プリすば!   作:負け狐

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元々この章に出そうとは考えていたんですよ、いやほんと


その193

「決まったぁぁぁ! 勝者はなんと可憐な少女の二人組だ!」

 

 大歓声が上がる中、勝者となった二人の少女のうち片方は少しだけ恥ずかしそうに、もう片方は我関せずと食事を続けている。

 エルロードはアイドルの国になったとはいえ、娯楽と結び付きこれまでとは少々様変わりしつつもまだカジノの要素は残り続けている。今この場所もその一つ。大きなレストランのようなその建物内では、大食い勝負が行われていた。

 

「まあ普通はあれだけ小さな可愛さ大爆発的小動物系女の子が滅茶苦茶食べるとは頭の片隅どころか場外ホームランしても見つからないですもんね」

 

 そのステージ上で讃えられている二人を見ながら、チエルはどこか同情するようにうんうんと頷いていた。そしてそのまま、大勝した賭け札を換金所に持ち込みに行く。受付が顔をひくつかせているのを見ながら、彼女は気持ちいいくらいのドヤ顔をした。

 

「おつちぇるさま~。二人共余裕のぶっちぎり大勝利だったね」

「あはは。ありがとうございます、チエルちゃん。とはいえ、殆どフェイトフォーさんの活躍ですが」

「おいちかった」

 

 ステージから戻ってきた二人――言わずもがなアイリスとフェイトフォーに合流したチエルは降って湧いたように潤った懐を見せながらサムズアップをした。それに応えるようにアイリスとフェイトフォーもサムズアップをし、では次はどうしようかと建物を出る。

 蛇足ではあるが、カズマ達がカードゲーム会場にもし立ち寄らなかった場合、予測されるルートはここであった。そしてこの会場は暫くの間閉鎖されていたことであろう。

 

「それで、どうしましょうか? お小遣いも増えたのですから、チエルちゃんの行きたがっていたカルミナ関係の場所へと向かいますか?」

「えっと? チエルとしてはその提案だと船はジャストタイミングですし人参は目の前にぶら下がってますし火の中に飛び込んでジュジュっといっちゃうくらいには望むところなんですけど。最後なんか違いますね、反省反省」

「ちえる、燃えるの?」

「炎上系は今日日流行らないんで不用意な発言はやめましょうね。素敵なチエルとの約束だゾ♪」

 

 よく分からない、と首を傾げているフェイトフォーを見ながら、まあ行ってもいいなら行きたいってことですと彼女は簡潔に述べる。そうしながらも、本当にいいんですかと視線をアイリスへと向けた。

 

「はい。カルミナの皆さんはアイドルフェスでもお世話になりましたし、チエルちゃんが好きになるのも良く分かりましたので。もしよければ、私にもカルミナのことを教えてもらえると嬉しいです」

 

 彼女のその言葉と笑顔に、チエルは思わず目を見開く。そうしながら、アイリスの手を握りしめブンブンと振った。そういうことなら、とズズイと距離を詰め、若干鼻息を荒くした辺りで我に返った。ブンブンと頭を振り、いかんいかんと深呼吸をする。

 

「落ち着け、落ち着くんだチエル。ここで一気に押せ押せでいっちゃったら逃げられる可能性がマシマシ。カルミナは頂点にして原点のマスターオブアイドル、廃れることのない永久殿堂入り。そのファンの母数は増えることこそすれど減ることなど無い、あってはならない。とはいえ、そこに辿り着くまでの道のりを少しでも縮めていくのが真のファンたるチエルの使命。そのためにチエルがやれることは、初心者を大切にして沼に沈めること……これすなわち!」

「ちえる、うるちゃい」

「いっけなーい、声に出ちゃってました、しっぱいしっぱい☆」

 

 てへ、と可愛らしく舌を出したチエルは、そこで再び我に返った。そういえば先輩二人がいなかったことを思い出したのだ。

 

「こういう時、クロエ先輩の辛辣なツッコミスキルって唯一無二の激レアスキルだったんだなって実感しますね。というかあの人それでいて可愛さも兼ね備えてるとかテキストに強いことしか書いてなくないです? 準制限どころか制限食らってもおかしくないですよね。まあチエルは完璧なんで無制限にデッキに組み込むと環境がそれ一色になっちゃうくらいのつよつよ系美少女なんですけど」

「ちえる、うるちゃい」

 

 フェイトフォーの目が冷たい。そんな彼女を見て、苦笑しているアイリスに視線を移し。

 じゃあどこから行きましょうか、とチエルは気を取り直した。いい加減ボケ倒していても埒が明かないと判断したとも言う。

 そんなわけで。今のエルロードの象徴ともいえるもの、アイドル、ないしはカルミナを堪能するために、三人は歩みを進めた。先導するチエルは初めて来る国、土地だというのに迷いがない。流石はカルミナすこすこ侍。まずは初心者にオススメのカルミナスポットへと向かうらしい。

 

「何はともあれ、やっぱりライブを見るのが一番だと思うんですよね。とはいえ、世界が誇るトップオブアイドルたるカルミナはこの魔王軍の脅威にさらされている大地を歌とダンスで癒やす使命のため泣いている子供がいれば西へ、悲しんでいるお爺さんがいれば東へと大忙しなので、カルミナの拠点たるエルロードでも本物のライブを見るのは難し子ちゃんなんですけど」

 

 ななんと、とチエルは振り返る。辿り着いた場所は劇場のような大きな建物。大勢の人がそこに入っていくのを見る限り、大変な人気を誇っているのが見て取れた。

 

「ここは?」

「よくぞ聞いてくれました。ここはエルロードの後方腕組みプロデューサー面した宰相が政策で作り上げたカルミナ劇場なんです。これまでのエルロードの公演を国の金に物言わせて録画して、国の金を湯水のように使って臨場感たっぷりに再現して上演するという最高に贅沢な建築物!」

「……ひょっとして、エルロードの防衛費の打ち切りの原因って」

「ちゃんとそれなりの料金取られますし、グッズやブロマイドでしこたま儲けちゃってますから、この劇場で使ったお金はとっくのとうに完済しちゃってむしろ上振れ真っ最中って感じじゃないかな」

 

 だから問題はそこじゃないと思う。一瞬顔が曇ったアイリスにそんなことを言いながら、チエルはとりあえず行きましょうと二人を促した。彼女が言うだけはあり、劇場に客足が途絶えることはない。このままここに突っ立っていると、中に入れるのはいつになるのか分からなくなりそうであった。

 そのまま列に並ぶ。待っている間、チエルは今回見れるライブは一体どれなのだろうかと予想を立てながら、どのパターンでも楽しめるように二人へと注目ポイントを語っていた。どこも全て余すことなくオススメではあるのだが、その中でも特に、という前置き付きである。

 その最中。ん、と視線を前に向けると、どうやら一組の集団が列に割り込んだだの割り込んでいないだのと揉めているのが目に入った。割り込んだ方は言ってしまえばどこかチャラい格好の連中で、自身の身分を笠に着て少しくらい問題ないだろうと言い張っているらしい。

 

「うっわー。何なんですかあのバッドマナーを体現したかのような連中は。ああいうのを見てファンの民度がどーのこーの言い出すのがいるのがまたチエル的には腹立つポイントなんですけど、まあそこは今回のそれには関係ないから置いておいて。そもそも真のファンならカルミナの歌声に浄化されてあんな振る舞いとか恥ずかしくてその場で自害するレベルの醜態なんで、あれはまだ浅い、というかこれから触れる新規ユーザーでしょうね。ああいうのがここに入場して、見終わって出てくる時にどうなっているのかを想像するのもまた一興って言っちゃえばそれまでなんですけど、だとしても既存のファンに喧嘩を売るだけでなくせっかくの新規を一時的とはいえ近寄らんとこ状態にするようなあの振る舞いは、一ファンとしても見逃せるような代物じゃありませんよ。ええありませんとも」

「ちえる、うるちゃい」

「ですが、確かにチエルちゃんの言っていることも分かります。この場は皆が楽しむべき空間なのですから、あのような方々には少し注意が必要ですね」

 

 アイリスの言葉に、フェイトフォーも成程と頷き、じゃあ少し言ってこようかと足を踏み出した。列を抜けることになるが、まあそこはしょうがないと割り切って向かおうとした。

 そのタイミングで、チャラい男の一人が吹っ飛んだ。え、と動きを止めたアイリス達の視線の先には、一人の少女が仁王立ちをしながらドヤ顔を決めている。

 

「おいオマエら! 何だ何だそのみみっちい悪行は」

「は?」

「悪いことってのは、もっとスケールのでっかいやつじゃないと面白くないだろ。恥ずかしくないのか」

「論点がずれてるんだよなぁ」

 

 少女の後ろでは、ボブカットに近い髪型の青年がどこか呆れたような表情でやり取りを眺めている。その割には、何故か楽しんでいるようにも見えるのが不思議であった。

 少女はその呟きが聞こえたのか、青年に振り返ると何でだよ、と文句を述べた。お前だってこんなやつらと自分達を一緒にされたら迷惑だろうと反論した。

 

「そもそもがさ、マナーの悪い一般人と悪党は別だと思うんだけどね。別にそいつら悪いことをしようと思ってやってるわけじゃないし。だから」

「だから何だよ。オマエはただ面倒くさいから言ってるだけじゃないのか?」

「あ、バレた? でも言ったことは本心だよ。ボクらの目指す大悪党ってのは、こういう奴らとはジャンルが違うじゃん?」

「まあ、言われてみればそうかも」

 

 むむむ、と顎に手を当てて考え込む少女。肩口辺りまで伸ばされたオレンジに近い茶髪がゆらゆらと揺れ、勝ち気な瞳は若干細められている。そんな彼女を見て、青年は楽しそうに口角を上げた。

 よしじゃあ、と彼は口を開く。それよりも前に、少女はだとしても、と青年と割り込みの連中に指を突き付けた。

 

「どっちにしろ、こういうヤツらを見てると面白くないから、きっちりシメておくぞ」

「えぇー。めんどくさーい」

「いいからやるぞ。おい、オマエら、アタシに見付かったのが運の尽きだ。大人しく――」

「あ、逃げた」

「え、おい、待て!」

「わざわざ追い掛けてボコボコにするのは三流悪党でしょ」

「ぐっ」

 

 ぽんぽんと少女の頭を軽く叩いた青年は、それじゃあ退散しようかと彼女に述べる。ぐぬぬと彼を見上げていた少女は、分かった分かったと踵を返した。

 大股でずんずんと歩いていく少女の背中を見ながら、青年は面白そうに、楽しそうに笑う。そうしてから、ふと気付いたように視線をアイリス達に向けた。

 

「ああ、ごめんね。出番取っちゃったみたいで」

「いえ、ご心配には及びません。むしろ、こちらは騒動を解決していただいたお礼を述べる側だと思うのですが」

「あれはうちの相棒がただ首を突っ込んだだけだからね。良い事をした、みたいなことは欠片もないから気にしないで」

 

 むしろそういうの嫌がるんだよねぇ、と青年はまた面白そうに笑う。じゃあまあそういうことで、と手をひらひらさせると、彼はそのまま少女を追い掛けて去っていった。

 何だったのだろう、とアイリスは見えなくなっていく二人を見て首を傾げる。会話の節々からすると、あの二人はどうやら悪党を目指しているらしいのだが。しかし。

 

「なんというか……お義兄様のような雰囲気を感じました」

「え? そう? アイリスちゃんのお姉さんの彼氏さんって、ぶっちゃっけきっぱり身も蓋もないこと言っちゃうと冴えない系のフツメンじゃない?」

「あ、いえ、そういう意味ではなくて……」

 

 とはいえ、ならば具体的に何がどう似ているのかと言われるとはっきりとは答えられないわけなのだが。あえて言うのならば、グイグイ前に行くような少女をうまい具合にコントロールしているところというか、そういう組み合わせというか。

 

「かじゅまときゃるっぽい?」

「コンビ的でサムシング的なあれですか。言われてみれば確かにそんな気がしないでも?」

 

 ふむふむ、と頷くような首を傾げるようなフェイトフォーとチエルを見ながら、あまり気にしないでくださいとアイリスも述べる。そのまま話題を変えるように、チエルへここで見られるカルミナのライブは何かと問い掛けた。

 どのみち名前すら聞いていないのだ。また会うこともそうそうないだろう。それがアイリスの出した結論である。

 

 

 

 

 

 

 所変わってカード大会会場。ペコリーヌに宥められ滅茶苦茶嫌そうな顔でステージ上に上がってきたアカリの姉である少女は、自身のもやもやをぶつけるかのごとくカズマを睨み付けた。

 

「アンタのせいでこうなったのよ! こてんぱんにしてやるから、覚悟しなさい!」

「いやなんでだよ。身に覚えのないことで責められてはいそうですかと受け止めるほど俺は寛大な心は持ってないからな」

「そうね」

「黙ってろ噛ませ猫」

「ぶっ殺すわよ!」

 

 やかましい、と振り向いてキャルに指を突き付けたカズマは、一度深呼吸をすると再び眼前の対戦相手に向き直る。先程対戦した少女アカリの姉――名前はヨリというらしいのだが、身長もそう変わらず、それに対して一部の成長が敗北しているためどうにもお姉さんには見えない。年が近ければそんなものなのだろうか、と思いつつ、彼の交友関係での姉妹を思い浮かべて。

 

「やっぱり姉には見えないよなぁ」

「何だか知らないけど滅茶苦茶不快な視線を感じるわね……」

 

 ペコリーヌとアイリスしかり、シズルとリノしかり。めぐみんとこめっこも多分そうだろう、きっと、おそらく。そんなわけで、やはりデカい方が姉という感じがする、というのがカズマの結論だ。

 まあいいか、と気を取り直す。姉だろうと妹だろうと、今大事なのはこの勝負に勝って賞金をゲットすることだ。先程の勝負を踏まえて、これまでの有象無象とは違うという認識を持ってはいるが、流石に日本産の知識を持つ自分の方が上だろうとどこかカズマは油断をしていた。

 

「よし、じゃあ俺のターン。まずは」

「まずはこれを発動ね」

「は? いやだから俺の――」

「アンタのターンでも使えるのよ、これは」

 

 デッキトップを数枚墓地送りにして、場に一枚のモンスターを召喚する。それに繋げるように、手札からもう一体モンスターが飛び出してきた。そして、その二体をコストにして、別のモンスターが出現する。ついでにデッキから落とされたカードは墓地効果で場にセットされ、コストになったモンスターのおまけ効果でカズマの手札が二枚落とされた。

 

「インチキ効果も大概にしろ!」

「何言ってるのよ。全部カードに書かれてることじゃない」

 

 確認すると確かにその通り。あれって確か日本だと墓地じゃなくて除外じゃなかったか、とか、余計な効果が追加されてないか、とか色々言いたいことはあれど、しかし書いてあるのだから仕方がない。恐らくこれを持ち込んだ転生者が『ぼくのかんがえたさいきょうのかーど』を作ってしまったか、あるいはミリしらで作成された名残なのだろう。そしてカード知識もなければ腕もそこそこなその辺の連中はこれが強いのかどうか分からず、一握りのプレイヤーだけはその真価に気付いて使いこなせた。つまりはそういうわけで。

 

「さっきの威勢はどうしたのよカズマ」

 

 どことなくからかうような声が後ろから飛んできたが、カズマはそれに反応しない。余計なことを考えていたらワンミスで封殺される。幸い同じように日本より効果が極悪になっているカードは自分のデッキにも組み込まれているので、この状況も絶望的ではないのだ。

 キャルもいつになく真剣な彼に気付いたのだろう。表情を元に戻すと、今度は心配そうにいけそうなの、と問い掛けた。

 

「……俺を誰だと思ってる。伝説の決闘者、カズマさんだぞ」

 

 向こうの妨害は推定三つ。自身の手札は三枚。普通に考えれば詰みだ。

 が、しかし。

 

「嘘!? この状況から展開した!?」

「嘗めんなよこらぁ!」

 

 向こうの盤面を崩せはしなかったが、それでも対抗できるだけの戦力は呼び出せた。そのことでカズマの気力は持ち直したし、完封できると思っていたヨリは対抗されたことでわずかにたじろぐ。

 そして観客は、大会の歴史に残るであろう勝負を肌で感じとって沸きに沸いた。

 

「あの、ところで」

「どうしたのよコロ助」

「何故ペコリーヌさまはあちらにおられるのでしょうか……」

「ステージにいるあの娘を連れてきてたし、多分なんかお節介したんじゃない? 知らないけど」

 

 まあ別に向こうの応援してるわけじゃないし。そう言ってキャルは手をひらひらとさせる。それもそうでございますね、とコッコロも素直に納得し再びステージに視線を戻した。

 

 

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