プリすば!   作:負け狐

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まさか公式でドMの街アクセルが出てくるとは……


その215

 紅魔の里の観客は沸いた。突如飛来した全身鎧が、ポーズを決めて装甲を吹き飛ばして美少女騎士へと変化したからだ。可愛さとかっこよさ、そしてシチュエーションの妙の三つを兼ね備えたそれに興奮しないものなどいなかった。

 それはもちろんこの二人も例外ではない。

 

「成程な……ともすればあざといとも言われかねない『鎧の中身が美少女』も、実際このスピード感で見せられるとかっこよさが勝る。盲点だった」

「我らが認識外に置いてきてしまった『忘れ物』の中には、まだ金脈が眠っているということか。ところで、あるえとしてはあれを呼称するならアーマーパージか? それともキャストオフ?」

「それは……迷うところだね、あの場面ではどちらにせよ似合う。アンナもかい?」

「ああ、同感だ。これが同調(シンクロニティ)というやつだな」

 

 猛烈な勢いでメモ帳にアイデアを書きながら語る作家二人の視界の先では、もぐにんにん僚機を片付けたペコリーヌがふうと息を吐きながら変身解除をしているところであった。そうしながら、振り返った彼女はカズマ達を見て苦笑する。

 

「おいペコリーヌ」

「はい」

「お前何やってんの?」

 

 ジト目で問い詰められたペコリーヌは、あははとごまかし笑いをしながら視線を逸らす。先回りしたキャルが同じくジト目で彼女を見ていた。

 

「……みんなが危ないのに、わたしだけ何も出来ないのに耐えられなくて」

 

 そんな二人に耐えかねて、ペコリーヌは絞り出すようにそう述べる。それは生来の、ユースティアナの性格であり、かつ腹ペコちゃらんぽらん冒険者ペコリーヌ状態の時でも変わっていない感情である。

 しかし、いかんせんそういう彼女の吐露は今回の前提条件が前提条件なのでカズマにもキャルにも響かないわけで。否、まったく響いていないわけではないしまあそりゃそうだろうなと二人共納得はしているが、でもやっぱりそうなった理由が理由なので。

 

「だったら最初から拾い食いなんかしてんじゃねーよ!」

 

 まあつまりはこれである。シリアスな理由を話すにしては原因がギャグ過ぎた。もちろんクリティカルヒットしたペコリーヌはうぐぅと胸を押さえよろめく。

 

「というか。それで縋るのがそこのエロ鎧ってのがどうなのよ」

「……それはわたしも思うところはありましたけど。それでもすぐさま動けるようになる手段が他になかったから、つい」

「つい、でこんなのに身を委ねるなっ!」

 

 残骸を指差しキャルが吠える。結果が散々だった上に残骸になった後もこんなの扱いなアイギスであるが、まあ当然といえば当然なので誰一人としてそこの鎧にフォローは入れない。

 

〈ふっ、酷い言われようだな。まあ事実だからしょうがないけど〉

 

 四分の一になった頭部がほざく。ある程度自分がアレな自覚はあるらしい。あった上でこれだと救いようがないのではないか。

 

〈なあそれよりもよぉ。向こうの手伝いはしなくていいのか?〉

「へ?」

 

 アイギスの残骸に言われ視線を動かす。赤いもぐにんにんは残骸となった僚機を回収しながらBB団と戦闘を続けていた。マッド共に再生再起動再調整された爆裂魔人の根底プログラムは、紅魔族には危害を加えないということは殺さずに無効化出来るならば該当しないという割とガバな結論を導き出していたりして、その攻撃は段々と苛烈さを増し始めていた。

 

「主さま、キャルさま、ペコリーヌさま。ゆんゆんさまたちの援護を」

「といっても、どうするんだ? 取り巻きはもう片付けたし、後はあのボスだけだろ?」

「あれまであたしたちが加勢して倒しちゃったら、流石に試練に物言いつかないかしら」

 

 コッコロの言葉にカズマとキャルはううむと悩む。元々加勢に来たのでそれ自体は問題ないのだが、その辺りの判定がどうなるかが未知数である以上下手に手を出して向こうの足を引っ張ることになるのは避けたい。

 そんな中、ペコリーヌは多分大丈夫だと思いますよと言葉を紡いだ。

 

「流石に全部わたしたちでやっちゃうと駄目でしょうけど。でも、お手伝いをするだけなら問題ないはずです」

「お前病室で寝てただけなのにその辺分かるのか?」

「病室で寝ていただけだったので、その辺りはしっかり頭に叩き込みました」

 

 自信満々にそう返されると流石に反論できない。アイギスを装着して乱入したのもその辺りを織り込み済みだったと続けられれば、カズマとしてもじゃあいいかと頷くのみである。

 

〈そこで本来は俺っちの力によりペコリーヌちゃんがアイギスさん素敵って感激する予定だったんだけどなぁ〉

「登場シーンの小道具にしかなってなかったな」

「まあクソ鎧にはお似合いじゃない?」

〈辛辣ぅ。でも美少女に罵倒されるのって、こう、あのドMの彼女ほどではないけど、ちょっと目覚めそう〉

 

 踏み潰そうかなこいつ、と思い足を振り上げかけたキャルは、触るのも嫌だと思い直し足を引っ込めた。もはや完全に日本で毛嫌いされている黒光りするアレと同レベルの扱いである。

 

「でも、どうして力が戻ったんでしょうか」

〈そりゃ、俺っちの愛の力が〉

「お前の神器が変態から助けてくれたんだろ」

 

 アイギスの言葉を遮って、カズマがほれ、とペコリーヌのティアラを指差す。キラキラと輝くそれは、そこに転がっている鎧とは違い、どこか清浄な空気をまとっていて。

 そっとティアラに手を添える。そうしながら、彼女はありがとうと呟いた。かつての所有者の血を引く、もう一度自身を使いこなしてくれる存在。そんな彼女に応えるように、王家の装備はもう一度煌めいた。

 

〈同じ神器なのにこの扱いの差よ〉

「自業自得でしょ」

 

 そう言い捨てると、キャルはならとっとと向こうに加勢するわよと話を締めにかかった。そうですね、とペコリーヌも剣を構え直し、カズマとコッコロも同じように切り替える。アイギスはいないものとなった。

 

 

 

 

 

 

 さてBB団である。ペコリーヌの登場により違う意味で注目度がアップしたこの空間は、ぼっち共にとっては居心地のいいものとはいえない。その辺りを危惧した安楽王女がぼっちとぼっちに視線を動かしたが、意外にも彼女たちはそれほど動揺していなかった。

 

『注目が分散したから、一周回ったのかもしれないですね』

「まあ、それならそれでいいや。アオイ、いけるか?」

「はははははいぃ! 全身全霊粉骨砕身当たって砕けて木っ端微塵になる所存であります!」

「砕けるな。あとそこまで気合い入れなくていい」

「え?」

「そんな気負わなくても、味方はいるんだから」

「……それは」

『ふふっ』

「それはつまり私はお払い箱ということでしょうか!? すいませんすいません、隅で大人しくしてますから、平に! 平にご容赦を!」

 

 目ん玉ぐるぐるさせながらテンパるアオイを見て、こいつは本当にブレないな、と安楽王女は目を細めた。ルーシーも微笑を苦笑に変えながら、どうどう、と慰めている。アオイの方を。

 

「ごめんなさい! 忙しいのは重々承知の上なんだけれど、手伝って!」

 

 そんな中、独り普通に赤い爆殺のもぐにんと対峙していたゆんゆんが声を張り上げる。アオイはテンパりが上回ったが、ゆんゆんは族長試練を超えるという意志が上回ったらしい。そうはいいつつ膝は笑っているので、ほんの僅かのデッドヒートなのかもしれないが。

 ともあれ、その言葉に気を取り直した三人は彼女に並び立つと各々構え直した。この試練の残る壁はあの爆殺魔人。あれをいかに倒すかがポイントになるだろう。そんなことを考え、自分達が負けるということを欠片も考えていないことが少しだけ可笑しくなって。

 それを察知されたのか。赤い爆殺のもぐにんは一歩下がった。そうしながら、先程集めた残骸まで後退する。一体何を、とゆんゆん達もカズマ達も、そしてギャラリーも疑問符を浮かべている中、ジャッジのマッド共とその関係者だけは何かに気付き各々の反応を見せていた。

 

「師匠! あれは」

「ええ、女神祭でも見たわね」

「ふむ。丁度アイギスの残骸が良いスパイスとなったようです。これは重畳」

「さっきのペコリーヌちゃんが盛り上がりの最高潮だと、族長試練としては少し、だったものね」

 

 驚愕するめぐみんと困ったように頬を掻くちょむすけと対比するように、ネネカとミツキは実に楽しそうであった。そこに何喜んでんだ、という目を向けためぐみんであったが、二人は別段心配いらないと流す。

 

「そもそも。あそこの面々があの程度でやられるとでも?」

「大丈夫よ。ちょっぴり怪我くらいはするかもしれないけど」

 

 信頼度で負けた気がする。とめぐみんはグギギと顔を歪めるが、ちょむすけがそんな彼女の頭を撫でた。あれが特別なだけで、心配と信頼は両立するから大丈夫よ、と付け加えた。

 

「師匠……」

「だから――」

 

 二人の言葉が途切れる。もぐにんにんに備わっている修復機能と聖鎧アイギスの修復能力、赤い爆殺のもぐにんをコアとしてそれらを最大限に発揮することで、一つの巨大な鎧へと変貌を遂げた。

 

「なんかこれ、あたし見覚えあるわ……」

「奇遇だな、俺もだ。しかも二回くらい」

 

 女神祭とスライム騒動。なんでこうも厄介なやつは取り込んで巨大化するのが好きなんだろうと嘆きたくなったが、それをやったところで事態が好転するわけでもなし。

 

〈割り切れよ。でないと、死ぬぜ〉

「うるせぇよ」

 

 まあ実際頭部の四分の一しか残っておらず残りは向こうの材料になった奴が言うと割と説得力があるような気がしてくるので、カズマはそう吐き捨てつつ被害に遭わないようアイギスを遠くへと蹴り飛ばした。

 ゆんゆん達と合流する。手伝う、と改めて宣言すると、カズマの指示のもとペコリーヌはゆんゆんの隣に立つように剣を構えた。

 

「盾役は任せてください」

「……は、はいっ!」

 

 隣に並び立って戦う。まるで仲間のようなそれにゆんゆんは一瞬感動でトリップしかけて、慌てて首を振ると正気に戻った。まるでもなにもちゃんと仲間である。少なくともペコリーヌはあの時から、初めて出会って一緒に朝ご飯を食べた時からそう思っている。コッコロも同様であろう。キャルとカズマはそうでないかもしれないが、あの二人がそう思っていることは承知だ。

 だから。

 

「よし、んじゃ行くか」

「そうね。なんかもうデカブツの相手に慣れきってるのが嫌だけど」

 

 アイギスの言葉ではないが、さくっと割り切った。巨大アイギスや巨大ところてんスライムハンスと比べると、爆殺魔人の残骸を再構築して作られた眼の前のそれは巨大ロボットとしての造形が段違いだ。どこからどう見ても敵の巨大兵器である。中央部にある赤い爆殺のもぐにんのモノアイが怪しく光るところも実にそれっぽい。

 巨大もぐにんがその腕を振り上げる。指の先端に銃口が空いており、そこからビーム兵器としか言いようのない何かが発射された。森がいい感じにえぐられる。

 

「わぁお……」

「いやいやいや! 当たったら欠片も残らないじゃない! これでどうやって紅魔族だけ不殺出来るのよ!」

 

 キャルの叫びに答えるかのように、巨大もぐにんのバックパックから何かが射出された。円盤状のそれは、ひゅんひゅんと嫌な音を立てながら周囲を飛び回り、そして紅魔族とそうでないものをセンサーで選別する。特に黒髪のハーレムリア充日本人男子は最優先殲滅対象だ。

 

「うぉぉぉぉぉ!?」

「主さま!」

「カズマくん!」

 

 高速回転した上に鋭い刃が飛び出してきたその円盤型装置は、カズマを切り刻まんと一斉に飛来した。持ち前の運と緊急回避スキルによって何とか躱すことが出来たものの、流石にこれを繰り返されたらカズマとしても危ない。

 というか多分二回目でデッドエンドである。

 

「ぎゃぁぁぁあぁあ――あ?」

 

 そういうわけでリア充だけを殺す兵器がカズマに襲い掛かったそのタイミングで、どこからか出現した光の剣がそれを弾いた。何の前触れも前フリもないそれに観客も周囲の面々も爆殺魔人も、そしてネネカとミツキでさえ一瞬動きが止まる。当の本人であるカズマも何が起きたのか理解できずに固まった。

 ただ、その光の剣にうっすらと浮かんでいる文字である『姉』は見なかったことにした。

 

「はっ。何かわかんないけど、っていうか分かりたくないけど今だ、くらえぇ!」

「これ以上はやらせません!」

 

 キャルの魔法で円盤兵器を、そしてペコリーヌの攻撃でバックパックをそれぞれ破壊する。衝撃でわずかにグラついた巨大もぐにんは、しかしそちらが使えないのならばと再度指のビームの発射態勢に入った。

 

「や、やらせませんよ!」

 

 森の木々が突如成長し巨大な腕に絡みつく。そうして指の銃口に入り込むと、発射直前のエネルギーを全てその場に留まらせた。盛大な爆発と共に、巨大もぐにんの片手が吹き飛ぶ。それを行ったアオイは、安楽王女のサポート込みとはいえ規模の大きさの負担で肩で息をしていた。女神祭ではカズマのブースト込みであったそれを自分でやったのだから、それで済んでいるのは成長の賜物であろう。

 

「アオイちゃん!」

「わ、わたひ……私は大丈夫です。ゆんゆんさんは、向こうに攻撃を!」

 

 頷く。片腕から黒煙を上げている巨大もぐにんに向かい、ゆんゆんは両手に魔力を集中し始めた。自分は爆裂魔法のようなド派手で超威力なそれはない。けれども、上級魔法は覚えている。自分の全力を込めれば。

 

『さあ、一発行きましょう』

「ゆんゆんさま。頑張ってくださいませ」

 

 ルーシーとコッコロの支援が己の力を底上げする。思わずお礼を言おうと振り返ると、コッコロがカズマを支えてよしよししているところであった。思わず力が抜け、しかしそれにより余計な緊張もどこかに吹き飛ぶ。

 そうして再度気合を入れたタイミングで、謎のお姉ちゃんパワーで九死に一生を得た後我に返ったカズマがゆんゆんにショートソードの切っ先を向けた。糸と糸を繋ぐように行った動作で、彼女の中に、ほんのひと時の限界を超えた力が引き出される。

 観客はいつのまにか黙り、一人の少女に注目していた。巨大もぐにんだけが駆動音を響かせながら、不殺を踏まえつつ眼の前の脅威を排除せんともう片方の腕の銃口を向けている。

 

「――我が名はゆんゆん」

 

 そんな中、大きいわけではないその声は。森によく響いた。ぼっちが、人の目を気にしていた彼女が、他に何も見えていないかのように集中している。それだけで、ある意味もう十分であった。

 

「紅魔族随一の魔法の使い手にして」

 

 バチバチと、溢れ出る魔力が大気を震わせる。滅茶苦茶楽しそうにそれを見ながら、でも空気を読んだ紅魔族は歓声を上げない。こういう時の口上はしっかり聞いてやるのがマナーだ。だから誰も茶化さないし、喋るにしても声量を落とす。

 

「この里の長となる者――! 『ライト・オブ・セイバー』ぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 そうして放たれた光の斬撃がもぐにんを真っ二つにするのと同時に、観客は爆発せんばかりの歓声を上げた。それはまさに爆裂級、森全体が震えるほどの大歓声。そして生まれるゆんゆんコール。万人が認めた、族長ゆんゆん爆誕の瞬間である。

 

「ぞーく長! ぞーく長! ゆーんゆん! ゆーんゆん!」

 

 里の者が一つとなり、口上を踏まえた一連の流れを称える。真っ二つになり崩れ落ちるもぐにんと、それを見詰めるゆんゆんがまた絵になり、彼らの感情を爆発させた。

 そのまま盛り上がるその空間で、手伝いをしていたカズマ達は一息を吐く。

 

「……終わったか?」

「みたいね」

「主さま……本当に大丈夫なのですか?」

「ん? ああ。何か無事だった」

 

 コッコロの心配に彼はそう返したが、実際本当にそうとしか言いようがないのである。いつぞやの紅魔の里のあれそれを把握していた時といい、ひょっとしたら以前からこれずっとついていたのかもしれない。そう一瞬思い、これ以上考えたらいけない気がしたのでカズマは考えるのをやめた。

 

「……無事で良かったです」

 

 戦闘が終わり落ち着いて、ペコリーヌもあの時の最悪が起きていたらと今更ながら怖くなる。カズマに近付き、そしてそのまま抱きついた。本調子に戻ったばかり、などと言い訳をするつもりもなく、単純に自分の力不足だ。そう思っているから、余計に。

 

「いやあの、ペコリーヌさん? 俺は大丈夫なんでちょっと待っていただけると、それかもうちょっと違う時間と場所で」

「ペコリーヌ、こいつ大丈夫みたいだからもうほっときなさい」

 

 ぺし、とキャルが彼女の頭を叩く。一瞬ちらりとカズマから視線を下に動かしたキャルは、そのままジト目で彼を見た。不可抗力だ、と口には出さずにカズマは反論をした。

 

「ま、まあ。とりあえずこれで問題は解決か。ペコリーヌも治ったし」

「そうね。……何か無性に疲れたわ」

「ふふっ。では、戻って休みましょう」

「ゆんゆんちゃんの族長おめでとうの宴会も明日みたいですしね」

 

 我に返りもみくちゃにされてテンパりまくっているゆんゆんを見つつ、一行は最終試練場を後にする。おめでとう、と言えるのはもう少し後になりそうだ、などと考えながら。

 

 

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