プリすば!   作:負け狐

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ちょっと真面目回

VSデストロイヤー


その21

「カズマ」

「ん?」

 

 アメス教会。カズマ達の拠点となっているそこで、キャルが彼を見下ろしながら溜息を吐いた。ちょっと聞きたいことがあるんだけどと述べた。

 

「あんた、この間のスキルを上手く使う特訓、続けてるの?」

「あ? やってるわけないだろう」

「おい」

 

 いけしゃあしゃあと抜かすカズマを彼女はジト目で睨む。そうしながら、そんなことでは件のスキルを運用することなど夢のまた夢だと言葉を続けた。

 対するカズマ、何を言っているんだと鼻で笑う。お前はあの時のことを覚えていないのかとキャルに向かって上から目線でのたまった。

 

「最初の一回で成功したんだぞ。あれはもう俺の隠された才能が開花したに決まってる」

「あっそ」

 

 白けた。そんな顔をしたキャルは、じゃあもういいと踵を返した。精々調子に乗って無駄死にしなさいと捨て台詞をのたまった。

 カズマは無言で立ち上がる。彼女の背中に向かい、そこまで言うのならば、勿論特訓に付き合ってくれるんだろうなと言い放つ。足を止めたキャルは、そっちがやる気ならば、と断ることをしなかった。

 

「ああそうかい。じゃあ、見せてやろうじゃねーか、俺の真の力を。吠え面かかせてやる」

「そう。じゃあ、見せてもらおうかしら。――貴方の、力を」

 

 振り返ったキャルの姿がぐにゃりと歪む。シルエットが猫耳の少女から小柄なエルフの女性へと変化し、不敵な笑みを湛えたその表情が彼へと向けられた。

 即座にカズマは潜伏を使用、目の前の相手から逃げるように部屋を飛び出し、そのまま教会からも脱出しようと扉を開けた。陽の光を浴びながら、平穏な日々をこの手に掴むため、彼は全力で足に力を込める。

 

「あら、わざわざこちらに来てくれたのですね」

 

 その目の前に先程逃亡を成功させたはずの相手がいた。ギシリと体の動きが止まり、思わず後ろを振り返る。そこには別に誰もおらず、再度視線を戻すとしっかりと彼女が立っている。

 瞬間移動か何かか。そんなことを思ったカズマの背後から、急に逃げるとは頂けませんねという声が。聞き覚えのあるそれは、自分の記憶が確かならば今目の前にいるはずの女性の声で。

 

「まったく……最低限、あのスキルの入り口程度は足を踏み入れてもらいたいものです」

「ええ、本当に。そのためにも、少し細かい調整を行いましょうか」

 

 前を見た。彼女がいる。後ろを見た。彼女がいる。高速で反復横とびでもしているのかと一瞬考えたが、どう考えてもそれはアホの所業であり、目の前の彼女らしくない。

 

「ったく、うるさいわよカズマうおぁ!? ネネカ所長が二人いる!?」

 

 騒ぎを聞きつけたのだろう。惰眠を貪っていた本物のキャルが欠伸を噛み殺しながらやってきたが、目の前の異様な光景を見て即座に覚醒、目を見開いた。

 同時に。カズマもそれが気の所為ではなかったことを確信し絶句する。

 

「あら、こんにちはキャル。今日は暇なようですね」

「少しカズマを借りますが、二人には言っておいてくれますか?」

「……え、あ、はい。どうぞ持ってってください」

「おいこらキャル。ここは全力で俺を救う場面だろ!」

「何でよ!? 目の前の光景見て関わろうと思うわけないじゃない。心配しなくても、コロ助とペコリーヌにはあたしから言っとくわ」

「お前ちょっと待て、本気で俺を見捨てる気か!? そんなことが許されると思ってるのか!?」

 

 いつになく必死なカズマの言葉に、キャルも一瞬だけたじろぐ。が、彼のスキルの特訓をするだけですというネネカ二人の話を聞いて、じゃあぜひ持っていってくださいとあっさり引き下がった。

 

「待て待て待て。話し合おう、俺達は分かり合えるはずだろう!?」

「コロ助もあれを使えるようになるのを期待してたし、たまにはいいとこ見せなさいよ主さま」

「お前、姑息な手を……」

「存在が姑息なあんたに言われたくないわ」

 

 話が纏まったようなので行きましょうか。そう言ってネネカはカズマを左右から挟み込むと、そのまま引きずるように彼を運んでいってしまった。

 そんなカズマを手を振って見送ったキャルは、彼が見えなくなったのを確認するとふうと溜息を吐く。

 

「……昼はどっかで食べようかな」

 

 教会に一人でいるのもあれだし。そんなことを思いながら、彼女はううんと伸びをすると出掛ける準備をするため部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 そんな数日前の、ある意味のんびりとしたやりとりが、まるで嘘だったかのようだ。街中に響くアナウンスを聞きながら、カズマは大わらわになっている外を見て思う。どうやらとてつもない何かが来ているのは分かるのだが、この世界の常識にまだ少し疎い彼はどれだけマズい状況なのかがいまいちピンときていない。

 ただ、絶対逃げた方がいいと主張するキャルを見る限り危険なのは間違いないらしい。そんなことを考えた。

 

「……で、ペコリーヌ」

「どうしました?」

「お前は迎撃に行く気満々みたいだが」

「はい。脅威が迫っていて、そこにわたしがいるのなら。絶対に、行きます」

 

 迷いなく言い切った。怖がっている様子もなく、ただただそれが当たり前だと言わんばかりのその態度に、カズマはどこか違和感を覚える。普段のスチャラカさは完全に鳴りを潜め、まるで物語に出てくる姫騎士のような。

 

「あーもう何でよ! デストロイヤーとぶつかってタダで済むはず無いじゃない! 死ににいくようなもんよ!」

「分かってます。でも、わたしが逃げたら、駄目じゃないですか」

 

 他の誰が逃げようと、自分だけは逃げない。そんなことを言いながら、ペコリーヌは笑みを浮かべた。キャルの言葉を鵜呑みにするならば、彼女はこれから死ににいく。だというのに、そんな顔をしたのだ。

 

「なあ、そのデストロイヤー? とかいうのは、絶対に倒せないのか?」

「今まで誰もどうにも出来なかった天災扱いの暴走兵器よ? ここでいきなりそんなことが出来るわけ」

「いえ、キャルさま。……この街ならば、あるいは」

 

 キャルの言葉を遮るようにコッコロがそう述べる。どうやら彼女もペコリーヌと同じようにここでの迎撃を選択したようだ。準備を済ませ、アナウンスの言うようにギルドまで向かおうとしている。ありがとうございます、というペコリーヌの言葉に、小さく笑みを浮かべることで返答としていた。

 

「何で!? 何でそんな頑張ろうとするのよ! もっと楽に生きなさいよ、嫌なことからは逃げなさいよ! こういう時は逃げるが勝ちでしょ!?」

 

 頭を抱えながらそんなことをキャルはわめくが、しかし言葉と裏腹に彼女は逃げる気配がない。暫し悶えた後、頭を机に打ち付けた。ガン、と盛大な音が鳴り、そのまま彼女は動かなくなる。

 

「……カズマ、あんたはどうするの?」

 

 その体勢のまま、キャルは意見を言わないカズマに問い掛けた。お前はどうするのか、と尋ねた。逃げるか、戦うか。

 そんなことを言われたら、彼の答えは一つしか無い。話を聞く限り間違いなく倒せるような相手ではないのだ。戦っても、無駄死にがオチである。

 だから。

 

「コッコロ、ペコリーヌ。お前らは行くんだよな?」

「はい。最後に勝手なことをしてしまい、申し訳ありません」

「はい。ごめんなさいカズマくん。これからの冒険、一緒に出来なくて」

 

 確認を取った。つまりはそういうことなのだ、と理解した。だから彼は、何言ってんだお前らと鼻で笑った。

 

「俺も行く」

「え?」

「いいんですか?」

「丁度良く女神の祝福も貰ってるしな。佐藤和真の華々しい伝説の始まりに相応しいじゃねーか」

 

 目をパチクリさせていた二人は、カズマのそんな軽口を聞いて表情を笑みに変える。そうですね、とペコリーヌは笑い、その通りですとコッコロも笑う。

 そうと決まればギルドに向かおう。準備を済ませ、町の住人が避難を行っている中、冒険者達が集まるそこへと一行は足を進めた。

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

「キャルさま?」

「あたしも行くわよ! 置いてくなぁ!」

「……キャルちゃん、いいんですか?」

「知らないわよ! でも、ここから逃げたところで明日が大丈夫な保証もないし……だったら、精々今を全力でやってやるわ」

「めんどくさいやつだな、お前」

「あんたに言われたくないわ!」

 

 

 

 

 

 

 ギルドに集まった冒険者達は、デストロイヤーをどうすればいいのかあれこれと意見を出し合っている。が、そのどれもが既に実践済みであり、そしてことごとく失敗したものであるという返答を受け、段々と言葉が少なくなっていった。そんな中に飛び込んだカズマ達は、今どういう状況かをルナに尋ね、成程なと頷く。

 

「無理ゲーだろ」

「むりげー、でございますか?」

「魔力結界でほぼどんな魔法も防ぐ? 物理攻撃しようにも巨大過ぎて轢き潰されるわ装甲が硬いから弓は弾かれるわ投石機は向こうの機動性の高さで無理だわ対空用のゴーレムが配備されてるだわ……どうしろってんだよ」

「だから言ったでしょうが……。どうなの? あんたなら変な抜け道見付けられるんじゃないの?」

 

 そう言われても、とカズマは頭をガリガリと掻く。考えつくものはほぼ失敗しているという話なので、普通ではない方法でどうにかする必要がある。それが実現可能不可能は置いておいて、とりあえず言うだけ言ってもいいだろうと彼は口を開いた。

 

「何か物凄い物理攻撃スキルとか無いのか? 一振りで城をぶった切るみたいな」

 

 は、と冒険者達がカズマを見た。そんな都合いいものがあったらとっくにやってるだろうと述べ、まあそりゃそうかと彼もこれ以上掘り下げる気もなくそれを取り下げる。

 そんな中、ありますよ、と彼の隣の少女が述べた。ここの冒険者で酒場を利用する面々ならば大半は知っているウェイトレスを兼任している冒険者が、ペコリーヌがそう述べた。

 

「《セイクリッド・エクスプロード》なら、多分いい感じにお城斬れると思います」

「そ、そのスキルを使える人はどこに!?」

 

 光明を見た。そんな思いを持ってルナがペコリーヌに問い掛けると、彼女はあははと苦笑する。期待させて申し訳ないんですけど、と言葉を紡いだ。

 

「ベルゼルグ王家の必殺剣です。第二王女が今の持ち主になっている剣に由来するやつなんですけど」

「……そう、でしたか」

「でも、それに近いことならわたむぐっ」

「それなら仕方ないわねー! なんか別の方法考えなくちゃ」

 

 何かを言おうとしたペコリーヌの口をキャルが塞いだ。同じタイミングでこちらに駆けてきたダクネスが、彼女のその行動を見てほっと胸を撫で下ろす。

 そのまま暫くむぐむぐ言っていたペコリーヌであったが、やがて観念したのか不満そうに項垂れた。

 

「はぁ……危なかった。すまないキャル、手間を掛けさせた」

「ほんとよ……。ペコリーヌ、もう少し考えて喋りなさいよ」

「ちゃんと考えて喋ってますよ。わたしの全力ならデストロイヤーを弾き飛ばすことくらいは」

「それで、あなたはどうなるのですか? ……アイリス様が、泣きますよ」

「……はい。……ごめんなさい」

 

 ダクネスの言葉を受け、しょぼんと肩を落とし謝罪をした。そんなペコリーヌを見て苦笑した彼女は、なのでもし使うのならば、と指を立てる。

 皆に気付かれないことと、無茶をしないこと。そう言って、がばりと顔を上げるペコリーヌに向かって笑みを見せた。

 

「ありがとうございます、ララティーナちゃん」

「ダクネスです。……しかし、とはいってもその状況を作れなくては」

 

 動きを止めるか、ある程度のダメージを与えるか。それらが不可能ならば、今の許可は何の意味も持たない。

 そんなタイミングで、遅れてしまいましたね、という声がギルドに響いた。冒険者やギルド職員がそちらに視線を向けると、人影が三人、入口からこちらに歩いてくるのが見える。

 

「それで、現在はどこまで話が進んでいるのでしょう?」

 

 三人の中で一番背が低いエルフの女性が職員に問い掛ける。ああはい、とこれまでの会議の内容をかいつまんで説明した職員は、何かいい方法はないでしょうかと彼女に尋ねた。

 ちらりと隣の美女を見やる。肩を竦めるのを見て、そうですかと一人頷いた。

 

「ちょむすけ、めぐみん。いけますね?」

「魔力結界をどうにかする前提だけれど」

「師匠がやるのならば、勿論私もやりますよ」

 

 はぁ、と溜息を吐くちょむすけと、ビシィとポーズを決めるめぐみん。そんな二人からの許可を貰った彼女は、視線を巡らせお目当ての人物を探し出す。

 

「ああ、いましたね。カズマ。そしてコッコロ」

「え? 俺?」

「何か御用でしょうか、ネネカさま」

 

 カズマへと近付いたネネカは、小さく微笑むと良かったですねと述べる。この間の特訓の成果を早速見せる時が来た。そう言いながら、もう二人必要な人物の探索を行う。

 おや、と首を傾げた。正確には冒険者ではないから来ていないのだろうか。そんなことを考えた矢先、先程自身が述べた言葉と同じセリフが入り口から聞こえてくる。

 

「お、遅れました……ウィズ魔道具店店主、ウィズです。……飲んじゃ駄目ですよ!」

「流石にこのタイミングで飲まないわよ……」

 

 どやどやと数人の女性が追加された。キョロキョロと視線を彷徨わせていた彼女達は、カズマ達とネネカが一緒にいるのを確認するとそちらへと歩みを進める。

 ネネカはそんな彼女を見て、ウィズとユカリを見て待っていましたよと告げた。これから説明するところだったと皆に聞こえるように述べた。

 

「せっかくの研究所を破壊されるわけにはいきませんからね。パーツ単位にして、実験材料にさせてもらいます」

「え? それは、その、つまり?」

 

 職員の言葉に、ええそうですとネネカは述べる。デストロイヤーを破壊する、と明言した。ここの面々ならば、アクセル変人窟ならば、どうにかなると言ってのけた。

 

「さて、では……カズマ」

 

 名前を呼ばれたことで、冒険者達が一斉に彼を見る。いきなりの注目に、カズマは思わずビクリと後ずさった。

 

「頼みましたよ。貴方のスキルで、そこの二人を支援してあげてください」

 

 そこの二人、と指名されたのはコッコロとユカリ。この街に常駐している貴重なアークプリーストだ。そんな彼女達を、カズマの力でブーストさせろとネネカは述べた。

 まず重要なのは魔力結界を壊すこと。完全に破壊出来なくとも、ヒビが入ればそれで十分。魔法が通るようになれば、後はこちらの出番だ。

 

「研究の成果を、少しだけ見せてあげましょう」

「だ、そうよめぐみん」

「ええ。見せてあげますとも、我が爆裂を!」

「……え? 私もここに加えられてるんですか?」

 

 あれよあれよという間に作戦に組み込まれたウィズが一人あたふたとしていたが、その辺りは些細なことである。

 




アクアいない分を数でカバー編パート1

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