プリすば!   作:負け狐

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キングスライム


その175

 アルカンレティアに着いてキャルがまずしたことは、土産物屋とそれに連なる連中をしばいて回ることであった。その姿はまさに鬼神が如し。一度もうどうにでもな~れ状態になったキャルに怖いものはない。

 ちなみにしばかれたアルカンレティアの面々の反応は、やりすぎたと反省する者、仕方なかったと言い訳を始める者、売上あげるから見逃してと買収を仕掛ける者、キャルちゃんが可愛いから悪いんだと開き直る者、しばかれるのがご褒美ですと喜びおかわりを要求する者などに分けられた。後半二つはそのまま埋められた。

 

「あの、キャルさま……」

「何? 言っとくけど今のあたしは機嫌悪いから、いくらコロ助でも変なこと言ったらただじゃおかないわよ」

「いえ、その……少し、休まれてはどうか、と」

「ここの連中ぶっ飛ばすのに半日掛かっちゃったもの、これ以上時間かけたらカズマ達に追い付けないわよ」

 

 しばき倒すついでに向こうの情報収集も行ったので、今日あの面子が源泉の方に向かったことは知っている。アルカンレティアは観光地を兼ねた広い街なので、移動するにもそこそこ時間が掛かるのだ。今二人がいる場所から源泉となると、最悪向こうが敵を倒し終わっている可能性すらある。

 

「ですが、相手はところてんスライムなのですから、主さまやペコリーヌさまならば問題ないのでは?」

「いや、まあ、そうかもしれないけど……。でも、なーんかやな予感するのよねぇ……」

 

 コッコロが心配してくれるのはありがたいが、自身のこの勘を捨て置くわけにもいかない。ガシガシと頭を掻いたキャルは、まあそういうわけだから心配するなと彼女の肩を叩いた。

 

「しっかし、こんなことならシェフィ連れてくればよかったわ。そうすりゃ一気に行けたのに」

「街中でシェフィさまにドラゴンの姿をとっていただくのは流石に問題では……?」

 

 移動手段!? と一人屋敷で虚空に向かってツッコミを入れているシェフィのことなど露知らず。迷っていても仕方ないとキャルはそのまま三人が向かったという源泉の道へと歩みを進めた。

 そうしながら、道中で集めた情報の整理を改めて行う。何が問題かといえば、当然。

 

「三人で行動してるらしいわね」

「男性お一人と、同じ顔をした女性お二人の組み合わせ、とのことでございますが……」

「ぬいペコ人型でいるってこと? 何か変な手段でも使ったのかしら」

「知らないうちに、単独でも変身を保てるまで力を蓄えたのかもしれません」

 

 ううむ、と二人は悩む。が、答えがそう簡単に出てくるはずもなく。合流すれば自ずと正解も分かるだろうとそれについては脇にどけた。ぬいペコが人型を保っている原因はとりあえず保留した。

 肝心な問題は原因ではなく、結果である。肉食系ぬいぐるみが肉食系等身大ペコ人形になっているのだ。そこから導き出されるのはどうしても下世話なものになる。ただでさえ悪友と親友が婚前交渉しているかどうかの心配もあるのに、そこに追加でそんな心配まで加えられてはたまったものではない。

 

「いえ、キャルさま。わたくしは主さまを信じております」

「あたしもあいつは信じてるわよ。多分あんたとは逆の意味で」

「キャルさま……」

「何よ。しょうがないじゃない。カズマよ? あれが色仕掛けとかに騙されないはずがないじゃない。っていうかついこないだ騙されてたのよ! それも今向こうにいるぬいペコに!」

 

 あの時カズマのカズマさんが無事だったのならば、ワンチャン桃源郷の建物内で致していてもおかしくなかった。そうキャルは考えている。考えているが、それはあくまであの時彼は相手がペコリーヌだと思っていたからだとも理解している。最初から偽物だと気付いていたら、あるいは何かしら別の誰かの色仕掛けだったら。最終合体まではいかなかったのではないか、とも思ってしまう。

 

「んー……。まあ、確かに、ペコリーヌがいれば大丈夫、かな?」

 

 どちらにせよ今現在クエスト中にやらかすことないだろうから、心配は杞憂、あるいは手遅れのどちらかだ。そんな当たり前の結論を出して、アホかあたしはとキャルは首を振って散らした。

 

「どちらにせよ。まずは主さまたちと合流するのが先決かと」

「そうね。よし、じゃあ一気にこの道を駆けあが――」

 

 そうして辿り着いた源泉へと続く道。以前は管理者くらいしか立ち入ることのなかったそれは、とある一件から整備され、道中にある女神降臨の地に向かうためのハイキングコースと化していた。降臨の地より先は従来のままだが、それでもかつてよりずっと進むのは楽になっている。冒険者であるキャルとコッコロが突き進むのも問題ないほどに。

 ただ、別の問題がそこにはあった。嫌な思い出のあるそこを眺めながらさっさと先に進もうとしたキャルは、はっきりとそれを視界に映してしまったのだ。

 

「あれは……キャルさまの、像、でございますね……」

「……ふ、ふふふふふふふふふ」

「キャルさま!? 一体何を!?」

 

 パチクリとそれを眺めていたコッコロは、隣の猫耳少女が魔力を急激に収束していることに気付いて声を上げた。パラパラと杖の先の魔導書は捲れ、集めた魔力を純粋な破壊の力へと変換していく。ネタ魔法ともいわれる最高威力の爆裂魔法には及ばずとも、彼女の固有上級魔法はその熟練度も合わせ今では相当のものを誇る。

 ちなみにそれの着弾点は今向こうでアクシズ教徒達が喜々として写真を撮っているアイドルキャル像である。

 

「ウァァァァビィスゥ、ヴァァァァストォォォォォ!」

 

 こうして特設展示場は木端微塵になったが、爆心地にいたアクシズ教徒は何故かどこか満足げであったという。

 

 

 

 

 

 

 巨大ところてんスライムをどう料理しようかと考えているペコリーヌのもとに、突如爆発音が響いた。視線を動かすと山道の途中、降臨の地のあたりから盛大に煙が上がっている。爆弾の処理でも失敗したのだろうか、そんなことを思わず考えてしまうほどだ。

 ちまみに、言うまでもないがどう料理しようかというのは比喩でもなんでもない。

 

「何かあったんでしょうか?」

「かもな。まあ、気にするほどじゃないだろ」

「……そうですか」

 

 ぬいペコも煙の上がっている方を見てそんなことを呟くが、カズマが別段慌てている様子でもなかったので流すことにした。アクセルでは確かに日常茶飯事だが、ここはアルカンレティア、向こうの流儀が通用するわけではない。彼女はそんな考えを持っていたが、反論する気もなかったのだ。

 勿論カズマとペコリーヌは、ここも変人と変態の巣窟であることを知っているので許容範囲内だ。

 

「そもそも、もし街に本当に何かあるんならあの二人が事前に何とかしてるだろうし」

「あ、じゃあ。あれひょっとしてキャルちゃんかもしれませんね」

 

 カズマの言葉にペコリーヌはそんな結論を出す。何で? とぬいペコはオリジナルの顔を見たが、ふざけている様子は一切ない上に割と自信ありげだったので考えることを諦めた。

 ともあれ。向こうの爆発がこちらのクエストに関係ないならば、さっさとこれを倒してしまうに限る。

 

「とりあえず適当に細かくして、食べやすい大きさにしましょう」

「料理番組の手順みたいなこと言い出したぞこいつ」

 

 カズマのツッコミを他所に、ペコリーヌは一足飛びで巨大ところてんスライムに迫る。グニャリと塊から触手のようなものを生み出していたが、王家の装備なしとはいえバーサーカー第一王女がそれで怯むはずもなし。地面が凹むほどの質量のそれを跳んで躱すと、そのまま触手を一刀両断した。でかい触手の先端がピチピチと活きの良い動きを見せる。

 

「じゃあ、まずはこれを使いましょう」

「その辺から食材調達してきたみたいな気安さやめない?」

「カズマくん。心配しなくても、ところてんスライムは立派な食材ですよ?」

「違う、そうじゃない!」

 

 巨大ところてんスライムの切れ端を活け締めしたペコリーヌは、手早く三枚おろしにすると、真ん中部分をくり抜き始めた。四角く切り取られたそれを見ながら、さて何から行きましょうかと暫し考え込む。

 

「カズマくん。甘いものとしょっぱいもの、どっちが食べたいですか?」

「え? じゃあしょっぱいやつ」

「分かりました。……っと、向こうの本体、動きませんね」

「あ、食欲に思考全振りしてたんじゃなかったのか」

 

 呑気なことを言いつつ、その実しっかりと警戒していたらしい。料理のレシピを検索しながら、一度迎撃されて以降攻撃を行わない巨大ところてんスライムを見て、彼女はそんなことを呟いていた。ぬいペコはそんな彼女をジト目で見つつも、同じく巨大ところてんスライムの様子に首を傾げている。

 

「本物のわたしのあの一撃で戦意喪失しちゃったんでしょうか」

「ん~。まあ確かにところてんスライムはスライムの中でも弱っちい部類ですけど。あれだけおっきくなったんなら、もう少し凶暴でもおかしくないと思うんですよね」

 

 ズズズ、とこちらの様子を窺うように巨体を揺らしているところてんスライムを見る。実際先程は逃げることより攻撃することを選んでいたので、凶暴さは増しているはずである。ぬいペコの言うように一撃で戦意喪失した可能性もないことはないが、合体した程度で凶暴さが増すスライムがそこまでの知能を有しているとも考えにくい。

 だが、しかし。

 

「いや、ちょっと待てよ」

「どうしたんですか? カズマくん」

「あいつひょっとして、こっちから攻撃仕掛けなきゃ動かないんじゃないのか?」

「え? あ、成程」

 

 『凶暴さが増している』と『戦意がない』のそれらは両立する。合体し凶暴さがましたので逃げることはしないが、しかし戦意はないので自分からは攻撃せず向こうが攻撃したときのみ反撃ないしは迎撃する。カズマの考えたのはそれだ。

 しかしそうなると。今度はなぜそうなったかが問題となる。配管を通って街を荒らし食料などを奪ってここに集まっていたところてんスライムは、やってきた敵を見て合体し巨大になった。だが、攻撃する気はない。流石にそれはおかしい。

 

「何かの罠か? にしちゃあからさまだし」

「……ひょっとしたら、親玉を待っているのかもしれませんね」

「どういうことですか?」

「あの合体、不完全なんじゃないでしょうか。本当ならあそこに親玉がくっつくはずだった、とか」

「成程。……じゃあ、その親玉が合体するともっと美味しくなるかもしれないってことですね」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

 

 閃いたとばかりにそう述べるペコリーヌに、カズマはどこか可哀想なものを見る目を向ける。同時に、やっぱりこいつ食欲に思考全振りしてるわと考えを改めた。

 

「でも、カズマくん。さっきのこの巨大ところてんスライムの切り身、すっごく脂が乗ってますよ? 不完全でこれなら、完全体はこれ以上の旨味を凝縮するはずです」

「いやどうでもいいから。大体、その完全体とかいうのが滅茶苦茶強かったらどうするんだよ。お前は今王家の装備がないし、ぬいペコは全力禁止だしで詰むぞ」

「う……それは、そうですけど……」

 

 いくら食欲に全振りとはいえ、それで仲間を危険に晒すのは駄目だ。その一線はペコリーヌも越えないので、カズマの言葉に彼女は残念そうに肩を落とした。今の状態で我慢しましょう、そんなことをぼやきながら剣を構えた。

 

「じゃあ、さくっと倒してところてんスライムのフルコースと行きましょう」

「わたしは料理の手伝いしませんよ?」

「大丈夫です、わたしが腕を振るいますから。行きます! 《プリンセス――」

 

 ティアラは無いが、それでも王家の剣技スキルは十分な威力を誇る。光り輝く刀身から繰り出される一撃は、巨大なところてんスライムもあっさりと切り裂くことが出来るだろう。勿論、放てれば、の話である。

 それに気付いたのはぬいペコだ。カズマとペコリーヌを突き飛ばすと、自身も即座にその場から離脱しようとした。が、一歩遅い。どこから伸びてきた黒い触手が、ぬいペコの体を貫かん勢いで叩きつけてきた。

 

「ぬいペコ!?」

 

 衝撃で吹き飛ばされ、バウンドする。そのまま倒れて動かないぬいペコを見て、カズマが慌てて彼女へと駆け寄ろうと足を踏み出した。が、その前にペコリーヌがそれを遮る。追撃の黒い触手を、刀身の光っていた剣で弾き飛ばした。

 

「カズマくん!」

「さんきゅ!」

 

 改めてぬいペコへと駆け寄る。派手に吹き飛んだが、見る限り外傷はそれほどでもない。胸は全く動いておらず、呼吸をしていないのは明らかであった。

 

「ぬいペコ!? おい、大丈夫か?」

「はん! 無駄だ小僧。俺の一撃を食らったんだ、生物は間違いなく即死だろう」

「あ、はい。大丈夫です」

「何でぇ!?」

 

 思わず抱き寄せたぬいペコに声を掛けたのと同時、一体の黒いスライムが姿を現した。タコやクラゲのような、地球の古い映画の火星人のようなそれは、不敵に笑いながら自信満々にそんなことを述べ。

 パチリと目を開けたぬいペコをみて絶叫した。

 

「馬鹿な!? 息の根止まっていただろう!?」

「わたし魂はともかくボディは人形なので。元から呼吸は振りだけなんですよ」

「は? ……だ、だとしても! たかが人形のボディが毒に侵食されないはずが」

「このボディ、バニルさんとウィズさん、それにネネカさんの合作ですし」

「訳分からんわ! ――いや待て! バニル? ウィズ? その名前は、確かに聞いたことが……っ!」

 

 黒いクラゲスライムが頭部を押さえて悶える中、合流したペコリーヌもぬいペコが無事なのを見て安堵の息を零した。そんな彼女を見ながら、カズマは先程のぬいペコの言葉を思い返す。バニルとウィズ、ネネカの作ったボディだから。そう彼女はのたまった。

 

「え? マジで大丈夫なの?」

「最初からそう言ってるじゃないですか」

「お前の大丈夫は信用できないんだよ! 特にお前それで一回体ぶっ壊してるし」

「まあ、実際オーバーロード状態は限界を超える力を引き出すのでボディの頑丈さは関係ないですけど」

「お前ふざっけんなよ! やっぱりダメじゃねぇか!」

 

 ぐにぃ、と思いきりほっぺたを引っ張る。無表情のまま変顔になるぬいペコは、されるがまま抵抗をしなかった。自分と同じ顔が酷い目にあっているのを複雑な表情で見ていたペコリーヌも、気持ち的には似たようなものなので助けない。

 

「はぁ……。んじゃ、普通に戦う分には大丈夫ってことだな」

「はい」

「あぁ、もう。余計な心配させるなよ」

「……そうやって、心配して欲しかったから」

「俺は難聴系主人公じゃないから聞こえてるぞ。ったく」

「カズマくんカズマくん! わたしも! わたしも心配してください!」

「は? 何言ってんのお前? 心配って頭か? それとも腹?」

「酷くないです!?」

 

 がぁん、とショックを受けるペコリーヌを見ながら、ぬいペコはゆっくりと立ち上がる。心配してもらえるのは確かに嬉しいが、ああやって十全の信頼を貰える向こうが、彼女にとっては羨ましい。

 

「で、王家の装備なしで行けるのかあの黒いの」

「ん~。ちょっとやばいかもですね」

「おいペコリーヌ」

「大丈夫ですよ。カズマくんも、ぬいペコもいますし、それに」

 

 視線を黒いクラゲスライムの向こう側に向ける。つられるようにそちらを見たカズマは、毎度お馴染みの猫耳娘と大切な従者兼ママがこちらに駆けてくるのが見えた。こちらを見付けた二人、コッコロはご無事でよかったと笑顔を見せ、そしてキャルは小さく安堵の溜息を吐くと敵を見る。三人の背後の巨大ところてんスライムと、挟み撃ちにしている黒い――。

 

「ん? ……あんた、ハンス!? 何で!? あの時ぶっ殺したはずじゃ!?」

「ハン、ス……? ――そうだ、そうだ! 俺の名前はハンス! 魔王軍幹部のデッドリーポイズンスライム! ……あれ? 元だったか? というかこの間名前は思い出せてなかったか? そもそも何で俺はここに来たんだ? 確か俺は……お、れ、は……?」

 

 我に返ったかと思ったら再び悶え始めた黒いクラゲスライム、ハンスを見て、一行はさてどうしたものかと暫し迷った。普通に考えれば前回倒した相手なので、そのまま再び倒してしまうのがいいのだが、しかし。

 

「いや待て待て待て! 違う、そうじゃない! 俺はあの時あの子供と俺と同種族のあいつに連れ去られて――ネア、いくら俺が弱っているからって、そんなことにこの体を……っ! カリザ、お前だけでも……おい諦めるな! やめろ、やめてくれ! 逃げろ? 逃げてどうする!? 俺はもう……あ、あぁぁぁぁ!」

「……やばいですね」

「何かあったみたいね……」

「少し、お話を聞いてもよいのでは……?」

「いやでもこいつ問答無用で攻撃してきたんだぞ」

「そうでしたね。……あ。ひょっとしてところてんスライムの親玉って」

 

 ぬいペコの言葉に、ペコリーヌとカズマが素っ頓狂な声をあげる。事情を知らないキャルとコッコロに説明をしながら、トラウマと悪夢に苛まれているハンスをどうしたものかと再び頭を悩ませた。

 

「合体されたら食べられなくなっちゃいますもんね」

「そこじゃねぇよ!」

 

 

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