プリすば!   作:負け狐

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その209

 久しぶりにやってきた紅魔の里。カズマはあまり変わらない里の姿を見て顔を顰め、キャルも同じように目のハイライトが消えかけた。思い出は苦いものだ。特にこの二人には。

 

「……よし、さっさとミツキ先生のとこ行って診察してもらうか」

「そうね。それがいいわ」

 

 そう言いながら里を歩く。一応曲がりなりにも観光地であるここは、やってきたお客に対してのサービス精神が旺盛である。前回もいかにもなパフォーマンスをこれ見よがしにやっていて、カズマはその姿にプロ根性を感じたものだったのだが。

 首を傾げる。確かに観光地用のパフォーマンスを担当している連中はいる。いるが、里を総出でやっていた前回と比べると大分ささやかだ。準備がいるからテレポートで直接里に来る時は連絡が必要だとかなんとかと以前あるえとアンナに言われていたが、まさかそのせいだろうか。そんなことを思いつつ、その割には別に慌てていないなと考えて。

 

「あら? アナタたち、どうしたの?」

「ん? あ、メリッサ」

 

 声に振り向くと、以前協力してもらった見覚えのある人物がいた。診療所所属の狂人の一人で比較的まともな部類、可愛い動物が好きだがそれ以外には塩対応のトレジャーハンター。どうやら何かの買い出しの途中なのか、荷物を持った状態でこちらを眺めている。

 丁度いい、とカズマはそんな彼女に事情を話した。別に取り次いでくれるとは思っていないが一応話しておいた方がいいだろうくらいの感覚である。案の定メリッサはそれを聞いて別に協力はしないと即答した。

 

「まあでも、一応忠告だけはしておくわ。今行くと巻き込まれるわよ」

「……どうするのカズマ。帰る?」

「普段ならじゃあ落ち着くの待ってからにするかって言いたいけど」

 

 ちらりとペコリーヌを見る。わたしなら大丈夫ですよ、と微笑む彼女に無理をしている様子はない。恐らく本気で言っているし、最悪王家の装備を常時フルパワーで使っていれば何とかなると思いますという追加の言葉に嘘はないだろう。

 じゃあそれで、となるかといえばそんなことはない。それでもある程度のタイミングでひ弱ペコリーヌになるのは確実で、そうなると彼女を抱っこして運ぶにはカズマが適任。そしてその場合深窓の姫ユースティアナがおっぱい押し付けながら照れくさそうに微笑んで耳元で囁いてくるので間違いなくカズマのカズマさんは出番を確信し始める。前回は耐えられたが果たして次はどうかな?

 

「俺が大丈夫じゃない」

「何か色々な意味が込められてそうね」

「色々な意味、でございますか?」

「コロ助は知らなくてもいいことよ。いや知ってるかもしれないけどその時はスルーしてやって」

 

 キャルの一欠片の良心がコッコロを止める。そうしながら、まあ自分も別の理由だけどそれは大丈夫じゃないとペコリーヌに述べた。

 

「王家の装備常時フルパワーって、間違いなく燃費が悪いわよね? で、その場合のエネルギー補給は」

「……えへへ」

「えへへじゃない! 眼の前の厄介事とこれまでの蓄えが全部潰れるだろう食費だったら流石に前者を選ぶわ! 嫌なこととヤバいことがあるなら、どっちもやりたくないけどしょうがないならマシな方選んで我慢しないでひたすら愚痴る方がずっといいもの」

 

 がぁ、と捲し立てたキャルはそういうわけだから却下と告げた。そうしながら視線をメリッサに向けて、大丈夫よと言い放った。別段協力する気もない彼女は、そんなキャルにあらそうと返すのみ。

 

「じゃあ精々頑張りなさい。今のあそこ、ミツキ達だけじゃなくてネネカ達もいるから、気を抜くと何かの実験に使われるわよ」

 

 だから自分は当分あそこに近付かないようにしている。そう続けると、メリッサはひらひらと手を振って去っていった。振り向くこともなくこちらの視界からいなくなる彼女をゆっくりと目で追いながら、キャルは表情を消した状態でカズマを見る。同じように無表情になっていたカズマは、彼女のそれを見てゆっくりと頷いた。

 

『帰りたい……』

 

 口から出かけた言葉がシンクロする。が、二人共声にはしなかった。行かないという選択肢はないのだ。ここでペコリーヌがじゃあやっぱり、と言い出しても却下するくらいには。

 

「あの、二人共」

「ペコリーヌさま」

「え、はい。どうしたんですかコッコロちゃん」

「お二人の意志は固いようでございます。ここは、素直に甘えられるのがよろしいのでは、と」

 

 元はといえば自分の蒔いた種なのに。そんなことを思い彼女の心が少し痛む。

 ちなみに、じゃあ最初から食うなよ、と即座に二人からツッコミというお叱りが入った。

 

「……はい。みんなに二度と迷惑を掛けないように、今度はきちんと毒抜き呪抜きをしてから食べます」

『食べるなっつってんだろ!』

 

 

 

 

 

 

 どことなく雰囲気が違う紅魔の里を歩き、里の外れに向かう道を進み。そうして辿り着いた監獄、もとい診療所の扉を見上げたカズマたちは、意を決してそれを開けた。地獄の扉が開かれたかのような音を立て、診療所の内部がゆっくりと目の前に現れる。

 見知った顔が倒れて動かなくなっていた。

 

「めぐみん!?」

「ちょ、ちょっとどうしたの!? 生きてる!?」

 

 思わず駆け寄った。そうして動かないめぐみんの様子を確認したが、とりあえず死んでいるわけではないということは分かった。

 

「まあそもそも死んでたらミツキ先生が片付けてるか」

「そうね。片付ける余裕がないほど忙しいなら話は別でしょうけど」

「あの、主さま、キャルさま。さすがにそれは、ちょっと……」

「やばいですね」

 

 無事だから言える軽口なのだろう。あるいは、こいつらは死んでも死なないか向こうで女神がお断りする連中だと確信を持っているか。どちらにせよ、コッコロの反応は普通ではあるものの、こいつらに当てはまるかどうかは少し怪しい感じもした。が、カズマもキャルもはーいと素直に頷く。ママだし。

 それで、どうしてこんなところで倒れているのか。そう思ったものの、メリッサの言っていたことを思い出せばおおよその推測は出来る。多分実験体になったのだ。

 

「……人の結末を勝手に決めるのはやめてもらおうか」

「あ、生きてた」

「さっきの会話聞こえてましたからね! その反応はおかしいでしょう!?」

 

 ごろり、とうつ伏せに倒れていた体勢を仰向けに変える。そうしながら、一体この地獄に何の用ですかとめぐみんは問い掛けた。

 

「地獄、ですか?」

「はい、それはもう。紅魔の里のみんなもここ最近は近寄らないようになって。どうやらこの門をくぐる者は一切の希望を捨てよとかまことしやかに噂されているらしいです」

「でも事実なんでしょ」

 

 キャルのそれに、めぐみんは答えなかった。抵抗しなければ助かりますよ、というアドバイスなのかなんなのか分からないことだけを述べると、彼女はゆっくりと立ち上がる。

 そのまま彼女はふらふらと廊下に消えていき、それに入れ替わるように相変わらず隈の酷い女性がこちらへとやって来た。あら、どうしたの。そんなことを言いながら、その女性――ミツキは視線を順に動かし、そして一通り見るとペコリーヌで固定させた。

 

「あらあら。これは酷いわね」

「そんな一目で分かるものなんですか?」

「これでも医者だもの。……うん、でも解呪はされているのね。これならまあ」

 

 視線を落とし顎に手を当てて暫し考えていたミツキは、そこで思い出したかのように顔を上げた。用事はこれで合ってるのかと、今更のように彼女は問い掛ける。

 

「はい。ミツキさま、ペコリーヌさまの症状はどのようにすれば」

「大丈夫。さっきも言ったけれど、解呪は済んでいるのだから、薬でも飲んで安静にしていればすぐに良くなるわ」

 

 なんてことのないように言うが、普通の医者、あるいは呪術師はその薬を用意するのが至難の業である。なにせ呪いの元凶がほとんど正体不明の賞金首だったのだから。

 が、目の前の医者は当たり前のようにそう言ってのけた。ことその手の治療に関してはバニルですら向こうに聞いたほうが早いと断言するほどだ。レベルが違う。

 

「薬があるんですか!?」

「既存のものはね。特効薬が欲しいのなら、そのモンスターの素材がいるけれど」

「ああ、それならここにあるぞ」

 

 ミツキかネネカの研究用の材料にでもなるかと思って交渉用に持ってきていた、『強壮なる使者』の残骸の入った箱を取り出す。受け取ったミツキは嬉しそうにその箱を開け、隈の酷いその瞳をキラキラとさせた。

 

「これは……ネネカ所長とも話す必要があるわね」

「ちょっと! 特効薬は!?」

「もちろん作るわ。でも、それ以外の用途にも使えるでしょう? こんな楽しいもの」

 

 そう言って口角を上げたミツキは、じゃあ入院の手続きをするわねと踵を返した。鼻歌を奏でながら、スキップでもしそうな勢いで手続きを終えると病室への道案内を誰かに頼もうと視線を巡らせる。

 

「エリコちゃん、悪いのだけれど、彼女を病室まで連れて行ってもらえないかしら」

「はい? あら、あなたたちは」

 

 そこを丁度通り掛かったボブカットの巨乳美少女は、ミツキに言われハイライトのない瞳をこちらに向けた。ある程度見知った顔であることを確認した彼女は、今度はどうしたのですかと問い掛ける。

 実はこうこうこういうわけで、と説明すると、どこか呆れたように溜息を吐いた。

 

「まあ、いいでしょう。ただ、今少し忙しいので、あまりサービスは期待しないでください」

「あ、はい。それは大丈夫です。迷惑を掛けているのはこっちですから」

 

 ペコリーヌの返事を聞いて、やれやれといった様子のエリコはこちらですと歩みを進めた。ぞろぞろとその後についていき、言われた病室のナンバープレートの前で立ち止まる。

 

「あれ? ここって」

「前にあんたが入院してた部屋ね」

「ここが一番使い勝手のいい部屋らしいですわ。では、私はこれで」

 

 病室に入る一行を見送ることもなく、エリコはその場を去っていく。廊下を一人で歩きながら、このタイミングでやってくるのは運がいいのか悪いのか、などとひとりごちた。

 ふと足を止める。そういえば、と彼女は手に持っていた紙を見た。それは数日前、紅魔の里にやってきた占い師に占ってもらった『運命の相手』に対する情報だ。それによると、彼女の運命の相手は今複数の少女とパーティーを組んでいるらしい。

 そしてその内訳は。

 

「剣士と、獣人と、回復役……」

 

 当てはまってはいる。だが、あの浮遊する頭蓋骨はそんな遠い相手より自分とランデブーしないかとか抜かしていた。占ってもらった手前、粉砕するのは控えたが、そのタイミングで盛大に叩き潰してしまったので詳細は聞けずじまい。一緒にいたシノブにも、父がすみませんとめり込んだドクロ親父を掘り返してお開きになってしまったので尋ねることが出来なかった。

 

「……以前にも同じことがあった。偶然も二度続けば、それは必然……」

 

 ハイライトのない瞳が妖しく光る。が、すぐにそれを振って散らした。前回も今回も、条件に合致する相手だからといって運命を感じるかといえば答えは否。何より、先程も気になっていたドクロ親父の遠い相手、というのが気にかかる。それは物理的な意味なのか。

 それとも、その人物にはすでに恋人がいる、という比喩的な意味なのか。

 

「まあ、どちらでも別に構いはしませんわ」

 

 運命の相手ならば迷うことはない。だから、少しでもときめきを感じたのならば。

 

「……もう少し、話を聞きに行きましょう」

 

 焦ることはない。退院までまだ余裕がある。二度目なのだから、これまで以上に慎重に慎重に。じっくりと。

 

「クスクス」

 

 そう考えると、この面倒な手伝いにも少しだけ身が入るというものだ。そんなことを思いながら、彼女は一人、クスクスと笑った。

 

 

 

 

 

 

 そういうわけでペコリーヌは入院患者となり、診療所は忙しそうなのでお世話はお任せくださいと三割増しで笑顔のコッコロが張り切っている。そんなわけで、カズマとキャルはただの見舞客になった。暇人とも言う。

 かといって、じゃあ帰るか、とはならないわけで。

 

「それで、ここに来たのかい?」

「他に思い付く場所がなかったんだよ」

「ネネカ所長も何かやってるってことは、下手に動くと巻き込まれそうだし」

 

 診療所のすぐ近く。あるえとアンナの執筆工房へと避難していた。ちょうど原稿を書いていたあるえがいたおかげで無事にソファーでくつろげるようになった二人は、これからどうしたものかと天井を見上げる。

 

「暇なら、原稿でも手伝ってくれてもいいけれど」

「無理」

 

 キャルは即答した。カズマは一瞬迷ったが、中学時代の黒歴史を掘り起こしかねないので首を横に振る。まあそれならばしょうがない、と彼女はその答えを聞いてあっさりと引き下がった。反応からして、ちょっと聞いてみた程度のものだったのだろう。

 

「あれ? そういえばアンナはどうしたんだ?」

「彼女なら、今は向こうの診療所の手伝いさ。知っているかい? 今紅魔の里の族長試練を改造しているのだけど」

「そうらしいわね。ネネカ所長がいるのもそのせいなんでしょ」

「そうそう。そのおかげで、これまでとは随分と様変わりしたそれに、里の若者はこぞって挑戦して」

 

 全滅した。オチを述べたあるえに、カズマもキャルも別段驚くことなくこう答えた。

 知ってた。

 

「あの二人の用意した試練とか、そりゃそうなるだろ」

「そうよね。それで、何人死んだの?」

「流石に死者はいないよ。入院したのは何人かいたけれど」

 

 そんなわけで。最初のバージョンでは全滅という結果に終わったため、次のバージョンに着手している最中らしい。それだけを聞けばきちんとバランス調整をする良運営に聞こえなくもないが。

 カズマもキャルも、妙な確信があった。全員が全員ギリギリの極限状態で生かさず殺さずのまま試練を行うようになる、というのが理想なのだろうということを。

 

「まあ、それももうすぐ終わるらしいから、彼女の入院については心配しなくてもいいだろうね」

「一応あの人の医者の腕は信用してるしなぁ」

 

 要所要所で助けてもらっているので、そこは心配していない。懸念があるとすれば、入院が長引くと変な問題に巻き込まれる可能性が増える、ということくらいだろうか。

 

「っていっても、あたしたちには族長試練は関係ないし」

「そうだな。まあ気長に待つか」

「その方がいい。最近物騒な噂もあるからね」

「物騒な噂?」

「ああ、何でもカップルに天誅を下す謎の変態がいるとかなんとか」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

「奇遇だね。私もそこは同意だ。もっとこう、インパクトとかっこよさが欲しいところだ」

「あたしの意見と欠片もかすってないから同意しないで」

「その姿は忍者であるとか、騎士であるだとかで定まっていない。一説には逃げ出した爆殺魔人が正体だとも言われているが、白金の騎士の方には特徴が当てはまらず、ひょっとして二体いるのかなどとも言われている」

「無視して話進めないで――って、ん?」

 

 前半はともかく、後半には何だか聞き覚えがあるような。そんなことを思いながらカズマの方を見たキャルは、彼が同じような表情をしていたのを見て確信を持った。

 ねえ、とあるえに声を掛ける。ちょっと聞きたいことがあると言葉を続け、そして彼女に向かってそれを問い掛けた。

 

「ネネカ所長って、めぐみんとちょむすけさん以外に何かいた?」

「ん? 何かパーツ単位で分解された鎧を箱に詰めて持ってきていたけれど、それ以外は記憶にないな」

「あ、うん。ありがとう。もういいわ」

 

 あの聖鎧って分割できないとか本人言ってなかったっけ。そんな疑問が浮かんだものの、考えたら負けな気がしたのでキャルもカズマもこれ以上考えないことにした。元々同情する相手じゃないしな、と追加で考え、さっさと対処しておこうと立ち上がる。

 

「ちょっと診療所行ってくるわ」

「さっきの変態の片方はこれで多分すぐに解決するから」

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 




破片を渡せたりゴリゴリ削られてたりしてるし、実際分割出来ないんかあいつ
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