プリすば!   作:負け狐

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ネネカ様のユニオンバースト(偽)講座、はーじまるよー


その20

「外に出るついでに二・三用事を済ませようと思っていましたが……手間が省けました」

 

 そう言って自称お姉さんは笑みを浮かべる。聞いていたものより興味深い。そんなことを呟きながら、とりあえずと視線をカズマ達からウィズへと向けた。

 

「ウィズ。マナタイトと何か適当なガラクタを見繕って頂戴」

「ガラクタじゃありませんよぉ……」

 

 そう言いながら広場の端に積んであるデンジャーゾーンの品物を一つ二つ手に取る。とりあえずこの辺でしょうか、と自称お姉さんに告げると、倉庫からマナタイトを持ってきますと広場から去っていった。

 そんなウィズを目で追っていた彼女は、ふうと息を吐くと視線を戻す。キャルと、コッコロと、ペコリーヌと。そしてカズマを見て、少しだけ楽しそうに微笑んだ。

 

「先程のスキル、見せてもらいました」

「へ?」

 

 先程、とは恐らく件の女神の加護その二のことだろう。ペコリーヌとウィズを外付けタンクにした割にはほぼほぼ意味をなさずに枯渇した例のアレである。

 カズマ達の思考を気にすることなく、自称お姉さんは言葉を続ける。あれは随分と変わったスキルだが、果たして人の身に合ったものなのか、と。

 

「まるで女神から授かった力。勇者候補が持っているとされる特殊なスキル……」

「お、やっぱり分かる人は分かるんだな」

 

 カズマは思わずそんなことを口にしてしまう。異世界ファンタジーで、自身の持っている能力を実力者的な存在が知り驚く。そういうシチュエーション味を感じたのだ。

 キャルは何言ってんだお前と言わんばかりの表情でカズマを見て、そして調子に乗り始めたからきっとこれから何かあるだろうなと目を細めた。まだ出会って三ヶ月も経っていないが、何だかんだでこの面々で共にいる時間は長い。ある程度は予想がつく。

 ペコリーヌとコッコロが何も言わないのは気になったが、わざわざ止める理由もなし。とりあえず自分に被害がなければ何でもいいやとキャルは傍観の構えに入った。

 

「ええ。中々に、研究のしがいがあります」

「……今なんて?」

「貴方のスキル、使い勝手が随分と悪そうでしたが。そのまま運用を続けるのですか?」

 

 不穏な言葉を呟いた自称お姉さんは、カズマの言葉を気にせず問い掛ける。そっちがその気ならこっちも聞かない。そう押し通そうかと思い一応口にはしたものの、そうですかと軽く返されたことで思わず拍子抜けした。

 

「では、貴方の何を聞けばいいのでしょう?」

「……さっき研究って言った?」

「言いました。貴方のスキルを研究し、私の知識の一つに加えようと思っています」

「……」

 

 ひょっとしてこの人ヤバい人なんじゃ。そう思っても後の祭り。では改めてと彼女は先程の問い掛けをカズマに行い、さあ答えろと言わんばかりの表情を浮かべている。否、答えるのが当然と思っているかのようであった。

 視線を動かす。しーらね、と完全に野次馬になっているキャルが見えたので、後で泣かすと心に決めた。

 

「はぁ、もういいや。それで、何だったっけか? このスキルをこのまま使うかどうかだったか?」

「ええ。あのままでは碌な運用が出来そうになかったのですが」

「いや、まあ……」

 

 ポリポリと頬を掻く。そうしながら、それは分かっているのだが、どうすればいいのか分からないという返事も素直に述べた。この口ぶりからすると、このスキルを使うための案を一つや二つ持っている可能性がある。

 そうですか、と彼女は述べた。そこで会話が止まり、ウィズの消えていった方向に視線を移す。

 

「いや終わりかよ! ここはあのスキルを引き出す秘策とか教えてくれる流れだろ!?」

「いいですよ」

「え?」

「貴方が知りたいのならば、そのスキルを運用する方法を、教えてあげても構いません」

「マジか……」

 

 こうもあっさりと承諾してくれるとは思わなかった。よし、と拳を握るが、カズマは重大なことを失念している。唐突に現れて見学していただけの自称お姉さんが、そんなことが出来たら明らかにおかしいだろうということを、完全に頭から抜け落ちている。枯渇するほどの魔力消費を一瞬で、それも何度もやってしまった弊害か、あるいは疲れでも溜まっていたのか。

 ともあれ。

 

「そのためには、少し協力してもらう必要がありますが。街外れにある私の研究所まで、来てもらえますか?」

「ああ、それくらいなら」

 

 カズマは自ら選んだのだ。彼女のホームへと向かうことを。大口を開ける死地へ向かうことを。

 

 

 

 

 

 

 アクセルの街の端。城壁に近いその一角に、それは建っていた。裏庭も完備してある頑丈な作りのそれは、何かしらが爆発したとしても耐えられるような構造になっている。そして、それがまるで日常茶飯事であるように、その外壁は少し焦げていた。

 

「戻りましたよ」

 

 その建物のドアを開け、自称お姉さんが中に入る。何かの実験室のような空間で、少女と女性がボードゲームを行っていた。

 おかえりなさい、と女性が述べる。少女の方も、早かったですねとそんなことを言っていた。

 

「ええ。ウィズの店へ向かったら、思わぬ掘り出し物が見付かったものだから」

 

 そう言って彼女は視線を背後に向ける。彼女と同じように建物内へと入ってきたその人物達は、そこにいた二人を見て目を見開いた。

 

「あ、お前あの時の」

「おや、カズマではないですか」

「あ、確か、めぐみんと、ちょむすけだったかしら?」

「ええ。また会ったわね、キャル」

 

 ボードゲームをしている手を止め、二人はカズマ達へと向き直る。コッコロだけは初対面か、と彼は視線を横に向けたが、お久しぶりですと頭を下げていたことで拍子抜けをした。よくよく考えればこの自称お姉さんはウィズの店へと買い物に来ていたのだし、めぐみん達が来店していても不思議ではない。

 

「あれ? なあコッコロ」

「はい。どうなさいましたか、主さま」

「めぐみんとちょむすけさんには会ったことがあるんだよな? でもあっちの自称お姉さんは何で初対面なんだ?」

「あの方は、わたくしがお手伝いを始めてから一度も……」

 

 眉尻を下げながら、申し訳ありませんと述べるコッコロに別にそういうので言ったんじゃないからと慌てたカズマは、自己紹介の手間が省けて丁度いいとフォローなのか何なのか分からない言葉を述べる。

 そうしながら、何だかやけに大人しいペコリーヌへと視線を動かした。

 

「なあ、ペコリーヌ」

「……はいっ? どうかしました?」

「いや、何かやけに静かだなって」

「……あー。いや、ちょっと。あのお姉さんのことを思い出したんですよ」

「ん? 知ってたの?」

「いや、知っていたというか、噂で聞いていたというか」

 

 あはは、と苦笑したペコリーヌは、とりあえず言える方の噂を口にした。噂というか、めぐみんやちょむすけから聞かされていた『所長』についてを話した。

 

「所長? それって確かこの間めぐみんが自分とは比べ物にならない変人だって言ってた」

「あー、言ってたなそういや。確か、紅魔族を実験している最中に、出会った、とか」

 

 はっきりとはしていないうろ覚えであったが、大体こんな感じだったと口にしたそれ。自分で言って自分で固まった。スルー出来ない不穏な単語が混じっていたからだ。

 実験、という言葉でコッコロが目を見開く。主さまが危ないとカズマを守るべく彼の前に立ち、危害を加えられてなるものかと真っ直ぐに三人を睨み付け。

 

「安心してください。彼は貴重なスキル持ち。手荒な真似はしませんよ」

「……信じても、いいのですか?」

「ええ。この研究所の所長である、ネネカの名に懸けて」

 

 そう言って微笑む自称お姉さんことネネカ。その真意はどうにも読みにくいが、しかしそこに嘘はない。そう判断したコッコロは分かりましたと引き下がった。

 

「甘い、甘すぎます。所長はそう言って油断したところを狙って標本にするんです。私はそんな犠牲者をこの目で何人も」

「めぐみん。お望みならば、貴女を標本にしてもいいのですよ?」

「すいませんでしたー!」

 

 いっそ見事なまでの土下座であった。やれやれ、とちょむすけが呆れているところからすると、ひょっとしたら毎度のやり取りなのかもしれない。

 ふう、とネネカが息を吐く。そうした後、では改めてと彼女はカズマ達へと向き直った。

 

「私がこの研究所の所長、ネネカです。こちらは所員のめぐみんとちょむすけ。ここにはいませんが、後一人と二体、紅魔族にある亡国の研究施設の復旧と整備を任せています」

「任せているというか、押し付けたというか……」

「マサキはともかく、ホーストとアーネスは無理矢理じゃ」

 

 ちょむすけとめぐみんの言葉をしれっと受け流し、ネネカはでは本題に入りましょうとカズマを見やる。暫し彼の顔を見ていた彼女は、成程と頷くとどこからか杖を取り出した。カメレオンらしき何かがついているそれを軽く振ると、彼女の姿が見覚えのある少年に。

 

「うわ、カズマが増えた!? 気持ち悪っ」

「おいこらキャル」

「主さまが二人……これは、お世話のしがいがあります」

「何だか最近わたしボケれませんね」

 

 ううむ、と一人悩むペコリーヌはさておき、ネネカはカズマの姿のままゆっくりと手を掲げる。キャルを指し示すように手の位置を固定させると、何かを放つような動作を行った。

 瞬間、キャルの体が光る。さっきもあったぞこれ、と思わず叫んだ。

 

「成程……これは中々に酷いものですね」

 

 カズマの姿が揺らめき、ネネカに戻る。ふう、と少し疲れたような溜息を吐くと、これまた突然現れた椅子に腰を下ろした。

 状況についていけない二人、めぐみんとちょむすけは一体全体あれはなんだと首を傾げる。少なくともこの間のカズマにはあんなスキルを使っている様子はなかった。そのことを思い出しつつ、ネネカに聞いても無駄だろうとカズマ達に問い掛ける。別段隠す理由もなし、というよりそれをある程度上手く使う方法を手に入れるためにここに来ているのだ。ペラペラと、余計なことまで交えてカズマは二人にそれを話した。

 

「わけの分からなさに磨きがかかってますね」

「私としてはあなたが勇者候補だったのに驚きだけれど」

 

 ともあれ、理由は分かった。そして向こうには分からないであろう現在の状況も理解した。座ってコーヒーを飲みながらメモを書いているネネカに近付き、めぐみんはそのメモを覗き込む。

 

「ほーら案の定余計なことしか書いてない」

「めぐみん。趣味が悪いですよ」

「趣味が悪いのはわざわざ呼んでおいて何も答えを出さない所長じゃ――あー! やめてやめて眼帯引っ張らないで引っ張るならせめて自分の手を使って何か私の一人芝居みたいで必死さが薄れるっていうか」

 

 恐らく何かのスキルの力で最大まで引っ張られためぐみんの眼帯は、そのまま離されバチンと顔面に叩きつけられた。目がー! と悶えている彼女を気にすることなく、ネネカはメモに記入をしていく。

 ふう、と記入を終えた彼女は、視線を上げるとカズマを見た。

 

「無理ですね」

「嘗めんな!」

 

 

 

 

 

 

「勘違いしないでください。恐らく貴方の考えているような運用は不可能だ、という意味です」

 

 研究所の裏庭。ウィズの店に併設してあったそれとはまた違う、無駄に頑丈な障壁の張ってあるそこで、ネネカはカズマに向かってそう述べた。スキルの効果を十全に使いつつ、消費魔力を抑える。理想はそれであり、出来るだけそこに近付けるのが目標である。そんなことは不可能であると彼女は言い切った。

 

「先程少し貴方に変化してスキルを使用してみましたが」

「何かさらっと言ってるけど頭おかしいこと抜かしてないかこの人?」

「だから言ったじゃないですか、所長は変人だと」

「多分あたしらの想定してたのとは違う方向だわ……」

 

 はぁ、と溜息を吐きながらキャル達はネネカの言葉の続きを聞く。流石に勇者候補の特殊スキルを真似るのは無理があったが、それに近い挙動のデータは取ることが出来た。

 そしてその結果、本体のスペックが低すぎる、という結論に達したのだ。

 

「不思議ですね。何故貴方は冒険者をやっているのですか?」

「そこ疑問に思われても……」

「ネネカさま。主さまはやれば出来る子なのです」

「そうですね。わたしも、結構カズマくん買ってますよ」

「コロ助はともかく、ペコリーヌまで……」

 

 えー、と不満そうなのはやはりキャル。こいつ絶対そんないいもんじゃないでしょ。そうは思ったが、この空気でそれを口に出すほど間抜けでもない。ちらりとめぐみんを見て、同意するように頷かれたことに安堵するのみだ。

 

「では、その辺りは置いておきましょう。必要なのはそのステータスで、いかに運用するかですから」

 

 姿がネネカからウィズに変わる。カズマに近付くと、ドレインタッチで自身の魔力を彼へと補給した。これで使用可能なはずですと述べ、姿を元に戻すと視線を巡らせる。

 やはり被験者は同じがいい。キャルを呼ぶと、残りの面々を少し下がらせた。この状態では、午前中にウィズの店でやったような方法は使えない。カズマ自身の魔力を使う必要があり、そしてその場合すぐに干からびる。

 

「常時底上げするのは貴方のステータスでは不可能。ならばどうするか」

 

 ぴ、と指を一本立てる。必要なのは一瞬。ワンアクション限定に絞ることによって、逆さにしたバケツのごとく消費する魔力を違う動きに出来る可能性がある。

 そこまでを説明したネネカは、とりあえず武器を介して発動するのが意識しやすいだろうと述べた。剣なり槍なり、手に持って使うタイプの武器を掲げ、そこを基点に一滴垂らすがごとく、魔力を絞る。

 

「さらっと言ってるけどな。そんなことが出来たら苦労なんぞしてねーよ」

「ええ。私も即座に出来るとは思っていません。道を示したのですから、後は貴方がどうするか。それだけです」

 

 それだけを言ってネネカは他の野次馬達と同じ位置に下がっていく。え、ちょっとこれ今からやるの? そんなカズマの文句に、お好きなようにと彼女は返した。

 

「……ね、ねえ。ホントにやる気? あたし嫌な予感しかしないんだけど」

「奇遇だな、俺もだ。キャル、破裂したら破片は拾ってやるから」

「不吉なこと言わないでよ!? 無理なら無理でやめときなさいって」

「いやまあ、せっかく教えてもらったんだし、試しに一回やってみたいじゃん」

「試しの一回であたし破裂する可能性あるんですけど!?」

 

 よし、とキャルの叫びを無視してカズマは腰のショートソードを抜き放つ。これ持つの久々な気がする。そんなことを思いながら、その切っ先をターゲットであるキャルへと向けた。

 

「ちょ、ちょっと!? 大丈夫なの!? これホントに大丈夫!?」

「俺を信じろ、キャル」

「あんたはあたしの中で世界で五番目に信用できない奴よ!」

「よし」

「聞けぇ!」

 

 スキルを発動させる。その瞬間、がくりと体の力が抜けるが、三回目の慣れとネネカのアドバイスである武器を介したことで何とか踏ん張った。踏ん張っただけである。分けてもらった魔力は尽きた。

 

「……あたし、生きてる?」

 

 恐る恐る目を開けると、自分が淡く光っているのが確認できた。前回のあれと違い、能力が底上げされている高揚感はそれほどでもない。

 もし成功しているのならば。この状態でワンアクション。スキルなり攻撃なりを行った時に、強化された効果が発動するのならば。

 

「……やってやろうじゃない!」

 

 無駄にビクビクしたこの怒りを発散させるためにも。キャルは杖を構え、呪文を唱える。どうせなら自分が撃てる特大のものにしてやる。そんな決意を固め、自身の背後に魔法陣が生まれるのを感じながら、彼女はそれの詠唱を完了させる。

 

「魔力解放……!」

 

 ついでに、フラストレーションも開放してやる。心中で付け加えながら、キャルはその呪文を適当な場所へ。

 

「ちょっと、あれマズくないですか!?」

「爆裂魔法並みの魔力が出ているわね」

「キャルさま……!?」

「ちょっと、やばいですね」

 

 めぐみん、ちょむすけ、コッコロ、ペコリーヌがこれ大丈夫なのかと少し引き。ネネカは最初にしては上出来だと口角を上げ。

 

「ちょ、待て待て待て! これ俺巻き込まれ――」

「《アビスバースト》ぉぉぉぉ!」

 

 魔力が渦巻き、着弾地点を破壊する。普段よりもずっと威力の規模が大きいそれは、研究所の裏庭に巨大なクレーターを作るほどで。

 

「お前ふざっけんなよ! これ一歩間違えたら俺も木っ端微塵じゃねぇか!」

「わ、悪かったわよ! ちょっと頭に血が上っちゃって――いひゃいひゃいいひゃい!」

 

 動ける余裕があるのならば大丈夫ですね。キャルの頬を引っ張るカズマの姿を確認し、これらの結果をメモしながら、ネネカはこっそりと詠唱を終えていた呪文をキャンセルした。

 尚、開けた穴の修復はキャルとカズマがやりました。

 




そろそろイベント戦闘かなぁ

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