プリすば!   作:負け狐

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お久しぶりです。なんとか続いております。
大丈夫かどうかビクビクしているのは変わっていません。


その221

「いらっしゃいませー」

「なんでだ」

 

 ウィズ魔道具店。新しいバイトを見たデュークの第一声がこれである。ペリエによって騒ぎが起きるのを予想し準備をしていた彼であったが、そんな素振りが欠片もないことに業を煮やし再度魔道具店へ乗り込んだのだ。

 そうして目にした光景が、なんか普通に働いているペリエの姿だ。

 

「お、デュークじゃない。何か欲しいものでもあるのか?」

「お前の記憶力はゴブリン以下か! なんでそうなる!」

「なんでって。ここは魔道具店だぞ?」

 

 何を当たり前のことをと言わんばかりの彼女のそれに、デュークは思わず圧され、しかしいや違うと持ち直した。間違っているのは俺じゃない、向こうの方だ。

 よし、と咳払いをした彼は、そんなペリエを無視して視線を巡らせる。自身の目的である彼女を今度こそ。

 

「ん?」

 

 そう思ったのだが、店内にいるのは我関せずとしているバニルと話が終わったら叩き出すとガン付けているウィズ、そしてペリエの三人だけだ。肝心の、デュークが魔王の下へと案内しようと思っている彼女がいない。

 

「おい、ペリエ」

「あん?」

「こころ様はどこだ?」

「こころ様?」

「このやり取り何度やらせる気だ!」

 

 キレた。が、そんなデュークに怯えるような面子は今ここにいない。それは当人も分かっているのか、しかし表情は怒りのまま彼女に向かって言葉を紡ぐ。魔王様の御息女で、現在幹部をやっておられる方とは別人だ、と。

 

「いやそれは前聞いた」

「なら」

「お前の言ってるこころ様がどこにいるんだって話だ」

「ここで! 働いて! いらっしゃっただろうが!」

「ここで働いていたのはコッコロで、こころ様じゃないだろ」

「その方がこころ様だ!」

 

 ゼーハーと息をする彼をペリエは何いってんだこいつという目で見る。はん、と鼻で笑った彼女を見て、彼の怒りのボルテージが更に上がった。

 もういい、とデュークはペリエから視線を外す。残りの二人に尋ねたところで、間違いなく答えは返ってこない。ならばあとは自身の足で探すのみ、そう結論付け踵を返すが、今度は逆にどこに行く気ですかとウィズの方から声がかかる。

 

「貴様が知る必要はない」

「言い方が悪かったですね。コッコロさんの場所には行かせませんよ」

「貴様には関係がない」

「関係がないと思っているんですか?」

 

 かつて氷の魔女とも呼ばれた冒険者の眼光。普段魔道具店でバニルを筆頭にボロクソ言われている名ばかり店主の姿はどこにもなかった。うわこわ、とすっかりアクセルの住人側になっているペリエがそそくさと逃げ出す。

 それに相対しているデュークも、表情こそ変わらないがその背中には少しだけ冷たいものが流れていた。だが、それでも引くわけにはいかない。魔王軍幹部となった自身の役目を果たせなくてどうするのか。

 

「邪魔をするならば」

「なら、どうするんですか? ついこの間ボコボコにされたのに」

「なんだお前ボコされたの? だっさ」

「ペリエは黙ってろ!」

 

 退避して野次馬となった挙げ句茶々を入れるようになったペリエを睨み付けると、視線を戻し前回はただ油断しただけだとウィズに言い放った。そうですか、とそんなデュークの言葉を彼女は受け流すと、では見せてもらいましょうかと一歩前に出る。空気は完全に悪役である。一応なんちゃってではあるが魔王軍幹部なのでその評価は間違っていない。

 そうして再び表出ろやとなった二人は暴れてもいい場所へと移動を開始する。前回と違うのはコッコロがおらずペリエになったことだろうか。

 もちろん街の住人はウィズの痴話喧嘩の第二幕だと盛り上がった。

 

「――ぐふっ」

「終わりです」

「容赦ねー」

「まあ、妥当な結末であるな」

 

 そんな変人蠱毒に染まった連中のことはさておき、第二ラウンドもあっさりとウィズがデュークをボコして終了であった。デュークは決して弱くはない。曲がりなりにも魔王軍幹部の欠員補充に選ばれる程度には実力がある。が、それを以てしても眼の前の彼女とは埋められない差があっただけだ。生来の優しい性格だとか、例えば向こうに好意を持たれていると勘違していたというエピソードがあったとか、そういう諸々の理由が加味されていればいい勝負になった可能性はある。

 が、ウィズにとって眼の前の相手はコッコロを魔王の下へと連れて行こうとする悪逆人でしかない。すっかりこちら側に立ったらしいやんややんや騒いでるペリエと違って、意見を変える気も毛頭ないであろうことも拍車を掛けていた。

 それでも、最後の最後で冷徹になれないのが彼女である。

 

「さあ、もうこの街に、コッコロさんに手を出さないと誓って降参するなら見逃します」

「甘ぇなー、ウィズ様」

「しょうがあるまい。あのポンコツ店主は腐ってもそういう性分なのでな」

「あ、リッチーだけに?」

「フハハハハッ、よく分かっているではないか脳筋蝙蝠よ」

「ぶっ飛ばしますよ二人とも!」

 

 がぁ、と戦闘中にもかかわらず観客にツッコミを入れる余裕すら持っていた彼女は、コホンと咳払いをすると改めて降伏勧告をデュークに告げる。対する相手は返事をすることも出来ず、ボロボロの体で膝をついたまま、ゼーハーと荒い息を繰り返すのみで。

 

「おいポンコツ店主。どうする? そやつ悪あがきをしようとしておるぞ」

「……リッチーに成る気ですか。堕天使が、忌み嫌っているアンデッドに」

「なんとでも、いえ……。俺は堕ちたとはいえ元は天使の身、この手だけは使いたくなかったが」

「なら使わなきゃいいのに」

「それでも……自身のプライドより、魔王様の命が、こころ様を連れ戻すことが、何よりも重要なのだ……!」

 

 先程とは一変、力を一気に増したデュークが立ち上がり呪文を放つ。それを自身の呪文で相殺したウィズは、しかし変わらず冷たい視線を眼の前の相手に向けたままだ。それがどうしたというのだ。口にはせずとも、はっきりと物語っているかのようで。

 

 

 

 

 

 

「おーおー、やってるわね」

 

 街の外から響いてくる爆音を聞きながら、キャルはそんな呑気な感想を口にしていた。とはいえ、街の住人も別段驚いている様子もないし、隣のカズマもそうだなと流しているので、別段呑気でもなんでもなく、極々普通の感想なのかもしれない。

 

「でも、ウィズさんが真面目に相手をしているわりには、結構時間かかってますね」

 

 音の方に視線を向けながら、ペコリーヌはそんなことを呟く。変人奇人のバーゲンセールアクセルの中でも、彼女は上澄みだ。そんなウィズをもってしても、あのデュークとかいう堕天使は手こずる相手だったのだろうか。そこまで考えて、そうでもなかったような、と首を傾げた。

 

「直接戦ってもいませんし、わたしは見ただけなんですけど。そこまでいうほど強くもなかったですよね、あの人」

「あんたそれ感覚麻痺してるわよ。いやまあ、ベルゼルク王国第一王女にとっちゃ誤差か」

 

 はぁ、と溜息を吐きながらキャルが言葉を返し、そういうわけでとカズマに振った。言外に、じゃあ雑魚筆頭さんはどうですかね、というやつだ。

 

「喧嘩売ってるなら買うぞ」

「事実でしょ?」

「俺は、この街でも有数の最強冒険者、カズマさんだぞ」

「パーティーが、でしょ」

「はん。だとしても。それはペコリーヌとコッコロが、だ」

「何よ」

「なんだよ」

 

 あぁん? とメンチを切り始めた二人を見て、見守っていたコッコロがその辺りでと制止にかかる。はーい、と揃ってあっさり引き下がったカズマとキャルは、そうしながらいつもと違う表情をしていた彼女を見た。

 

「心配なのか?」

「え? ……いえ、ウィズさまの実力は存じておりますし、それについては別段」

「ってことは、あの堕天使の言ってた戯言の方ってわけね」

 

 魔王の娘、八坂こころ。コッコロの正体がそれであるというデュークの主張。ペリエをボコした後、改めて情報をまとめて、普段と違いそこまで茶化さなかったバニルとそれらを擦り合わせ。

 

「んなわけないだろ」

「そうよ、そんなわけないでしょ」

「はい。コッコロちゃんはコッコロちゃんですから」

 

 バッサリと戯言だと切り捨てた。あるいは、だから何だ、と結論付けた。

 

「……まあそもそも。ここの連中なんか今更コッコロが実は魔王の娘だったとかいう話を聞いたところで、ああそうなんだで終了だと思うぞ」

「でしょうね」

「あはは。やばいですね☆」

 

 ついでにいうと多分王城の面子も似たような反応になると思うとペコリーヌは付け加える。魔王の娘と手軽に殺り合える、とウキウキしそうな約一名には絶対教えないようにしなければならないが。

 

「……いえ、クリスティーナはもう知ってるかもしれませんね」

「怖ぇこと言うなよ」

「もし襲ってきたら全力で止めなさいよ」

 

 そう言いながら、それをダシにしてペコリーヌと戦いたい可能性が、と背中に冷たいものが流れたので慌ててキャルは思考を散らした。

 

 

「ペコリーヌさま、キャルさま、主さま……」

 

 そしてそんな普段通りの三人を見て、コッコロのもやもやが少しずつ晴れる。一人で悩んでいると、どうしても嫌なことが浮かんできてしまう。だが、こうして皆と、仲間と、友人といると、それがちっぽけなものだったと再確認出来るのだ。

 だからこそ。大切なものを守るために。

 

「ふぇ」

 

 ぐい、と頬を引っ張られた。目を見開き視線を向けると、ジト目で自身のほっぺたをぐにぐにしているキャルの姿。行動にこそ移していないが、カズマもペコリーヌもまったくもう、と苦笑しているようであった。

 

「だーかーら。あんたは難しく考えすぎなのよ。いい? そういうのって結局悪いところに行こうとしちゃうんだから、パーッと忘れて、楽しいことやって、もし本当に来たらその時に考えればいいの。責任は全部向こうが悪いって押し付けて」

 

 まったくもう、と溜息を吐きやれやれと頭を振ったキャルは、そういうわけだからハイ終了と彼女のほっぺたから手を離してパンと手を叩いた。

 はい、とコッコロはそれに頷いたものの、まあそんな簡単に考えられるのはアクシズ教徒くらいなものである。

 

「ったく。しょうがねぇなぁ。じゃあコッコロ、こういうのはどうだ?」

「え?」

「今から直接あいつのとこ行って、お前になんか絶対についていかねーよバーカって言ってくる」

「あ、それいいわね」

「……ですが」

「大丈夫ですよ。わたしがみんなを守りますから」

 

 同意したキャルと、それもありかと頷いたペコリーヌ。カズマのそれに乗っかる形で、彼女の迷いを吹っ切ろうとそんな提案をした。迷うくらいなら行動あるのみ。アクセルの住人らしいというか、アクアとその悪友女神の加護を貰っているものらしいというべきか。

 ともあれ。その提案に最初は目をパチクリとさせていたコッコロも、三人の言葉を胸に染み込ませると、ありがとうございますと頭を下げた。もやもやが完全に晴れたわけではない。先程の、この間から考えていた決意を翻したわけではない。それでも、立ち止まってしまっていた今を変えるには、それは丁度いいきっかけになる。

 

「では、ウィズさまが戦っておられる場所へと、向かいましょう」

 

 了解、と三人は笑顔でサムズアップをした。

 

 

 

 

 

 

「やっぱウィズ様ってすげー」

 

 野次馬のペリエはそんな感想をもらす。そんな彼女の言葉を鼻で笑いながら、バニルは眼の前の光景を眺めて欠伸を零した。飽きてきた、と言い放った。

 

「まだ、やりますか?」

「当たり前だ。俺はまだ」

 

 呪文と呪文がぶつかり合う。雄叫びでもあげるかのようなデュークに対し、ウィズはあくまで冷静に、静かな表情で相手の攻撃を打ち消すのみ。誰がどう見ても、すでに勝負は決まっていた。

 リッチーへと成った元堕天使のデュークは、結局のところウィズには及ばなかったのだ。

 

「まあとはいえ、無駄な種族特性で長引いているのは面倒だな」

「さっきから同じ光景ばかりですからね」

 

 ちなみにバニルは机と椅子を用意して完全にくつろぎモードである。ペリエもその恩恵を与っていた。

 そんな折、ん、とバニルが何かに反応するように視線を動かした。こういう時無駄に実力があって見通せないのは難儀だな、と思わずぼやく。

 

「おいポンコツ店主。そろそろ遊びは終わりにして片付けろ」

「いきなりどうしたんですかバニルさん」

「もういい加減、そこのが出す悪感情も我輩の好みとかけ離れてきたのでな」

「ああ、そういう……。まあ、いいです。分かりました、終わりにしましょう」

「ふざけるなっ! 俺はそう簡単に」

 

 言い終わる前に、デュークは吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。リッチーであるのでその程度のダメージは何の問題もないが、急なそれに自身の思考が追いつかない。手を抜かれていた、と理解したのはその数瞬後だ。

 

「貴様っ……」

「人聞きが悪いですね。リッチーを消し去るのは疲れるので、そちらが折れて自滅してくれるのをまっていただけです」

「こわ」

「在りし日の、冒険者であった頃のポンコツ店主はあんな感じであったぞ。今はもう見る影もないと思っていたが、なかなかどうして」

「嬉しそうですねバニル様」

「さてな」

 

 ほれさっさとやれ。少しだけ口角を上げたバニルは、しかし表情を戻すとウィズにそう言い放った。その態度にほんの僅かな違和感を覚えたものの、別段それに反対する理由もないので、彼女は呪文の詠唱を始める。こういう時はやはり、全てを吹き飛ばす《エクスプロージョン》が望ましい。

 が、そうしてウィズがトドメの一撃を放つよりも、乱入者のほうが少しだけ早かった。やってきたその四人に、彼女は思わず呪文の詠唱を止めてしまう。

 

「ど、どうしたんですか四人とも」

「あー、いや。ちょっとそこのやつに用事があってな」

「だからって、コッコロさんを連れてきちゃ」

「いえ、ウィズさま。わたくしが、望んでここに来たのでございます」

 

 ウィズの言葉にそう返したコッコロは、満身創痍のデュークに視線を向けた。それに合わせるようにウィズの近くまで移動したコッコロと、いつでも彼女を守れるように三人がついてくる。

 

「こころ様!」

 

 そうして何かを述べようとする前に、デュークが希望を見つけたとばかりにそう叫んだ。最初に出会った時と同じように、コッコロに向かい頭を垂れ、そしてあの時と同じように言葉を紡ぐ。すでに誤解はしない、しようがないそれを。

 

「お迎えに上がりました。さあ、私と共に、お父上の、魔王様の下へ――」

「――お断りいたします」

 

 コッコロは、ばっさりと切り捨てた。申し訳ありません、と普段ならば前置きするであろう彼女が、短く簡潔に、そう述べた。

 

「な、何故ですかこころ様! 貴女様は魔王様の御息女であり、次代の魔王を継ぐものとして君臨すべきお方なのです!」

「……わたくしは。田舎にあるエルフの里出身の、アメス教徒であり、アクセルの街の住人。そして」

 

 デュークの言葉に、彼女はゆっくりと頭を振る。そうして、真っ直ぐに眼の前の相手を見て。

 

「ペコリーヌさま、キャルさま、主さまと共にいる。――ただの、コッコロです」

「……そ、そんな。こころ様……何故……」

 

 微塵も揺らぐことなくそう述べた彼女を見て、デュークはがくりと膝をつく。ありえない、そんなはずはない、とぶつぶつ呟きながら、地面を虚ろな目で眺め続けている。

 そんな状態が暫く続き、ゆっくりと顔を上げたデュークは、そこで一人の冒険者を視界に入れた。確かその冒険者の名前は。

 

「サトウ、カズマぁ……!」

「え? 俺? いきなりなんで!?」

「まんまと騙された。貴様が本当にあのサトウカズマだったとはな」

「どのサトウカズマさんか知らないけど、多分人違いだと思うぞ」

「魔王軍幹部討伐に全て関わり、他国の侵略の阻止も行った、伝説の勇者の末裔め……!」

「あ、人違いね」

「いや俺のことだよ」

「コントやってる場合じゃないですよ!」

 

 キャルとカズマのボケも、ペコリーヌのツッコミも。デュークはもう聞いちゃいない。虚ろの目のまま、こいつのせいで、と憎悪の籠もった視線を向けるのみだ。

 

「貴様が、貴様さえいなければ……。こころ様は、魔王様の下へと来てくださったというのに!」

 

 呪文の詠唱を済ませていたデュークは、迷うことなくそれを放った。自身の目的である、魔王の娘八坂こころを洗脳した憎き冒険者、勇者の名を持つその男を消し炭にせんと、リッチーへと成った力を全力で使う。

 え、俺? とカズマはそこで反応が一瞬遅れた。ペコリーヌは即座に反応し彼の前に立つとその呪文を押し戻そうと剣を構え。コッコロは迷わず自身を盾にしようと前に出た。

 そしてそんな二人を見たキャルは、いやでもこの流れって、と思わず視線を違う場所に向ける。

 

「リノちゃん! よく狙って」

「はい!」

 

 瞬間。デュークの周囲には魔法陣が浮かび上がり、余波で呪文を掻き消すほどの猛烈な勢いで浄化が発動する。悲鳴を上げることも出来ないほどのそれに思わず天を仰ぐと、そこには一切合切浄化して塵も残さんと言わんばかりの光の剣、と一切合切燃やし尽くして塵も残さんと言わんばかりの炎の矢が。

 

『《セイクリッド・レイン》!!』

 

 着弾。そして爆発。余波でウィズが悲鳴を上げるのを横目に、カズマとペコリーヌ、そしてコッコロはぽかんとした表情でデュークが跡形もなくなるのを眺めていた。野次馬となっていたペリエも同様である。バニルは見通してはいたがなんだこれ、という顔であったが。

 

『姉妹に、不可能なし!』

「ここでカズマにあんなことすれば、まあ、そうなるわよね」

 

 そしてキャルは。決めポーズを取っているシズルとリノを、まあある意味予想通りだと諦めた表情で眺めるのであった。

 

 

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