プリすば!   作:負け狐

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その184

 領主の城内で、領主との会談を行うのに自身と護衛の冒険者合わせて八人総出で向かうのは流石に如何なものか。念には念を、ということもあるが、それはここの領主が第一・第二王女を揃って亡き者にしようと考えでもしない限り出て来ない結果である。まあ突き詰めるとその辺の暗殺者ではペコリーヌとアイリスに碌なダメージを与えられないのでそもそもが杞憂なのだが。

 そんなわけで、第一王女ユースティアナの護衛一人、付添である第二王女アイリスの護衛一人をそれぞれ連れて行くということに相成った。

 

「アイリスちゃん。ちぇるっと二つ返事でオーケーしちゃったけれど、選んだのはチエルで本当によかったの? ユニ先輩、はまあいてもいなくてもこの場合一緒だからポポイと除外しても、クロエ先輩のほうが睨み利かせたり脅したりとかマルチな活躍できたんじゃないかなって思っちゃったりするわけなんですけど」

「ふふっ。大丈夫ですよチエルちゃん。私はなかよし部の皆さんを信用していますし、その実力を疑っていません。チエルちゃんなら護衛として申し分ないと思ったからこそ、私は同行をお願いしたのです。……一番最初の、お友達ですし」

「ちょっと可愛すぎじゃないですか!? やーんもーアイリスちゃん大好き!」

 

 がばちょ、とチエルがアイリスに抱きつく。それに満更でもない顔をしている彼女は、そのままちらりと向こうを見た。表情を若干むくれたものに変えて、あちらはそうではないかもしれませんけれど、とぼやく。

 

「おい、何か文句があるなら聞こうじゃないか」

「お義兄様一人は一番戦力的に論外では?」

「なあもうちょっと歯に衣着せてくれない?」

「あはは」

「フォローしろよお前も! 本当に別の理由で選ばれたみたいじゃん」

「え? 彼氏さんむしろそれ以外の理由で選ばれるポイントとかあるんですか?」

「あるよ! めっちゃある! ……あるよね?」

 

 味方が一人もいない。そんな状況のカズマは、若干弱気になってペコリーヌを見る。少しだけ困ったような笑みを浮かべていた彼女は、しかし迷うことなく頷いた。二人の思っている理由だけじゃないですよ、と言葉を続けた。

 

「何かあった時の機転と支援はカズマくんが一番ですから」

「あー、まあ、お前たち二人だと解決方法脳筋物理しか出さなさそうだしな」

「それは流石に失礼では? 私もお姉様も、きちんと勉強をしています」

「じゃあ例えば、領主がペコリーヌ一人だけと話したいって腰に手を回して別室連れ込んだらどうする?」

「斬り捨てます」

「ほらね」

「いやお姫様にそんなことする領主は間違いなくギルティですし、アイリスちゃんの意見間違ってないと思いますよ。チエルみたいなピュアピュア美少女も、当然一応うちの国の姫様な学院長がそんな目にあったら……行ってらっしゃいって笑顔でちぇるっと送り出しますね」

「ダメじゃねぇか」

 

 はぁ、と溜息を吐く。アイリスもチエルも、対象者が限定されているからその選択をするのだろうし、それ自体は間違っていないのだが、いかんせん他の理由を考慮していない。かく言うカズマもいざその場面になったら普通に妨害するのは想像に難くないが、それでも一応そういう状況になった場合の予想図をある程度立てられるという自負がある。

 

「なら、お義兄様はどうするのですか?」

「領主がただのスケベなオッサンならペコリーヌがそいつの頭素手でかち割って終わりだろ」

「しませんよ!? カズマくんわたしのことなんだと思ってるんですか!?」

「できないじゃないとこにアイリスちゃんのお姉さんなんだな~ってチエルは謎の感心湧いてきましたね」

 

 なお、この会話は案内役に丸聞こえである。若干顔を引きつらせながら、領主様はそのようなことをする方ではないのでご安心ください、と振り向き釘を刺した。

 そうして辿り着いた部屋は、センスのある調度品で飾られた品のある部屋で、やはり成金や悪徳などという言葉はつかなさそうだと感じさせた。部屋ではこちらを待っていたらしい領主が立っており、ペコリーヌとアイリスを見ると、お久しぶりですと深々頭を下げる。

 

「第一王女殿下。風のうわさで聞いておりましたが、成程、ご立派になられた」

「いえ。わたしはまだまだです。今回も、たくさんの友人達に支えられてここまで来ましたから」

「ご謙遜なされるな。大勢の仲間に囲まれ、支えられるというのは、それだけ人望があるという証左。国王陛下もお喜びになることでしょう」

「……ありがとうございます、ゼーレシルト様」

「いえいえ。そして第二王女殿下も大きくなられた。ははは、お二人が揃ってここに視察に来るとは、驚きました」

「……お姉様と比べると、私の評価はまだ子供に対するものですね」

 

 少しむくれるアイリスを、ゼーレシルトは笑顔で宥める。ペコリーヌもそんな彼女を優しく撫でながら、では気を取り直して、と各々席に着いていった。この領地の状況を示す資料や、自分達が見てきた街の様子などを踏まえ、今回の視察について話し合うのだ。

 

「ねえ、彼氏さん。ところでチエルたちってあれスルーしたまま真面目な話続けていったほうがいいんですかね。まあチエルは空気読める系奥ゆかしい美少女なんでそのくらいのことはお茶の子さいさいなんですけど、ユニ先輩だったらこれアウトだったかもしれませんね」

「いやそこ口に出してる時点でお前もアウトだよ。俺必死で我慢してたのに」

「えー。別にしっかり口に出してないからよくないです? 向こうにも質問飛ばしてないし、向こうはちゃんと真面目な空間維持しちゃってますし、チエルたちがこそっと話してるくらいはノーカンですよ」

「まあ、言われてみれば、そうか。というかリアクション割と薄いなそっち」

「彼氏さんだってそこは同じくないですか? ちなみにチエルの場合は学院長の無茶振りで慣れっこちゃんだってのがありますけど」

「俺も似たようなもんだよ。アクセルの変人共と過ごしてると、あの程度のビジュアルで一々リアクション取ってられん」

 

 そうは言いつつ、じゃあ流せるかというとそれも微妙だよな、と二人は改めてゼーレシルトを見た。

 

「ペンギンだな」

「ペンギンですね」

 

 二人の王女と話している領主は、紛れもなくペンギンであった。ペンギンの着ぐるみであった。

 

 

 

 

 

 

 そんなペンギンの着ぐるみ領主と会談しているなどということは露知らず。残りの面々は面々で領主の城にある施設へと足を踏み入れていた。

 

「うわ」

「ふむ。話には聞いていたが、直接赴くのはぼくも初めてだ」

 

 周囲を見渡しながら、クロエとユニがそんなことを呟く。そうしながら、心配そうな表情を浮かべている一人の少女へと足を進めた。その少女、コッコロの横では、別段気にするふうでもなく、いつもの調子のキャルがいる。

 

「キャルさま……」

「何よコロ助、この程度で今更ビビることなんかないでしょ? まあ、王女が視察に来てる真っ最中にやらかすのは中々の度胸だけど」

 

 クロエ達と同じように周囲を見渡し、そして施設の中心部に目をやった。闘技場のようになっているそこでは、周囲の観客席にいる連中が熱狂する催しが開かれている。

 人間であれば何十人もが戦えるようなその空間には、何体ものモンスターが放たれ、そして争っていた。

 

「しっかし、ついでだから城を見回って欲しいってペコリーヌに言われてやってみたら、まさか地下にこんな場所があるなんてね」

「いやこれ法律とか大丈夫なん? 見られたからにはっつって消される系じゃない?」

「その心配はないだろう。貴族が魔物を捕らえ、戦わせるのはある程度黙認されている。ブライドル王国は守護竜ホマレが見逃せば許可が出るし、ベルゼルグ王国も処罰する法律自体は存在していない。エルロードなどは、むしろ表立ってカジノの項目にしているくらいだ」

「しかし、ユニさま。その言い方ですと、ベルゼルグ王国ではあまりよろしくないことなのでは?」

「然り。確かに表立って行うのは外聞が悪いという部分はあるだろう。だからこその地下闘技場だ」

「パイセン、それダメなやつじゃん」

「こっそりやってる分には問題ないんでしょ」

 

 そう言いながら、キャルはやれやれと肩を竦める。規模の大きさ的に、こっそりというレベルではなさそうだ。大勢いる観客達も恐らく貴族か、あるいは裕福な商人あたりだろう。何かやらかしているとまでは言えないが、問い詰めたら少しばかりは埃が出るかもしれない。

 

「ま、清廉潔白な貴族ってのもそうそういないし、精々普通のお貴族様ってやつかしらね。ここの連中は」

「罰するほどのものではない、ということか。では、どうするのだね?」

「どうするもこうするも。違法じゃないなら何もしないわ。一応後でペコリーヌには聞いておくけど」

「ま、その辺が落とし所か。いーけど、別に」

「成程。分かりました」

 

 そういうことでしたら、と頷くコッコロに軽くデコピンをしたキャルは、そんな難しく考えなくてもいいの、とどこか意地悪な笑みを浮かべる。そうしながら、ぐい、と彼女の手を取った。

 

「きゃ、キャルさま!?」

「どうせだし、あたしたちも賭けましょうよ。ここで稼いで、向こうが何かやってくるならその時はぶっ飛ばせばめでたしめでたしよ」

「そう、でしょうか……?」

「そうそう。あ、ねえ、賭けをする場所ってここでいいの?」

 

 観客席とは別に用意されているスペースへと向かったキャルは、ええそうですという言葉を聞いて、オッズを見やる。成程貴族の遊びと言われるだけはあり、ちょっとお小遣いを賭ける、という程度では済まない賭け金がそこには記されていた。

 

「キャルさま……それは流石に、お止めになられたほうが」

「大丈夫大丈夫。何だかんだお金だってあるし、ちょっと賭けるだけなら問題ないわよ」

「問題しかない発言してんなぁ……」

「然り。あれはズルズルと沼にはまり込んでいく者が述べる台詞だ。加えるならば、止めても無駄だろう」

 

 オッズとモンスターの名前を見比べながら、ああでもないこうでもないと悩むキャルを、クロエとユニは遠くから見守る。他人のふりとはまではいかないが、直接関わるのはやめておこうかなくらいまでは距離を取っていた。しっかりと付き添っているコッコロとは対照的であるが、見捨てないだけ有情ではある。

 

「よし決めた。この、爆裂岩に賭けるわ」

「あの、キャルさま……超大穴、と書かれておりますが……」

「こういうのが案外いけるもんなのよ。ふふん、見てなさいコロ助、あたしがドカンと儲ける姿を」

「はい撤収ー」

「やれやれ。アイリス君に説明するためのメモを取っておくとしようか」

 

 

 

 

 

 

「ゼーレシルト様!」

「何事だ、騒々しい。王女殿下がいらっしゃっておるのだぞ」

「も、申し訳ございません! しかし」

 

 大慌てで部屋に入ってきた男は、頭を下げ謝罪をした後、地下の闘技場で問題が、と彼に耳打ちした。そのことを聞いたゼーレシルトはピクリと着ぐるみの眉尻を上げ、失礼と一旦席を立つ。そうした後、どういうことだと詳細を促した。

 

「実は……その、目を背けたくなるほどの大負けをしたお客様がおりまして」

「珍しいな。ある程度節度を持って催しを楽しんでもらうよう言っているはずだが」

「それが、その……普段参加される方々ではなく」

 

 ちらりと向こうにいる人物達へ視線を向ける。ペコリーヌとアイリス、王女姉妹を一瞬だけ見ると、あちらの護衛の冒険者の一人が、と言いにくそうに続けた。

 ゼーレシルトは顔を顰める。大切な友人に支えられてここまで来た、と彼女は言っていたが、そのような問題を起こすとなると少々話は違ってくる。そのことを考え、老婆心になるが伝えたほうがいいだろうと暫し考えた。

 

「それで、その冒険者は何をしでかしたのだ?」

「……闘技場で、燃え尽きていまして」

「……は?」

「なんというか、真っ白になったというのが相応しい有様で、お連れの方々も、そこにいた来客の方々も、それはそれは気の毒なものを見る目で」

「待て。……暴れたとか、恫喝をしたとか、そういう類ではないのか?」

「はい。こう、ピクリとも動かないので、闘技場どころではないという話になりまして」

 

 それはそれである意味営業妨害だが、直接的に何かをしたわけではないので彼としても何ともいい難い気持ちになる。結局途中で終了したので、今闘技場には件の燃え尽きたお客とその仲間しかいなくなってしまったそうだ。そう報告を受けたゼーレシルトは、普段は決して起きない頭痛がするような気がした。

 

「仕方ない……。とりあえず、様子を見に行くとしよう」

「申し訳ありません。それで、あの……王女殿下は」

「連れて行くしかあるまい。彼女達ならば件の人物を慰めることも出来るだろう」

 

 はぁ、と溜息を吐くと、ゼーレシルトはお待たせしましたと席に戻る。そうした後、申し訳ありませんがと言葉を続けた。視察の話を中断し、闘技場で起きたことの解決に協力してくれないだろうか、と二人に述べた。

 話を聞いた二人は、というかペコリーヌは件の人物に心当たりがありすぎたのですぐさま察した。あの場所で調子に乗って大負けするような人物は一人しかいない、と。反論も文句も出るはずがない。王女という身分から遠ざかっていたこともあり、アイリスが何かを言うよりも早く、彼女は思い切り頭を下げた。この場で最も高貴な存在である第一王女が、あっさりと。

 

「ごめんなさいごめんなさい!」

「いえ、こちらとしても、闘技場自体はあまり真っ当なものとは言えませんからな」

 

 平謝りするペコリーヌに、ゼーレシルトは苦笑する。そうしながら、まあ何か被害があったわけでもありませんので、と彼女を宥めた。

 

「なので、そう気にすることでもありません」

 

 そう言って彼は微笑む。人のいい着ぐるみペンギンの皮をかぶって、笑みを浮かべる。

 思わぬところから、絶品の食事を味わった。そんな内心を隠しながら。

 

 




闘技場で有り金全部溶かすキャル
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