プリすば!   作:負け狐

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その180

「はぁ……」

 

 道中でリーンがぼやく。そんな彼女を見てモニカは苦笑して声を掛けた。あの表情はそういうことだろうと察したのだ。案の定というべきか、モニカの言葉にリーンはその通りだと言わんばかりに頷く。

 

「やっぱりどうにも信じられないのよね。清廉潔白で騎士の鑑みたいな人がどうやるとああなるわけ?」

 

 彼女にとってダストは女好きのチンピラ冒険者で、どうしようもないクズで、でも何だかんだ放っておけないパーティーメンバーで。とまあそういう存在で、自身との関係としては別段何か特別な意味合いを持つようなものではないと無駄に強調する感じだ。

 ちなみに、彼女がそうやって自分に言い聞かせているタイミングでアメス教会にいた猫娘が盛大にくしゃみをしていたが多分関係ないだろう。

 ともあれ。脱線したがリーンにとってのダストと、リオノール達から語られたかつてのダスト――ライン・シェイカーが重ならなさすぎて未だに混乱しているのだ。

 その事自体はモニカも頷けることである。彼女にとっての融通の利かない堅物で馬鹿みたいに真面目で共にリオノール姫に引っ掻き回された悪友と、だらしない女好きのチンピラ冒険者の一致する部分が少なすぎて最初は何の冗談かと思ったからだ。

 

「まあ……あいつは変なところでも真面目だからな。全力でチンピラになろうとして実際になってしまったのだろう」

「……ふーん」

「だが、まあ。本質は変わっていない。リーン殿の知るダストと、私の知っているラインは、紛れもなく同じ男だ」

「それではいそうですかって納得できないから悩んでるんだけど」

「だろうな」

 

 ははは、とモニカは苦笑する。その辺りはこちらが両方を知っているからかもしれない、と何となく彼女も察しているからだ。後はリオノールに毎度巻き込まれて感覚が麻痺しているからとか。

 

「はぁ……あたしもクウカみたいに気にしないでいれたらよかったんだけど」

 

 これまでと変わらず接してくれるのなら別に何でもいい。そう言ってのけたアクセル第二ドMの姿を思い出す。思い出して、あれそれは何か違くないと己の妥協点を変更させた。

 あいつはただ自分の性癖を満たせるのならば過去はどうでもいいという意味合いじゃなかったか、と。

 

「いや、ああ見えて何だかんだダストに懐いてるし、ちゃんとした意味もあるわよね、うん」

「リーン殿?」

「大丈夫大丈夫。何でもないから」

 

 ぶんぶんと首を振って散らし、再び最初の悩みに戻る。戻るが、結局のところ解決方法は無いと言っても問題ない。彼女達の言っていることは真っ赤なウソだと否定して信じないかでもすれば、一応現状無くすこと自体は出来るが。

 

「あーあ、あたしも昔のダストを見れたらなぁ」

「本人は全力で嫌がりそうだが」

「別に減るもんじゃないでしょ。それに……何か、悔しいし」

 

 ポツリと自分で呟いた言葉にハッとして、リーンは違う違うと否定する。自分は別にあんなチンピラのことなんか何とも思っていないし、実は姫様だったらしいリオノールがダストにベタベタするのに嫉妬もしていない。そうだそうだと言い聞かせ、彼女は会話を打ち切るとずんずんと歩みを進め始めた。

 

「りーん、ご機嫌ななめ?」

「いや、あれは……まあ、大丈夫なやつだろう、多分」

 

 フェイトフォーの言葉にモニカはそう返す。ぶっちゃけ自分もあの手の物事が得意ではない。下手に首を突っ込むと碌なことにならないと結論付け、横の彼女にも述べた。

 

「私も、自分ではそういうのはよく分からないから、なんとも言えないわね」

「わたくしは……ぬいペコほどではありませんが、多少なら」

 

 同じく聞いていたもう一体のホワイトドラゴンとぬいぐるみ型魔物はそんな感想をこぼす。そう言いながら、しかしシェフィは誰かを思い出すように視線を上に上げ、そして戻すと同時に表情を笑顔に変えた。

 

「でも、恋が凄く素敵なものなのはよく知っているわ」

「ええ。そうでございますね」

 

 彼女が思い浮かべたのは、最弱職と腹ペコ姫の顔。あるいはひょっとしたら、そこに猫耳娘とお世話エルフ少女も混ぜていたかもしれない。どちらにせよ、シェフィにとっての恋とは、ああいう感じなのだ。だから、リーンとダストとリオノール、そしてひょっとしたら横にいるモニカも加えて、そうなれるのが良いと思ったりもするわけで。

 

「応援は、しっかりとするから」

「ん? あ、ああ」

 

 なぜ自分を見て言うのだろう。モニカは首を傾げながらシェフィに返事をした。

 

 

 

 

 

 

 目的地までもう少し。その辺りで、一行は足を止めた。集団の気配がしたのだ。耳をそばだてるとうっすらと聴こえてくるのは人の言語だが、安楽少女のものとは違い、恐らく男。もし他に人語を解する魔物が群れていたのだとしたら大問題なので、緩んでいた空気を引き締めると、ダスト達はゆっくりとその方向へと近付いていった。

 

「……冒険者?」

「にしちゃ、見かけねぇ顔だな」

「二人が知らないということは、別の街の人なのかしらね」

「どちらにせよ、あまり真っ当ではなさそうだな」

 

 リーン、ダスト、リオノール、モニカの人間組が向こうの集団をそう評する。クエストもない状態でここに冒険者がわざわざやってくるような理由は殆どない。現在アクセルのギルドではクエストは出ていなかったし、別の街では尚更。なので、ピクニックにでも来たか、あるいは自分達のように何かを探しに来たかくらいになるわけだが。

 

「ホワイトドラゴンの目撃例、かしら」

 

 シェフィが呟く。以前の自分がここでやらかしたことを思い出しながら述べたそれを聞き、だとしたら相当情報が遅れているわねとリオノールが笑った。笑ったが、しかし視線は男達から外さない。

 

「一度目撃されたってことは、ここには何かある。そう考えたチンピラ崩れかな?」

「そうね。リーンさんの言った通りな可能性は十分あるわ」

「落ちてた毛でも拾うつもりか? 王家が声明出してるんだから、真っ当な手段じゃ売れねぇだろ」

 

 ホワイトドラゴンは希少種であり、幸運の象徴として好事家に大人気、実際に爪や体毛にも十分な魔力が宿っているので高値で取引される。だからこそ冒険者がこぞって白竜を狩り、その結果姿を消したと言われていたほどだ。そのため、再び存在が確認された現在ではその三体共に所属が明確にされており、下手に手を出すと国を敵に回すことに繋がるため、普通の手段ではどうしようもない。

 ちなみに、それを置いておいても普通の高レベル冒険者程度では手を出した時点ですり潰されて終わりである。変人窟の一員だぞこいつら。

 

「それで、どうする? 放置しておくのも面倒な気がするが」

「こっちに関係ないならめんどくせぇし放置でいいだろ」

「……ちょっと無理かも。気付かれたわ」

 

 二人の会話を聞いていただけのシェフィが、ピクリと反応した。その言葉に向こうの集団を再度見るが、こちらに目を向けてはいない。どういうことだとシェフィを見ると、彼女は集団とは別の方向を睨んでいた。

 

「ちっ。仲間がいたのか」

「ちょうど向こうの巡回ルートだったみたいね」

「話が通じればいいけど……やっぱり無理かな」

 

 ダスト、リオノール、リーンがそんな事をぼやきながら構える。モニカも無言で剣の柄に手を添え、フェイトフォーとシェフィも空気を引き締めた。そういうことならば、と肩に乗っていたぬいコロもぴょんと降り立ち、ゆっくりと意識を己の中心に集中させる。

 

「わ! コッコロちゃんになった」

「はい。わたくしは本来模倣人形の魔物ですので、魔力を充填することによって本物と同じ姿へと変化できます。これまでは外部からのバックアップが必要でしたが、この間頂いたアイテムによって、わたくしの力だけでも短時間ならば可能となりました」

「へー。……なんだか、服の布の量少なくない?」

 

 普段のコッコロの格好もローブ一枚で割と薄着気味だが、人型になったぬいコロはそれにも増して薄着である。流石に下着、ではないのだが、ぱっと見ほぼ水着だ。本人はそれ自体には別段思うところはないらしく、やはりまだ己の力だけではこれが限界なのでしょうと軽く言ってのけた。

 まあそれでいいのなら、と一行もそれ以上は何も言わず、改めてと気を引き締める。すぐさまこちらに来ないところからして、向こうの連中に伝えて挟み撃ち、ないしは合流してからという腹積もりだろう。周囲を警戒しつつ、不利にならないよう自分達の位置を入れ替えるように移動し、そして。

 

「お前ら、一体ここに何の用だ?」

「こっちのセリフだ。お前ら、こんな場所に何の用があって来てんだよ」

 

 草木をかき分けやってきた男達の一人が、奇襲が出来ないと判断してそんな言葉を投げ掛けてきた。ダストはそれに返しながら、合流して増えた連中をぐるりと見渡す。冒険者崩れ、といったところだろう。この程度ならば真正面からぶつかっても今の面子は問題なく勝てる。

 

「お前たちには関係ないだろう」

「まぁな。俺たちに関係ないなら、こっちだって相手しねぇよ」

 

 ダストの言葉に、残りの面々も別段反論しない。現状眼の前の連中はただ怪しい奴らというだけだ。素直に引き下がってこちらに何もしないのならば、戦う必要も全くない。

 こちらに話しかけてきた男は、それを聞いてしばし考え込む。じゃあそっちの目的は何だ、そうダストに問い掛けた。勿論答える義理もないので、ダストは先程の男が言った言葉をそっくりそのまま返したのだが。

 

「言えないようなことをする気か? ここで」

「あぁ? お前らみたいな怪しい奴らに言う必要はねぇってだけで」

「親分。やっぱりこいつら」

 

 ダストの言葉を遮るように、眼の前の男とは別の冒険者崩れが言葉を紡ぐ。その視線は彼ではなく、彼以外の女性陣を一人一人眺めていた。リオノールは除く。

 そしてその男の言葉を聞いた親分と呼ばれた冒険者崩れも、ああ分かっていると頷く。リーンとシェフィを見て、フェイトフォーとモニカ、そしてぬいコロを愛でるように視界に入れて。

 

「お前、そこの可愛らしいロリに何をするつもりだ?」

「……は?」

 

 射殺さんばかりにダストを睨んだ。その表情は皆一様に、こいつは始末するべき悪だと述べている。勿論ダストは意味が分からないので、何言ってんだこいつという目を向けるのみだ。

 

「とぼけるなよ。ここは人気もないし、モンスターも出ない。街からも程よく離れている。――いかがわしいことをするには最適だろう?」

「いや普通に宿だろ、そういう時は」

「何を言ってる。ロリといやらしいことをするのに宿を使ったら捕まるだろ、だからお前は」

「お前が何言ってんだよ。……あ? お前ら、そういう連中か」

 

 呆れたような顔をしていたダストだが、そのやり取りでピンときた。まあつまりはそういうことだろうと合点がいった。こいつらがそういう事をしようとしていたのだろうと判断した。

 

「ガキでも攫って犯そうとでも思ってたのかよ、おま――」

「バカなことを言うな! 神聖なるロリをそんな扱いしてたまるか!」

 

 ガラじゃないが、流石にそれは胸糞が悪い。リオノールと再会したことで若干昔に引きずられたのもあるかもしれないし、フェイトフォーがいるからかもしれない。ともあれ、彼にしては珍しく真面目な表情を浮かべたその瞬間、男達はそれを全力で否定した。そしてついでに何か言い出した。

 

「団内ルール、その一! ロリは愛でても手を出すな」

『ロリは愛でても手を出すな!』

「団内ルール、その二! 決して性的な目で見てはならない!」

『決して、性的な目で見てはならない!』

 

 そのまま続けて謎の団内ルールを復唱し始める変態共。この口ぶりだとまだいくらでもありそうだが、とりあえず切りの良いところまで終わると、分かったかとダストを睨んだ。

 分かりたくない。それが素直な彼の感想である。

 

「ね、ねえダスト。この人達って」

「ロリコンだ」

 

 リーンがおずおずと尋ね、ダストはきっぱりと断言した。そうだよね、とげんなりした顔で一歩下がる、というか引いた彼女は、しかしそこで首を傾げた。何にキレたんだこいつら、と。

 

「そこのお前が、神聖なるロリにいかがわしいことをしようとしているからだ!」

「とっとと始末しようぜこいつら」

「そうはいかんぞ! 俺たちは何としてでも、そこのロリたちを守ってみせる」

「何これ?」

 

 シェフィが状況についていけずに呟いた。が、いかんせんほぼ全員ついていけていないので彼女のそれに返答は来ない。

 

「大体お前、ロリ顔少女二人と、パーフェクトなロリを三人も侍らせて言い訳が利くと思ってんのか!」

 

 ロリコン集団はそう言ってリーンとシェフィ、そしてモニカとフェイトフォー、ぬいコロを指差す。こんなところにそんな美少女をわざわざ連れてくるチンピラとくれば、答えは一つであるとばかりに、そう述べた。

 

「ロリ顔……。ま、まあ童顔ってだけで、別に体型は何も言われてないからセーフセーフ……」

「私、そんなに幼く見えるのかしら」

 

 そして言われた方である女性陣だが。リーンはものすごく微妙な顔で、シェフィは純粋に疑問なようで首を傾げていて。

 

「ぱーふぇくちょ、ろり?」

「フェイトフォーさま、あれは覚えなくともよい言葉でございます」

 

 よく分かってないフェイトフォーに、本物と比べると純粋さは薄めのぬいコロがそう述べて。

 対象外のリオノールは蚊帳の外なのを少し不満げにしながら傍観者立ちをして、そして。

 

「……おい」

 

 モニカが普段出さないようなドスの利いた声を零す。ロリ顔少女でもなく、対象外でもなく。普通にロリ扱いされたことに、あれだけの人数の誰一人として彼女がロリであることを疑わないことに。

 彼女は、キレた。

 

「覚悟しろ。全員まとめて、叩きのめしてやる」

「おいモニカ、落ち着け。お前の見た目がガキなのは今に始まったことじゃねぇだおぼぉ!」

「こいつらを始末したら、次は貴公だ、ライン」

 

 神速抜刀でダストのみぞおちに剣の柄をねじ込むと、モニカはゆっくりと一歩前に出た。それはまさに鬼神、かつてブライドル王国で並ぶものなしと言われたほどの部隊を率いた、一人の騎士隊長。

 

「な、ま、待て! 俺たちはロリを決して傷付け――」

「まだ言うか! 私はモニカ・ヴァイスヴィント、ブライドル王国所属の騎士で――――十七歳だ!」

 

 紫電一閃。瞬く間に複数人を薙ぎ倒したモニカは、倒れた連中に目もくれず、残った男達をギロリと睨み付ける。殺気がひしひしと伝わってくるそれに、男達は震え上がり。

 そして同時に、なんだか少し快感を覚えた。

 

「これが……合法ロリ……幻の……存在したなんて」

 

 そんな新たな芽生えを感じつつ次々と吹き飛ばされていく部下を見ながら、親分は地面に転がったまま呟いた。ロリでありながら、きちんと年齢を重ねている。人外でしかありえないと思っていた存在が、ギャップ萌えを体現する存在が、まさかこんなところに。

 

「ああ……女神エリスに、感謝を」

 

 




エリス「何を感謝されているの!?」
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