プリすば!   作:負け狐

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勝手に決められた婚約者と結婚するつもりがなかったので顔も見ずに冷たい態度を取っていたら、実は自分の推しのアイドルだった件について。~今更乗り気になってももう遅い~


その195

「まったく。面倒くさい」

 

 エルロード王国第一王子レヴィは、自身の支度をしながらそうぼやいた。支度をする、とはいっても王族なので自分で何かをすることはないのだが、それでもなお彼がそんなことを呟いてしまう理由は一つ。

 

「すぐに向かう、とは聞いていたが、本当にすぐ過ぎる。ふざけてるのかベルゼルグは」

 

 この手の、国と国との交渉事ならばある程度こちらも準備をするのが当然。知り合いの家に遊びに行くのとはわけが違うのだ。そんな当たり前のことをしない相手に、レヴィは苛立ちを隠せてはいない。

 宰相に言わせればこれも戦略の一種なのだという。元々こちらが支援を打ち切ろうとしていることが発端なのだから、少しでも交渉を有利に運ぶためには出鼻を挫き痛いところをつくのはある意味当然。そう説明されたものの、まだ年若い彼ではそう簡単に納得も出来ない。

 

「そもそも、あんな野蛮な国相手になぜこっちが歓迎なんぞしなければいかんのだ」

 

 武力だけでどうにかなっている脳筋王国ベルゼルグ。そういう認識であるレヴィにとって、その国の王女など相手をするに値しないとハナから考えていた。交渉のため、とは言うが、前提としてこちらは折れる気が毛頭ない。わざわざ来たところで、成果など得られるはずもないのだ。

 

「適当に相手をして、さっさと追い返すのがいいだろうな。ラグクラフトもそう言っていたし」

 

 相手は一応婚約者だというのに、彼の態度は非常に冷めたものだ。元々国と国との交渉によって決められたものであるのだから、という見方もあるが、だとしても友好国との結び付きの証でもある相手をないがしろにしていいはずもない。レヴィが国のことなどこれっぽっちも考えていないぼんくらでないのならば、考えられるのは。

 

「……『プリンセスナイト』の所属国でなければ、未練は欠片もないんだが」

 

 アイドルの国、エルロード。その国のトップもまた、ドルオタに片足突っ込んでいた。それも自国のアイドルではなく、この間のアイドルフェスにいたアイドルユニット推しというちょっぴりニッチなやつ。実はこっそりファンレターも書きそうになって思いとどまったというおまけ付き。

 とはいえ、元々カジノ大国をアイドル大国へと変革した立役者であるラグクラフトが宰相として彼の隣にいるのだから、アイドル好きになるのはまあそれほどおかしくはない。特に思春期の男子は微妙に逆張りしたくなるお年頃なので、メジャーどころを避ける傾向があってもまあそんなものかもしれない。

 問題は、だ。その推しユニットがこれから冷たくあしらおうとしている国の所属であることと。

 

「大体、あの武闘派ベルゼルグの王女だぞ、ゴツいオークみたいな女だろうし……。まったく、『プリンセスナイト』のイリスくらい可愛ければ、俺だって」

 

 まだ見ぬ婚約者の顔を想像しながら溜息を吐いたレヴィは、推しのアイドルが婚約者だった、的な若干キモい想像をしながら支度を終える。先に宰相であるラグクラフトが挨拶をしているという話なので、別段こちらは急ぐ必要もないだろう。そんなことを考えつつ、傍目からしてもめんどくさそうに彼は城の廊下を歩く。そうして従者に案内されたであろう相手がいる部屋に向かうと、外にいても聞こえてくる喧騒を耳にし、不機嫌さを隠そうともしない様子で扉を開いた。

 

「まったく、騒がしいぞ。礼儀というものをわきまえたらどうだ」

「あれ? 何だかいきなり偉そうなこと言いながらダイナミックエントリーしてきた子供がいるんですけど、ひょっとしてあの人がエルロードの第一王子さんなんですか? まあお城の兵士の態度からして、性格ネタバレ生意気っぽいなって思ってましたけど」

「アイリスと同い年だっけか? 年上? まあ、いいけど、どっちでも。ガキ風隙間から漏れまくってるのは変わらんし」

「ふむ。恐らく、恵まれた環境で甘やかされて育てられていたのだろう。だが、同じ境遇でもアイリス君は真っ直ぐに育っていたところを鑑みるに、現在の性格形成はやはり生来の部分が大きいと見える。学院長が良い例だ」

 

 が、若干の嫌味を含みながら述べた言葉を三倍返しされて思わずたじろぐ。視線をずらすと、三人にボロクソ言われたであろう兵士達はぐったりとした表情で項垂れていた。

 更に視線を動かす。無言で大量のお茶菓子を食べている白く美しい髪の幼い少女が見えて、顔が引きつった。野蛮な国だと知ってはいたが、予想以上に頭のおかしい連中らしい。まさか交渉のテーブルにやってきた連中がこんなのとは。そんなことを思いながら、彼はラグクラフトの顔を探す。流石にあのやかましくやべーやつらや幼女が許嫁ではないだろう、と考えたからだ。

 

「おい、ラグクラフト」

「お、おお。レヴィ王子。もう少しゆっくりでも構わなかったのですが。というかむしろ来なくても」

「ん? どうしたんだラグクラフト。いくら面倒事とは言え、流石に顔を見せないわけにもいかないだろう。たとえ即座に断るとしても」

 

 そうして見付けた宰相に声を掛けたのだが、その相手がやけに慌てているのを見てレヴィは怪訝な表情を浮かべた。別に最初から交渉などする気はない、と言っていたではないか。そんなことを思いながら、彼はラグクラフトの対面に座っているベルゼルグ王国の第二王女アイリスを見やる。どうせ大した女ではないだろうと高をくくって、若干バカにした表情を作りながら、彼女を見る。

 

「それで? お前が俺の許嫁か。ベルゼルグの王女だからどうせゴツいやつが来ると思っていたのに、随分と……弱そうで……小さくて……っ!?」

「初めましてレヴィ様。私はベルゼルグ王国第二王女、アイリスと申します」

「……え? え!? お前が、アイリス!?」

「はい。本日はあなたにお会いするためにやって参りました。あなたのお顔が見られて嬉しいです」

「あ、い、いえ。こちらこそ! そ、そんなことを言ってくれて、嬉しいです!」

「あー……」

 

 推しがいた。推しが自分に会いに来たとか言い出した。自分の顔を見れて嬉しいとか言い出した。いきなりのそれにテンパったレヴィは先程までの態度が嘘のようにあたふたし始める。予想通りの結果だったのか、ラグクラフトは頭を抱えて盛大な溜息を吐いていた。

 

「クロエ先輩、ユニ先輩。あれどうなっちゃったんです? 偶然推しにあった一般ファンみたいに大変身してますけど」

「いや、みたいっつーか、そのものなんじゃね?」

「然り。どうやらあの第一王子は、以前のアイドルフェスでアイリス君のファンになっていたのだろう。たった一度のパフォーマンスを見ただけで魅了されてしまったアイドルのことを忘れられず、好きでもなんでもない自身の婚約者と会うのも乗り気ではなかった少年が対面した相手がまさかの、という一般大衆娯楽小説にありがちな荒唐無稽な設定を今まさに体感しているところではないだろうか。端的に換言すれば、これなんてラノベ?」

 

 

 

 

 

 

「ちょっとちょっと、あれマズいんじゃないの!?」

 

 エルロードの王城。こっそりと侵入したカズマ達はアイリスの交渉の様子を窺っていたが、レヴィの予想外の反応にキャルは思わず目を見開いていた。ペコリーヌやコッコロも、彼女の言葉に考え込む仕草を取っている。

 

「ん~。確かに、ちょっとやばいかもですね」

「交渉自体は上手くいくのでしょうが……あの様子ですと、アイリスさまの婚約話はそのまま通ってしまうのでは」

「それよそれ。どうすんのよ。ねえカズマ、黙ってないで何か言いなさいよ」

 

 ぐりん、と首をカズマへと向ける。そんなキャルを一瞥し、彼はそうだな、と少し考え込む仕草を取った。その格好のまま、なんてことないように言葉を紡ぐ。

 

「こっちの良いように交渉成立だけしてから、アイリスが振れば万事解決じゃないか?」

「サイッテー……」

 

 キャルの視線が絶対零度になる。つい先程までの仲間にアイデアを求める表情は近くにゴミが落ちているかのようなものへと変化していた。一方のカズマは、そんな顔をしたキャルに反論をする。だったらお前は一瞬でも考えなかったのかよ、と。

 

「考えるわけないでしょ。アイリス様はペコリーヌの妹で、個人的にも知り合いなのよ。これが普通に依頼でよく知りもしないお偉い貴族のお嬢様とかだったら迷わずやったけど」

「やるんじゃねぇかよ」

 

 ジト目を返しつつ、まあこちらとしても義妹を生贄にする趣味はないと彼は述べた。選択肢としては考えてみたが、実行する気はないボツアイデアだと続けた。そもそもが今回の目的は交渉事の成功の鍵を自分にすることである。アイリス自身が、推されているのをいいことに向こうの王子を手玉に取って交渉を成功させてしまったら何の意味もないのだ。

 

「まあ、そもそもとしてあいつがそういう交渉できるとは思えないしな」

「そうねぇ……そこら辺どうなの? ペコリーヌ」

「へ? わたしはそういうの学んでないから分からないですけど」

「そういうの、って、色仕掛けのこと?」

「シェフィちゃん、そういうのははっきり言わない方がいいんですよ」

 

 話を聞いていただけのシェフィとぬいペコが余計な口を挟む。えっと、その、と微妙に視線を逸らして頬を赤くしているとこを見る限り、学んではいなくとも知らないということはなさそうであった。個人の見解である。

 

「あの、ペコリーヌさま?」

「いや、本当に学んでないですからっ! ララティーナちゃんとかはひょっとしたら学んじゃったりしてるかもしれないですけど、わたしは全然!」

「落ち着け」

 

 あんまり騒ぐとバレる。そうなった原因であるカズマが言っても説得力は全くないが、ともあれその一言で一行は一旦息を吐いた。その途中、そもそもクリスティーナとジュンから何を学べるんですか、と少し拗ねたようにペコリーヌはぼやいていたが、皆が皆聞こえないふりをした。

 

「ところで」

「どうしたんですか、シェフィちゃん」

「実際、アイリスはどう思っているのかしら。いざ出会ったらあの人が番でもいいかも、とか考えたりしてないとは限らないでしょう?」

「つがいって言うな。でも、確かにそうね。ねえペコリーヌ、どう思う? 姉として、あの王子ってアイリス様の好みにあってたりするの?」

 

 今度は視線をペコリーヌに向ける。が、当の本人はここ数年距離を置いていたからよく分かりません、と自嘲気味に微笑むと俯いてしまった。思い切り地雷である。

 

「おいキャル」

「何よ! あたしが悪いの!? ……あたしが悪いわね、ごめんなさい」

「そこで謝るのはトドメだと思いますよ」

「あ、あはは。いえ、でも大丈夫です。もう仲直りはしていますし、これから知っていけばいいんですから」

 

 そう言って気を取り直したペコリーヌは、そこでふと何かを思い出したように手を叩いた。そういえば、少し前にお話したんでした、と言葉を続けた。

 

「カズマくんみたいな男の人はお断り、だとかなんとか」

「何の参考にもなりませんね」

 

 ぬいペコがバッサリいく。そんなやり取りを聞きながら、コッコロはしかし、とフォローをするように言葉を紡いだ。少なくとも、向こうの方が主さまのような人物ならば婚約話が上手くいくことはないのでは、と。

 

「ねえコロ助。国の王子がこんなのだったらお先真っ暗よ」

「はぁ? 嘗めんなよ、俺はこう見えて何度も国の経営をしたことあるんだからな」

「どうせボードゲームか何かでしょ」

「ですがキャルさま。シミュレーションできちんとした結果を出されているのですから、主さまは知識を身に着けておられます。実際も十分期待は出来るのではないでしょうか」

「あんたは何でこういう時は全肯定なのよ」

「まあ、勉強ってそういうものですしね」

「ペコリーヌまで……って、今はそれはどうでもいいの」

「自分から不利だからって無理矢理話題を変えようとするな」

「うっさい! ぶっ殺すぞ!」

 

 がぁ、と叫んだキャルは咳払いを一つ。まあとにかく向こうのレヴィ王子がアイリスの好みから完全に外れているとは断言できないだろう、と話題の方向を修正し、そう言いながらもう一度向こうの交渉席を覗き見た。

 アイリスの一挙一動に反応して錆びたゴーレムのような動きをしているレヴィを、ラグクラフトがどうにかフォローしている光景が目に映る。傍目には有利に見えるが、しかしアイリスの表情を見る限りそういうわけでもなさそうだ。

 

「思ったよりあの宰相が厄介だな」

「というよりも、国の政治の管理を担っているのが宰相さんなんだと思います。今この国は国王が他国に行っていますし、その状態で残されているということは、それだけ信頼も厚いんじゃないでしょうか」

「まあ、そうでしょうね。なんだっけ、この国をアイドル大国に改革した立役者、だっけ?」

「苦労してそうですね。……まあ、その方が案外幸せかもしれないですけど」

 

 皆のやり取りを聞いていたシェフィの肩にいるぬいペコが、ラグクラフトを見ながらぽつりと呟く。どうしたの、とシェフィが彼女を見たが、大したことじゃないです、と首を横に振った。

 

「ああやって魔物が宰相をしているのを見ると、王女のコピーであるわたしもまあいっかって思えてきますねって話で」

「なるほど……ちょっと待って。魔物?」

 

 さらっと今凄いこと言わなかったか。その言葉にすぐさまラグクラフトへ視線を向けたシェフィは、言われてみれば確かに、と納得して頷いた。

 そのやり取りが小声で行われているはずもないので、当然ながらカズマ達にも聞こえるわけで。

 

「え? どういうこと? この国って魔物が政治牛耳ってるの?」

「だとすると、話が少し変わってくるのでは?」

「防衛費を打ち切る理由は、魔王軍を援護するため……?」

 

 キャル、コッコロ、ペコリーヌの表情が真剣なものに変わる。先程までの婚約者が推しだったことでテンパる王子とフォローする宰相から、魔王軍に操られているきな臭い国の中枢部へと。振れ幅がでかすぎる。

 

「……なあ、あの宰相、さっきからアイドルのことしか語ってないぞ」

 

 ともあれ。それを踏まえ再びあの交渉席を真剣に盗聴していたカズマは、それらをメモしつつ皆に伝えながら段々と表情がゲンナリしたものに変わっていった。なんとなしに聞いていた状態から真剣に聞き直したところで、向こうの内容が変わるはずもない。

 宰相ラグクラフトは、エルロードのアイドル大国の拡大を理由にベルゼルグへの出資を渋っている。

 

「というか、何か魔王軍の勢いが弱っている今がチャンスとか言ってるぞあいつ。なあ、あの宰相って別に魔王軍と関係ない魔物なんじゃないのか?」

「まあ、確かに。魔物の全部が全部魔王軍っていうわけでもないですからね」

「全然関係ない魔物って意外といるものね。アクセルには両方いるけど」

「となると、あの方は人の社会に溶け込んでおられる魔物なのでしょうか」

 

 発言を聞く限り、現状そう考えるのが妥当であろう。というか、後方腕組み敏腕プロデューサー面しながらカルミナ全国ツアーの展望やアイドルが生み出す力を力説する魔王軍所属の魔物は嫌だ。実際、チエルはうんうんと頷いているが残りのなかよし部とアイリスは若干引いている。

 どちらにせよ、ラグクラフトが魔王軍所属の魔物であろうが野良魔物であろうが、あの様子では交渉は上手くいくまい。アイリスが落ち込んでいるのを見てこの世の終わりのような顔をしているレヴィを尻目に、彼は話を締めに掛かろうとしていた。

 

「まあでも、これで進む方向は見えたな」

「どこがよ。何、あんたこの国のアイドル事業でも潰す気?」

「やばいですね……」

「主さま、流石にそれは少々問題かと」

「お前ら俺のことなんだと思ってんの?」

 

 そうじゃなくて、もっと穏便なやつだ。そう続けると、カズマは撤収の準備を始めた。もう向こうを覗き見する必要もない。こっちの方向で話を進めれば、アイリスの婚約話を無くしつつベルゼルグ王国に資金を流すことが出来るはずだ。

 そんな結論を出した彼は、まあとりあえずやってみようぜと口角を上げた。

 

 

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