結局あの後どうなったのかといえば。メガバットを始末した後、安楽少女はロリコン団のアイドルとなった。遠慮せずに愛でることの出来るロリっ娘の登場に、ロリコン共は歓喜の涙を流したとかなんとか。安楽少女の目は死んでいたが、それでも案外まんざらでもなさそうだったので問題ないだろう。
というわけで。ロリコン団の解決、安楽少女の無力化、バニルの依頼の三つを同時に達成したことで、ダスト達の懐は潤った。ツケ払いで飲んでいた酒も普通に支払えるようになったくらいだ。
ちなみにリオノールが滞在するようになってからは、リーンに加えてモニカにどやされるようになったため彼は渋々ツケ払いを控えていたりもする。そんなわけで現在の彼は極々普通にお金を持っているわけなのだが。
「あれ? ダストじゃないか。どうしたんだ、変な顔して」
「変な顔は余計だ。いや、ちょっとな」
チンピラ生活をするようになってからは、枯れていた己を取り戻すかのようにスケベになっていた彼だ。余裕もあるし、サキュバスの店にでも行こうかと考えつつ。そのためにはまずリオノールとフェイトフォーを撒かないといけないなどと考えていた矢先、ダストに声を掛けた少年がいた。言わずもがなカズマである。何だお前かと安堵しながら、ダストはそのまま男同士の会話の流れで、その辺のことを話そうと口を開いた。
「そういえば、今日はダストさん一人なんですね。リオノールちゃんは別行動ですか?」
「――別にいつもいつも一緒なわけじゃねぇよ。お前らと違ってな」
が、その横にペコリーヌがいたことで即座に飲み込む。女性の前でそういう話題を避けた、ということでは決して無い。この腹ペコ姫は今まさに撒こうとしている腹黒破天荒姫の友人なのだ。うっかり口を滑らせる可能性がある以上、情報を渡すわけにはいかない。
「ったくよぉ。ほれ、女に困ってないハーレム野郎はさっさと向こう行っちまえ」
「まあ俺にモテ期が来てることは間違いないけど、お前が言うなよ。最近モテてるって話題になってるぞ」
「はっ。いくら俺でも選ぶ権利があるっての」
ちなみに彼の言葉でまあそうだなと同意してくれる男冒険者は皆無である。該当者の約一名についてだけはギリギリ同意されないこともないが、他は間違いなく皆無である。聞かれたら囲んでボコされること請け負いである。
「っつーか、お前たちこそ何やってんだ? こっちに用事なんかないだろ」
彼らの向かう方向にあるもので該当するのならば、テレポート屋であろうか。もしそうだとしても、二人だけで行く理由が思い浮かばない。
「……あー、そうかいそうかい。確かに保護者ちゃんや猫ガキがいる場所じゃヤりにくいわな」
「へ? やりにくいって――」
「ちっげーよ! こいつの用事で王都行くの!」
ピンと来なかったペコリーヌが聞き返そうとしたので即座に割り込む。ついでに彼女には、アイリスが待ってるんだろと話題を流すことにした。
ちなみに。勿論カズマはやれるものならやりたい男である。前回の遠出がアレだったため、いっそ王都に行けば逆にワンチャンあるんじゃないかとかこっそり考えている奴である。が、いかんせん彼はヘタレで童貞なので、どうすればいい感じになるのか圧倒的に知識不足であり、今ここでその辺を話題に出して変に警戒されるとその場で終わると考えている。
ぬいペコなら逆にその方法でいけそうだけど、と一瞬思い浮かべ、違う違うと振って散らした。
「ああそうかい。ま、精々頑張れよ。骨は拾ってやるぜ」
「失敗する前提で話すんじゃねぇよ!」
ひらひらと手を振りながら、ダストはさてどうするかと二人から離れる。そんな気分ではなくなった、などというわけでもないので、このままサキュバスの店に向かうのが正解といえば正解だが。
よし行くか。さくっと気持ちを切り替えると、彼は再びスケベなチンピラ冒険者として目的地へと足を進めた。
「おかえりなさい、お姉様!」
ベルゼルグの王城にて、本来ならば相応の場所で待つ立場であるはずの第二王女が思い切り出迎える。そのことに門番も別段驚きはせず、むしろどこか微笑ましい様子でアイリスを見守っている。やってきた相手が彼女の姉、第一王女ユースティアナであるというのも勿論であるし、アイリスが姉にベッタリなのも周知の事実。前一度不在のため会えなかったことを悔やんだアイリスが意地でも姉と会うためにやっているということも知られているからだ。
「はい。ただいま、アイリス」
「はいっ! ――あ、ついでにお義兄様、いらっしゃいませ」
「俺の扱いぞんざいすぎない?」
「お姉様の隣を歩いていることを認めている時点で、かなりの高待遇だと思っているのですが」
一介の冒険者を、第一王女の恋人として第二王女が認めている。その事柄は確かにこれ以上無いほどの高待遇だと言えなくもない。が、それで納得するような男ではないのがカズマなわけで。
「まあいいや。それで、今日は一体どうしたんだ?」
「別にお義兄様には関係ない事柄なのですが」
「一々俺のことボロクソ言わないと話進められないわけ?」
「いえ、これはからかいでも何でもなく、事実なのです」
まあそれでも下手に藪を突くと蛇どころかドラゴンがまろび出てきかねない相手なので、カズマは毎度のようにヘタれる。何度も言うが、納得はしていない。
だったのだが、話を戻したら戻したで、アイリスにそんなことを言われて彼の表情はますます曇る。え、じゃあ何で俺呼ばれたの? そんな意味合いを込めて彼女を見ると、そもそも呼んでませんけどという致命の一撃が繰り出された。
「何でだよ! 俺ペコリーヌについてきて欲しいってちゃんと言われたぞ」
「あはは。それは、ただわたしがカズマくんについてきて欲しいって思っただけで、呼び出されたのはわたしだけだというか」
「はぁ? じゃあ何だ? お前俺と二人きりで王都に行きたいって思っただけだってことかよ。……え?」
「……えへへ」
アイリスの顔が急速に不機嫌になる。ぐい、とユースティアナの手を取ると、とにかくまずはこちらの用事を済ませましょうと自身の執務室まで手を繋いだまま並んで歩き、部屋では半ば強引に彼女を自身の横に座らせた。
「それで。今回はどうしたんですか?」
「はい。実は、お父様――陛下からお仕事を頂きまして」
これです、と一枚の書類を取り出す。どれどれ、とユースティアナがそれに目を通すと、どうやら王国内の領地の視察を依頼するものようであった。場所はアクセルからほど近い街で、そこを治める貴族も別段問題のなさそうな相手ではある。おそらくこれから先のことを見越した、ちょっとした練習のような仕事なのだろう。
問題があるとすれば、この仕事を行う人物が確定していないことであろうか。
「わたしかアイリスのどちらか、ですか」
「はい。……元々はお姉様を向かわせようとしていたらしいのですが、お母様が気付いて修正したと言っていました」
「あはは……」
国王としては、王家の装備を十全に使いこなせるようになったユースティアナを冒険者にしておくよりも、王族として運用したいという腹積もりがあるのだろう。もしくは、そんなことなど考えずに、父親としてただ戻ってきて欲しいから提案したのかもしれない。
どちらにせよ、王妃の提案によってその目論見は露と消えたが。魔王軍幹部を撃退しているのだから冒険者生活のままでも構わないし、以前と違って呼べば普通に帰ってきているのだから何も問題ない。そう言われてあっさり王は沈んだとかなんとか。
「そういうわけですので」
「なあそれどっちかというと王様の依頼っていうか王妃様の依頼なんじゃねぇの?」
「否定はしません」
「しないのかよ」
意図的に離された場所に座らされたカズマがツッコミを入れたが、同意されたので思わず顔を顰める。そういえばクリスティーナと馬が合うとか何処かで聞いたような。王妃の噂を思い出して、関わらんどこと彼は改めて心に決めた。
「それで? 俺たちがそこに行けばいいのか?」
「お姉様にやって頂く場合はそうなります」
「なるほど。わたしは別に構いませんけど……アイリスは、どうです?」
「お姉様がそれでいいのならば」
そう彼女は告げたが、その表情はどこか寂しそうだ。それに気付いたユースティアナは、もう一度書類を見る。視察に行く代表者はユースティアナかアイリス。当然のことながら、どちらか一方しか行ってはいけないとは書かれていない。
「アイリスも、一緒に行きますか?」
「え? いいのですか?」
「別に、片方が代表者になった場合もう片方はついて行っていけないとは書いてないですから。というより、お母様の場合そう仕向けたフシがありますし」
ユースティアナとしても、やさぐれ放浪冒険者をしていたことでブランクのある自分がこの仕事をする場合、現役で執務をしているアイリスの存在はありがたい。勿論ですよ、と笑顔を見せると、アイリスも嬉しそうに破顔した。お供させていただきます。大好きな姉の手を握り、力一杯返事をした。
「えっと。カズマくん、そういうわけなんですけど」
「別にいいんじゃないか? お前たち二人がいれば大抵のモンスターは楽勝だろうし」
護衛の冒険者としてついていき、道中のモンスターは王女姉妹が殲滅。楽して依頼料を手に入れられる簡単な仕事だ。カズマの中では大体そんなような計算をはじき出していた。魔王軍幹部でも来ない限り、否、来てもぶっちゃけなんとかなるだろうとすら考えていた。
「お義兄様。大凡何を考えているか分かりますが、私とお姉様の二人共が行く場合、流石にそれ相応の立ち位置にされると思うので、あまり大っぴらには戦えませんよ」
「え?」
詐欺じゃん。思わずそれを口にして、カズマはアイリスにしばかれた。
というわけでアクセルである。王都から向かうよりこちらの方が近いということで、一度こちらに来てから改めて馬車で出発する手筈となっていた。
用意された馬車は三台。ユースティアナとアイリスの王女姉妹の乗るものと、護衛の冒険者用のものが二台だ。
「あんなこと言っていた割には、そんなに規模も大きくないじゃないか」
やってきたアイリスにカズマがそう述べると、ああ言いはしたが実際に大規模にするつもりは毛頭なかったとしれっと返された。しばかれ損じゃねぇか、と彼は抗議したが、未来の義妹はどこ吹く風だ。
「しかしお義兄様、こちらの方がある意味大変かもしれませんよ」
「は?」
「規模は減らしましたが、あの時に言ったように私とお姉様はあまり積極的には戦えませんから」
そう述べるアイリスの格好は旅装ではあるがシンプルなドレス姿。成程確かに戦う格好ではない。
それを見て、あれ、とカズマは首を傾げ、視線を彷徨わせた。アイリスがこの姿だということは、つまり。
「お待たせしました」
そう言ってやってきたペコリーヌも普段の格好ではなく、アイリスと同じようにワンピースタイプのドレスを着てカーディガンを羽織っている。頭もキャペリンを被っており、王家の装備を身に着けているようには見えなかった。成程これは確かに戦力として数えることは出来そうにない。
それはそれとして。
「どうしました?」
「え? あ、いや、えっと」
「お義兄様」
「オホン。……似合ってて可愛いぞ」
「……え?」
「え何その反応。俺今若干命の危険感じてまで言ったのに」
しかもキメ顔で。目をパチクリさせたペコリーヌを見たカズマは、その表情を思い切り崩した。アイリスはその状況を見て、あれ? と首を傾げている。
「えと、その……ありがとう、ございます」
が、そんな二人の疑問を掻き消すように、ペコリーヌが恥ずかしそうに彼から顔を逸らし、小さな声でそんなことをのたまった。どうやら反応が悪かったわけではなく、逆だったらしい。ちなみにアイリスはそんな姉を見てはう、とよろけた。
「なあアイリス、お前最近あの白スーツに似てきてないか?」
「あそこまで落ちてはいません」
「お、おう」
主にそこまで言われるのも相当だな。ベルゼルグ王国最上級貴族のアレさ加減を改めて刻みながら、カズマは話を戻すように視線を動かし。
この場にいるはずの人物がいないことに気付いて、怪訝な表情を浮かべた。
「あれ? その白スーツ、クレアはいないのか?」
「今回はお姉様が代表者で、私は付き添いです。クレアやレインを伴うと、私の方が代表扱いになりかねないので」
ペコリーヌ――ユースティアナの護衛となるのはカズマ達冒険者だ。それに対し、アイリスの護衛が王国の大貴族の長女と貴族の魔法使いとなれば、相手の領主はどういう印象を持つだろうか。想像に難くない。
ならばユースティアナの護衛ということにすればいいのかといえば、半ば無意識にアイリスを守ってしまうクレアにはそれも厳しいわけで。
「そうなると、残る手段はお姉様の専属護衛を王国から用意することなのですが」
「あ、もういい、分かった」
その場合やってくるのは全身鎧と戦闘狂だ。前者はともかく、後者がいると領地の視察が侵略戦になりかねない。ついでに王都の戦力が激減する。
「そういうわけなので、今回クレアとレインには王城での仕事を頼みました」
レインはともかく、クレアは若干血の涙を流していたが、無理についていく選択をすると王都と視察先の領地が片方あるいは両方荒廃する恐れがあったので、流石に自重した。
その代わりというわけではありませんが、とアイリスは向こう側の馬車を指差す。今回は自分も、頼りになる冒険者を雇うことにしました。そう言ってどこか誇らしげに胸を張った。
「それならそれでいいけど。大丈夫なのか? 自慢じゃないが、俺たちはこれでも高レベル冒険者だぞ。有象無象じゃ相手になんか」
「ままー! だっこー」
何だって? 突如聞こえたワードに、カズマは言葉を止めて声の方向を見た。今回シェフィは連れてきていないはずなんだが、と聞こえてきたそれの心当たりを考えながらその人物を視界に入れた彼は、しかし想像だにしていない光景に思わず動きを止めた。
「ちょ、パイセンパイセン。正気に戻りな? いや普段から割と正気少なめ狂気割高だけど」
「そうですよ、いつものこまっしゃくれたクソガキ感溢れるユニ先輩に戻ってください。そんな頭ゆるふわでママに甘えてすやすや眠るような純粋な少女とか超絶似合わなくてドン引き案件ですよ? 見た目はともかく、中身とか普段の行動とか知ってる人からうわキツってリプ飛びまくりのバズりまくりですよ?」
「え~。ゆにわかんなーい。ままー」
「うわこの人最年長の尊厳秒で投げ捨てたぞ。つかこないだアイリスにそれやって引かれたのにもっかい擦るとかメンタルヤバない?」
「そこら辺はやっぱりユニ先輩ですよね。憧れるところ微塵もナシんこですけど」
ショートツインテールの少女と、ゆるふわピンク髪の少女が一人の少女を見て呆れている、のだろう。いかんせん会話の内容から確信を持てないのがアレであるが。
そして呆れられているような気がする少女。左右に大きめの三つ編みをしている見た目は小さいその少女は、カズマ達のメンバーであるコッコロにでちゅねプレイを要求していた。本当に幼い少女が甘えているわけではない。それだけは確信を持って言える。
「よく、分かりませんが……はい、どうぞ」
「まま~」
「えちょい、迷うことなく受け入れたぞあの娘」
「ユニ先輩もぶっちゃけっていうかオブラートにくるくるくるりんしてもアレでしたけど、あっちもあっちで手慣れてる感バリバリっていうか、もはやプロの風格感漂っちゃっててチエル的には得体の知れなさが急上昇ですよ」
「ふふっ、よしよし」
「まま~……ままぁ」
「パイセンの語彙死んでんなあれ」
「もはやただの幼女ですね。戻りそうにないんで、クロエ先輩、チエルたち暫く他人のふりしておきましょうよ。一切関係ございませんの方向で」
「それな」
ただ、相手はコッコロである。シェフィが元に戻ったことで、再度お世話欲を控えめにしていたコッコロである。そうなるのは半ば必然であった。
その一部始終を眺めていたカズマは、ゆっくりとアイリスに向き直った。さ、と彼の視線から顔を逸らした彼女は、わざとらしく咳払いをすると、そろそろ出発の準備をしましょうと言い放つ。
「お互い、初対面でもありませんし、余計な挨拶も不要でしょう。さあ、行きましょう」
「こっち見て言ってくんない?」
「大丈夫です。ユニさんもクロエさんもチエルちゃんも、私の大切なお友達ですから」
「だからこっち見て言ってくんない?」
「……お義兄様だって似たようなことをしているではありませんか!」
「濡れ衣もいいところだよ!?」
ちなみに濡れ衣でもなんでもない。純然たる事実である。むしろただだっこされているだけのユニより、何から何までお世話されたカズマの方が業は上である。
ともあれ。そういうわけで。ペコリーヌの護衛はカズマ、コッコロ、キャル。アイリスの護衛はユニ、クロエ、チエルと相成った。
「あはは、やばいですね☆」
「言ってる場合かぁ!」