プリすば!   作:負け狐

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諸事情で離れていましたが、リハビリを兼ねてちょっとずつ


その220

「やってくれるじゃないか」

 

 その日、ウィズ魔道具店に乗り込んできた一見すると女性にも見間違えるような美貌の来客、デュークは店内に来るなりその表情に怒りを浮かべながら名目上の店主であるカウンターでレジ係をしているウィズにそう述べた。ちなみに他の面々、バニルとコッコロは品出しやらなんやらで動いている。

 それはともかく。やってきたデュークを視界に入れた彼女は、緩んでいた表情を即座に引き締めると立ち上がり眼の前の相手に指を突きつけた。そして短く、それでいて反論は許さんとばかりに一言告げる。

 

「出ていってください」

「それではいそうですかと大人しく従うと思うのか?」

「いいえ。ですが、私はあなたと話すことは何もありませんので、素直に聞き入れてくれなければ」

「実力行使、か」

「それが望みならば」

 

 店内に不穏な空気が立ち込め、そしてお互い呪文を撃つために魔力を込め始める。そんなタイミングで、ここで騒ぐなという物言いが入った。言わずもがな、バニルである。

 

「でもバニルさん」

「店内の損害を汝が全て引き受けるというのならば勝手にしろ。向こう十年はまともな水も飲めんだろうがな」

「……場所を変えましょう」

「何故俺がお前の言う事を聞かなくてはならんのだ」

 

 店の事を考えなくてはいけないのはウィズ一人。なのでもちろんデュークはそう返すわけで。彼女の額に十字マークが浮かび、一撃で決めれば被害も少ないだろうと結論付けた辺りで、いかんいかんと我に返った。それはある意味バニルの思う壺だ。

 ふう、と息を吐く。本当はあまりこういう方法は取りたくないのだけれども。そんなことを思いながら、彼女は視線だけをバニルともう一人の方へと向け、それでいてデュークがそちらに振り向く前に言葉を紡いだ。

 

「コッコロさんに余計な心配をかけさせたくありません」

「……ふん。下手な言い訳だが、一理ある。俺としても、こころ様を悲しませるような真似をするつもりはないからな」

「だったら素直に帰って二度と顔を見せないのが一番ですけどね」

「抜かせ」

 

 鼻で笑うと、デュークはウィズにどこでやるつもりだと問い掛ける。速攻沈めるつもりならば裏庭でも十分だが、それだとコッコロに余計な心配をかけさせたくないという発言の説得力が減る。何より場合によっては店に被害が出る可能性もある。

 街の外に出ましょう。そう答え、彼女はデュークを視界から外さないようにしつつ店を出た。そのまま二人で街を歩き城門へと向かう。じっと美貌の男らしき相手を睨みつけながら横に並んで歩くウィズの姿は、事情を知らない街の人間が見たらどう思うであろうか。もう少し後ならば隣にいるのが白昼堂々コッコロにプロポーズしたという件の不審者であることが周知されていたのであろうが、生憎と張り紙の更新も行われていない現状ではそれも望めない。

 つまりどういうことかというと。

 

「ママ。あそこにいるのはウィズさんと」

「……ウィズが、男とデートをしている?」

 

 シルフィーナの言葉に視線を向けたダクネスは、その光景を見て戦慄した。まさかそんな、あのウィズが。思わず目を見開いた彼女は、相手の顔を見て更に戦慄する。ルックスもイケメンだ。

 

「プリンも奢ってくれなさそうな顔なの。失格」

「おぬしの基準で物事を計るでない。まあ、わらわもあの顔、というか姿はどうにも好かんが」

「二人とも、容姿で相手を判断するのは……ミヤコのそれは容姿で判断しているのか? いやまあ、ともかく駄目だ。あのウィズが選んだ相手だ。信じなくてどうする」

 

 横でやいのやいの言うミヤコとイリヤも相まって、周りの面々はまあつまりそういうことなんだろうと納得をする。してしまった。ずっと相手の男を見詰めながら歩いているその姿は、お馬鹿なカップル略してバカップルの所業なのだろう、と。

 

「やれやれ。普段であれば絶好の悪感情日和だったのだがな」

 

 はぁ、と珍しく溜息を吐きながらバニルがぼやく。二人とは距離を取って追いかけていることで、街の住人の誤解を加速させていることをバニルは承知であったが、今回はそれを使って自身の満足するあれこれをする気が失せていた。

 理由は言わずもがな、隣にいる少女である。

 

「バニルさま」

「心配するなエルフ娘よ。あのポンコツ店主は実力だけは無駄にあるからな。万が一にも負けることなどあるまい」

「いえ、それは、何となく分かってはいるのですが」

 

 横を見る。そしてどうにも表情が晴れないコッコロを視界に入れたバニルは再度溜息を吐いた。だから我輩はこういう面倒なのは好かんのだ、と追加でぼやく。

 そうしながら、ならば悩んでいることを言ってみろと、普段のバニルらしからぬ声色でそう問い掛けた。

 

「我輩が今答えられることならば答えてやる。答えられることならば、な」

「…………こころ、とは」

「向こうの不審者が捜している相手の名であろう」

 

 そんなことは分かっている。が、この流れでバニルがわざわざそう答えるということは、恐らくそれ以上の情報をこちらに伝える気はないのだろう。ある程度の予想は付くが、現状答え合わせは出来ない。分かりましたと返したコッコロは、それでも、と再度問い掛ける。

 

「あの方、デュークさまは。……その人物を見付けて、どうするつもりなのでございましょうか」

「さてな。命じた輩のことは知っておるが、あやつのことは知らん。盛大な勘違いをしておるやもしれん」

 

 その気になればそれらも見通せる、あるいは既に見通しているであろうバニルの返答がこれということは、こちらもまた情報を伝える気がない。これもある意味予想通りだと小さく頷いたコッコロは、今はまだ耐えるべきだと結論付けた。今この場には自分しかいないから。キャルも、ペコリーヌも、カズマも。大事なパーティーメンバーがいないから。

 だから、耐えるべきだ。動くは皆揃って。

 

「――では、バニルさま」

「何だ?」

「…………わたくしは、本当にエルフなのですか?」

「分かりきったことを聞くでない、エルフ娘よ」

 

 それでもほんの僅かに残った不安を思わず口にして、仮面の顔を思い切り顰めたバニルが即答したことで。

 

「ふふっ。ありがとうございます、バニルさま」

 

 彼女はどこか安堵したように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 自信満々に勝負開始を宣言したデュークをあっさりボコしたウィズは、出禁ですからねと言い放ちその場を去る。倒れピクピクしているデュークを少しだけ心配そうに見ていたコッコロも、彼女とバニルに促されアクセルの街へと戻っていった。あの程度では死なん、とバニルに言われたことも大きい。

 ちなみに行きの道中を見られて勘違いをされていたウィズは、デートで彼氏のやらかしによりカップルの喧嘩をド派手にやった魔道具店店主、という噂が付随した。思いがけない臨時収入でバニルの機嫌は少し上向いた。

 そんなデュークであるが。そのまま逃げ帰るなどということもなく、体力を回復してアクセルの街に留まり続けているものの、その成果は芳しくなかった。街の住人にはウィズと喧嘩してボコされてフラレた男、という触れ込みが浸透している。では顔を隠せばいいのかといえば、フード姿だと突然コッコロにプロポーズした不審者として指名手配された人物に成り下がるわけで。

 どうあっても街での行動に制限がかかるようになった現状は、デュークにとっては目的を果たそうにも果たせない割と詰みに近い状況である。

 

「ぐっ……こんな姑息な手を使ってまでこころ様と俺を引き離そうとするとは。ウィズめ、それと」

 

 これらの状況を監修した人物だという冒険者カズマ。アクセルの街でも割と名の知られた人物であるが、冒険者としての実力が極めて高いかといえばそういうわけでもなく。だというのに、この街の功績にはほぼ全てに関わっているとされ、それでいて名が知られているのはそれが理由とも言えないなんとも奇妙な人物。

 

「サトウ……カズマか」

 

 以前こちらに絡んできた名を騙る偽物とは違い、やはり本物は違う。忌々しげに舌打ちをしたデュークは、しかしどうしたものかと街の片隅で悩んでいた。

 

「ん?」

 

 そんな彼の視界に一人の女性が映る。スタイルの良い体を背中の空いた赤いドレスのような服装で包んだ赤髪で長髪なその女性は、デュークの方を見ると目を見開きズンズンと歩みを進めた。

 

「デューク――様じゃないか。何やってんだこんなところで」

「お前は」

「ペリエだペリエ。魔王軍の精鋭、ペリエ」

「言われなくても知っている。いや、精鋭かどうかは知らんが」

 

 どっちかというと、腕っぷしだけで成り上がった考え無しで使い勝手の悪い幹部候補、みたいな評価だったような。そんなことを思いつつ、彼は彼女に何故こんな場所に、と問い掛けた。対するペリエは、その質問はこっちが先にしたんだけどとジト目になる。

 

「忘れたのか? 俺は魔王様より御息女の帰還を手伝うよう命を受けている」

「御息女? 魔王軍幹部のあのお方なら」

「違う。俺の言っているのはもう一人の、こころ様の方だ」

「こころ様?」

 

 誰だっけ、と首を傾げる彼女を見て、だからお前は候補止まりで空いた椅子に座れなかったんだ、と思わず零した。聞こえていたペリエはその言葉に一瞬ムッとした表情になり、しかしすぐさまフフンと勝ち誇った表情になる。

 

「残念だったな。あたいももうすぐ幹部になるのが決定してるのさ」

「……魔王様は酔っ払っておられたのか?」

「違う。これからの任務をこなせば昇進するって話だ」

 

 それは決定とは言わない。そうは思ったが、デュークは話の続きを促した。簡単な任務で、場合によってはもう済ませている可能性もあるからだ。

 が、彼女の語ったのはそんな予想とは似ても似つかないもの。簡単に言えば国のお偉いさんを誘拐してこい、というもので。そしてそのターゲットが。

 

「ベルゼルグ王国のアクセルの街に何がどうするとブライドル王国第一王女がいるという話になる」

「知らん。でもそういうことらしいんだからしょうがないだろ」

「ベルゼルグ王国の第一王女と間違えてないのか?」

「そんなことは……あるのか? いやまあ、第一王女ならどっちも変わらんだろ」

「だとしても、こんな場所に王女はいないだろう……」

 

 ベルゼルグ王国でもブライドル王国でも構わないので第一王女を誘拐する。そう結論付けたペリエを駄目だこいつという目で眺めながら、デュークは待てよと顎に手を当てた。現状自分は街の噂で動けない。だが、眼の前のこいつが騒ぎを起こせば、その限りではないのでは。

 

「こころ様に魔王軍は健在であり、勇者の末裔だのなんだのがいくらいても敵わないということをお教えする機会にもなるな」

 

 恐らくこちらについてくるのを渋っているのもそれが主な理由だろう。そんなことを思い込んでいたデュークは、これぞ名案とばかりに口角を上げた。

 まあ頑張れ、とペリエを送り出すと、彼はこれからの仕込みをするためにその場を後にした。まずは誘拐事件が起きてからだ。

 

 

 

 

 

 

「で?」

 

 ボロ雑巾になったペリエを見下ろしながら、ベルゼルグ・ブライドル両王国の第一王女の所属するそれぞれのパーティーメンバーはどうしたものかと悩んでいた。

 

「ぶっ殺しましょうよ」

 

 悩むことなくキャルはそう述べる。ひぃ、とその発言に怯えるペリエを見て、コッコロは流石にそれはと難色を示した。

 

「幸い、こちらに被害は何一つありませんでしたし」

「甘いわねコロ助。こういうやつはちゃんと始末しとかないとまた襲いかかってくるわよ」

「しませんしません! もうしません!」

 

 全力で首を横に振り命乞いをする。演技にはとても思えないそれに、ペコリーヌもまあそれなら、と絆され始めた。

 ぐぬぬ、と数で押され始めたキャルが視線をカズマに向けると、コッコロがそう言うならという返事をされ肩を落とした。はいはい分かりましたよ、と若干やさぐれた様子で彼女はふんと鼻を鳴らす。

 

「いいのか? 貴公は確かアクシズ教の巫女なのだろう?」

「それがなんだって言うのよ。やりたくないならやらないし、やらせない。全部まるっとそんなもんでしょ」

「成程、アクシズ教だ」

「ぶっ殺すわよ」

 

 モニカの言葉で思い切り彼女を睨みつけ、じゃあそういうそっちはどうなのよと言葉を返した。ベルゼルグ側はトドメは刺さないことにしたが、ならばブライドル側はどうなのだ、と。

 

「ねえダスト」

「なんですか」

「私がこういう服着たら興奮する?」

「頭沸いてんのか」

 

 リオノールの言葉に即答したダストが、どうやらこっちのボスはどうでもいいと思ってるらしいと結論付ける。まあそうね、と否定することなく彼女もそう述べたので、ブライドル側の答えは至極あっさりと出た。

 

「でも、本当にいいの? リオノールさん、誘拐、っていうか暗殺されかけたのに」

「勿論。だって」

 

 ラインが助けてくれたもの。言葉にはせず、ダストへと微笑んだリオノールは、まあそういうわけだから気にしないでとリーンに返した。小さく息を吐いたリーンは、しょうがないな、とばかりに肩を竦める。

 

「ねえダスト」

「あん?」

「襲われたのがあたしだったら……」

「いや助けない理由ないだろ」

「ライン、そこは嘘でも――助けないって言ったら処罰するわね、うん」

「ならば口を挟むのをやめましょうよ姫様……」

 

 はぁ、と溜息を吐くモニカの横では、爆発しないかなという顔をしているキャルとカズマがいる。ボロ雑巾から拘束状態に変化したペリエも同じような表情を、というか思い切り口にした。

 

「というかそこの、えっと、サトウカズマ? お前は人のこと言えないだろ」

 

 ついでに余計なことも追加した。そうそう、とキャルも話に一段落ついたブライドル組も頷いてはいたが。

 ともあれ。自信満々にやってきて即返り討ちにあった魔王軍幹部候補だったらしいペリエの処遇は、とりあえず始末しないとなった。これで再びこちらに牙を剥くようなことがあれば、今度こそお終いである。腕っぷしだけでどうにかしてきた彼女としては、そんなことをする気は毛頭ないが。

 

「それで、どうするんだ? 研究所の実験体にオススメでもするか?」

「それは始末するより酷い目に遭うんじゃない?」

「主さま、流石にそれは」

「やばいですね」

 

 ふざけている様子が欠片もないので、ペリエは再び戦慄した。助かったと思ったが、どうやらそうはいかないらしい。死ぬより酷い目に遭うくらいならいっそこの場で。

 そんな風に必死に思考を巡らせていたからだろう。デュークとの会話が思い起こされ、そしてそこで出てきたキーワードが彼女の中を駆け巡る。彼が捜している、幹部として現在所属している魔王の娘ではない方の、その名前。

 

「い、今! 今この街に魔王様の御息女を捜しに来てる幹部がいる! そいつの情報を教えるから、実験体だかなんだかってのも勘弁してくれ!」

 

 え、と皆の視線がペリエに集まる。自身をあっというまに倒した連中のそれにやはり怯えつつ、本当だからと若干しどろもどろに彼女は言葉を紡いだ。名前はデューク、顔は女に見間違うほどに美しいが女ではない。とそこまで聞いた時点でカズマたちの表情が変わる。それは確か例の不審者の名前で、顔の特徴も一致している。

 

「実は堕天使でアークウィザードだ」

「思った以上にペラペラ喋るわね」

「何も考えてないんだろうな」

 

 キャルとカズマの感想など聞いてはおらず、ペリエはそのまま話し続ける。聞いていれば少しだけ何かが変わったかもしれない、その一言を口にする。

 

「捜しているお方の名前は、こころ。八坂こころ様だ」

「――っ!?」

 

 それは前に本人から聞いたぞ、とカズマがツッコミを入れてしまったから。だから、その言葉で思わぬ答え合わせが出来てしまったと思わず息を呑む少女を見逃した。バニルとの会話である程度の覚悟をしていたので、すぐに飲み込んでしまったから、だから。

 

「……わたくしは」

 

 コッコロが一つ、決断をしたことを見逃した。

 

 




あれ? シリアス? なわけないか
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