プリすば!   作:負け狐

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進みが牛歩


その225

 助かりました、と頭を下げる馬車の面々に気にしないでくださいなどと返しているペコリーヌを見ながら、カズマはううむと何かを考え込むように倒れて動かないオーガを見た。

 

「どうしたのよ」

「ん? いや、こんなやつこの辺にいたっけ、と思って」

 

 最近は遠出の移動手段がテレポートかドラゴンになっていたのであまり馬車を利用することがなかったが、それでも以前利用した時にこんな凶悪なモンスターを見かけた覚えはない。たまたま偶然運が良かった、というのならばまあそれはそれで、となるので問題はないのだが、しかしそうでない場合。

 

「オーガ自体はいることはいますよ。馬車のルートと出現地域はある程度離れているとは思いますが」

「確かにこんな風に出てくるのはおかしいわね。何か特別な理由でもあったのかしら」

 

 カズマの言葉にめぐみんとキャルもううむと首を傾げる。そんな二人を見ていた冒険者が、知らないのか、と声を掛けた。

 なんでも、最近魔王軍が激しく攻勢に出るようになったらしく、モンスターの襲撃情報も随分と様変わりしたのだとか。

 

「……あー」

 

 それになにか心当たりがあったのか、キャルはなんとも言えない表情になった。対するカズマは、多分お前の思ってるそれはタイミングが重なっただけだと思うぞと彼女に返す。

 

「もうある程度情報が出てるってことは昨日今日のことじゃない。だから、どっちかというとコッコロの件より幹部がほぼ全滅したことの方だろ」

「どっちにしろあたしたちは関わってるじゃない」

「クライマックスに近付くとフィールドのザコ敵が強いやつに差し替わるのはお約束だからな。俺たちのせいじゃないさ」

「ちょっと何言ってるかわからないのですが、キャルはどうです?」

「あたしに聞かないでよ」

 

 ともあれ、自信満々にそう述べるカズマを見ると、彼女達もまあそうかもしれないという気になってくる。お約束がどうとかは知らないが、確かに魔王がなりふり構わず攻めてくるようになった場合、何の変哲もなかった場所が危険な場所に早変わりする可能性もなきにしもあらず。

 

「しっかし、そうなるとここから魔王城までの道のりなんか相当ヤバいんじゃないの?」

「まあ、徒歩や馬車だとかなり大変だろうな」

 

 うんうん、と頷く二人に向かい、先程こちらに声を掛けた冒険者はそりゃそうだと同意した。今はもうその手の道はほぼ封鎖されて許可がないと進めない、そう付け加えた。

 

「最前線の砦も滅茶苦茶に攻められてるらしいぞ。噂では王都に攻め込む下準備だとか、王都の戦力を分散させるためだとか、色々言われてる」

「……なんか、予想以上に大事になってるな」

「いやまあこれが普通の反応でしょ」

「こうして所長たちから離れると、我ながら普段どれだけ毒されていたのかよくわかりますね」

 

 ベルゼルグ王国のやべー場所に、特にアクセルに定住していない冒険者のリアクションとしては極々正常なのだが、超天変地異みたいな騒動を日常として平和だなどと慣れきってしまった変人奇人にはどうにも危機感が足りていない。これってひょっとして大ピンチとかそういう感じの流れなのだろうか、と少々考え込む程度である。

 

「まあどっちみち俺たちはシェフィで飛んでくから関係ないしな」

「あ、そうよね。なーんだ、心配して損したわ」

「なんでしょう。私がここで呆れたりツッコミを入れたりするポジションなのは何だか違う気がするんですが……」

 

 そうしてあっはっはと笑う二人。それを見て小さく溜息を吐いためぐみんは、それで向こうはどうなのかと視線を動かした。ペコリーヌとダクネス、ついでに手持ち無沙汰になったシェフィが、こちらと同じように現在の魔王城付近ないしは王都や砦の近況を聞いて何やら考え込んでいるのが見える。

 そうしてこちらへと振り返ったペコリーヌは、少々眉尻を下げながら、申し訳無さそうに声を掛けた。

 

「カズマくん、キャルちゃん、めぐみんちゃん。ちょっとだけ、我儘言ってもいいですか?」

「あー、察した。まあコッコロも立ち寄ってるかもしれないしな」

「別に好きにすればいいんじゃないの?」

「これぞ以心伝心。絆の確かな力、というやつですか」

 

 ピンときていなかっためぐみんも、二人のリアクションでなんとなく分かったのでまあいいでしょうと同意する。ダクネスに視線を向けると、それがユースティアナ様だからなとどこか満足そうに頷いていた。

 ともあれ。しっかりと口にはしなかったが、全員の意見は一致したということで、一行は馬車にいた面々に挨拶をするとドラゴンに戻ったシェフィに乗って再び空へと舞い上がった。

 目的地は。

 

「じゃあ、シェフィちゃん。攻め込まれているらしい砦まで、お願いします」

「クルァ!」

 

 

 

 

 

 

 当たり前だが、魔王軍の攻撃が更に激しくなっている場所に明らかに強力なドラゴンが突っ込んで来たら大パニックである。見張りをしていた兵士はもう終わりだとばかりにその場にへたり込み、砦から出てきた騎士達も足をガクガクさせながらゆっくりと下降してくるそれを眺めていた。

 そうして着地したドラゴンから非常に申し訳無さそうに降りてきたベルゼルグ王国第一王女を見て別の意味で大パニックになる。

 

「砦の人たちはてっきりクリスティーナで慣れているものだとばかり」

 

 しょんぼりとしながらそう弁明するユースティアナに向かい、案内の騎士は真っ青な顔のまま、その辺りの面子は遊撃に出ているか王都の防衛に戻ったので砦内にはいませんと物凄く低姿勢で返答した。

 

「まあでもホワイトドラゴンだぜこいつ。ある程度の情報網と知識があれば分かるだろ」

 

 幻の竜であるホワイトドラゴンは、現在確認されているのがブライドル王国のフェイトフォーとベルゼルグ王国の食客兄妹ゼーンとシェフィの三体のみである。種族的な性格のこともあり、突如現れた魔王軍所属の新たな四体目などという確率はまずありえないので、予想自体は可能ではあるのだが。

 まあ不利な戦闘の真っ只中のような状況で冷静にそんな判断が出来るかといえば否なわけで。

 それはそれとして、カズマ達としても別にペコリーヌを責める気はないのでその点には触れないし、王国の騎士達はこの場でユースティアナに逆らうなどという命知らずなことが出来るほどアレでもない。

 

「まあそんなことはどうでもいいのよ。状況ってどうなってるわけ?」

 

 話を変えるようなキャルの言葉に、騎士は咳払いを一つすると気を取り直すように言葉を紡いだ。先程述べていたように砦にいる騎士の中の上位陣は現在魔王軍を押し戻すために出払っており、ここにいる者達で防備を担っているのだとか。

 そして、向こう側の魔王軍には幹部がいるらしいという噂もある。話によるとその幹部は女性らしいということも付け加えられた。

 

「魔王の娘が幹部としてまだ残っているという話は聞いているので、そいつなのではないかとも言われていますが」

「魔王の娘……?」

 

 その言葉を聞いてカズマ達の動きが一瞬止まる。もしそれが本当ならば、今から戦う相手は魔王の娘。つまりは。

 コッコロの、姉だ。

 

「このシチュエーションの場合、コッコロがいないと駄目だと思いますが」

「そこを問題にするんじゃねぇよ。いやまあ、めぐみんの意味とは違うがその意見には賛成するけど」

 

 風情が足らないとばかりのめぐみんの言葉にカズマがそうツッコミを入れる。そうしながら、まあ本当に魔王の娘とは限らないだろうと彼は続けた。

 

「だってそうだろ? 多分残ってる幹部はそいつくらいだ。ならこの砦より王都を攻める指揮官に使った方が勝率が上がる」

「え? 王都にはクリスティーナやジュン、アイリスもいますよ?」

「一般的な話をしてるの! 規格外のバケモンは置いておいて、の話をしてるの!」

 

 下手すれば魔王軍より魔王軍みたいなことをしかねない戦闘狂を始めとした奇人変人を考慮すると話が一向に進まないので、それらを何処かに放るようなジェスチャーをしながら、彼はそういうわけだからと話を締めた。

 

「多分相手は魔王の娘じゃない。補充要員が幹部に繰り上がった程度だろう。デュークみたいな」

「なら、別に問題なく倒せるわね」

 

 シェフィが即座にそう結論付けたのを聞いていた騎士は目を見開くが、他の面子は驚くことなく同意していたことで再度引いた。クリスティーナに慣れていれば、と最初に話していたユースティアナの言葉を思い出し、騎士はこの戦いが終わった後出世しても騎士団の中枢に向かわないよう心に決めた。

 

「ところでダクネス。どうしたのですか? さっきから何か考え込んでいますが」

「ん? いや、少し気になってな」

 

 めぐみんの言葉にダクネスがペコリーヌやカズマとキャルを見やる。まあ引き連れている面子が面子なので言いくるめられる可能性がなきにしもあらずではあるが、と前置きをしながら、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「魔王城へと真っ直ぐ向かった場合、魔王軍との最前線であるここを通らないということは考えにくい。となれば、この状況を目にしたはずだ」

「確かに。コッコロならここの連中を助けないはずがないな」

「バニルあたりに言いくるめられたとしても、何かしらはしてるはずよね」

「師匠もあれで割とお人好しですからね。向こうの頭数を減らすくらいはやっていてもおかしくありません」

「……ということは。コッコロちゃんはここを通っていない?」

 

 ペコリーヌの呟きに、恐らくはとダクネスが返す。そしてそれは同時に、二つの可能性を示唆していた。

 

「え? ひょっとして追い越した?」

「流石にそれはちょっとありえないんじゃないかしら……」

 

 思わずシェフィですらツッコミを入れる。追い付こうとしているのだから、きちんと道中地上を確認していた。だから余程のことがない限りその可能性はありえない。

 なので、二つの可能性というのの一つはそれではなく。

 

「別ルートで向かっている最中、もしくはショートカットしてもう魔王城に着いてる」

「前者ならまあ、ここを片付けた後シェフィで飛べば事足りますが、後者の場合」

「……やばいですね」

 

 事態は一刻を争う。それを悟りはしたが、ならば援護を中止して即座に魔王城に向かうのかといえば。

 オーガの時もそうであったが、それをするとコッコロに顔向けがしにくくなるわけで。

 

「しょうがねぇなぁ。即行で片付けて魔王城に行くぞ」

 

 おー、とカズマの言葉に拳を振り上げた一行は、状況についていけない騎士にその幹部らしき魔王軍がいる場所を聞くと即座に飛び出した。置いていかれた騎士は、この戦いが終わったら平和な仕事に転職しようかと割と本気で悩んだ。

 あらかじめ合図でもしていたのかと思うほど鮮やかにドラゴンに戻ったシェフィに飛び乗った五人は、教えてもらった場所へと一気に飛ぶ。目的地に近付くにつれて、戦闘痕も広がっていくのが見て取れた。

 

「うわ、なんだあれ?」

「ドラゴンゾンビだな。死して尊厳を奪われた竜の成れの果て……尊厳を奪うのならば生きているうちがいいだろうに」

「なにいってんのおまえ」

「きゅい……」

「馬鹿なこと言っていないで、来ますよ!」

 

 腐った翼を広げたドラゴンゾンビが、腐臭を撒き散らしながら空を舞う。あれでどうやって飛んでるんだと思わずツッコミを入れたくなったカズマであったが、今はそんな場合じゃないと気を取り直した。

 

「どうする? ゾンビ相手じゃ状態異常は効かないぞ」

「それは勿論――変身!」

 

 迷いなくティアラに手を添えると、姿を変えたペコリーヌが背中に翼のブースターを発せさせて突っ込んでいく。温存とかそういうもろもろをすっ飛ばしたそれに、思わずカズマが目を見開き叫んだ。

 

「全力全開! 《プリンセスストライク》!」

「全力を全開してんじゃねぇよ! ペース考えろバカヤロー!」

 

 ドラゴンゾンビを木っ端微塵にするペコリーヌにそんなことを言いつつ、ああもう、とカズマはショートソードを抜き放つと空を飛ぶ彼女に線を繋ぎブーストを行う。諦めて超短期決戦を行うことで消耗を抑える方に舵を切ったのだ。

 

「ありがとうございますカズマくん! そういうところ大好き!」

「お、おう」

「なんなんですかね。私たちは何を見せられてるんですか……」

「まあでも、ユースティアナ様が幸せならOKだ」

「こっちはこっちで何言ってんのよ……」

 

 竜の背の上のツッコミはドラゴンゾンビの爆散音とともに空に消え、進路を邪魔するものがいなくなったことで、目的地がはっきりと確認できた。

 成程確かに多数の魔王軍と、それを指揮しているらしい女性と思われるシルエットが見える。

 

「突っ込みましょう」

「めぐみん、お前何を」

「大丈夫です。あの指揮官には見覚えがあります。というかカズマたちも知っていると思いますけど」

「へ? あんなやつ今まで戦った相手にいたかしら?」

 

 めぐみんの言葉に首を傾げたキャルであったが、そんな彼女に向かいめぐみんがそれもそうかと頷いたことで表情を怪訝なものに変えた。

 そして、続く言葉で表情が抜け落ちた。

 

「あれはシルビアです。紅魔の里でキャルの人形を操っていたあれが本体ですよ」

「ぶっ殺すわ」

 

 シェフィ、突っ込め。滅茶苦茶ドスの利いた声のそれにちょっとだけ怯えつつ、シェフィは魔王軍の集団へと突撃した。アクセルの生活で鍛えられた高レベルのホワイトドラゴンの強襲により、有象無象のモンスターはなすすべもなく吹き飛んでいく。

 そして突然現れたそれに、指揮官であるシルビアも思わず悲鳴を上げた。ドールマスターが倒されたことで正気に戻り、幹部の座に返り咲いたはいいものの、出来るだけあの連中と関わりたくないからと窓際にいたシルビアは、気付いたらこんなところで指揮官をやる羽目になっていた。

 それもこれも無駄にやる気だけはあって余計な報告を入れたデュークのせいだ。内心で毒づきながらも、もう恥も外聞も関係なくここから離脱しようかと思考を巡らせていたその視界にそれが見えた。

 

「あ……あ……」

 

 ゆっくりとこちらに杖を向けて、完全に据わった目で見下ろしている獣人の少女。かつて、自分が彼女を模した人形を操って戦った経験のあるその少女は。

 紛れもなく、自分にトラウマを与えた相手に他ならないわけで。

 

「《アビス――」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! やめて! 助けて! やぁぁぁだぁぁぁ! 帰るぅぅぅぅぅ! おうちかえるぅぅぅぅぅ! やぁぁぁなの! やぁぁぁめぇぇてぇぇぇ!」

「――バ、あ?」

 

 泣きわめきながら腰も抜かして必死に這いずりながら逃げようとするシルビアを見て、さしものキャルもそこに魔法をぶち込んで殺そうとするほどの気概はなかった。横を見ると、どうすんのこれという表情でこちらを見ているカズマたちがいる。

 まあつまりは、あのトラウマで呪いとは関係なく幼児退行しかけているシルビアの生殺与奪はキャルに委ねられたわけで。

 

「えっと……もう帰って二度と悪さしないなら」

「しない! しるびあもうわるいことしない!」

「あ、うん。じゃあそれで」

「しない! もうしない! かえる! おうちかえる!」

 

 うぇぇぇん、と泣きながら帰っていくシルビアを見送り、一行は背後を振り返った。突如やってきて幹部を幼児退行させたホワイトドラゴンに乗った謎の連中。戦っていた騎士達からはそうとしか見えない。

 

「ペコリーヌ、説明」

「わたしがですか!?」

「他に誰が出来るのよこんなん。いいからお願い。残ってる雑魚はこっちでなんとかしとくから」

「……やばいですね」

 

 はぁ、と珍しく溜息を吐いたペコリーヌは、シェフィの背から降りると騎士へと声を掛ける。その時点で彼女の顔を知っている何人かは事情を察し頭を垂れた。

 そうして八つ当たり気味なキャルの魔法と、ついでに砦で休憩がほぼ確定したのでぶっ放すことにしためぐみんの爆裂魔法によって生まれる爆音をBGMにしながら、王女が騎士に状況説明をするというなんともシュールな光景が繰り広げられた。

 

 

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