プリすば!   作:負け狐

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イメージはギアナ高地のデスアーミー


その214

 最終試練のために魔物を追い立てていた診療所の面々、エリコ、ルカ、ナナカの三人はその先で繰り広げられている光景を確認して各々動きを止めた。爆殺魔人のダイナミックエントリーが原因である。とはいえ、それ自体はミツキとネネカに事前に伝えられていたので驚くというほどではないのだが。

 

「とはいえ、少々面倒なことにはなっているようですわね」

 

 ふむ、と向こうで暴れている赤い爆殺魔人とその僚機を見やりエリコが呟く。あの爆殺魔人は例の二人が品種改良を行った量産型ではあるが、その強さはオリジナルと遜色ない。むしろあの赤いやつはエース機といっても過言ではない強さを持ち合わせている。盛大な変更点といえるのは思考プログラムくらい。

 

「まあでも、基本のシステムは変更なしですしおすし、問題はないのでわ?」

 

 紅魔族には危害を加えない。そこの部分は概ね変更なしなので、試練の相手としてはむしろ緩めになる。まあ迎撃とか致命傷に至らない攻撃くらいはするので絶対安全というわけではないが、それくらいはないと面白くない。その辺りを踏まえてのナナカの発言であったが、横のルカは少々難しい顔だ。

 

「あの鎧、アイギスだっけか? あれをシステムに組み込んだってのが、どうにも気になってね」

「下劣な鎧ではありますが、さほど脅威ではないでしょう」

「あれ神器って話なんすけどねー。まあエリコ様ですからそれもやむなし」

 

 うんうん、じゃあ終わり、閉廷。そんな感じで話を終わらせる流れであったナナカを止める。強さとかそういう部分を問題視しているわけじゃないと続け、彼女は顎に手を当て少々考える仕草を取った。

 

「なんていうか、やらかす輩の空気がするんだよ。野放しにしとくと面倒な」

「それは確かに? 実際やらかしてネネカ女史の実験動物になったとかいう経歴持ちですから。鎧って動物でいいのかな? まいっかー」

「先日も世迷い言を述べながらカズマさんに襲いかかっていましたわね。叩き潰しましたが」

「おおぅ、流石はエリコ様だと言わざるをえない」

「じゃあエリコ。それで懲りたとは思うかい?」

「無理でしょう。恐らくもう少し考えて何か企んでいるのでは?」

「ってーことは?」

 

 爆殺魔人を見る。あれを使って何かをしようとしている可能性が高い、ということだろうと結論付けた三人は、では何かするのかといえばそういうわけでもなく。

 何よりネネカとミツキはこれを想定通りに組み込んでいる。ということは、それを踏まえて最終試練だということに他ならない。

 

「まあ、アタシ達の仕事は向こうに試練用の魔物を追い立てることだ。そこから先は向こうの管轄」

「そう言いつつもしもの時は助けるんですなぁ。さっすが姐、おっと」

 

 ジロリとこちらを見たルカにナナカは慌てて口を手で塞ぐ。そうしつつ、視線を別の人物に向けていたエリコに気付きんん? と目を細めた。

 

「エリコ様? どうしたの?」

「……いえ。もう一度、聞いてみるべきかどうかと少々」

「なるほど、わからん」

 

 ナナカの言葉を聞き流し、彼女はカズマをじっと見詰めてから一度目を閉じる。己の心に燃えるものはあるのか、燃え盛る熱量は存在し得るのか。それを改めて問い掛け、そしてふぅ、と息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「どうすんだよこいつ」

 

 僚機の爆殺魔人相手にカズマ達は攻めあぐねていた。単純に相手の能力が高い。コッコロとキャルをアタッカーにしてカズマで支援、というスタイルで倒すには中々にハードモードだったのだ。せめてちゃんとした前衛が欲しい。

 

「主さま」

 

 槍をくるりと回し、突っ込んでくる僚機を受け止め弾く、そのまま穂先に風を纏わせ相手に叩き込んだ。バウンドし転がるそれを見ながら、コッコロは小さく息を吐く。

 

「わたくしが、前衛を務めます。ご安心ください」

「……いや、まあ、そうなんだけど」

 

 初期も初期の頃、自分が低レベルで彼女のヒモをしていた頃。その時ならば人として負けな気もするがしょうがないとか諦めることもあったかもしれない。だがしかし、なんだかんだ皆と過ごして、ある程度成長して、一流冒険者も自称とは言えなくもない状態になった今は。

 

「それも違うか。よしコッコロ、任せる!」

「はい。おまかせくださいませ!」

 

 同じような立ち位置でも、明確に異なると言いきれる。だからカズマは、彼女を信じて前衛を担わせることにした。もちろん支援は惜しまない。

 そんな二人を見たキャルも、ふんと笑うとどこか面白そうに杖を構えた。あんたも言うようになったじゃないとカズマを見た。

 

「なら、あたしも。しっかりとコロ助のフォローをしますかね」

「頼りにしております、キャルさま」

「まっかせなさい!」

 

 背後に魔法陣が浮かぶ。大技をぶっ放すのではなく、コッコロのアシストとして手数で、それでいて向こうに無視されない程度の威力を連打する。回避を潰された僚機の動きが止まったところに、コッコロが再度槍の一撃を叩き込んだ。今度は深く抉り込み、爆殺魔人の体からパーツが飛び散る。よろけた隙にもう一体にターゲットを変更した彼女は、支援で自分自身を強化し弾けるように間合いを詰めた。

 ガシャン、と二体の僚機が倒れる。撃破は出来ていないが、とりあえず戦闘不能にはなっているのだろう。自己修復機能で回復する前にとどめを刺せば事足りる。

 

「……ふぅ、はぁ」

「大丈夫? コロ助。慣れないことはするもんじゃないわよ」

「……いえ、以前はこうして一人でも戦闘を行っていましたので」

 

 カズマと出会う前。キャルやペコリーヌとパーティーを組む前。そのことを告げると、キャルはふぅんと目を細めた。

 

「どうされたのですか?」

「いや、別に? あたしはもう独りでやってた頃の動き忘れかけてたなぁ、って」

「完全に家猫になったな」

「うっさい。大体、そういうあんたは……最初から今まで同じだったわね」

「何か言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」

 

 ガン付けるカズマとそれに対抗するキャル。そんな二人をどこか微笑ましく見ていたコッコロは、そこでそうだったと我に返った。倒れている僚機に向き直り、そのまま頭部に攻撃を加え破壊する。盛大な破壊音で同じく我に返った二人も、もう一体に攻撃を加え破壊した。

 

「危ない危ない」

「これで回復されたら目も当てられないところだったわね」

「ああ、誰かさんのせいでな」

「ぶっ殺すわよ」

 

 あぁん? と再度睨み合いを始めかけた二人は、しかしそこで妙な気配を感じて振り返った。BB団に攻撃されていた赤い爆殺魔人は、僚機が破壊されたことでその行動パターンを変えたらしい。モノアイを光らせると、一行から距離を取った。

 

「なあゆんゆん。あいつが何をする気か分かる?」

「流石に爆殺魔人の生態とかまでは私も……ごめんなさい、こういう時に役に立ってこその仲間なのに……」

『そこは別に大丈夫ですよ。でも、警戒は必要ね』

「そうだな。よしアオイ、警戒」

「はい! ……え? 私がぁ!? いえ言われたからにはもちろん全力を尽くす所存でございますが……! いえ、違いますね。まかせてくだしゃい!」

 

 慣れたもので、ゆんゆんの言葉をさらりと流しながらルーシーは話を続け、安楽王女がアオイに指示を出し、そしてアオイもいつになくキリッとした表情で肝心なところを噛んだ。ある意味平常運転なBB団は、つまるところこの状況でも別段慌てることなく行動しているというわけで。

 普段から慌てているのが二名いるとか言ってはいけない。

 ともあれ。赤い爆殺魔人は背中から何かを放出した。それは真っ直ぐ上空に打ち上げられ、そして空で破裂する。爆発魔法の応用とでもいうべきか、信号弾のようなそれは、紅魔の森どころか里全体からも確認できるほど。

 それを認識した爆殺魔人の仲間が、次々とこの場へと集まってきた。

 

「仲間を呼んだ!?」

『流石にちょっと、数が多いですね』

「仲間が……友達が……あんなに、沢山……!?」

「ひぃぃぃぃ! 友達百人出来てますかぁ! 私はまったく出来てませぇぇぇん!」

 

 各々その光景を見て、先程までの勢いはどうしたものやらという勢いでBB団が瓦解する。主な理由はぼっちを拗らせていたゆんゆんとアオイだが。信号弾だけで集合をかけられる仲間の爆殺魔人というのは、彼女達には致命傷だったらしい。

 

「か、カズマカズマカズマ! あれどうすんのよ! ちょっと洒落にならない数いるんだけどぉ!」

「どうするもこうするも。こんなもん逃げるしか――」

「主さまっ!?」

 

 そしてその近くにいたカズマ達も当然それに巻き込まれるわけで。というよりも、先に僚機を倒してしまったから、という方が正しいのかもしれない。しかしそんなものは結果論であり、この手のボス敵によくあるタイプの仲間を無限に呼ぶやつだと見抜け、というのも酷な話だ。

 今問題なのはそれではなく、爆殺魔人の行動パターンの優先順位はチートハーレム型リア充を爆殺するということだ。

 

「なんか、こっち見てるぞ……」

「こっちっていうか、あんたよね」

「お逃げください! 主さま! ここはわたくしが命に替えても!」

 

 大量のモノアイが一斉に向き直ったことで、コッコロは肉盾にならんと前に立つ。そんなこと出来るわけないだろうが、とキャルとカズマのツッコミが同時に入った。

 

「しかし主さま」

「逃げる時は一緒だ。俺と、コッコロで」

「そうそう。……ん? 今あんた、あたしは囮にするって暗に言わなかった?」

「今はそんな細かいことを気にしてる場合じゃない」

「細かくないんですけどぉ! まあいいわ、とにかく、コロ助を犠牲とかまっぴらごめんよ」

 

 新たにやってきた爆殺魔人は、赤い機体からの情報を共有しつつ眼の前で繰り広げられているやり取りもデータに入れ込む。そうしながら、再度計測を行っていた。

 

〈計測結果、チートハーレム型リア充日本人とカクテイ。ランクSSS+、最上位爆殺対象とニンテイ。速やかに、リア充、爆発処理をジッコウします〉

 

 モノアイの駆動する音が響く。キュィィンというその音を同時に発しながら、追加爆殺魔人が一斉にカズマへと敵意を向けた。ギャラリーはまあそうなるだろうと思っていた流れにうんうんと頷いている。

 

「まあこれでゆんゆんとアオイを立ち直らせる時間が出来る」

『流石はリーダーですね』

 

 申し訳ない、と一言添えてから、BB団の魔物組はぼっちの回復に取り掛かり始めた。大分混沌と化しているが、あくまでこれは族長試練。なんとかするのはゆんゆんが望ましいし、そのなんとかという具体的な部分はあの赤い爆殺魔人の撃破が該当するだろう。

 それはそれとしてあの大量の爆殺魔人はどうしようもないような気もする。

 

「……どうやら、数が多すぎてあいつらが一斉に爆殺しようとすると周りも巻き込むから出来ないみたいね」

「バカで助かったってことか」

「ですが、そうなると次は恐らく」

 

 物理的に爆発、内臓とか脳漿とかをぶちまける方向にシフトしたらしい機体が駆けてくる。だろうと思ったとばらまいていたトラップは、回避しようにも数が多すぎるという本末転倒な事態により有用に働いた。

 

「……さっきから聞いた話だと、あの爆殺魔人とかいうのってヤバいモンスターなんだよな」

「そうね。まあ、あれはあそこのマッド組が量産したんでしょうけど」

「ここまで大量に出てくるとなんかもう逆に冷めてくるな」

「そうね」

 

 罠に引っかかり倒れた機体を踏み潰しながら進撃してくる爆殺魔人を見ていると、恐怖を通り越して笑ってしまう。気分は序盤に出てきたボスが道中の雑魚敵に成り下がっていた時に感じたあれに似ていた。

 とはいえ、たとえ気分がどうであろうとも、強力な敵が大量に湧いている事実は変わらない。ついでにいえば強さも変わらない。一定数はどうにか出来ても、完全に倒し切ることなど出来はしないのだ。

 

「で、どうするの? 流石にヤバいわよ」

「主さま、いざとなれば」

「そうだな、いざとなればみんなで逃げるとして」

 

 コッコロの覚悟を決めたそれを違う方向に変えつつ、カズマはどうにかして逃走するためのルートを模索し始める。が、よくよく考えると紅魔族がギャラリーとして沢山いるからどうにかなっている現状から逃げると普通に爆発して木っ端微塵になりかねないと思い直した。

 

「めぐみんにまとめてふっ飛ばしてもらえないかなぁ」

「これが最終試練じゃなければありかもね」

「……じゃあつまり、試練さえ終わればあの辺の人達に片付けてもらえるわけだ」

「成程」

 

 こちらの勝利条件は敵の全滅ではない。そう結論付けたことで、こちらとしては向こうでゆんゆんが試練を終えるのを待つという形になる。無理して敵を減らさなくとも、ひたすら耐えれば。

 

「いや無理でしょ! 先にバテるわ!」

「おいBB団! まだか!?」

「は、はい! ごめんなさい!」

 

 一応正気を取り戻したらしいゆんゆんが返事をするが、しかしじゃあすぐさまあの赤い爆殺魔人を倒せるかといえば答えは否。考えて、最も有効な一撃を叩き込まなければいけない。そういう意味では最終試練として、族長の力を示す場としては適しているともいえる。

 もちろんカズマにとってはたまったものではない。

 

「なんとか潜伏して逃げられないか」

「流石に目の前で使ったらバレるでしょ」

「何より、数が多過ぎます」

 

 罠で減らすのも限界、未だ大量に残っている量産型爆殺魔人のモノアイがゆらゆらと揺れる。じりじりと追い詰められるカズマ達は、どうにかしてこの状況を好転させる方法を思い付こうと思考を巡らせ。

 そして、唐突に現れた気配に思わず頭上を見た。それは奇しくも最初の爆殺魔人が現れたのと同じような流れで、そして。

 

「な、なんだぁ?」

「……あいつって、確か」

「聖鎧アイギス……?」

 

 空から降ってきたそれの一撃でまとめて吹き飛ばされた量産型爆殺魔人は、それを認識するとモノアイを駆動させ細めたり広げたりを繰り返した。

 

〈サーチ……対象を、聖鎧アイギスと予測。爆殺対象外、識別信号――エラー。警告、対象の作戦目的と識別を述ベヨ〉

〈――愛。聖鎧アイギス〉

 

 ゆっくりと鎧が爆殺魔人を見やる。ゆっくりと構えを取ったアイギスは、どこか見覚えのあるもので。無手であるはずのそこには、非常に見知った剣が一振り。

 

「……あれは、プリンセスソード?」

「え、じゃあ」

 

 コッコロとキャルの呟きに、鎧がゆっくりとこちらを振り向いた。そこには何も表情など分からないはずなのに、なぜだか非常に申し訳無さそうな顔をしている知り合いのそれを幻視して。

 

「……なんで?」

〈愛だよ、愛〉

「クソ鎧は黙ってろ」

 

 カズマの問い掛けに、鎧の中身は答えない。視線を向こうの爆殺魔人に向き直すと、持っていた剣を振り被る。

 

「やっぱりこんなの、違います!」

〈へ? おぉぉぉお!?〉

 

 と、同時に鎧が中から発光し始めた。その光に導かれるように、どこからか見覚えのある装備とティアラが飛来してくる。そのままそれらはアイギスの中へと吸い込まれていった。光は更に勢いを増し、物理的にも溢れてしまいそうで。

 

〈え、ちょっとこれマズくない!? 内部でドンドンと大きくなってぇ、いやぁ! らめぇ! こんな大きなのが入ったら壊れちゃうぅぅぅ〉

 

 段々とアイギスが膨張し始めた。分離しない継ぎ目のないボディ、という自身の謳い文句が裏目に出ているかのように、全身がバラバラになることなく、破裂しそうな風船のように広がっていく。

 

〈中は、中はダメェ! ひぎぃぃぃ!〉

 

 ボン、と。鎧というにはあまりにもお粗末な音を立ててアイギスは吹き飛んだ。そうして中から現れたのは、まるで蛹が蝶に羽化するかのように、王家の装備を纏い変身したペコリーヌの姿。

 

「……力が、戻った……?」

 

 自身の姿を確認し、つい先程までの倦怠感が消え去っていることを確認した彼女は、即座に眼の前の爆殺魔人に向かって剣を振るった。あっという間になぎ倒される量産型を一瞥すると、そのまま一気に大量の群れへと突っ込んでいく。

 

「《超! 全力全開! プリンセスストライク!》!」

 

 これまでの不調が嘘のように、先程までの鬱憤を晴らすように。その一撃で天高く舞い上げられた量産型はバラバラと破片に変わっていく。

 その破片に混じって、爆発四散したアイギスの部品もそこらに転がっていくのであった。

 

〈途中まではいい感じだったのに……俺は、何を間違えたんだ……〉

 

 四分の一くらいになった頭部が転がりながらそんなことを呟いていたが、おそらく最初からなので改善点は何一つないだろう。

 

 

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