プリすば!   作:負け狐

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いつにも増してひっどい話なので最初に謝っておきます

大変申し訳ございませんでした


その208

 クエストを終えたカズマ達がギルドに戻り、『強壮なる使者』を討伐した旨を話すと、ルナとカリンは期待通りとばかりに笑顔を見せた。そうして、ありがとうございますという言葉と追加報酬を貰うなどのやり取りを済ませた後に、それで一つ問題があってと口を開く。

 件の賞金首を食ったペコリーヌが呪われて弱体化した、ということを伝えられたギルド職員達、そして酒場で話を聞いていた冒険者達は、説明が一段落すると皆揃ってこう思った。

 

――いつかやると思ってました。

 

「それで、大丈夫なんですか?」

「コッコロちゃんに解呪してもらったので、あとは体に残った呪いをどうにかすれば、という感じですね」

 

 ペコリーヌの返答に、それは大丈夫といえるのだろうかとルナは首を傾げる。が、まあその口ぶりからするとある程度の算段はついているのだろう。それならばいいのですけれどと話を締め、ルナもカリンも無理はしないように告げると業務に戻る。一応回収したらしい『強壮なる使者』の残骸は厳重に保管をしておくとのこと。

 そんなこんなで手続きを終えて教会に戻ってきたカズマ達は、疲れたとソファーに座り込んだ。部屋の隅に置かれた残りの残骸をなるべく見ないようにしながら、彼はそれでどうすると三人に視線を向ける。ゼーンは向こうに帰ったので、今いるのはキャルとコッコロ、そして当事者のペコリーヌだけだ。

 

「出来ることならば、急いだ方がいいかと思われますが」

「まあそうなんだけど、時間も時間だし」

 

 時刻はもう夕方だ。これから紅魔の里に行った場合間違いなく夜になるし、ミツキに治療を頼むとしても診療所の時間外になる可能性がある。もっとも、彼女ならばその辺りは気にしないかもしれないが、しかし。

 

「明日にしましょう」

「いいのか?」

「幸い、命に別状はありませんから。それに、ひょっとしたらコッコロちゃんの解呪がババーンと効いて明日はバッチリになってるかもしれませんし」

「お気楽ねぇ……。まあ、あんたがそれでいいならいいけど」

 

 手をひらひらとさせたキャルは、じゃあ今日はもう何もしないということで、とソファーに体を預けた。ぐだぁ、と溶けた猫になった彼女を見ながら、じゃあ晩御飯の用意をしましょうとペコリーヌが立ち上がる。

 

「お、っとっと?」

「あぶねぇ」

 

 その拍子にバランスを崩した彼女は、思わず飛び出したカズマに支えられた。何やってんだお前、という彼の表情を見ながら、ペコリーヌはあははと苦笑する。

 

「普段と調子が違いすぎて、つい」

「お前ひょっとして普段から王族のステータスでゴリ押ししてんの?」

「そういうつもりではないんですけど。慣れ親しんだ動きというか」

 

 カズマの支えから抜け出して頭を掻くと、でも大丈夫ですとたわわな胸を張る。そのままキッチンに向かい、そして、あれ、と困惑した声を上げた。どうやら全然大丈夫ではなかったらしい。

 

「どうしたんだよ」

「えっと、その……このお鍋、こんなに重かったですか?」

「……は?」

 

 スープでも作ろうとしたのだろう。鍋を用意しようと手に取ったのはいいが、ちっとも持ち上がらず困り果てている。そんな光景を見たカズマ達は、揃って顔を見合わせた。弱体化、という言葉の意味をどうやら甘く見すぎていたらしい、と。

 

「おいどうすんだよこれ。もう完全にか弱いお姫様じゃねぇか」

「そうね。……まさかあんた、ティーカップより重いものは持てないとか言わないでしょうね」

「え? 流石にそれは……」

 

 キャルの言葉に、ペコリーヌは慌てたように周囲のものを持ち上げようと手にする。が、フライパンは当然持ち上がらず、ティーポットもやっとこさ。危ないので試せないが、この調子では料理の入った器を持たせるのすら危ないだろう。

 

「ペコリーヌさま」

「は、はい」

「今日はわたくしが全てやりますので、座ってお待ちくださいませ」

 

 笑顔ではあったが、有無を言わさぬ迫力があった。

 

 

 

 

 

 

「これは、想像以上ね……」

「うぅ……」

 

 酷い。キャルの感想はこれに尽きる。夕食の時点で確定したのだが、現在のペコリーヌは恐らくか弱さではシルフィーナにも負ける。いつもならば割と豪快に、それでいて王族らしい気品も添えながらガツガツ食べるペコリーヌが、深窓の令嬢のような食事しか出来なくなっていたのだ。そっと髪を掻き上げ、ゆっくりと匙を口に運ぶそれは、見ていたカズマが思わずごくりと生唾を飲んでしまうほど。別に普段のパッパラパーが嫌いではないしむしろ好きなのだが、それはそれとしてそういうシチュもいいよね、というのがカズマの弁明である。

 そんなわけで、どうなるかというと。

 

「はい。ペコリーヌさま。あーん、してくださいませ」

「あ、あーん」

 

 こうなる。コッコロのスイッチがパチンと入り、後はもうなすがままだ。何から何までお世話されるペコリーヌと、何から何までお世話して大満足のコッコロという構図が出来上がる。まあそうなるだろうなと予想は出来ていたので、カズマもキャルもそこはもうツッコミを入れない。

 

「まあコッコロが満足ならいいか」

「か、カズマく~ん」

「実際何も出来ないんだから、あんたは大人しくコロ助にお世話されてなさい」

「キャルちゃんまで……」

 

 ちらりと横を見る。めちゃくちゃキラキラした笑顔のコッコロが見えて、ペコリーヌは色々と諦めた。トイレだけは死守しようと心に決めながら、彼女に連れられてお風呂へと向かっていく。

 ともあれ。この様子では翌日に全快していることはなさそうである。それどころか、この状況が長く続くと色々と危険だ。

 

「そうだよな……コッコロのタガが外れたら」

「そこじゃない。いやまあそこも確かに問題だけど」

 

 解呪自体は終わっている。だから、悪化して寝たきりになる、などという心配はなさそうではある。が、それだけだ。このままでは冒険者を続けることも出来ないし、王族として、勇者の血筋を持つものとしての立ち位置が非常に危うい。

 

「今はまだいいけど。あいつのことだから、きっと前より酷い状態になるわよ」

「……アイリスに殺されるな、俺」

「でしょうね」

 

 多分塵も残らない。明確な死の存在を背後に感じながら、まあそんなつもりは微塵もないけどと天井を見上げる。確かに深窓の令嬢なペコリーヌは割とそそられたが、それでも普段の彼女のほうがずっといい。よし、と呟くと、カズマはさっさと紅魔の里に行って治療してもらおうと心に決めた。

 

「後は、あんた」

「ん?」

 

 そのタイミングで、キャルがずびしとこちらに指を突きつける。ジト目で、分かってるでしょうけど、と彼を睨みつけた。

 

「今のペコリーヌは抵抗できないからって、ムリヤリ襲うとか考えるんじゃないわよ」

「するわけないだろ!」

 

 人を何だと思ってんだ、とカズマはキャルに食って掛かるが、彼女は一言鬼畜と返した。心外だと言わんばかりに表情を歪めたカズマは、そんな彼女を鼻で笑うと、見下すような視線を向ける。

 

「大体だな、ペコリーヌは俺にべた惚れなんだから、そんなムリヤリなんてしなくても」

「何がムリヤリなんですか?」

「うおぁ!?」

 

 横合いからの声で思わずソファーからバランスを崩す。どうやら思った以上に話し込んでいたようで、お風呂を終えたペコリーヌとコッコロがリビングへと戻ってきていた。直前の話題自体は聞いていなかったようなので、何でもないと誤魔化したカズマは、そのまま勢いで押すように明日の予定を口にする。朝起きたら紅魔の里へ行って、可及的速やかに呪いを抜いてもらおう、と。

 

「そうね。……色々問題が起きそうだし」

「おいキャルなんだその目は」

「べっつにー」

「あはは。ありがとうございます、キャルちゃん、カズマくん。わたしのことを心配してくれて」

 

 二人のやり取りを見ながらそう述べたペコリーヌは、そこでふうと息を吐く。ソファーに体を預けると、そのままぐだりと力を抜いた。

 どうしたのか、とそんな彼女の様子を見ていた二人に、コッコロが心配そうな表情で言葉を紡ぐ。弱体化の影響は多岐にわたっている、と。

 

「お風呂に入るだけでもお疲れになってしまわれたようで」

「……」

「……」

 

 それはちょっと違うんじゃないかな。そうは思ったが、口にはしなかった。だってコッコロがやけにツヤツヤしてるもの。多分何から何までお世話したんだろうな。そうも思ったが、やっぱり口にはしなかった。彼女の心配自体は純粋な気持ちから出ているのだから。

 

「まあ、今日はもう寝たほうがいいんじゃないかしら」

「そうだな。そんな状態じゃ何も出来ないだろうし」

「そうですね……っと?」

「ペコリーヌさま!?」

 

 二人に言われ、立ち上がろうとしたペコリーヌがよろめく。確かにコッコロのお世話も一因であろうが、弱体化の影響はやはり大きい。体力自体も相当弱っているらしく、今日一日の疲れが出てしまった状態では歩くのも一苦労のようだ。

 もう一度座り直したペコリーヌは、そこでふうと息を吐く。このままでは自分の部屋に向かうことすら出来ない。かといって、コッコロにこれ以上お世話されるのもそれはそれで少し。そんなことが頭に浮かんでは消え、ぐるぐると纏まらない思考のまま、彼女はそれが思わず口をついて出た。

 

「あの、カズマくん」

「ん?」

「わたしの部屋に行きたいので……抱っこをお願いしても、いいですか?」

「ほぁ!?」

 

 今なんつったこいつ。思わず立ち上がったカズマは、それが幻聴や聞き間違いではないことを確認するように視線を巡らせ、何言ってんのよあんたと騒ぐキャルを見て安心する。

 否、安心など出来るはずもない。今眼の前のこいつは何と言ったのか。抱っこをしてくれと、そう言ったのか。風呂上がりで、パジャマ姿の、ペコリーヌを抱っこしろと、そう言ったのか。

 

「カズマ」

「な、ななななんだ? どうした?」

「動揺し過ぎでしょ……変な気起こすんじゃないわよ」

「だったらお前が運べよ」

「……」

「何だよその目は」

「ヘタレ」

「お前の立ち位置どっちだよ!」

 

 ペコリーヌを抱っこさせたいのかさせたくないのかどっちだ。そんな疑問を込めた目を向けても、キャルはジト目で返すのみ。ぬいペコがいない時でよかったわね、と割と投げやり気味にそうとだけ述べて、後は好きにしろとばかりに話を打ち切った。どうやらもうこの件に口を挟む気はないらしい。

 ならば、とコッコロを見たものの、彼女は彼女でこちらを見守る表情を向けるのみだ。今のカズマの葛藤を果たして分かっているのかいないのか。案外分かっていて、それでいてあの表情なのかもしれない。それはもうママを通り越してオカンである。

 ともあれ。どうやら代わりにペコリーヌを運んでくれる人員はいないようで。となると後は、カズマが彼女を抱っこするかしないかの二択になる。

 それでもって。しない、となるとペコリーヌはここから動けないわけで。

 

「……じゃ、じゃあ、いくぞ。いいんだな? 本当にいいんだな?」

 

 普段であればセクハラも辞さないように手をワキワキさせかねないカズマであるが、色々と状況が重なっている状況ではそんな余裕がない。ついでにそういうことをしても受け入れられてしまいそうなので余計に出来ない。キャルの言う通りのヘタレなのだ。これが例えばもっと普段から凶暴で堅物なのに性癖が歪んでいたり好意を素直に出さなかったりとかしている女騎士だったならばカズマもあまり意識しなかったかもしれないが。

 

「は、はい。じゃあ、お願いします」

 

 そう言って両手を前に出して待ち構える。ハグ待ちである。抱っこをして欲しいのだから間違っていないのだが、カズマにとっては色々と危険が危ない。

 ゆっくりと薄着のペコリーヌに近付き、そのまま背中に手を回す。ぎゅ、と抱きしめるような形になった二人は、しかしそのまま固まってしまった。

 

「……カズマくん?」

「ちょっと待って。今必死で般若心経唱えてるから」

 

 ダイレクトアタック。湯上がりペコリーヌを至近距離で食らってしまったカズマは、それはもう息子が大はしゃぎだ。寝巻きなのだから当然寝やすいようにゆったりとしてかつ薄着なので、普段のバトルドレスよりもより一層柔らかさも堪能出来るわけで。天に突き上がろうとしている己の欲望を、カズマはただただ無心で般若心経を唱えることで抑えようとした。

 

「……よし、じゃあ」

「あ、あの。もう少し強く抱いてもらっても、いいですか?」

「……っ!?」

 

 ペコリーヌ湯上がりASMR。ついでにちょっと勘違いするようなワード選び。出番だなと再び息子が立ち上がろうとするのを、お前じゃない座ってろと言い聞かせ宥めすかせるのにカズマは全神経を集中させた。

 でも正直我慢のし過ぎはよくないんですよ。どこからか天の声が聞こえてくる。女神のお告げ、とアメス・アクア・エリスの三馬鹿女神が聞いたらブチ切れそうな感想を抱いたカズマは、じゃあもういいかとばかりにゆっくりと二重の意味で立ち上がって。

 

「……主さま?」

 

 ひゅん、と頭を垂れた。コッコロがこちらを見ているのを認識して、カズマは一瞬にして冷静になった。いやもう不可抗力とはいえ以前敵だった頃のぬいコロの尻におっ立てたものをこすりつけたさまを見せてしまった時点でどう取り繕おうとも無駄なのだが、それでも自分から彼女に見せ付けられるほどカズマは覚悟を決めていない。

 よし、とペコリーヌを持ち上げる。ゆっくりと彼女を抱えたまま、リビングを出て、そして部屋へと足を動かした。大丈夫だ、コッコロには気付かれていないはずだ。

 そんなことを思っていたからだろうか。油断していたカズマは階段を上りきった辺りで少しバランスを崩してしまい。抱き抱えられていたペコリーヌは、咄嗟に目の前にしがみついた。普段の彼女と比べれば非常に弱々しい、深窓の令嬢がぎゅっと抱きつくような。それでいて、非常に立派なそれが、想像していないタイミングで、薄着でぎゅぎゅっと。

 

「ひゃん」

 

 追加で、思わず出てしまった色っぽい声が、カズマの耳元で。

 

「……あっ」

「カズマくん? どうしたんですか?」

「……大丈夫です。気にしないでください」

「で、でも……なんだか賢者みたいな顔をしてますし」

 

 本当に、我慢のし過ぎはよくない。今回はギリギリセーフではあったが、次はないだろう。今度は間違いなく爆発する。そうしたら、夜中にこっそりと、コッコロに見付からないようにズボンとパンツを洗う羽目になる。それだけは死んでも避けなくてはならない。

 ペコリーヌを部屋に送り届けたカズマは、そのまま自分の部屋に戻り、そして大丈夫であったことを確認してからそんなことを心に誓った。勿論暴発予防は怠らない。

 

 

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