プリすば!   作:負け狐

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間が空きました

のにカズマが出ない


その212

〈やっぱりよぉ、おかしいと思うんだよな〉

「おうそうか。お前も中々大変だな」

 

 紅魔の里の酒場サキュバス・ランジェリーという名前だけいかがわしいお店のようなただの酒場兼宿屋にて、鎧と頭蓋骨がカウンターに並んで何やら駄弁っていた。ちなみにどちらも酒は飲んでいない。

 

〈大体、ハーレム主人公をボコすのはお約束だろ? じゃなきゃスッキリしないってもんだ〉

「まあ他人がモテてるのはムカつくからな。気持ちは分かる」

 

 お約束まで昇華はしないが。そんなことを小さく続けながら頭蓋骨――ドクロ親父は席に着いている風の場所で浮かびながら横を見る。なんとなく同じ波長を感じて意気投合した怪しい鎧――アイギスとこうして駄弁っていると、深入りは避けたほうがいいという占い師の勘が働くのだ。

 まあそれはそれとしてハーレム野郎をどうにかするのは大賛成だが。横にシノブがいたらシバかれそうなことを考えながら、ドクロ親父はそのままアイギスの話を聞く。

 どうやら件のハーレム野郎は以前彼が占ったあの少年らしく、ここ紅魔の里でも新たなヒロインとのルートを開拓したらしい。成程それは許せない。うんうんとアイギスの主張に同意しながら、それでどうするんだと続きを促した。

 

〈流石はマイフレンド、分かってくれるんだな。こりゃ心の友と書いて心友って呼ぶのもそう遠くないかも? あ、いやむしろシノブちゃんがいるんだからお義父さんの方が〉

「シノブに手ぇ出すんならお前を全力で呪うぜ? 分かったらくだらねぇジョークはやめろ」

〈お、おう。眼がマジっすねお義父さん。いや眼球ないけど〉

 

 じゃあ気を取り直して、とアイギスは咳払いのモーションをした後、傍らに置いてあったミルクを手に取り、そして再び置いた。何から何まで無駄なモーションである。

 

「何やってんだお前」

〈たとえば……このグラスの中身がバーボンでも泥水でも、俺には大差ない。まあミルクだけど〉

「で?」

〈でもな。俺の鎧の中身は重要なんだ。むさくるしい男より、可愛くて巨乳な美少女が中に入っていたほうが、ずっとずっと素晴らしい〉

「まあ、そりゃな」

 

 そこ同意するんだ、と酒場にいた客は内心でツッコミを入れたが、たとえ紅魔族といえどもここまで怪しい二人(?)組にはノリでも関わりたくないので傍観を貫いた。

 

〈だからよぉ……俺には夢があるんだ。巨乳美少女姫騎士を俺の中に入れるっていう、夢が〉

「そりゃ壮大だ。まあ叶うとは思えねぇけどな」

〈そう、思うか? マイ・フレンド〉

「あ? そりゃそうだろ。そうそう都合よくそんな理想を詰め込んだようなのが」

〈いるのさ。それも、今、ここに〉

 

 無駄にキメ声でそう告げると、アイギスは眼の前のグラスを指で弾く。材質の関係上かちゃんと音が鳴り、決まったとばかりに一人余韻に浸っていた。

 

〈ミツキ先生の診療所に、呪いで弱体化したペコリーヌちゃんっていうとんでもなく可愛い巨乳姫騎士がいる。性格も良くて一途で、ありゃさいっこうなんだよ〉

「……あー」

 

 知っている。占いであの男――カズマを見たときに出てきたあの美少女だろう。確かにあの娘に惚れられているカズマは大分恨まれるだろうと思えるくらいには最高スペックだったが、しかし。

 

「なあ、その娘、相手いるだろ」

〈マイフレンドともあろう男が、そこを気にするのか!?〉

「オレぁ確かにスケベで最低男な自覚はあるがよ、これでも娘を持った父親なんだよ。そういうのシノブがすっげー嫌うんだ」

〈確かにそんな感じするね、おたくの娘さん〉

 

 まあやるのは俺だし、とアイギスはドクロ親父の言葉を流す。それもそうかと同じく流したのを見て、酒場の客はいいのかよと内心でツッコミを入れた。

 

〈それに、ほら、こういうのって愛の試練だろ? 純愛ものだと思ったらNTRだった、みたいなのはアンチが大量についちゃうし〉

「ならやめとけよ……」

〈失礼だな。俺っちのこれは純愛だよ?〉

 

 ふ、と決めポーズをしたアイギスは、自分はただ美少女を中に入れたいだけなのだからと言葉を続けた。純愛とは?

 ともあれ。アイギスいわく現在のペコリーヌはほぼほぼ深窓の令嬢で、仲間のピンチに助けることも出来ない無力感に苛まれているらしい。

 

〈そこで俺っちの出番よ。大事な仲間を助けるために新たな力を手に入れたペコリーヌちゃんは、その力を以って大活躍。そうして聖鎧アイギスの魅力に気付き、離れられなくなるって寸法さ〉

「いやお前それって」

 

 間違いなく邪悪側というか洗脳側というか。とりあえず純愛をぶち壊す要素であることは確実だろうとドクロ親父は思う。酒場の客もそう思った。

 

「後今この里でピンチになる要素ないだろ」

〈……そ、そうかな? いや、まあ、ペコリーヌちゃんが俺に装着()れて欲しいって頼む時はきっと来る。だって俺は自分を信じてるから!〉

「占わなくても分かるけどよ。絶対お前碌な事にならねぇぞ」

 

 ドクロ親父の言葉に同意しないものは、この場に一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

「よし、お疲れさん。……いやほんとお疲れ。俺が言うのもなんだけどよ」

「……いや、大丈夫、です」

 

 起き上がる気力がない状態のまま、ゆんゆんは申し訳なさ全開の監督役だったホーストにそう返す。その横では木にもたれかかった状態で魂が抜けかけているアオイの姿もあった。

 第二の試練はシンプルに、という名目で崖登りをした後紐なしバンジーをすることになった。ただの投身自殺である。もっとも、あくまで簡潔に表記したらそうなるだけで、実際は罠だらけの断崖絶壁を登った後、登頂と同時に崩れるそこから地上へと脱出するというものだ。詳しく書いても大して変わらなかった。

 発案者いわく、限界ギリギリの中でどこまで冷静に対処できるかを見極める試練らしい。ちなみにテスターのめぐみんは崖ごと落下し、爆裂魔法をクッションにしてなんとか生き延びた。

 

「まあ、しかし今回はゆんゆんの仲間たちの大勝利ってやつだな。あのぼっちが、いい友達見付けたじゃねぇか」

 

 どこか感慨深げにホーストが述べる。アオイやルーシー、安楽王女の協力で、崖登りも崩れる崖からの脱出も、盛大に疲れるだけで無事にこなすことが出来たのだ。案外本当に族長にふさわしい器なのかもしれない、と彼は口角を上げながら彼女を眺め。

 

「と、ともともとも友達ぃ!? あ、いや、そう! そうだ、うん……友達……友達なんだ……えへ」

 

 急に起き上がって挙動不審になったかと思えばでへへと頬を緩ませてクネクネしだすゆんゆんを見て、ちょっと勘違いだったかもしれないとホーストは思い直した。

 が、そんな動きから一転。彼女はピタリと動きを止めると、肩を震わせ始める。地面にはぽたりぽたりと雫が落ちた。

 

「……本当に、本当に……私、素晴らしい友達を……見付けられて……」

「泣いたー!?」

『飲み物取りに行っている間に何があったの?』

 

 そのタイミングで、比較的無事だったので飲み物を取りに行っていたルーシーと安楽王女が戻ってくる。パッと見ホーストがゆんゆんを泣かせている以外の何物でもない。ついでにいうと、突き詰めればその解釈でも間違っていない。

 どういうことだ、と安楽王女がゆんゆんを見るが、彼女は泣くばかり。そしてホーストは違う俺じゃないと狼狽えて。

 

「アオイ……は、ダメそうだな。んー」

「うぅ、ひっく……違うの。安楽王女さん、ルーシーさん……」

『違う?』

「私が、ひっく……泣いてたのは……ホーストさんが……ホーストさんが、私に……ひぐっ、えぐっ。それが……すごく……私ぃ……」

「違わないじゃん」

「誤解しかない!」

 

 ホーストが、ゆんゆんに、いい友達を持ったなと言った。それがとても嬉しくて、感極まって泣いた。というのが理由で、確かに彼女はそう伝えたつもりであった。嗚咽でところどころ途切れただけだ。状況としては最悪である。

 とはいえ。普段の行いというべきか。そのまま制裁されるなどということもなく、落ち着いてからもう一度聞くかということになり、無事誤解も解けた。冷や汗を掻いたホーストも、そうやってゆんゆんを心配してくれる相手がいるということにちょっぴり満足していたので結果オーライである。

 そうして落ち着いた後、一行は今回の新作族長試練の制作者のいる場所へと向かっていた。研究所、ではなく診療所の方に辿り着くと、待っていたとばかりにマッドサイエンティストとマッドドクターが出迎える。圧にビビったアオイは一瞬意識が飛びかけた。

 

「何回も会ってんだから、いい加減さぁ……無理か」

「い、いえ。私としてもぉ、頑張ってみようと思う所存でぇ、ご! ございぃぃ、まぁ」

「分かったからちょっとそこに座ってな」

 

 安楽王女に促され、アオイはちょこんと椅子に座る。るーるるー、と口ずさみながらゆらゆら揺れているのを見て、いやお前はちゃんと頑張ってるからと肩に乗っている安楽王女が彼女の頭をぺしぺしと叩いた。

 

「……ミツキ先生。どう思います?」

「どう、とは?」

 

 わざわざ惚ける必要もないでしょう、とネネカはミツキに言葉を返す。そうねとえらくあっさり答えた彼女は、もう一度目の前の少女達を見た。ぼっちと、ぼっちと、幽霊と、モンスター。それらが集まって、友人同士になった、何とも奇妙なメンバー。

 

「紅魔の里の族長になるのだから、このくらい変わっていないと面白くないわね」

「ええ。私も概ね同意見です」

「あら、概ね? 何か気になることでも?」

 

 眼帯に覆われていない瞳を隣の小柄なエルフに向ける。ええ、と再度頷いたネネカは、この後の試練についてですがと前置きをした。

 

「どうやら、こちらの備品が少々いたずらを施したようなのです」

「懲りないわね、あの鎧。じゃあ、延期かしら」

「いえ。私はむしろ、丁度いいのではと思っています」

 

 族長、というからには、紅魔の里を纏める必要がある。ならば今回の試練で、ついでにその素養も確かめてみようではないか。そういう腹積もりだ。

 ネネカのそれに、ミツキもそれはいいと笑みを浮かべた。いつぞやにバニルが、破滅させる術を熟知しているのは救う方法を熟知しているからだと言っていたが、今の二人はまさにそれを体現しているかのようであり。

 

「さて、では最後の試練の内容を伝えようかしら」

「ゆんゆん。準備はいいですか?」

「は、はいっ」

 

 二人の言葉に、ゆんゆんは姿勢を正す。座っているアオイも表情を若干真剣なものにしながら固唾をのんでいた。

 そんな彼女に、二人はとはいえ、と言葉を続ける。元々族長試練の最後はそれなりにきちんとしたものが続けられていたので、大幅な改変はかえって伝統を損ねる可能性があったと述べた。

 

「ですから、基本的には同じ流れを汲むつもりです」

「紅魔の森で一定期間を無事に過ごすこと。ここは同じね」

 

 違いは単純に二つ。これまでと同じようにパートナーの数は問わないので、もし集められるのならば百人いても構わないということと。

 こちらで用意した試験官兵器を投入することだ。

 

「紅魔の森の危険性は里の住人ならば知っていて然るべき。ですので、予想外の対処を見ることが出来ません」

 

 さも当然のようにそう述べるネネカに一瞬ゆんゆんは納得しかけるが、そもそも凶暴な魔物がひしめき合っている紅魔の森の、その全ての対処法を学んでいる前提で話を進めているのがおかしいと思い直す。が、いかんせん目の前の相手はネネカだ。そうでない者は論外、というより紅魔族扱いすらしなさそうな人物である。

 ミツキはミツキで、それならば仕方ないと何かしらのアレで詰め込んでからにしようとかする人物である。

 

「どうしましたか?」

「あ、いえ! なんでもないです!」

 

 人体改造も薬漬けもまっぴらごめんなので、ゆんゆんは全力で首を横に振る。辞退する、という選択肢は出てこない辺り、彼女も大分染まっているのだろう。

 ともあれ。普段の最終試練と比べてもイレギュラーが多いということは分かった。その分助っ人も増やすことが出来るので、いざとなれば数の暴力でどうにかすることも可能だ。

 問題は試練を受けるのがゆんゆんだということだ。BB団をようやく友達だと胸を張って、かどうかは定かではないが言えるようになったばかりだ。当然これ以上人員を増やすことなど無理なわけで。

 

『ちなみに、その予想外の対処って』

「伝えたら予想外じゃなくなるじゃない」

『まあ、そうですよね』

 

 ミツキにそう返されたルーシーは、ダメ元だったしと素直に引き下がる。そうしながらも、それがある意味ヒントになるのではないかと思考を巡らせ始めた。そんな彼女を見て、ミツキは口角を上げネネカはふむふむと頷く。

 

「この調子ならば、ほぼ確定でしょうか」

「そうね。ただ、まあ、さっきネネカ所長が言っていた部分がどう出るか」

「それも踏まえ、ほぼ確定だとは私は思いますが」

 

 ネネカの言葉にミツキも頷く。そうしながら、そうだそうだとわざとらしく、今思い出したとばかりにゆんゆん達へと声を掛けた。

 従来の族長最終試練は夜の森で一晩だが、今回は日中に執り行うのだ、と彼女はそう告げる。

 

「だから、ひょっとしたら野次馬が案外手伝ってくれたりとかするかもしれないわね」

「……あー……」

『成程』

 

 そういうことか、と安楽王女とルーシーは合点がいったように頷く。その一方で何がどういうことなのかと頭にはてなマークが浮かんでいるのが元ぼっちーずだ。ひょっとしたら、などということすら頭の片隅にもないだろう。

 

「師匠。これ大丈夫なんでしょうか」

「大丈夫よ。あの娘だって私の弟子の一人なんだから」

 

 ちょむすけに問い掛けるめぐみんの表情は、言葉とは裏腹にどこか信頼しているようで。師である彼女も、そんなめぐみんを見て楽しそうに笑みを浮かべた。

 

 


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