プリすば!   作:負け狐

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現状三部ネタは殆ど使わない方向で


その197

 渡された紙に記された場所は、思っていた以上にきちんとしたスタジオと併設されたホテルであった。アイドル事業の国だけあってその辺りのサポートは完備されているらしい。

 

「その割にはトロールに襲われてスタッフ不足って、何か変な話じゃない?」

「そう言われてみれば、そうですね。他に事情でもあるんでしょうか」

「まあどっちでもいいさ。このチャンスを逃さず向こうに取り入って資金稼げれば」

「相手の住処に潜り込んで食い荒らすのね」

「シェフィさま、それは少し違うのではないかと」

 

 そんな思い思いのことを話しながら、スタジオにいたスタッフに声を掛ける。最初は怪訝な表情をしていたが、そこに気が付いた他のスタッフがやってくることで事なきを得た。どうやらアイドルフェスのことを知っている組と女神祭に関わっていた組、そしてそれ以降で割と分散しているらしい。

 

「新規スタッフ多くないか?」

 

 案内されている途中にそんなことを尋ねると、古参スタッフは苦笑しながら頭を掻いた。それがな、と少し疲れたように口を開いた。

 なんでも、ここ最近ツアー中に妙なトロールの襲撃が頻発しているらしく、付き合いの長い古参スタッフは道中でのそれに巻き込まれて負傷し療養しているのだとか。入る前にも考えていたそれが、どうやら思ったよりも深刻らしい、とカズマは表情を苦いものに変える。

 

「思ったよりめんどくさそうな状況だな」

「っていっても、所詮トロールでしょ? 魔王軍幹部とやりあった一流冒険者のあたしたちにかかれば楽勝よ」

 

 ふふん、とキャルがそんなにない胸を張る。彼女のそれを聞きながら、まあ確かに俺達は一流冒険者だけど、とカズマは少しだけキメ顔をしながら視線を巡らせた。

 

「一流っていうのは、状況の見極めも大事なんだぞ。……まあ、俺がいるからその辺の心配は無用だけどな」

「言うじゃない、カズマ」

「まあな」

「……ねえ、マ――ッコロさん、ペコリーヌさん。あの二人は何をやってるの?」

「凄腕の冒険者であることを主張しておられるようですが……交渉術の一つなのではないでしょうか」

「えっと、まあ、確かにそうかもしれませんね」

「そうだったのね。ただの自慢話だと思ってたわ」

 

 うんうん、とシェフィが納得したように頷く。そんな彼女を見ながら、ペコリーヌはあはは、と頬を掻いていた。今同意したのは嘘ではないし、そうやって実力者アピールすることでこちらの要望を通しやすくするというのも間違ってはいないだろう。ただ、相手はアクセルハーツ、ぶっちゃけて言えば顔見知りでこちらの実力など先刻承知。そんなアピールしなくとも、普通に交渉すれば事足りる。全滅はしていないものの、古参スタッフが欠員しているのでそういう意味では多少効果はあるかもしれないが、それでも。

 

「ただの自慢話ですよね」

「……やばいですね」

 

 バックの中のぬいペコのツッコミを、ペコリーヌは聞かなかったことにした。

 

 

 

 

 

 

 勿論、といっていいのかどうは置いておいて。アクセルハーツの面々はカズマ達の協力を快く承知した。不足している人員の仕事以外にも、冒険者としての仕事がこなせるというのも要因としては大きい。

 が、いかんせんもう一つの方の交渉はイマイチであった。

 

「エルロードでシェアを広げるから、マージンを王国に回して欲しい、か」

「アタシとしては可愛さを世界に広められるなら全然オッケーだけど」

「駄目だよエーリカちゃん。この件は簡単に受けちゃ」

「いや、流石に分かってるわよ。で? カズマ、なんでいきなりそんな話になってるの?」

 

 主目的を伝えると、まずリアが渋い顔をした。次いでシエロ、エーリカは他の二人よりは前向きではあったものの、それでも首を縦には振らない。いくら顔見知りで、アクセル変人窟の同類とはいえ、いきなりそれだけではいそうですかとなるわけがないのだ。

 そんなことは先刻承知である。むしろそれを狙って、カズマはいきなり本題から入った。向こうがこちらをある程度信用しているという前提を踏まえ、理由を聞いてくれるように誘導したのだ。

 となれば後は、話せる分の王国の事情を、それっぽく、それでいて嘘ではない程度に脚色して語って聞かせるだけである。ご丁寧に人払いをして、極秘であるという強調も行った。

 

「こういう狡っ辛いやり方は得意よねぇ、あいつ」

「とはいえ、行動そのものは誠実に事情をお話ししているだけですので、問題はないかと」

「いやまあ、そうなんだけど。なんだろう、詐欺を見てる気分だわ」

「あはは」

 

 ほんのちょっぴり同じことを思ったペコリーヌは笑って誤魔化した。そうしつつも、自身の母親や、クリスティーナの暴れる下準備のやり口などを見る限り、そうした手腕は場合によってはむしろ称賛されるべきことだというのも理解はしている。実際、自身もアクセルの元領主を投獄した際にキャルを無関係へと仕立て上げた時は彼女達を参考にしていたくらいだ。

 

「獲物を狩る時の騙し討ちは当たり前でしょう?」

 

 ちなみにこれがドラゴンの意見である。まあ自身は真正面から狩れるが、と無駄な注釈も付けた。鞄の中のぬいペコが、やばいですね、と短く纏めた。

 ともあれ。カズマの語った、第二王女の自身を差し出すかのようなお涙頂戴悲恋でロミジュリ的な何かっぽい今回の話を聞いたリアとエーリカは、そういうことなら協力するのもやぶさかではないと頷いてくれた。シエロだけは、貴族の婚約はある程度そういう部分もあるから、と同情はしつつも決め手にならないようであったが。

 

「あれ? シエロってそういうのに理解ある方なの?」

「えっと、まあ……ボク、エルロードの貴族なので」

「は? 何で貴族が――いや、よくよく考えたら貴族ってそういうもんか」

「違いますよ? 誰を想像しているかなんとなく分かりますけど、違いますよ?」

 

 一瞬だけ驚いたが即座に納得するカズマにペコリーヌが反論する。が、いかんせんそういう貴族の頂点みたいな第一王女が言っても説得力は皆無であった。実際、キャルは思い切りそれをツッコミ入れている。

 まあそこは現状特に問題ではない。話を戻しながら、カズマはシエロにならば反対なのかと問い掛けた。問われた方は問われた方で、そういうことに一応理解があるだけだと苦笑する。そもそもそういう貴族のしきたりは苦手だ、とついでに続けた。

 

「そうでなきゃ、こうやってアタシたちとアイドルやってないわよね」

「そこは少し違うんじゃ……いや、そうでもないか」

 

 エーリカとリアが同意する。そんな二人に視線を向けると、シエロはそういうわけだから、とカズマに答えを返した。反対することもないから、二人が賛成なら問題ない、と述べた。

 

「でも、話を聞く限り、問題なのはレヴィ王子じゃなくてラグクラフト宰相の方なんですよね?」

「正確には、どっちもだ。宰相はアイドルに全振りで援助を打ち切ろうとしてるし、王子は援助や同盟を繋げてアイリスと婚約したがってる」

「説得の方向が正反対じゃない」

 

 エーリカのその言葉に、だから違う方法を選んでいるのだとカズマは返した。そしてその方法というのは。

 アゾールドとの会話でアイドル活動のめぼしい部分は既存のものだと分かっているので、日本での知識でお手軽無双は出来ない。なので、全く新しいものを独自に編み出すか、あるいは応用で隙間を狙うかになる。

 

「それで、結局どうするのよ。どうにかするアイデアは出来たの? あのおっさんにだいぶダメ出し食らってたけど」

「……まあな。一応確認するけど」

 

 キャルにそう返すと、彼はアクセルハーツに向き直る。応用の隙間、あの後絞り出して思い付いたそれを、彼女達に尋ねた。これは既にやっていることなのか、と。

 カズマのそれを、エーリカもリアもシエロも、首を横に振ることで答えにした。それそのものはまだやられていない、と。

 

「よし、なら行けるな」

「でも、カズマくん。それって費用凄くかかりませんか?」

「初期投資は確かにあるかもしれないが、多分合計は安く済むはずだ」

「ほんとかしら」

「いや、確かにカズマの言う通りだ。私たちのツアーの移動や護衛の費用を考えると、多分費用は抑えられるはず」

 

 ペコリーヌの疑問、キャルのジト目。それらを解消するような答えを返し、じゃあこれで行けるな、とカズマはアクセルハーツの三人に許可を取る。こちらはオーケーだから、後はスタッフだ、という返事も無事もらい、一行は人払いしていたスタッフを呼び戻した。

 そうして、もう一度先程の説明を、今度は新しいアイドル活動の事業として説明する。

 

「エルロードの他の街に映像投影用の魔導具モニターを設置して、ライブの様子を生中継する」

 

 エルロードがアイドル大国だとしても、他の国よりは活動しやすいとしても。それでも、ツアーで行ける場所は限られる。カルミナは人気と実力で無理矢理押し通る事が可能かもしれないが、アクセルハーツは一歩及ばない。この一歩が向こうとの致命的な差となっている。

 それを解消する手段として提案されたのが、出来るだけ多くの街にライブ中継用のモニターを設置し、遠距離から参加してもらうという方式だ。

 

「ファンの中には、ツアーで立ち寄る街に行く余裕がない人だっているはずだ。そういうファン用に、ライブを中継する。勿論見るためにはチケットを必要とさせるし、そこでグッズの物販も行うつもりだ」

 

 そうすることで、旅費や護衛費などを用意出来ないファンもチケット代だけでライブに参加出来、心理的余裕が生まれればグッズも買う可能性が高くなる。ツアーの街に向かえる余裕がある、あるいはその街に住んでいるファンも、別の場所のライブにもお手軽に参加出来るようになる。場合によっては移動費をグッズなどに回してライブ中継に切り替えることもあるかもしれない。

 

「ファンの移動費は本来だったらこちらの儲けにはならないが、それをグッズなどに使ってくれるならば、その分稼げるはずだ」

 

 そこで一度言葉を止め、カズマはスタッフを見る。納得している者もいれば、悩んでいる者もいた。そしてその悩みというのは、カズマもある程度想定済みのもので。

 例えば、ライブ中継で満足して本来の方にファンが来ない可能性があるのではないか、というものは。移動費をグッズに回す可能性はあれど、握手会などは本人のいる場所でしか出来ないので、それを望んでいるファンは必ず来る。アクセルハーツはそれだけの人気があるのだから、と言われれば支えているスタッフはそんなことないなどと言えるはずもない。

 例えば、ライブ中継といっても所詮映像、録画を劇場で流すのと大差ないのではないか、という懸念については。

 

「何言ってるんだ? 向こうの観客の様子もこちらに中継するんだよ」

 

 これからのライブは、目の前と中継先で数倍のファンを見ながらすることになる。まあアクセルハーツはそれだけの人気と実力があるから問題ないだろう。そう言われてしまえば、スタッフも違うとは言えないわけで。

 丸め込まれたスタッフは、じゃあやってみようか、とカズマのアイデアを採用してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

「成程。考えましたな」

 

 場所は変わって再びアゾールドの商会。エルロードの街に中継用の魔導具モニターを設置する、という仕事に丁度いいのは彼だ。不利益にならないならば協力する、という約束も最初に取り付けているので、今回の話は断る理由がないはず。

 そういうわけでカズマはアゾールドにそれを持ちかけ、聞いた彼はどこか楽しそうにはははと笑った。

 

「まさかあの状況から即座にこう切り返すとは。ワタクシはあなたを少々見くびっていたようですな」

「まあな。やられっぱなしで終わるカズマさんじゃないんだよ」

「とはいえ。これはアクセルハーツがいてこそ、という部分も大きい。そしてそのチャンスを与えたのは」

 

 笑みを浮かべながらアゾールドはカズマを見る。その視線を受けながら、彼は彼で元々の人脈の力の方が大きいけどなと譲らない。

 

「ひきわけ?」

「プレシア、そこは父の肩を持つ場面だろうに」

「パパのいいぶんも、カズマさんのいいぶんも、どっちも正しい。から」

「きちんと判断していると褒めるべきか、父親の味方をしてくれないと嘆くべきか……」

 

 先程の表情とはうってかわって、どことなく落ち込んだ顔になったアゾールドは、一度だけ盛大な溜息を零す。そうして一度視線を落とし、再度顔を上げた時には表情を戻していた。やっぱりこのおっさんやりにくい、とカズマはそんな彼を見て内心で毒づく。

 

「さて。話を戻しましょう。そちらの望む品物を用意するのは可能ですが、流石に今すぐ、というわけには行きませんぞ」

「早ければ早いほうがいい。アクセルハーツの王都のライブに間に合わせたいからな」

「となると――そうだな、プレシア、値段を出してみなさい」

「ん。……えっと、とっかん費用をふくめて、このくらい」

 

 机の書類にさらさらと料金の内訳が書かれていく。どん、どん、どんと積まれていくそれに、カズマは思わずふざけんなと顔を顰めた。これでは自分の取り分が殆どない。

 

「こっちも、もうけなきゃいけない。し」

「だとしてもぼり過ぎだろ。こことかどうなってんだよ」

「人件費はエルロードでは一番かさむものですからな。アイドル事業にもっていかれて、それ以外の人気が低いのです」

「……これもある意味アイドル事業なんだから、その方向で募集かければいけるんじゃないのか?」

「おー。じゃあ、ここはこうなる。かも」

「あ、おいプレシア」

「はっ、残念だったなおっさん」

 

 素直にそこを訂正してくれる彼女を見て、カズマは勝ち誇った笑みを浮かべる。はぁ、と小さく溜息を吐いたアゾールドは、まあこの辺りが元々の落とし所だろうと心中で呟いた。先程プレシアが言っていた通り、こちらも儲ける必要がある。そしてその訂正案でも、成功すれば十分儲けは出る。

 

「この予算で人が雇えたのならば、という条件が付きますが、よろしいかな?」

「ああ。それでいいや」

 

 交渉成立、と書類に署名をする。それを手に取ると、では手配をしましょうと彼は席を立った。早ければ早い方がいい、というカズマの要望を可能な限り叶えてくれるらしいその動きは、何だかんだ人の良さがうかがえる。

 ふう、と商談を終えたカズマは椅子に体を預け息を吐く。おつかれさま、とそんな彼を見てプレシアは労いの言葉を述べた。ちなみに父と一緒に追い詰めてきたのも彼女である。

 

「カズマくーん、どうでした?」

「おー。まあ何とかなったかな」

 

 アゾールドが店舗に行ったのが見えたのだろう。別の部屋にいたペコリーヌがひょこりと顔を出した。ひらひらと手を振って返事をしながら、こちらにてててとやってくる彼女に視線を向ける。

 

「いざとなったらわたしもお金出しますよ」

「それやったら俺が王妃に認められないだろうが」

「ユースティアナの資金じゃなくて、ペコリーヌのお金でもですか?」

「逆に聞くけど、それであの人納得するのか?」

「……あはは」

 

 無理そう、とペコリーヌは結論付けた。武力の値を何割か謀略に寄せたクリスティーナみたいなところがある自身の母親を、そんな詭弁でどうにか出来たら苦労しない。苦笑で誤魔化しつつも、ならそれ以外の部分では手伝いますよ、と彼女は拳をぐっと握った。脇を引き締めたので、ぐいむにゅ、と強調された。

 

「じー」

「俺はやましいことはしていない」

「……カズマさんと、ペコ姉は、こいびと。だっけ?」

「おう」

「はっきり言われると照れちゃいますね」

 

 えっへへ、と頬を掻くペコリーヌを見ながら、プレシアはううむと顎に手を当てる。そうなると、と視線を彼女からカズマに向けた。

 

「呼び方、お兄、のほうがいい?」

「え? 俺いつの間に妹フラグ立てた?」

「ふらぐ? ペコ姉のこいびとなら、お兄かなって思った。だけ」

 

 意味分からん。とプレシアの説明を聞いて怪訝な表情を浮かべる。というかそもそも何でペコ姉呼びなんだ、というところからの疑問も出てくる。

 そんなことを二人に尋ねると、ご飯を食べていたら絆が出来ました、という非常にどうしようもない答えが返ってきた。

 

「あと、プレシアちゃんと話してると、アイリスをなんとなく思い出しちゃって」

「……そうか?」

 

 言われてみれば。一瞬そう思ったものの、いやでも違うだろ、とカズマはそれを振って散らす。そうしながら、とりあえずアゾールドのおっさんに殺されたくない、と彼はプレシアの提案を一旦却下した。

 

 




某アクシズ教新最高司教「私とラビリスタがこの間やったやつよね。使用料取ろうかしら」
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