プリすば!   作:負け狐

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馴染んでるのか調教済みなのか分かんない元幹部(強制)さん


その210

 アクセルの街外れ。変人奇人のバーゲンセールの街だとはいえ、その大半がある程度は諦め、もとい許容される中未だに狂人のレッテルを貼られ続けている数少ない人物の住処。そんなネネカの研究所の入口の前に立っているのはぼっち共。奇人変人がひしめき合う中で尚ぼっちとカテゴリ分けされる彼女らも十分狂人の部類なのであろうが、しかしそうなるとやっぱりこの街のアレな連中の大半が狂人になるので気にしない方がいい。

 ともあれ、そんなぼっちの一人であるゆんゆんは、入り口で深呼吸をたっぷり三分行ってから、気合を一分間込めて呼び鈴に一分使い手を伸ばして鳴らした。アオイはそんな彼女の決断の速さに感嘆の声を漏らしている。安楽王女とルーシーはスルーした。

 

「あ? 誰だこんな時に」

「ひぃ!?」

 

 そんな彼女の勇気の結果、研究所から顔を出したのは髪を肩口で切り揃えた目付きの悪い女性。めぐみんかちょむすけを予想していたゆんゆんは、その人物――セレスディナを見て一瞬にして心が折れる。おかしいよね、女神祭の後もある程度交流があった顔見知りなのにさ。などというツッコミは誰も入れない。ビビられたセレスディナ当人さえもである。

 

「なんだぼっち共。めぐみんならいないぞ」

「ほ、ほほほほ本日はお日柄もよくわざわざこんな場所まで来てくださって実にきょう、きょうきょうきょきょ――え?」

 

 その横でテンパったアオイが挨拶、だと思う何かを発するべく口を動かしていたが、聞いちゃいないセレスディナは用件を予想してそう述べる。目をぐるぐるさせながらも一応話を聞いていたのか、意識が戻ったゆんゆんと共にアオイは素っ頓狂な声を上げた。

 

『おはようセレスディナ。めぐみんは留守なの?』

「おはようルーシー。ああ、めぐみんもウォルバクもネネカと一緒にクソみてーな鎧持って紅魔の里に行ったきりだ。まあそのおかげであたしは自由を満喫できてるんだけど」

「なんかもうすっかり染まってるんだなぁ……」

「うるっせぇよ! あのクソエルフには逃げられないように首輪も付けられてるし、そもそも今更逃げ出せたってあたしはもう魔王軍から見れば死んでるか裏切り者扱いかどっちかしかねーんだから、生き延びるにはここが最適なんだよ」

 

 狂人の研究所の雑用兼実験体が最適、という結論を出す元魔王軍幹部に安楽王女は若干憐れみを覚えないでもなかったが、まあそうは言いつつ適応しているので問題はないのだろう。そう思いながら、はいはいごめんなさいと彼女はセレスディナの言葉を流した。

 

「ったく。んで? あの狂人共に何の用だよ」

「あ。は、はい。実は、紅魔の里の族長試練というのがあって」

「ん? 何だお前らあれに参加すんのか」

 

 同じ紅魔族なので情報交換もかねて、そしてあわよくば一緒に行けないかという願望を持ちながら訪ねてきた。などという説明をすることは中々に難易度が高い。なので当たり障りのないような説明でもしようかと口を開いたゆんゆんは、セレスディナのその反応に目を瞬かせた。ある程度紅魔の里の知識を持っていればそれ自体を知ることは難しくないが、しかし彼女の反応はそういう感じではない。知識として知っているものを話したというよりは、身近な誰かがそれに関係しているからといったふうで。

 

『めぐみんも試練に向かったの?』

「あー、違う違う。ネネカが依頼で行ってんだよ」

「依頼?」

「ああ。なんでも最近試練受けるやつが少なくなってるだかなんかで、テコ入れするからアドバイザーに呼ばれたらしい。向こうの医者の、ミツキだっけか? あいつと何かやるんだと」

「よしゆんゆん、族長は諦めろ。向こうの連中と交流する方法も、新しい名乗りも、私が一緒に考えてやるから」

「安楽王女さん!?」

『まあ、試練を受けたいなら止めないわ。いざとなったら私と一緒にゴーストやりましょう』

「ルーシーさん!?」

 

 安楽王女とルーシーからそんなことを言われ、ゆんゆんは思わずそちらを見る。からかっている様子は微塵もないその表情を見て二度驚いた。

 そうしてその話をした方、対面のセレスディナもまあそうだろうなと頷いていた。

 

「そ、そんなに、ですか?」

 

 会話に参加する勇気も度胸も気合も何もかもが足りていなかったアオイであったが、流石にこの流れだと思わず言葉が口に出てしまう。友達が困っている。そう、友達が、友達が、友達が! 困っているような気がしないでもない気配を感じるようなそうでもないようないや多分そうだといいな、だったからだ。

 結果として安楽王女、ルーシー、ついでにセレスディナに揃って視線を向けられてキャパオーバーで座ったまま意識が飛ぶのだが、ゆんゆんはそんな彼女を倒れる前に支え、そして友情を感じて一人涙した。なんだこれ。

 

「で、アオイ。落ち着いた? 落ち着くわけないよなぁ……」

「は、ははははい! バッチリです! お、おちちちついてます!」

 

 ダメそうである。とはいえ平常運転なのでまあいいやと流し、安楽王女は視線をセレスディナに向けた。自分は直接ここに所属しているわけではないから、あくまで勝手な想像になるのだが。そう前置きしながら、目の前の彼女の反応を見る。

 

「あの所長が監修って、碌なことにならないでしょ」

「当然だ。あれが監修とか間違いなく碌なことにならん」

 

 力強く断言するセレスディナを見て、安楽王女はそういうわけだからと視線をゆんゆんへと変える。変な意地を張って無駄に命を散らす必要はない。冗談でもなんでもない、ごくごく普通に心配している言葉を彼女へと伝えた。忘れているかもしれないが、安楽王女は植物のモンスターである。純粋混じりっけなしの魔物である。

 言われた方のゆんゆんも、彼女の言葉を跳ね除けない。アジトで話していた内容を忘れているわけでもないのにそんな提案をするということは、状況が確実に変わったのだと理解しているからだ。だからアオイも、今回のこれには口を出していない。そう判断した彼女は、ありがとうございますとお礼を述べた。ちなみにアオイはタイミングをことごとく逃しているだけである。

 

「でも。私……やります」

 

 ともあれ。それでもゆんゆんはそう言ってのけた。たとえこれまでの試練と違って地獄が形成されていようとも、彼女はそんな死地に向かうことを宣言したのだ。

 それを聞いて安楽王女は溜息を吐く。どうなっても知らんぞ。そう言って、これ以上止めるのを諦めた。ルーシーはそんなやり取りを見ながらクスクスと笑うのみである。タイミングが噛み合ったアオイも、頑張りましょうとエールを送ることに成功した。

 そんなBB団の絆を見たセレスディナは、研究所の立場の扱いの差でちょっぴり泣いた。

 

 

 

 

 

 

「そういえば」

「ん?」

 

 所変わって紅魔の里。アイギスをシバいたカズマとキャルは、そのまま二人で里をぶらぶらとしていた。来た当初の不穏な空気の正体も分かったので、警戒心も大分薄れたからだ。

 

「ここ来ると毎回お前と二人になるな」

「そういやそうね」

 

 なんてことのない会話をしながら、入院中暇しているであろうペコリーヌに差し入れでもと店を回る。いつもの癖で大量に食料を買い込みそうになり、今の状況でそれはちょっとまずいのではないかと思い留まった。

 そうして暫くして、カズマはふと気付いた。

 

「なあ、キャル」

「何よ」

「これってデートじゃないか?」

「ぶっ殺すぞ」

 

 瞬時に目が据わったキャルが横を睨む。あまりにもな速度に流石のカズマも一瞬怯んで、いやでも世間一般的に考えればそうだろと言い訳のような言葉を紡いだ。

 

「あんた何言ってるの? そもそも、アクセルじゃ別にいつものことじゃない」

「アクセルならそうかもしれないけど、ここは紅魔の里だろ? 観光地で二人で店を回るって普通にデートなんじゃないかって」

「で?」

「いや、何かそう思うと急に恥ずかしく……でもないか」

「ぶっ殺すぞ」

 

 再び。気付いた時はちょっぴり思ったものの、よくよく考えると前回もこんな感じで、そして何より今回はもう既にきちんとお付き合いをしている巨乳美少女のお姫様がいる。ヘタレなのは相変わらずだが、多少耐性も付いたのでこれまでよりは余裕がないこともない。

 

「大体カズマ。その考えだと今のあんた入院中の彼女ほっといて別の女とデートしてる最低野郎よ」

「見損なったぞキャル」

「あんたよあんた! あたしが元凶みたいに言うのやめなさい!」

「いやだって、お前が誘っただろ?」

「そりゃだって、何だかんだあいつ迷惑かけたって落ち込んでたし、何か差し入れでもあげないと。調子出ないのよ、ペコリーヌがあんなんだと」

「まあなぁ。いや根っこがああいう奴だってのは分かってんだけど」

 

 なのに何で食に関する時だけストッパーぶっ壊れるんだろうな。二人揃ってそんなことを考え、何でもなにも、そういやこの国の大貴族そういうのしかいないんだったと思い直した。

 

「まあでも常時ぶっ壊れてる奴らよりはマシよね」

「常時ぶっ壊れてる大貴族もいるけどな」

「あれはそもそも無いでしょ、ストッパー」

 

 存在していないものは壊れようがない。そんな結論を出してから、さっきの話題が有耶無耶になっていることに二人共が気付いた。気付いたが、ここで蒸し返すと蒸し返した方が確実に悪者になる。そう結論付け、どこか妙な緊張感がお互いに漂った。

 

「何をやっているんですか二人共」

「へ?」

「ん?」

 

 そんな二人の背後から声。振り返ると、どこか呆れたような表情のめぐみんがそこに立っていた。どうしたんだ、と聞くと、どうしたもこうしたもないという返事がくる。

 

「里のど真ん中で修羅場の始まりを予感させるような会話を始めたんですから、目立つに決まってます」

「修羅場?」

「恋人がいるのに他の女とデート。なんて会話修羅場以外に何だというのですか」

「キャル」

「あたしのせいにすんな!」

 

 ぎゃーすか再び。その光景を見ていためぐみんが、だからそれですよ、と呆れたような、溜息を交えた口調で会話に割り込む。

 

「ここはアクセルではないんです。あなた達の普段のやり取りとか知らないんですよ? 分かったらそのケンカップルみたいな言い合いをやめてください」

「いや俺はやめたいんだけど、こいつが俺にかまって欲しくて仕方ないらしくて」

「捏造すんな。あんたが余計なこと言わなきゃあたしだって一々突っかかんないわよ。そうよ、むしろあんたの方でしょ? あたしにわざわざちょっかい掛けて」

「言ったそばから」

 

 若干めぐみんの声に怒気がこもっていたので、カズマもキャルも動きを止め、ごめんなさいと謝った。こういう姿を見ていると、本当にこの二人は似た者同士なのだと思わせる。

 そうして変な空気を霧散させた彼女は、じゃあ気を付けてくださいよ、と踵を返す。ただそれだけのためにこちらに声を掛けたかのようなその行動に、カズマは思わず呼び止めていた。

 

「どうしました?」

「いや、何か用事があってここに来てたんじゃないのか?」

「ああ、それならもう終わりましたよ」

 

 彼の疑問に彼女はさらりと答える。そのまま、軽い調子で言葉を紡いだ。

 

「ゆんゆんをアップデートした族長試練に参加者第一号として放り込んできました」

「……お前やっぱりネネカ所長のとこの一員だな」

「そうね」

「しみじみと失礼なことを言うのはやめてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

「……ここ、どこ?」

 

 ゆんゆんが立っている場所は、どこかの屋敷の廊下らしき空間だ。出口は見えず、振り返っても入り口は見当たらない。どこまでも、延々と続く廊下のど真ん中に彼女は立たされていた。

 

「確か、最初の試練は謎掛けだったっけ」

『謎を解いて、ここから脱出しろ、ということかしらね』

 

 ひょい、と左右の窓を覗き込みながら安楽王女とルーシーが述べる。窓の外には庭園が広がっており、差し込む日差しも相まって春の陽気を感じさせた。

 ちなみに春はもう過ぎている。

 

「と、とりあえず歩きます? 私の見た限り、即死系のトラップは配置されてませんし」

 

 間違った道を進んだ瞬間に死ぬ、ということはなさそうだ。アオイに促され、とりあえず一行は前に進んでみることにした。終わりの見えない廊下は、やはりどれだけ進んでも景色が変わらない。この様子だと、恐らく戻ったところで同じだろう。

 

「これ、出られなかったらどうなるんだろう……」

「まあ普通に考えればそのまま死ぬんだろうな」

「普通に考えてそれなんですか!?」

 

 定位置、アオイの肩に戻った安楽王女がしれっとそう述べ、彼女は思わずツッコミを入れる。が、それを肯定するかのように、ルーシーもうんうんと頷いていた。

 

『大丈夫よ。餓死なら無念もそれなりに溜まるし、ゴーストになりやすいもの』

「セカンドライフの提案はまだ早いですよ!? あ、でも、それはそれでお互いのことを知ることで今よりもう一歩進んだ関係になれる可能性がなきにしもあらずんば虎子を得ず?」

「アオイちゃん!? 落ち着いて! 正気に戻って!? 大丈夫よ、試練なんだから、流石に死ぬ寸前には回収してくれるから」

「もうちょい前に回収してやれよ。いやこの流れ作った私が言うのもなんだけどさ」

 

 はぁ、と溜息を付いた安楽王女は、ぐるりと周囲を見渡す。まったく同じものが延々と続くこれは、ゆんゆんの驚きからしても元々の試練とは似ても似つかないのだろう。コンセプトである謎掛けという部分しか共通点が見いだせないレベルなのかもしれない。

 それはそれとして。この仕掛けを作った人物は間違いなく心当たりがある。というかここに来る前に心配していた状況がそっくりそのまま当てはまった。

 

『めぐみんの話しぶりからすると、これも改良された状態なんでしょうけど』

「試しに参加したぶっころりーが濁流に流されて消えていったのは中々壮観でした、とか言ってたしな。……染まってるなぁ、あいつも」

 

 ちなみにめぐみんもテスターとして参加させられ奈落に落ちた。だからこその発言である。一応、念のため。

 

「と、とりあえず周りを調べましょう。アオイちゃん、手伝ってくれると凄く嬉しんだけど、あ、でも無理はしなくていいから! 私は別に大丈夫だから、だから本当に気にしなくても――ってこれは余計気を使わせちゃう!? どうしよう、どうしよう」

「だ、だだだだいじょぶですゆんゆんさん。私のことは便利な道具か何かだと思ってもらっても構いませんので! でもそれでもほんのちょっぴり気にかけてもらえると恐悦至極で、いやいやいや、そんなおこがましい。ああだめだどうしようわがままだと思われる!?」

「……こないだの友達宣言なんだったんだろうな」

『あの二人らしいじゃない』

 

 やっぱり昇天するのは当分無理だな。微笑ましいものを見ているような顔で頷くルーシーを見ながら、前途多難だと安楽王女は小さく溜息を吐いた。

 

 

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