プリすば!   作:負け狐

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アイドル群雄割拠


その196

 アゾールドの屋敷へと戻ったカズマ達は、早速とばかりに彼に交渉を持ちかけた。アゾールドとプレシアは、その話を聞いてううむと少し考える仕草を取る。

 

「パパ。これ、どう思うの?」

「そうだな……。アイデアとしては悪くはない、王国に恩を売るという部分では申し分もないだろう」

「問題ありそう。だね」

「ああ。――カズマ君、その商売の勝機はどの程度あると見込んでいるのですかな?」

 

 視線を自身の娘からカズマに向ける。親と子の会話でしていた表情から、笑顔ではあるものの裏を見せないようなそれに瞬時に変わるあたり、やはり中々食えない人物なのだろう。そんな評価をカズマは持ったが、残りの、具体的にはペコリーヌはどう感じたか。

 

「百、とか威勢のいいことを言えればよかったんだけどな。現状は半々ってところかな」

 

 ともあれ。現状交渉の決定権は自分にある。余程ヘマをしない限りは仲間達は口を挟んでこないだろう。そう結論付け、カズマはアゾールドにそう返す。ハッタリの交渉、搦め手や卑怯な手段は得意な方であるが、流石に相手が悪い。リスクが大きすぎる上にリターンが割に合わないからだ。

 

「ほう。それでも半分はあると」

「まあな。ここエルロードはアイドル産業の国だ、その手の情報はどこよりも早いはずだろ?」

「確かに、アイドルフェスの第一回はこの地で行われました。この間のフェスの結果も、出場アイドルユニットも、しっかりと周知されておりますぞ」

「ちょっと待った! え? それって!?」

「ああ、お気にめされずとも、この国にとってアイドルは不可侵の存在。たとえ『そう』だと確信を持たれていても、向こうから正体を迫ってくることはありますまい」

「安心できるかぁ! バレてる可能性あるってことじゃないのよそれぇ!」

 

 余計なことに気付いたキャルが口を挟んできた。当人にとっては重要なことなのである意味仕方ないだろうが、アゾールドはそんな彼女を優しく諭す。ステージ衣装などのアイドルとして活動している状態ならばともかく、そうでない時であればたとえカルミナであろうともそこは不可侵。後方プロデューサー面宰相ラグクラフトの手腕もあり、この国がアイドル産業で発展した理由の一端が詰まっているのだ。

 その暗黙の了解を破るようなものがいたならば、場合によっては国が動く、と言われるほどである。

 

「思ったより規模がヤバいが、まあいいや。ともかく、じゃあここでアイドル活動をすれば割と簡単にファンを集められるんだよな?」

「ふむ。アイドルフェス上位の方々でしたら、容易いでしょうな」

「絶対嫌!」

 

 即答であった。カズマが何かを言う前に拒否られた。手で思い切りバツ印を作ったキャルは、そんなアイデア却下に決まってるでしょうが追加でカズマに食って掛かる。

 

「あんた自分でいいアイデアがあるって言ってそれなわけ!? というかそもそもそれのどこがいいアイデアなのよ! あたしがやるやらない以前に、エルロードのアイドル産業に真っ向から喧嘩売りに行ってんじゃないのよ!」

「まあ落ち着けって。そもそもお前は何か誤解してるぞ」

「何がよ。あたしたちにアイドルやらせようとしてるんじゃないの?」

 

 滅茶苦茶不満そうな顔で、ドスンとソファーに座り直す。ジト目のまま、キャルはカズマにそれだけを述べた。ここの部分が誤解でないのならばなんなのだ、と。

 それに対し、彼はやれやれと肩を竦めた。最後まで話を聞けって、と彼女を宥めにかかった。

 

「まず第一に、エルロードはアイドル産業が売りの国だ。カルミナが、じゃない」

「えっと、カズマ、それのどこが違うの?」

 

 ひょこ、とシェフィが口を挟む。カズマはそんな彼女を見て、まあドラゴンには少し難しかったかな、と頷いた。

 

「……申し訳ございません、主さま。わたくしも、いまいち理解が」

「いやまあこういうのはしょうがないよな。まあこれから説明する気だったし気にするな」

「見事な掌返しですね」

「やばいですね」

「うんうん頷いてるとこ悪いけど、そこの同じ顔コンビは分かってるわけ?」

 

 言外にキャルはカズマの言いたいことをある程度理解しているのだと述べながら、ぬいペコとペコリーヌに視線を向けた。これから言うことはまだ分かりませんけど、と彼女の視線を受けたペコリーヌは頬を掻く。

 

「カルミナ以外のアイドルも応援してくれる国、ってことですよね?」

 

 その言葉にぬいペコは頷き、聞こえていたカズマもそうそうと同意する。そうしながら、まあ補足するとだな、と指を立てた。

 

「別にここでアイドル活動をしても、文句は言われないわけだ」

「どっちにしろ喧嘩売ってるのには変わらないじゃないのよ」

「いやいや、キャル嬢、それは違いますぞ。先程も言ったように、ここエルロードにとってアイドルは宝。その中の至宝であろうカルミナの在り方を汚すようなことは許されない」

「何か言い方が怪しい宗教みたいなんだけど。具体的には非常に不本意だけどあたしに凄く近いとこのやつ」

「全然具体的じゃないし、素直にアクシズ教っていっとけばいいじゃねーか」

「うっさい」

「大丈夫。流石に、あそこまでじゃない。よ?」

「ぐふぅっ!」

「……?」

 

 フォローのつもりで言ったらしいプレシアのそれに、キャルは致死量ダメージを受けてのけぞり動かなくなる。どうしたのだろうかと首を傾げる彼女に、残りの面々は気にしないでいいと返した。

 

「まあいいや。とにかく、アゾールドのおっさん。ここでのアイドル活動は問題なくいけるんだよな」

「ええ」

「でもって、その儲けはあくまでアイドル達のもの。これも合ってるよな?」

「勿論。まあ、そのアイドル達がきちんと同意をしているのならば、それらを何か別の事業に使用することも問題ないでしょう」

 

 最初にカズマが軽く説明したことを、きちんと把握した上でアゾールドはそう述べる。笑顔のままそれを告げたので、カズマも分かってるじゃないかおっさんと同じように笑みを浮かべた。

 他の面々に視線を向ける。シェフィは狩り場の奪い合いじゃないことにハテナマークを浮かべていたので流し、コッコロは争いをするわけではないと理解して安堵していたのでカズマも胸を撫で下ろした。何はともあれ、コッコロが乗り気ではないと初手で躓く。心情的な意味で、である。

 

「ねえ、カズマ」

「何だ? 言っておくが、お前が反対しても俺は気にしないからな」

「少しは気にしなさいよ。じゃなくて、まあ、あんたのやりたいことは一応分かったんだけど」

 

 肝心のアイドルはどうするの? そう告げた彼女の言葉に、カズマはそれは勿論と口角を上げた。

 

「『プリンセスナイト』で」

「やってたまるかぁ!」

 

 

 

 

 

 

「そもそも! 第一第二王女を両方使ってそんなことしたら当初の目的台無しじゃない」

「確かに、アイリスは当然として、わたしも今回は一応ユースティアナ名義になっちゃってますしね」

 

 エルロードの王都突入時のアレである。それが無ければギリギリ冒険者ペコリーヌで押し通せたかもしれないが、その場合こうやってアゾールドと交渉出来ていたかも怪しくなるので一長一短だろう。

 ともあれ。それを聞いたカズマは、しかし食い下がることもせずまあそうなるよな、と息を吐いた。あんな態度をしておきながら、本人的にも割とダメ元だったらしい。

 

「今この場所でメンバーが揃ってるのがそれくらいだったから、一番手っ取り早かったんだけど」

「あの、主さま……アイリスさまの護衛についておられる『なかよし部』では、駄目なのでしょうか?」

「アレは駄目だろ」

「そうね。アレは駄目ね」

 

 手を上げてそう提案したコッコロにカズマとキャルが突然結託して駄目出しする。きゅ、と目を丸くしたコッコロに向かい、いやまあそう思うのも分からないでもないんだけどと彼は頬を掻いた。

 

「あの連中が俺の言う事聞くわけないんだよなぁ……」

「アイリスのため、じゃあ、駄目なの?」

「駄目でしょうね。ほら、あいつ、チエルがいるでしょ。本当にどうしようもないってわけでもない今の状況じゃあ、あれがカルミナの聖地でシェアを奪い合うなんて方法に協力するはずないわよ」

 

 向こうもここの流儀、というかカルミナすこすこ侍の矜持があるので妨害はしないだろうが、協力もしないであろう。それが分かっているので、カズマはあのやべーやつ三人組を選択肢から外していた。

 ちなみに、このことを提案することで違う案を出させて成功させるという方法も考えはしたものの、その場合の手柄はなかよし部に持っていかれるのでカズマは即座に却下している。

 

「そもそも、あの三人はブライドル王国の所属ですしね」

 

 ぬいペコの一言で、あ、と誰かが声を上げた。そういえばそうだった。非常にシンプルかつ致命的な問題があったのを失念していた。じゃあまず王女が他国に行く護衛として選出するなよと言われればその通りなのだが、そこら辺はベルゼルグ王国のアレさ加減とブライドル王国第一王女のアレさ加減の問題である。

 

「まあそういうわけだとして。……シェフィとコッコロはいるけど、『真紅眼の白妖精龍(レッドアイズ・フェアリー・ドラゴン)』で行くにはめぐみんのインパクトが必須だからなぁ。二人だとどうしてもパンチが弱い」

「他の人を入れるのでは駄目なの?」

「駄目だ。アイドルってのはイメージも重要なんだよ。アイドルフェスで優勝したユニットが突然メンバーを交代させて再登場、とかもう余計な憶測を呼んで炎上する未来しか見えん」

「炎上? 火炙りにでもされるのかしら?」

「……アイドルというのは恐ろしいのでございますね」

「いやあの、俺の故郷の例え話で実際に燃えるわけじゃないから。とりあえずそのイメージは捨てて」

 

 シェフィとコッコロの中で盛大な誤解が生じているのを訂正しつつ、まあとりあえずメンバー変更はなしの方向でと話を締めた。そうした後、カズマはそこで動きを止める。

 あれだけ自信満々に交渉していた割に、アイドルユニットの当てがいない。

 

「話は終了ですかな」

「待て待て。まだ手段はある。新しいユニットを作ればいいだけだ」

「ほう。それで、そのユニットの人員はどのような?」

 

 あくまで笑みを消さず、その眼光だけが鋭くなる。ここが勝負所、ということなのだろう。カズマもそれを理解したが、だからといってすぐさま答えが出てくるはずもなし。というかすぐ出てくるならこの流れになっていない。

 ふむ。とアゾールドは顎を擦る。視線の鋭さは変えず、笑みも湛えたまま。彼はゆっくりと口を開いた。

 

「パパ」

 

 その直前、プレシアがそこに口を挟んだ。どうした、とアゾールドは彼女に視線を向ける。父親とは違いどことなくぽやぽやしているような少女ではあるが、しかしその瞳はしっかりと意思を見せていて。

 

「そのやりかたじゃ、かせぐの遅くなりそう」

「ああ。その通りだな。今回の交渉は既に知名度があるアイドルユニットに投資をする、という前提の話だ。一から新たなアイドルを売り出すには時間も費用も足らない」

「うん。詰んでる。よね?」

 

 視線を父親からカズマに向ける。ぽやぽやの瞳は真っ直ぐに彼を見詰めており、今の話を聞いてどういう答えを出すのかと問い掛けているようにも見えた。アゾールドは何も言わない。というよりも、言う必要がない。伝えようとしたことは今の会話で十分だったからだ。

 

「どうすんのよ、カズマ」

「これはちょっとやばいかもですね」

 

 打つ手なし。そう判断したのか、キャルもペコリーヌも大分弱気な反応である。コッコロはその手の言葉は口には出さずカズマを応援するだけであったが、しかしだからといって彼女自身にアイデアがあるわけでもなし。

 

「……いや、発想を変えよう。もともと知名度のある誰かをアイドルに仕立て上げれば、今言った問題は解決できるんじゃないか」

「だれ?」

「カードゲームの大会で戦ったあいつら、アカリとヨリなら」

「ふむ。確かにエルロードではそこそこ知名度のある人物ですな。それで? その二人をどうやってアイドルに仕立て上げるつもりですかな?」

「たぶん、失敗する。と思う」

 

 アカリはともかく、ヨリにそういうことをさせるのはまず不可能だと思った方がいい。プレシアの話とあの時の態度や性格を思い返し、それが間違っていないこともほぼ確定である。

 だったら最後の手段とばかりに、カズマはそれを口にしようとした。眼の前のぽやぽや美少女、プレシアをアイドルに仕立て上げる、という案を。

 

「その場合、勿論稼いだ報酬は一エリスたりともそちらにお渡しすることはないと承知の上でしょうな? 譲歩しても、スタッフとしての労働報酬を払うくらいになりますぞ」

「わたしは、パパのおみせの従業員だから」

 

 商売の交渉を持ちかけて、その内容がアイドルの売り出し、そしてそのアイドルは交渉相手の娘。これでカズマ達が稼げる方がおかしい。至極もっともな意見であり、ここから目の前の相手を口八丁で騙くらかすには、いかんせんカズマは人生経験が足りない。脳筋国家の適当貴族や冒険者とは違うのだ。

 

「それはどうかな? 俺のプロデュース力なら、間違いなく大金が稼げる。想定の倍以上になれば、その分こちらにも回せるだろ?」

 

 それでもカズマは諦めない。動揺など微塵もしていないように、不敵に笑ってアゾールドへとそう返した。確かに彼にはその手の人生経験は足りないが、その代わりに日本での知識がある。これらと己の口の上手さを合わせれば、まだ勝機が。

 

「――以上が、エルロードで行われているカルミナのプロデュースですが、これを超えるアイデアというものがあれば是非教えていただきましょう。信用させる証拠ですので、一つで結構ですし、勿論対価も支払いますぞ」

「……」

 

 大体彼の知っているアイドルプロデュースはほぼほぼカルミナが通っていた。そもそも女神祭りのアクセルハーツのライブで観客がサイリウム振っていたりライブ後にファンミーティングしたりしている時点で予想して然るべきである。

 

「待て待て待て。俺はプロデュース力だって言っただろ? アイデアは既存のものでも、それを活かす力が必要。その点この俺カズマさんはアイドルフェスで一組のユニットを優勝に導いた経験がある。任せられるだけのものはあるはずだ」

「ソロアイドルの売り出しのご経験は?」

「……」

「諦めなさいって」

 

 いい線は行っておりましたぞ、とアゾールドは笑う。タオルを投げられたような形となった言葉を述べたキャルをぐぬぬと睨んでいたカズマであったが、まあ実際その通りではあったので引き下がった。いいアイデアだと思ったんだけどな、とぼやきながら、仕方がないので別のプランでも、と思考を回転させる。

 そんな彼に、ならばこういうのはどうでしょうかとアゾールドが声を掛けた。商会に届いていた依頼の一つだと、彼は一枚の書類を机に置く。

 

「プロデュース力には自信があるのでしたな。ここでその力を存分に振るってもらえれば、望む結果を出せるのでは?」

「ん? 何よそれ」

「えっと……『アクセルハーツ、臨時スタッフ募集』?」

「ええ。なんでも、全国ツアー中にエルロードのスタッフが怪我で担当できなくなったそうで」

「怪我、でございますか」

「うん。トロールにおそわれたんだって」

 

 そんな事情もあり、何かしらのトラブルにも強い人員を探しているらしい。そう説明をしたアゾールドは、返事を聞くべくカズマに視線を戻す。正直思い切り誘導された感は否めない。が、この提案をわざわざ突っぱねる理由もないわけで。

 

「ある意味丁度いいか。よし、アクセルハーツに協力してもらって、この国のシェアを一部ベルゼルグ王国に向けさせるぞ」

「……これ、やっぱり縄張りを奪うんじゃ」

 

 カズマの宣言を聞いたシェフィは、んん? と首を傾げる。気にしたら負けですよ、と肩のぬいペコがそんな彼女の頭をペシペシと叩いていた。

 

 

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