プリすば!   作:負け狐

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害悪ファンのあとしまつ


その203

 エルロード王都に襲来しようとしたダニエルが用意した害悪ファントロール共は、ホワイトドラゴン二体の活躍によりその規模を大幅に減らしていた。被害は極力抑えられ、町の人々も怪我人はほとんどいない状況である。

 それも、ゼロというわけにはいかない。トロールはある程度の数王都に現れ、アイドルの匂いのするスポット目掛けて突撃をしていた。

 

「アカリ、そっちの具合は?」

「んっ……っと。思ったより大きいけれど、そんなにキツくないみたい」

「規模の話ね!」

「そうだよ?」

 

 ヨリとアカリの姉妹はそんなことを言いながら、やってくるトロールを一箇所に留める。ある程度の実力はあるとはいえ、こいつら相手に無双出来るほどの強さを持ち合わせていない二人は、決定打を持っている誰かを待ちながらこうして待ち構えていた。

 そのタイミングで、トロール達の足元になにやら魔法陣が浮かぶ。何が、などと考える暇もなく、そこから生み出された呪文によって害悪ファンはまとめて吹き飛ばされた。よし、などと言いながら首を鳴らしているのはオクトー。そして、視線は別のトロールの集団へと向けられている。

 

「こっちは終わらせたよ、ノウェム」

「おう。ならこっちも――薙ぎ払え!《天楼覇断剣》!」

 

 瞬間。彼女の手に喚び出された大剣の一撃でトロールは薙ぎ倒された。振り抜いたその大剣を肩に担ぎながら、いっちょあがりだ、とノウェムはケラケラ笑っている。

 

「相変わらずだねぇ、その剣の威力」

「なんだなんだ、羨ましいのか? でも駄目だぞ、これはアタシだけの特典だからな」

「はいはい。別に取って奪おうなんて考えちゃいないから」

 

 それよりも、とオクトーは視線を動かす。こっちはもう大丈夫だというヨリ達の言葉を受け、彼はノウェムを連れて別のポイントへと移動しようと足を動かした。

 その道中、ホワイトドラゴンが空中からブレスを吐いてトロールを薙ぎ倒している光景が視界に映る。

 

「うひゃー、あいつらも派手にやってるなぁ」

「こちらとしては手間が省けて丁度いいけれどね」

「何言ってるんだ。出番がなくなるってことは、大悪党への道のりが遠くなるってことだぞ!」

「この程度では別に遠くも近くもならないよ。っと、ノウェム」

「伏せろオクトー」

 

 瞬時に屈んだオクトーの頭上を天楼覇断剣が通過する。こちらに襲いかかろうとしていたトロールと、その後ろにいた害悪ファンの集団はそれだけで真っ二つにされた。やれやれ、と何事もなかったかのように立ち上がった彼は、ドヤ顔をしているノウェムを見て、そしてその頭をポンポンと叩く。

 

「ナイスだよ、ノウェム」

「だったらちゃんと撫でろよ。じゃなくて、子供扱いするな!」

「だって子供じゃん?」

「そこまで年は変わらないだろ!」

 

 ギャーギャーと騒ぎながら歩みは止めない。ついでに言うなら見かけた害悪ファンは始末していく。そんな光景を避難するエルロードの住人はどこか安心した様子で見守っていた。別段心配することもなく、なんなら頼もしいものだというように応援していた。

 オクトーとノウェム。エルロードでは有名な『大悪党』である。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでダニエルも自爆し、害悪ファンの王都侵攻は無事鎮圧された。それによって起きた被害は大きくはないものの、決してゼロではない。だが、王族であるレヴィも宰相であるラグクラフトもその辺りの復興をケチることはなかったので、王都の住民は安心して生活を再開していた。

 それとは別の場所で。渡された書類を見て動きを止めている少年が一人。この流れ前もやったような気がすると若干思いながら、それを渡してきた相手を向いてこれは一体何なんだと問いかける。聞くまでもないだろう、と目の前の親子の目が物語っていた。

 

「せいきゅうしょ」

「それは見りゃ分かる。いや、はい、分かってるんだけどさ」

「国が補填してくれるのではなかったのか。というところが気になるのですな?」

 

 そりゃそうだとカズマは頷く。あの状態でこちらに責任が来ることは流石にないだろうと言葉を続けた。ダニエルはアクセルハーツの害悪ファンであったとはいえ、大本を辿ればラグクラフトが元魔王軍のよしみで見逃すどころか一部協力までしていたのが原因である。こちらから文句を言いに行くことこそすれ、向こうから何か言われる筋合いはない。

 そんな彼の言葉に、プレシアはそれはそうと頷いた。アゾールドも娘のそれに反論することなく、どこか人の良さそうに見える笑みを浮かべたままである。

 

「だから、これ。延滞料金。だよ」

「……は?」

「お忘れでしたかな? ツアーの最中に用意する機材は、その都度ではなく一括でレンタルするという契約をしたではありませんか」

「ああ、そういやそうだな。その方が手続きも面倒くさくなくて安かったし」

 

 ライブの開催ごとにライブビューイングの用意などしてられないので、エルロードでツアーをしている間はずっと貸し出してもらうように交渉していたのだ。勿論その間はこの機材を何かの用途で使用する機会が失われるため、その辺りも踏まえた契約であったのは間違いない。

 

「いやでも、他の用途なんかないだろ?」

「むしろ、今回のツアーの用途が特別だったのです。アイドル事業の新しい形としての宣伝にもなりましたが、それ一本というわけにもいきませんからな」

「にそくのわらじ」

「……だとしても、別に機材の補填はされてるんだろ? 何の問題もないだろ」

「ええ。それそのものは何の問題もありません。ですが、ワタクシは商売人でして」

 

 慈善事業ではない以上、取り立てはきちんと行わなくてはいけない。特例だからと見逃すと、後々にそれが借金となって襲いかかってくる可能性だってあるのだ。

 

「いちおう。王城には言ったよ。パパ、おひとよし。だから」

「あ、こら。そこは黙っておくところだろう」

 

 機材はともかく、そこの補填は適用外だと言われたらしい。そんなわけで取り立てる先がカズマに戻ってきたので仕方なく、ということなのだろう。

 ここで知るかよ、と突っぱねることができればカズマとしても楽だったのだが。いかんせん彼のパーティーメンバーの大半はこういう時お人好しが服着て歩いているような面々ばかりである。ついでに言うならば、カズマ自身も悪意には悪意を持って返すだけで根っからの外道ではない。

 

「そういうわけだから。悪い人のえんぎをしたパパにめんじて、支払いおねがい。します」

「やめたげて。アゾールドのおっさん悶えてうずくまってるから」

 

 娘に色々暴露されて悶える恰幅のいいおっさんは、絵面もさることながらその心情も見ていていたたまれなかった。分かったから、と思わずなだめてしまうほどに。

 ともあれ。回り回ってやってきた補填されない分の請求を受け取ってしまったカズマなわけで。

 

「えっと? ひーふーみー、げ、結構高いわね」

 

 戻ってきた彼の持っていた書類を覗き込んだキャルが思わず顔を顰める。不可抗力とはいえ、真っ先に機材を全滅させたのは彼女である。こういう場合、自分が一番矛先が来るのだということをこれまでの経験でよく分かっていた。

 

「ですが、支払えない金額ではございません。恐らく、アゾールドさまも最大限の譲歩をなさってくれたのでしょう」

「機材自体はエルロードで補填されるといっても、それまでの間商品が扱えないわけですしね」

 

 コッコロとペコリーヌの言葉を聞いて、まあそうだよなぁ、とカズマも溜息を吐く。ここでバニルみたいな交渉をされていたら自分もそれなりの対応をしていたのに。そんなことを考えながら、まあそれでもある程度の儲けは出るようにしているんだろうなと抜け目のなさそうなあの親子のことを思いぼやいた。

 

「それで、どうするの? 今すぐここで払ってしまう?」

「まあ、その方が確実ですよね」

 

 シェフィとぬいペコのそれに、カズマもまあそうだなと返した。変に後日とか数回に分けるとかすると、それはそれで面倒な事態になりそうではある。あの様子だと支払いを終えたらはいそれまでと繋がりを打ち切るようなこともないだろうから、ここらで一つ誠意を見せておけば、今後何かコネを使うのにも役に立つかもしれない。

 そう結論付けた彼は、善は急げと支払額を用意することにした。持ち合わせからは流石に難しいので、多少手数料は取られても銀行から引き出してしまうのが一番手っ取り早い。

 

「あ、でも。今って銀行やってるのかしら?」

「あの襲撃からまだそこまで経っておりませんし、どうなのでしょうか……」

 

 二人の言葉を聞いて、そういえばそうだと思い直し足を止める。視線を動かしても、それについて正確な答えを出してくれる人物はここにはいない。行ってみて、駄目だったら別の手を考える。それくらいしか現状を進める方法はないのだ。

 結局か。そんなことを呟きながら、カズマは再び足を踏み出した。

 

「いざとなったら、アクセルハーツの運営から支払ってもらうか」

「どっちにしろ銀行動いてなきゃ駄目じゃない?」

 

 そりゃそうだ、とキャルの言葉を聞いて吐き捨てるように彼はぼやいた。

 

 

 

 

 

 

「面目ない!」

 

 時も時間も変わって、エルロード王城。アイリス達一行相手に、ラグクラフトは平謝りを決行していた。本来ならば第一王女ユースティアナ込みのカズマ達も呼ぶのが筋かもしれないが、いかんせんあちらの面子は名目上は今回の同盟には無関係ということになっているので、正式な謝罪の場は設けられない。勿論後日公ではないが謝罪を行ったのだが別段何もなかったので割愛。

 ともあれ。今回の件である。ダニエルの暴走で一大事になってしまったことを、宰相である前に元魔王軍諜報部隊長であるラグクラフトは非常に責任を感じていた。魔王軍であったこと、アイドルファンであったこと、それらを加味してなんとなく連帯意識をもってしまっていたのが今回の始まりの全てである。

 

「いえ、結果として被害は最小限に抑えられましたし」

 

 アイリスはそんなラグクラフトに言葉を返す。あの時のやり取りを見る限り、もし彼が抵抗していた場合、最悪ラグクラフトはダニエルに殺され、アイドル大国の後方腕組みプロデューサーを失ったことで国が乱れていた可能性すらある。そう考えると、一概に責めることも出来ないのだ。

 何より。

 

「エルロードとベルゼルグは同盟国ですので」

「……ありがとうございます。このラグクラフト、エルロードの宰相として、これからもベルゼルグとの同盟を強固なものにしていきたいと思っております」

「待て待て。俺を省くな。宰相だけでなく、エルロードの王族も同じ思いだ」

 

 横にいたレヴィも言葉を続ける。そうしながら、そのために一番いいのはやはり王族同士の繋がりではないだろうか、などとぽつぽつであるが口にした。

 

「何だか必死ですねぇ。ユニ先輩的にはこういうのもアオハル大爆発みたいなちょっぴり甘酸っぱいちぇるっとした青春群像グラフィティを描いちゃったりするんです?」

「言い方。まあ、あのくらいの男子はあんなもんだって。生暖かく見守ってやり」

「然り。そもそも、愛だの恋だのは当人同士の間で燃え上がり揺れ動くものだ。外部の人間がとやかくいうものでもあるまい。無論、節度を守るという大原則はあるが。それを踏まえれば、彼の行動は別段問題視するものではなく、チエル君の言うほどのものでもない。端的に換言すれば、いいから見とけ」

「はーい。……じゃあ質問変えますけど、アイリスちゃんがあの王子の告白受けると思います?」

「いや無理っしょ」

「無理だな」

「むり」

「そういうのは当人に聞こえないところでやれぇ!」

 

 レヴィの絶叫が部屋に響き渡ったが、なかよし部のやべーやつらは意に介さない。彼の横のラグクラフトも肩を震わせており、どうやら味方は一人もいないことを伺わせた。とはいえ、彼自身も分かっているのだ。自分の望みは決して叶わないことを。

 そもそも推しが婚約者になるとかそれはそれでなんかこう不可侵なものを汚してる気がしないでもないのだけれども、でもガチ恋勢としてはそういうのも一種の夢のシチュエーションなので実現しちゃったらそれはそれで最高とか思えてしまうような気がしないでも。

 

「レヴィ王子」

「はっ! あ、ああ、なんだろうか」

「ごめんなさい」

 

 ど直球にお断りされた。あんなしどろもどろの回りくどい告白もどきを、思った以上にばっさりといった。

 

「え、いえ。その、決してレヴィ王子が嫌だというわけではないのですけど……でも良いわけでもないというか」

「ごふっ」

「私、その……お姉様に憧れているのです」

 

 追撃を食らって咳き込んだレヴィは、その言葉に我に返った。どういうことだ、と首を傾げる彼に向かい、アイリスはあははと苦笑しながら言葉を続ける。自身の姉は、自慢の姉であり、目標であり、尊敬すべき相手であり、憧れであり。そして。

 超えるべき、壁なのだと。

 

「お姉様がお付き合いなさっているお相手は、見た目はパッとしませんし、根は悪い人ではないのですが捻くれていますし、実力はそれなりにあるはずなのにサボり癖があって他力本願ですし、真っ当なことをするより抜け道や人を出し抜くようなことの方が得意なダメ人間なのですけど」

「それ王族の恋人として大丈夫なやつなのか?」

「けれども、いざという時には仲間や大切な人のために自ら飛び出していける人で、しょうがないだなんて言いながら、問題を解決させようと必死で色々と考えて実行してしまう人で、その結果相手がデストロイヤーでも魔王軍幹部でも、私でも関係なく立ち向かえる人で」

 

 だから、とアイリスは微笑む。本人が目の前にいたら絶対に、死んでも言わないであろうことを口にする。視線でなかよし部には強く、具体的には言ったら殺すとばかりの眼光で口止めをしながら口にする。

 

「私は、そんなお義兄様のことが、好きなのです。異性としてではなく、一人の人間として、お姉様の隣に立つものとして」

「……そうなのか」

「はい。なので私は、そんなお姉様と同じように、心から信頼できて、愛することの出来る人を婚約者にしたいのです」

「……俺はまだ、そこには至れないか」

 

 それならしょうがないな、とレヴィは笑った。完膚なきまでに振られたが、それでも彼の中には一種の清々しさがあった。そして同時に、まだ可能性は消えてはいない、と思えるだけの前向きさがあった。

 

「なら、アイリス姫。一つお願いがある」

「はい、なんでしょうかレヴィ王子」

「俺と、友人になってくれないか?」

 

 そう言って彼は手を差し出す。表情は笑顔、色々と吹っ切れた、一歩前に進んだ少年の顔だ。

 それを彼女は迷うことなく握り返す。ベルゼルグとエルロードは同盟国で友好国だから。そんな建前は別段気にせず、ただただ彼の言葉に応えるように。

 

「はい、よろこんで。私とお友達になりましょう」

「アオハルぅ~」

「しっ、茶化すな。黙って見とき」

「然り。ここは我らは壁になるのが最善だ」

「かべー」

「だから聞こえてんだよ!」

 

 

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