プリすば!   作:負け狐

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元々そうしようと決めてはいたものの、いざやると石投げられそうでビクビクしているクライマックス付近開始


第十三章
その218


 変人奇人の満員電車アクセル。ウィズ魔道具店は今日も今日とて普通に営業を行っていた。戦力外通告をされている店主はアルバイトのコッコロよりも雑用係であったりするが、それもいつものことなので既に誰も気にしない。というかウィズ本人も最近割とそれに慣れつつあることに自分でショックを受けていたほどだ。

 それはさておき。紅魔の里のあれそれも一段落し、普段通りの生活に戻っていたアクセル変人窟のそこでは、いつものように接客と品出しを行っていた。そうして今日もやってきた人物を見ていらっしゃいませとコッコロが声を掛け。

 

「……な、なんと……っ」

「……? どうされたのですか?」

 

 彼女を見て目を見開いたその客は、首を傾げるコッコロへと一目散に近付いた。そうして困惑する彼女の眼の前で客は、男性らしきその人物はすっと片膝を突き手を取った。

 

「ずっと……ずっとあなた様を捜しておりました……!」

「え? ……えぇ?」

「どのような脅威からもお守りできるようこの身を鍛え、あなた様の情報が少しでもあればどれほど遠方でもその地へと向かい、そしてついに……」

 

 くぅぅ、と感極まったその男性は涙を堪えるように目頭を腕で拭うと、がしりとコッコロの手を握り熱のこもった視線で彼女を見上げる。

 

「私は、あなた様をお迎えに」

「ちょ、ちょちょちょっと! ちょっと待ってください!」

 

 そこで待ったがかかる。なんというか今からプロポーズしますよ的な雰囲気を察したらしいウィズが割り込んだのだ。少し離れた場所では、珍しく何も言わないバニルがどことなく難しげな顔をして立っている。

 

「何だお前は。関係ない者は引っ込んでいてもらおう」

「か、関係ないはずありませんよ。コッコロさんはこのお店の従業員なんですから」

 

 ギロリとウィズを睨んだ男性は、しかし彼女の言葉を聞き表情を変えた。そうして改めてその顔を見て、んん? と眉を顰める。

 

「ウィズ……?」

「あ、はい。あれ? なんで私の名前を?」

「何故も何も……。ああ、そうか、そういうことか」

 

 全然状況が見えてきていないウィズに対し、男性は謎が解けたとばかりに頷く。それが彼女にはどうにも気になり、むぅと少しむくれた表情になった。そうしながら、あれ? と視線を動かす。本来ならばこんな状況だとバニルが愉快愉快とばかりに悪感情を上乗せさせようとしてくるのだが。

 

「バニルさん?」

「ん? 何だへっぽこ店主。我輩は今は関係なかろう」

「いえ、確かにそうなんですけど……あれ?」

 

 おかしいな、と首を傾げながら、まあ確かにその通りと彼女は視線を戻した。一人で納得している男性に、ともかく、と指を突きつける。

 

「こういうことは当人同士で決めることかもしれませんが。私の知る限りでも彼女の様子を見ても、あなたはコッコロさんとは初対面のはずですよね」

「それがどうした。俺はこのお方を迎えるためにわざわざここまで」

「そういう独りよがりはだめだと思います。まずはお互いを知ってから――いやでもよくよく考えたらコッコロさんはまだ年齢が――っ! ま、まさか」

 

 今度はウィズの方が謎が解けたとばかりの表情になる。そうだ、何を勘違いしていたのだ。あまりにも普段の態度が大人だったので忘れていたが、コッコロの年齢はアイリスよりも年下。百歩譲って王族や貴族ならともかく、普通は成人男性にプロポーズされるという状況はありえない。

 というかその場合その成人男性はロで始まってンで終わるやつかペで始まってアで終わるやつだ。

 

「お引き取りください!」

「何だと……?」

「私は店主としてコッコロさんを守る義務があります。いえ、そうでなくとも、友人としてあなたのような変態に彼女を渡すわけにはいきません」

「いきなり何を言い出すかと思えば。俺のどこが変態だと」

 

 いきなり店の従業員(子供)にひざまずいてプロポーズしようとした成人男性を他にどう表現すればいいというのか。心外だとばかりに顔を顰める相手をジロリと睨みつけたウィズは、もう一度言いますと男性を追い出しにかかった。

 

「お引き取りください」

「……成程、やはりお前も同じ考えか」

「やはりも何も普通はみんな同じ意見になると思いますけど」

「それもそうか。……だが俺は諦めんぞ。必ずやこの手でかの方を迎えてみせる」

 

 堂々とした宣言を述べ、男性は踵を返した。振り向くことなく、邪魔をするならばたとえお前でも容赦はしないと続け、店を去っていく。そうして静かになった店内で、ウィズはコッコロへと向き直るとそのまま彼女を抱きしめた。

 

「う、ウィズさま!?」

「ごめんなさいコッコロさん。私が出遅れたせいで怖い思いをさせてしまって」

「いえ……そんなことはございません。ウィズさま、ありがとうございます」

 

 抱きしめられるがままになっていたコッコロも、笑顔で彼女を抱きしめ返す。そうして暫くしたあと、離れた二人は改めてと業務を再開した。

 が、客が来ない間の話題はどうしてもあの男性についてになってしまう。

 

「それにしても本当に、なんだったんでしょうかあの人は」

「それは、わたくしも皆目見当がつきません」

「そうですよね。アクセルの人でもないみたいですし、後でオーナーに相談したほうがいいかもしれませんね」

「そこまでしていただくのは」

「だめですよ。コッコロさんは魅力的な人ですけれど、まだ子供なんです。こういう時はきちんと大人を頼ってください」

 

 そう言って優しく微笑むウィズは、とても普段置物店主になっているようには思えないほど大人の女性であった。コッコロはそんな彼女にありがとうございますと頭を下げ、それならばと言葉を続ける。

 

「主さまやペコリーヌさま、キャルさまにも相談をしてみます」

「そうしちゃってください」

 

 

 

 

 

 

「殺そう」

「そうだな」

「キャルさま!? 主さま!?」

 

 そんなわけで教会に戻ったコッコロが今日の出来事を話したところ、こういう反応が返ってきた。あはは、と苦笑気味ではあるが、ペコリーヌも反対意見を出す様子はみられない。

 

「何よ、当然でしょ。いきなり現れて初対面のコロ助にプロポーズしたロリコンとか、他にどうしようもないじゃない」

「ですがキャルさま」

「安心しろコッコロ。俺たちはなんだかんだ顔が広いからな。なかったことにするくらいなんとでも」

「一応わたしこの国の第一王女なので、聞こえる場所で犯行予告はちょっと控えて欲しいかな~って思いますね」

 

 ちょっと具体性を帯びてきたので待ったをかけた。そんなペコリーヌを見てコッコロはホッとした表情を見せた。が、でも気持ちは分かりますよと続けられたことで再び曇る。

 そんな表情の変化に気付いたのだろう。ペコリーヌはコッコロに向き直ると、そもそも、と彼女をぎゅっと抱き締めた。

 

「そういうのってコッコロちゃんが悲しみますよ」

「ぐ」

「まあ、確かに」

「ペコリーヌさま……」

「だから、もうちょっとその変態不審者さんを調べてからでも遅くないと思うんです」

「ペコリーヌさま……?」

「その結果、ちょっとだけ手が後ろに回るようなことがあれば、その時はその時ということで」

「ペコリーヌさま!?」

「成程、考えたわね」

「流石はペコリーヌだ」

「キャルさま!? 主さま!?」

 

 全員ダメだこれ。そんな結論を出しかけたコッコロは、しかし自身を心配してのことであるのは間違いないので若干止めにくい。なんだかんだ後ろ暗いことがあの男性になければ大丈夫だという方向にペコリーヌが持っていっているので、当初の二人による抹殺宣言よりかは幾分かマシにはなっているだろう。そういうことにした。

 

「コッコロちゃん」

「……? どうされましたか、ぬいペコさま」

「少し気になったんですけど、その人ってウィズさんのことを知っていたんですよね」

「はい。ですが、それが何か……?」

 

 そんな中、ソファーで話を聞いていたぬいペコがぽてぽてと近寄ってくる。男性がウィズのことを知っていた、という部分を聞き直し、そしてううむと首を捻った。

 アクセルでは確かにウィズは有名だ。魔道具店の美人店主としてはそうだし、変人窟の一員であることもそうだ。が、それらはあくまで地元で有名、くらいのノリでしかない。

 わざわざどこからかやってきたその男が彼女のことを知っていた。というのは、何かがおかしい。

 

「以前のウィズさまは冒険者としても有名だったとお聞きしていますし、その頃の話を知っていたのではないでしょうか」

「それならまあいいんですけど……」

 

 どちらにせよ、単純な話では終わらなさそうな気がする。そんな嫌な予感を覚えたぬいペコは、こちらはこちらで警戒をするかと溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。ウィズ魔道具店には指名手配犯のごとく件の男性の張り紙が入口に貼り付けられた。勿論入店お断りの文言がついている。ついでにアキノの関連する店のほぼ全てに不審者情報の張り紙も貼られていた。

 

「コッコロさんは私が守りますからね」

「お、お手柔らかにお願いいたします」

 

 ふんす、と気合十分なウィズを見て、コッコロは申し訳無さが若干勝った。迷惑をかけている、と少しだけ彼女の表情が曇った。

 

「エルフ娘よ。こういう時は素直に甘えておけ。この置物店主は自分の仕事が出来たから舞い上がっているだけなのでな」

「なんでそういうこと言うんですか!? そもそも私魔道具店の仕事もしてますけどぉ!?」

「そうか、それは良かったな。それで? 我輩やエルフ娘と比べて店主らしい仕事とは具体的に何だ?」

「……うぐぅ」

 

 そもそも置物店主という呼称に異を唱えなかった時点で負けである。やれやれ、と悪感情を摂取しつつウィズを凹ませたバニルは、再度コッコロを見た。そういうわけだ、と話を締めた。

 

「ありがとうございます、バニルさま」

「そういうのはイリヤ殿好みのやつだが、まあいい」

 

 コッコロが頭を下げるのを見て、バニルはふんと口角を上げ仕事に戻った。そんな彼の背中を見ながら、彼女も仕事に戻る。そうして今日も魔道具店の日常が過ぎていく。幸いと言っていいのか、張り紙の効果なのか、今日は例の男が襲来してくることはなさそうであった。

 そんなわけで普通に働いていたウィズは、ふと気になったことがあって品出しをしているバニルに声を掛けた。

 

「なんだ置物店主。我輩は忙しいが品出しは手伝わなくともいいぞ」

「そこは手伝えって言ってくださいよ! 流石に今ある品物を出すくらいなら何の問題もないんですから」

「エルフ娘の指示をきちんと聞くのだぞ」

「私店主なんですけどぉ!?」

「うむ。それで、なんだ?」

 

 愉快愉快とばかりに笑ったバニルは、悪感情の対価だと話を元に戻す。ウィズもウィズでもう慣れたものなのか、さくっと切り替えると話を続けた。ちなみにコッコロもいつものやり取りだと認識しているので今更狼狽えない。

 

「今回の騒動、バニルさんあまり関わろうとしませんよね」

「それがどうした」

「いえ、だって。こういう時ってむしろ割り込んで掻き回したほうがバニルさんとしては得なんじゃないですか?」

「……ふむ」

 

 当事者としてはふざけんなとなりかねないが、バニル側として考えればこれは悪感情をたらふく手に入れられるチャンスのはず。そう思っていたウィズは、思った以上に一歩引いているバニルのその立ち位置がどうにも気になったのだ。

 問われたほうであるバニルも、彼女のその言葉に少しだけ考え込む仕草を取った。その言葉は確かに今までの自身の行動を見てきた者からすれば当然の疑問ではある。とはいえ、それも踏まえて仕込みなのだろうと考えて流すとバニルとしては予想していたのだ。普段のウィズであれば、そうするだろうと思っていた。

 

「何か気付いたのか?」

「いえ、そういうわけじゃないですけれど。いつものバニルさんらしくないなぁっていうのはうっすら」

「……やれやれ。仕事がないから余計な部分が鋭くなりおって」

「どういう評価ですか! ……何かあったんですか?」

「さて、どうだろうな」

 

 話を打ち切る。明らかになにかありますよと言わんばかりのそれに、ウィズの表情が不満げに変わった。当然それを分かってやっているバニルは、それを見て笑うと会話の取っ掛かりにしていた品出しの手伝いを彼女に述べる。分かってますよ、とウィズは素直にそれに従った。

 そうすると、今度は別の仕事が湧いて出てくる。今のところお客も来ていないし、と視線をバニルに向けたウィズは、向こうに頷かれたことで分かりましたと返した。

 

「コッコロさん」

「はい」

「買い出しをお願いしてもいいでしょうか。あの不審者に会わないようにちゃんと大通り限定ですから」

「ふふっ。はい、大丈夫でございます」

 

 カウンターに戻ったウィズは、さらさらとメモにそれらを記してコッコロに渡す。よろしくお願いしますね、という彼女の言葉に、コッコロはお任せくださいと頷いた。

 そうして彼女が店を出ていくのを見送った彼女は、やっぱり不自然でしたかね、と眉尻を下げた。

 

「まあ、察していてもエルフ娘は聞かぬだろうから問題あるまい」

 

 はぁ、と溜息を吐いたバニルは、話を再度差し戻すかのように向き直り、質問の答えとしては単純だとウィズに述べた。わざわざ彼女を遠ざけてまで聞きたかったことはこれだろうと彼女に告げた。

 

「この件に首を突っ込んでも大した悪感情が手に入らん」

「それは……何を知っているからですか?」

「聞いてどうする。言っておくが、これについては現状何も出来んぞ」

「……それでも、コッコロさんに何かあるなら」

 

 真っ直ぐにこちらを見るウィズを見て、バニルは再度溜息を吐いた。こういうのは我輩のガラではないのだが、と普段のバニルらしからぬ頭をボリボリと乱暴に掻く仕草を取る。

 

「これは、エルフ娘が決めることだ」

「え、まあ、確かにプロポーズの返事は最終的にコッコロさんがしなくちゃいけないとは思いますけど」

「違うわ馬鹿者。汝は一体今回のことをどう認識しておるのだ!」

「……え? た、ただのプロポーズをしに来た不審者、ではないのは流石に」

 

 頭痛を堪えるように頭を押さえるバニルを見て、今日はなんだか珍しい表情が見られるなぁ、などとウィズは若干の現実逃避をした。多分この後散々ボロクソ言われるだろうし。

 

「ならばよく聞け。そしてこれは絶対にエルフ娘に覚られるな」

「え、ちょ、ちょっとそれは」

「ならば聞くな。汝に出来るのはそのどちらかだ」

「……………………やめておきます」

「賢明だな」

 

 ふん、と鼻を鳴らしたバニルは、彼女から視線を外し踵を返すとまあそういうわけだからこちらの手助けは期待するなと言い放った。そうしながら、ただし、と振り向くことなく言葉を続けた。

 

こころ(あやつ)が望むなら、また別だが」

「……へ?」

 

 

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