すもの。決して届かぬ理想を追い求めるのもまた、アクシズ教徒らしいのかもしれません」

「ねえ何でお前シャバにいられるの?」

 

 知っているネームドアクシズ教徒の中でもぶっちぎりの変態である。変人ではなく、変態である。オープンスケベなことを隠さなかったエロ鎧こと聖鎧アイギスと比べると、隠しはしないがオープンとはまた違うねっとりとした変態さがこのおっさんにはあった。

 

「しかし、となると今回はペコリーヌさんと二人で? ……んん? え? そういうこと?」

 

 そんなカズマの思考を他所に、ゼスタは一人話を進めていた。進めて、そして一つの結論に辿り着いた。

 成程、こいつリア充か。

 

「……いえ、ご安心ください。私は他人の恋愛に口出しをするような人間ではありません。愛を育むのならばそれはそれで結構。決して嫉妬などしませんとも」

「本当かよ」

「ええ勿論。ところでカズマさん。ここにいるということは、当然、そういうことだと思ってよろしいのですかな?」

「え? いや、それはそうだろう。俺としてはちょっとした賭けのつもりでここに来たし」

「成程。……そういうことでしたら、このゼスタ、カズマさんの賭けにお付き合いしましょう。一人は寂しいでしょうから」

「あ、うん、それは助か――じゃねぇよ! お前見たいだけじゃねぇか!」

「おかしなことを言いますな。美少女と混浴できるチャンスを、なぜ捨てねばならないのですか?」

 

 そこにからかいは何もなかった。思わずカズマが一瞬圧されるほどのそれは、百パーセント本気でそう言っていた。余計たちが悪い。

 カズマはここでキャルの気持ちが何となく理解できた。成程こいつはぶっ殺しとかないとやべーわ。彼の中の脳内キャルが全力で中指を立てていた。

 

「なあいいのか? こんなことしてるって知られたらキャルは絶対お前のこと嫌うぞ」

「何を言い出すのやら。私はキャルちゃんを愛でる、そこが違わぬ限り、何の問題もありますまい。そしてキャルちゃんもまたアクシズ教徒、この愛を理解してくれるに違いない」

「この間ぶっ殺されかけたの記憶から消してんの? 都合良すぎない?」

 

 アクセルではシズルやリノ、そしてキャルと会話していたので忘れかけていたが、よくよく考えればアクシズ教徒は大体こんなんであったとカズマは思い出した。なまじっか元々は偉い立場だったおかげで毒素も抜けないのだろう。セシリーが小賢しく立ち回っているだけかもしれないが。

 ともあれ。とりあえず目の前の変態を始末しないと大事な大事な恋人の裸を見られかねない。既にここに来ることを前提にそう結論付けるカズマも大概ではあるが、彼はそう決意するとゼスタを手に掛けるためゆっくりと彼に近付いた。

 

「いや待て。こいつ確かキャルの呪文食らってもピンピンしてたな……どうすれば死ぬんだ?」

「急に距離を詰めて中々物騒なことをおっしゃる。そう心配なさらずとも、私は恋人の逢瀬を邪魔することなどしません。物陰からこっそりと見守っていますので」

「堂々とデバガメ宣言されて何を安心すればいいんだよ!」

 

 とりあえずドレインタッチで体力と魔力吸い取ってから湯船に沈めようか。割と本気でそんなことを考え始めたタイミングで、扉の向こうから声がする。思わず動きを止めたカズマは、ゼスタの始末を後回しにして向こうの側の声を聴くことに全集中した。

 

「ま、待ってください! 流石に、ちょっと……」

「そうですか。ではわたしだけで行きます」

「駄目ですよ! というか、その、ほ、ほら、他の人もいるかもしれませんし」

「脱衣所を見る限り、カズマくん以外に人はいないみたいですけど」

 

 聞き覚えのある声がする。それだけを聞いていると一人二役で喋っているだけのようなそれを耳にしたカズマは、来るとは思っていなかったドキドキエロイベントの到来に胸を躍らせた。俺は賭けに勝った。そんなことを思いながら思わず拳を突き上げ。

 

「いや待って。こいついるじゃん」

「おかまいなく。私は温泉の景観の一つだとでも思ってくだされば結構」

「構うし思えんわ!」

 

 真面目な顔で静かにそう述べたゼスタにツッコミを入れると、カズマはそのまま立ち上がる。どうされましたかな、と尋ねる彼に向かって、決まってんだろと言い放った。

 

「ペコリーヌの裸は俺のもんなの! お前みたいな変態のおっさんに見させてたまるか!」

「な、なんという独占主義……可愛い美少女は皆で愛でよう、そういうアクシズ教徒の慈愛の精神はどこにいったのですか!」

「いや俺アクシズ教徒じゃないし」

 

 というかこの状況でその発言はアクアもちょっと引くんじゃないだろうか。そんなことを思いはしたが、まあどうでもいいかと飲み込んだ。

 ちなみに。どうなの? とアメスに聞かれたアクアはノーコメントを貫いた。

 そういうわけなので、カズマはゼスタを無視して湯船から出る。そのまま入り口へと進むと、ガラリと扉を開け放った。その音に反応して、脱衣所にいた二人がカズマに目を向ける。

 

「今、他にも客がいるからやめといた方がいいぞ」

「え? あ、はい」

「分かりました」

 

 それだけを言うと、カズマはそのままゆっくりと自分の服があった場所へと歩みを進めた。服を着直す音が彼の耳に届くが、決して振り向かない。静かに、冷静に、ゆっくりと。

 内心で血の涙を流しながら。

 

 

 

 

 

 

 二日目。浴場で必死に説得を試みるゼスタを無視りながら温泉を後にし、夕食を食べ、そしてダブルペコのいる空間で寝泊まりをしたカズマは、ぶっちゃけ寝不足であった。既にコッコロに見られている以上もう何も怖くない状態ではあるものの、それでも早起きする息子をペコリーヌに改めて発見されるのは避けたかったのだ。お預けを食らって悶々としていたから余計にである。

 

「大丈夫ですか? カズマくん」

「ふぁぁ……。まあ、大丈夫だろ。どうせ相手はところてんスライムだし」

「原因の場所はそう簡単にはいかなさそうですけど」

 

 昨日の資料を見直しながらぬいペコがそう述べる。その心配にはカズマも、そしてペコリーヌも同意するものの、ならば脅威となる何かがあるのかといえばそれも違うだろうと考えていた。流石のあの二人も、街の人々の命に関わるレベルのものを放置はしない。

 それでは行きましょうか、と三人は準備を整え目的地へと向かう。向かうは源泉、あの一件では結局辿り着かなかった場所だ。山道を登り、道中にある女神降臨の地という新たなる観光スポットを素通りし、険しくなる坂道の先。

 

「カズマくん」

「俺は何も見なかった」

「キャルちゃんの像が立ってましたね」

 

 降臨せし女神アクア像がある広場とは別に、特設展示とか書かれた場所にはこの間のアイドル衣装のキャルの像が飾られていた。係員が写真を撮ってくれるらしく、大分人だかりが出来ており大盛況である。ここにキャルがいたら、間違いなく目的地に辿り着く前に力尽きていただろう。

 幸いキャルはここにいない。恐らく来ることもないだろう。そう信じて、三人は源泉のある場所へと辿り着く。岩陰からそこを覗き込むと、昨日あれだけ討伐したにも拘わらずうじゃうじゃといるところてんスライムの群れが見えた。一箇所に集まり、そして何かに従っているような素振りを見せながら、しかしそこから先で立ち止まっている。

 

「なんだあれ?」

「ん~。誰かの命令を受けている感じはするんですけど」

「いえ、あれは多分逆です」

 

 え、とカズマとペコリーヌはぬいペコを見る。かつてドールマスターに従えられていた自分だからこそよく分かる。そう前置きすると、彼女はあの集まりの中心部を指差した。ぽっかりと空いているそこに目を向けさせると、ぬいペコは言葉を紡ぐ。

 

「あそこに、親玉がいたんだと思います」

「いたんだと思うって、どう見てもいないだろ」

「はい。だから、もう親玉の命令がないところてんスライムは、これまでの命令をひたすら繰り返してるんじゃないでしょうか」

「戻ってくるまで、場所を守るために……ですか?」

 

 ペコリーヌの言葉に、ぬいペコはそんな上等なものじゃないと思いますけどと返した。ちょっとだけ向こうに感じ入ってしまった彼女を引き戻すようにそう述べた。実際に、集めてきた食料はそのままところてんスライムが普通に自分達の栄養にしているらしく、それによって成長、増殖を行っていた。

 

「ま、どっちにしろ迷惑なものには違いないし、さっさとまとめて倒そうぜ」

「そうですね」

「はい」

 

 カズマの言葉に軽く頷くぬいペコと、気を取り直したペコリーヌの声が響く。とはいえ、範囲攻撃でズドンとやろうものならば源泉や配管に被害が出てしまう。奇襲はあまり適した戦法とは言えなさそうであった。

 仕方ない、と三人は岩陰から出る。見る限り集まっているのは全てところてんスライムだ。真正面からぶつかってもどうにかなるだろう。そう結論付け、群れへと足を踏み出す。

 

「ペコリーヌ、それ大丈夫なのか?」

 

 その前にカズマがペコリーヌに問い掛けた。今日の彼女は普段の服と剣のみである。頭にはティアラではなくカズマたちから貰ったカチューシャをつけており、王家の装備は全外し状態だ。フル装備だとところてんスライムが逃げるので仕方なしではあるが、この状態だともし万が一の時全力全開になれないという弊害もある。本人は大丈夫だと思いますよと言っている以上信じることしか出来ないが、彼としてはどうしても不安が残るわけで。

 

「もしもの時はわたしがいますから」

 

 そんなカズマにぬいペコが声を掛ける。が、勿論カズマは却下した。無表情のまま彼女は不満げに彼を見たが、カズマが意見を変えるはずもなく。

 もういいからさっさと倒して帰るぞ。そんなことを言いながらところてんスライムに近付いたカズマは、そこで急ブレーキを掛けた。何か変だぞ、と怪訝な表情を浮かべた。

 

「なあ、俺の気のせいだといいんだけど」

「どうしました?」

「あれ……合体してないか?」

 

 うぞうぞと動いていたところてんスライムが、こちらを認識した途端激しさを増した。重なり合うように更に集まっていくスライムは、そのままぐねぐねと体積を増やし、それに反比例するように数を減らしていく。

 小さな大量の群れが、大きな一つの個体へ。三人の目の前で変貌していく。

 

「おおぅ……」

「随分と大きくなりましたね」

「お~。これだけ大きいと、ゼリーにすればかなり食べごたえがありそうです。やばいですね☆」

「え? 食うの?」

「え? 食べないんですか?」

 

 どでかいところてんスライムを見上げながらそんなことをのたまったペコリーヌを、カズマは思わず見た。当たり前だが本気である。だよなぁ、とぬいペコを見た彼は、ゆっくりと首を横に振る彼女を見て目を瞬かせた。

 

「あれ? 食べないんだ」

「わたしのリアクションのほうが普通ですよね?」

「安心してくださいぬいペコ、わたしがしっかりと美味しく料理しますから」

「本物ほど食べられませんよ?」

「いや結局食うのかよ」

 

 量の問題なだけじゃねぇか、とツッコミを入れるカズマを見て、ペコリーヌとぬいペコはお互いに顔を見合わせた。何か変だっただろうか、と。

 

 

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