プリすば!   作:負け狐

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原作と比べるとアイギスの扱いが悪すぎるかもしれないと思う今日このごろ。


その213

 紅魔族族長最終試練。これまでであれば危険な紅魔の夜の森で一晩耐えるというものであったが、今回は日中。朝、指定された時間から日の入りまで健在かあるいは試験官の合格をもらうまでという変則となっている。時間が時間なので当然というべきかギャラリーが大量におり、その様子を見られているため不正が非常に難しい。

 加えるならばその試験を受けるのはゆんゆんである。通常の試練とは別の試練が追加されていた。

 

『ゆんゆん、大丈夫?』

「だ、だだだだ大丈夫です」

「大丈夫じゃなさそうだなぁ」

「し、しんしんぱいぱいしんぱいぱいありままません!」

「こっちはこっちで大丈夫じゃないし」

 

 ルーシーの言葉にガッチガチのゆんゆんが挙動不審に返事をする。が、いかんせんその横にいるアオイの方がテンパっているので相対的に落ち着いているような気がしないでもないと思ってしまうのは割とだめかも知れない。そんなことを安楽王女は思いつつ、彼女の肩に乗った状態でベシベシと頭を叩き気付けをした後、安楽王女はさっさとやれとばかりに頬を引っ張った。

 はいぃ、とグルグル目になったり戻したりを繰り返しながら、アオイは安楽王女に植物成長のスキルを使いポケットサイズから人間大へと変化させる。準備完了だ、とルーシーと安楽王女が最終試練の試験官であるネネカとミツキに視線を向け、二人もコクリと頷いた。

 

「では、始めましょう」

「ギャラリーは下がって頂戴。飛び入りするのならば参加者の許可をもらってね」

 

 その言葉に紅魔の里の面々は指定された位置まで下がっていく。同じように見学に来ていたカズマ達も、まあそういうことならとそれに続いた。

 

「主さま」

「どうした?」

「ミツキさまの飛び入りをするならば、というのはどういうことなのでしょうか」

「まあそりゃ、そのまんまじゃないのか?」

「ゆんゆん達に協力したけりゃ勝手にしろってことでしょ。あっちが断わんなきゃっていう条件があるけど」

 

 疑問に答えたカズマとキャルの言葉を聞いて、コッコロは成程と頷く。そうしながら、ゆんゆんさま、と向こうに声を掛けていた。突然のそれに横の二人は別段驚かない。まあそうなるよな、と流し気味だ。

 

「何かご協力できることがあれば、おっしゃってくださいませ」

「ふぇ!?」

 

 その申し出に面食らうゆんゆんと、事前説明で言われていたあれそれを思い出しそういうことかと納得するルーシーに安楽王女。そういうことなら遠慮なく頼らせてもらえとゆんゆんに伝え、言われた方は事態を理解する前に反射的にはいと言ってしまう。アオイはこの流れで何か言えるはずもなし。

 それでは、とネネカの宣言で最終試練が開始される。同時に、本来ならばもっと奥に生息しているはずの魔物が何かに追い立てられるようにこちらへと迫り寄った。

 

「思うんですけれど」

「どうしたの?」

 

 その様子を見ながら、ギャラリーに交じっためぐみんはぼやく。試験官役ではないので同じように見学者の立ち位置のちょむすけも、彼女の視線の先、ゆんゆん達へと襲いかかる魔物を見ながら何となく答えの分かっているその質問の続きを促した。

 

「診療所の面々に追い立てられる時点で、なんか、こう。強力な魔物がひしめき合うという言葉の意味が大分軽くなるような」

「まあ、元来の族長最終試練と比べると緊張感は薄まっているわね」

 

 紅魔の森で一晩過ごすよりミツキ診療所の面々に追われる方がよほど恐ろしい。そういう認識を持ってしまう時点で、これらが茶番に成り下がってしまうような気がしないでも。などと考え口には出したものの、それはあくまであの連中が特別にイカれているだけで、魔物の格が下がっているわけではない。凶暴性のことを思えば夜の方が危険度が増すのは確かであるが、試練が日中になったことで観客が存在するためサボる暇が無いし、魔物自体も試験官がそれらをけしかけてくる形になっているので戦闘を避けて体力を温存することも難しい。心情的なものを取っ払えば、難易度はむしろかなり跳ね上がっているのだ。

 

「それで。どうするの、めぐみん。手伝う?」

「まさか。私の立ち位置は試験官側です、そんなことをしたら不正を疑われますよ」

 

 そう言って肩を竦める。そんな彼女を見て微笑んだちょむすけは、ちゃんと友達のことを考えているのねと言葉を返した。

 

「師匠の言うそれはともかく。今のゆんゆんならば姉弟子である私の助力などなくともいけるはずです。BB団もいますし、何より」

 

 しょうがない、と最終的に手助けしてしまうお人好しがいるのだから。そう言って彼女は笑った。そうね、とちょむすけも同意するように笑みを浮かべ、吹っ切れたのかそれどころではなくなったのか魔物の群れと大立ち回りを行っているゆんゆんを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 歓声が上がる。メイン火力ゆんゆんの放つ魔法で魔物を吹き飛ばし、アオイと安楽王女のコンビが植物を使いサブアタッカーを務め、ルーシーが要所要所でサポートと回復を担当する。思った以上にバランスはしっかりしているのを目の当たりにした紅魔の里の面々は、異色な出で立ちの王道パーティーというそれに湧いた。

 

「成程。まさかゆんゆんがそんな――悔しいけど、認めるしかない、か……」

 

 かつて同級生だった紅魔族の少女の呟きに、周囲も各々考えるかっこいい言い回しで評価をしていく。ちなみに敢えて飾らないで言うならば、こっちはそういうのめっちゃ好きやで、といったところだろう。

 当然、同じようにゆんゆんの活躍を見ていたあるえもそう思った。小説のアイデアがビンビンに溜まっていき、手元のメモ帳とBB団の大立ち回りを交互に見ながらめちゃくちゃに目が輝いている。

 

「邪道こそが王道。道を外れるというのは、また一つ別の道を見出すことだ。ふっ、決して交わらない道があるならば、繋げてしまえばいい。すなわち、結束(コネクティング)!」

 

 追い立て役に参加していなかったアンナもまた、あるえの隣で捗っていた。概ね同じようなことを言いながら、しかし診療所所属であるために今回のあれそれも知っている彼女は、そこでパタンと手帳を閉じる。

 

「あれ? どうしたんだいアンナ」

「ああ。私はこの魔眼により多少の未来は見通せる。だから分かるのだ。次の破嵐(テンペスト)は、もうじき」

 

 咆哮が響いた。追い立てられた魔物が吹き飛ばされたことで何かを感じ取ったのか、明らかにこれまでのモンスターとは格が違う一体が姿を現したのだ。

 フェンリル。森の覇者とも呼ばれている強力な魔物で、その強さはベテラン冒険者ですら全滅しかねないと言われている狼。もちろんギャラリーはざわついた。本来ならばもっと奥深くにいるはずのこいつがここに来たということは。

 

「成程。森の異変を察し、その元凶たる彼女らを滅しに現れたか」

「そう、普段ならば、これまでならばそれも当然であっただろう。だが、今は」

 

 ギャラリーが騒ぐ中あるえとアンナも絶好調だ。ネネカとミツキは止める気配が欠片もない。それはつまり、試練の範囲内でかつ想定内なことに他ならないのだ。だから観客も、ゆんゆん達の心配など微塵もしない。だって勝つもの。

 

「ゆんゆんさま!」

 

 ついでに言えば、始まる前のやり取りの伏線がここで回収されるだろうという確信もあったからだ。フェンリルも乱入して強力な魔物の対処が遅れ気味になったそのタイミングで、コッコロが向こうへと飛び出した。ああもう、とキャルがそこに続き、コッコロが先陣を切ったためにじゃあいってらっしゃいと言えるはずもないカズマも続く。

 

「コッコロさん、キャルさん、リーダー!」

「助太刀、いたします」

「ったくもー」

「……しょうがねぇよなぁ」

 

 とはいえ、やることはあくまでサポートだ。これはゆんゆん達の試練なのだから、こちらがメインになってはいけないし、なれるはずもない。だからやることは支援と露払いで、だからこそカズマも明らかにヤバい魔物であるフェンリルがいるそこの場所に突っ込んだのだ。

 ちなみに露払い、という扱いの魔物も普通に強力なやつである。

 

「選択肢ミスった!」

「いいから手を動かしなさい!」

 

 フェンリルと比べれば弱い。そういう相対的なやつは『冒険者』であるカズマには何の意味もない。ついでに、冷静に考えたら今の面々でタンク役やれるような前衛がいないことに気付いたのだ。

 

「そういや、昔BB団だと後衛しかいないって何かぼやいたことあったな」

「いいから手を動かせっつってんでしょうが!」

 

 やっとるわ、とキャルの声に返答をしながらカズマは罠をばらまいた。デバフと足止めをしながら、出来るだけ省エネで味方の強化をする。敵対したら真っ先に仕留めないといけないポジションを確立しつつある彼は、そのためにこういう場では、特にペコリーヌがいない現状では最大限の注意を払って戦線のギリギリを見ながら。

 

「……ん?」

 

 敵感知が引っかかった。周囲にいる魔物でもないし、時々混じる一撃熊でもないし、ゆんゆんが押し戻しているフェンリルでもない。なんだか非常に嫌な感じが数体、こちらにゆっくりと向かってきている。

 

「コッコロ、キャル」

「主さま? どうされましたか?」

「何よ、そんな変な顔して」

「なんか来る」

「なんかって、何が――」

 

 キャルの言葉は途中で止まった。森の向こう、フェンリルがやってきたその方向から、何かがやってきていたのだ。カズマの言う通り、何か、としか彼女は言えない。既存の知識で、アレに当てはまるものはなかったのだ。強いて言うならば二足歩行のゴーレムだろうか。

 そんな中、ギャラリー達はざわついた。あれはまさか、とやってきた数体の何かを見て、皆が揃ってその名前を出した。

 

「爆殺魔人もぐにんにん――!」

「おい何だそのふざけた名前は」

 

 思わずツッコミを入れる。が、カズマのそれにギャラリーの紅魔族は何を言っているのかという表情を浮かべた。どうやらごく当たり前のことで、しかも向こうは至極真面目らしい。嘘だろ、とキャルの方を見ると、非常に冷めた目で件の何か――爆殺魔人を見ていた。ふざけた名前して、とぼやいているので感想としてはカズマ寄りなのだろう。

 

「って、そうじゃない。爆殺魔人って確か聞いたことあるわ。めぐみんのプロトタイプだっけ」

「おい、人を勝手に同ジャンルにするのはやめてもらおうか」

 

 聞こえていたらしいめぐみんが抗議の声を上げる。いやだって、とその声に反応しつつも、キャルは向こうの爆殺魔人をちらりと眺めた。怪しい人型の何かは、頭部にある一ツ目を赤く光らせながらゆっくりと周囲を見渡して。

 近くにいた魔物を爆殺した。突然のことについていけないBB団とカズマ達は、視界が広がったらしく再度周囲を見渡しながら、無機質な音声でスキャンがどうとか言うのを聞いた。どうやら調査対象が多いため、ノイズになるようなものを排除したらしい。

 フェンリルが吠えた。ターゲットをゆんゆん達から爆殺魔人に変更し、素早く反転するとその牙を突き立てる。硬いものがぶつかるような音が響き渡り。喉元に噛みつかれた爆殺魔人はその顎をこじ開けようと両手でフェンリルの頭を掴む。

 まあいいやとばかりに、別の爆殺魔人がまとめて吹き飛ばした。木っ端微塵になるフェンリルと爆殺魔人をモノアイで眺めていたそれは、動きが止まると進化をするかのように、隠し機構を発動するかのように形を変えていく。装甲の追加、スラスターの増設、頭部にはブレードアンテナ。そしてその機体色は。

 

「……おい、何か赤くて三倍速く動きそうなのになったぞ」

「ちょっと何言ってるか分かんない。けど、ヤバいのは確かね」

「はい。明らかにレベルが上っております」

 

 シャアザ、ではなく赤い爆殺魔人は、そのままゆっくりとモノアイの光の軌跡を描きながらこちらへと振り向く。ゆんゆん達を視界に入れ、暫し動きを止めた後スキャン完了と音声が流れた。

 

〈コウマゾクを確認。周囲の個体はユウジン……ユウジン?〉

 

 スキャンしたデータを確認した赤い爆殺魔人が一瞬フリーズした。が、爆殺対象ではないので無視できるデータだと判断しエラーをスキップする。紅魔族とその友人に危害を加えないことという解析結果をデータとして僚機に飛ばすと、首だけを駆動音をさせながら移動させた。

 

〈タイプ・チートハーレム型リア充日本人をカクニン。スキャン続行、レベル検知――――チートハーレム度SSSと認定。目標物、爆殺対象最優先に設定〉

「俺!? というかチートハーレム!?」

「リーダー! 気を付けてください! 爆殺魔人は黒髪黒目でパーティーメンバーを女性ばかりで構成していると最優先で襲ってきます!」

「何でそんなピンポイントなんだよ!」

 

 特に髪の色。恐らく転生チートハーレム野郎を抹殺するように設定されているのだろうが、基準がガバ過ぎるおかげで取りこぼしがかなり出てしまう。具体的に、カズマの知っているもう一人の転生勇者候補もチート持ちで女性ばかりのパーティーを組んでいるが、黒髪黒目ではない。

 

「もっと基準細かくしろよ。クレームもんだぞ!」

「言ってる場合か! お前をターゲットにしてるぞ!」

 

 安楽王女の叫びで我に返ると同時、緊急回避が発動して全力で飛び退る。彼の立っていた場所がきちんと一人分だけ吹き飛ばせるよう爆発した。赤い爆殺魔人が初撃を外したのを確認すると同時に、僚機が素早くこちらに接近してくる。

 

「族長試練なのに何で俺!?」

「やはりこうなりましたか」

「予想通りね」

「ねえ冷静過ぎませんかマッド共!」

 

 爆殺魔人と名乗っているくせに物理的に害しにきた僚機の手刀を連続発動した緊急回避で躱すと、彼は迷うことなくギャラリーに紛れようとした。先程の動きと説明からすると恐らく向こうは紅魔族に攻撃できない。なので、あの人混みに混ざることさえ出来れば。

 

「主さま!」

「どわぁ!」

 

 眼前に現れた僚機が蹴りを放つ。当たったらあばらが二・三本へし折れそうなそれを寸でのところで避け、情けない声を上げながらギャラリーへの道が絶たれたカズマがコッコロのところへ駆け寄った。

 

「主さま! ご無事ですか!?」

「あ、ああ。なんとか」

「で、どうすんのよアレ。赤くて厄介なのはゆんゆんたちが今抑えてるけど、手下まで手は回んないみたいだし」

 

 赤い爆殺魔人の強さは相当のものなのだが、いかんせん攻撃対象をリア充に限定している都合上ぼっちは確実に攻撃されない。紅魔族でぼっちのゆんゆんはほぼほぼノーリスクでアレに攻撃できるのだ。そんなわけでBB団は赤い爆殺魔人をボコしているものの、自動修復や回避率の高さで決定打がない上にそいつで手一杯。

 そんなわけで僚機はカズマ達でどうにかしなくてならない。最優先爆殺対象のカズマがいる状態で、である。

 

「なんであろうと、主さまを爆殺などさせるわけにはまいりません」

「まあ、そうね。……いざそのタイミングになったらどこからか何かが来そうだけど」

 

 真剣にブチギレているコッコロとは裏腹に、キャルはどうにも気が引き締まりきらなかった。ネネカとミツキの言葉からすると、これは想定内。となればカズマが本気で爆殺されることはないだろう。多分どこぞの誰かに根回しとかしてるんじゃないか、というのが彼女の見解である。アネェとか効果音のあるバリアでもあるのだろう。

 

「……それが発動したら負けよね」

 

 コッコロと例のアネの大戦勃発の引き金になる。想像してうへぇと顔を歪めたキャルは、まあそれを差っ引いてもと杖を構え直した。

 

「ここでカズマが怪我すると、入院してるどっかのバカが責任感じちゃうし」

 

 

 

 

 

 

 診療所の病室にいても聞こえてくる爆発音。それにいてもたってもいられなくなって、ペコリーヌは部屋を飛び出した。冒険者どころかか弱い令嬢にも劣る程度の能力しか持ち合わせていない彼女が向かったところで何もならない。それでも、今何が起こっているのか、また何か巻き込まれていないか。それが気になって、心配で、思うがままに動いてしまったのだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 病室から診療所の外に出るだけで息切れしてしまう。もうじき元に戻る、とは言われていたが、それが今すぐではないことに彼女はどうしようもない焦燥感を覚えていた。

 残った呪いはかさぶたのようなもの。自然に剥がれればそれでよし、剥がしてもまあ、ちょっと痛いけど再び血が出るほどでもない。そんな感じの説明を受けていたから、無理をすれば戻るのかもと少しだけ期待はしていた。

 

「こんな、状態じゃ……みんなを助けに、はぁ、ふぅ、行けません……」

 

 肩で息をしながら、ペコリーヌは顔を上げる。場所は確か紅魔の森、診療所から向かうとなると、普段ならともかく今の彼女では大分厳しい距離。

 それでもペコリーヌは足を動かした。自分の知らないところで、大切な人が危険な目にあっているかもしれないと考えると、立ち止まってなどいられなかった。自分の体より、その方がよほど大事なのだから。

 

〈なるほど〉

「え?」

 

 声が聞こえた。ゼーハーと息を荒げながら視線を動かすと、そこにはどこかで見た覚えのある鎧が一つ立っている。

 

「あなたは確か」

〈ふ。私のことなど今はどうでもいいでしょう。ここで重要なことはただ一つ〉

 

 そう言って、鎧はゆっくりとその手をペコリーヌに差し出す。この手を掴めとばかりに、彼女に向かって、神器のその手を。

 

〈さあ姫。――力が、欲しいか〉

「……」

 

 欲しいならくれてやる。そんな鎧の囁きに、ペコリーヌは差し出された手を、ゆっくりと――。

 

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