プリすば!   作:負け狐

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ラスダン


その227

「ここがあの魔王の城ね」

 

 別にキャッスルともハウスとも読んでいないが、ともあれ、途中の砦で体力気力を回復させたカズマ一行は、コッコロ達よりも遅れつつ魔王城が見える場所に辿り着いた。坂の上から見えるそれは非常に禍々しく、並の人間ならば震え上がってしまうこと請け合いだ。

 勿論こいつらが怖気づくわけがない。

 

「ここまで来てもコッコロちゃんに会わなかったということは、つまり」

「もう既に城の中にいる、ということね」

 

 ペコリーヌとシェフィが魔王城を見ながらそんなことを述べる。カズマもキャルも、それを聞くと向こうの門の方へと視線を動かした。キャルでは分からないが、カズマはスキルでまだ遠くに見えるだけの距離からでも確認が出来る。

 別段争った跡もなく、そして門番などの見張りすらいないその門を、である。

 

「コッコロが魔王の娘ならば、まあ妥当な結果だろう」

「ウィズやバニル、師匠とついでにセレスディナもいますからね。普通に門を開けて城内に入ることなど造作もないんでしょう」

 

 ダクネスが頷き、めぐみんがやれやれとしながら続ける。ここまで一行のその言葉に異議を唱えるものはいない。まあつまりそういうことなんだろうな、と各々納得するばかりである。

 そもそもそんなことは別段どっちでもいいのだ。今問題なのは、あの城の中にどうやって入るか、だ。ゆっくりと魔王城に近付いていくが、それに反応して城から魔王軍が飛び出してくる、ということもない。どうやら余程の自信があるらしい。

 城を覆う、結界の強さに。

 

「さて、どうするか」

 

 試しに、と矢を一発撃ち込んでみたカズマは、見えない壁に弾き返されるのを見て腕組みをしながら顎に手を当てた。警報装置でもついているのかの確認も兼ねて行われたそれで何も来ないことで、どうやら本当に結界の自信だけで成り立っているのだと判断。じゃあ破壊さえ出来れば問題ないという結論に至った。

 

「破壊すること自体はまあ出来なくもないだろうけど」

 

 メンバーを見る。火力だけなら多分魔王軍幹部候補クラスなら消し飛ばしてもお釣りが来る。維持要因である幹部がほぼいない、あるいは数段劣る代理に置き換わっている状態の今ならそれでゴリ押すことも可能であろう。

 問題はその後にコッコロと合流して魔王と戦わなくては行けない点だ。

 

「コロ助の回収だけして一旦帰る?」

「出来れば苦労しねーよ」

「あはは」

 

 場合によってはそれも視野に入れるが、今のところそれは不可能だと見ていい。恐らくコッコロのいる場所は魔王の部屋だ。つまりはほぼ強制的に魔王と対峙することとなるわけで。

 

「そもそも、知らないのか? 大魔王からは逃げられないんだぞ」

「じゃあただの魔王だからいけるわね」

「……なあ、お前何か頭がアクシズ教になってないか?」

「失礼なこと言うな! ぶっ殺すぞ!」

 

 がぁ、と叫んだキャルを流しつつ、はいじゃあ他の意見、とペコリーヌ達を見た。が、いかんせんこの場にいるのは脳筋ばかりだ。出せるアイデアは結界破壊して突入しようぜ、しかない。

 

「破壊してから一回帰って、回復とセーブしてから突入か……?」

 

 カズマも半ばヤケになってそんな事を考える。RPGなら割とお約束のやつだが、実際にそれをやれるかというと話は別だ。そもそもセーブってなんやねんというところから。

 ともあれ。まず最優先は結界を破壊すること。出来ることならば時間を掛けずに、が望ましい。

 

「だとしても。……ペコリーヌ、この状況だとお前が一番の戦力なんだから、全力全開は使うなよ」

「了解です。超! 全力全開! 《プリンセス――」

「やめろっつってんだろ! フリじゃねぇの! 今回は真面目なの!」

 

 ゴス、と気持ち良い音を立ててチョップが叩き込まれた。あいたぁ、と頭を抑えて不満そうに彼を見るペコリーヌは非常に可愛らしいものであったが、今回は場合が場合なのでガン無視。流石にダクネスも今回はユースティアナ様が悪いですと苦笑していた。

 

「でも、即座に結界を破壊するならこれが一番じゃないですか」

「だーかーら。こっから先があるの。ここで全力全開は早いの。しかも超でいきやがって」

「むぅ……」

 

 アイリスの《セイクリッド・エクスプロード》と同じく、勇者の全力攻撃スキルならばそりゃいけるだろう。一発限定の特大砲台、というわけでもないので、それをぶっ放した後でも戦闘継続は可能だし、やろうと思えばもう一発いけるのも間違いではない。

 が。魔王相手に、例えば、三発打ち込めば倒せる、という状況で残りの残弾が二発だった場合詰みなわけで。

 

「カズマ」

「ん? なんだめぐみん、そういう意味ではお前も駄目だぞ」

「それはどうですかね」

「はい?」

 

 そこで一歩踏み出したのがめぐみんである。マントを翻しながら、じゃらりと何か音を立てつつ魔王城の結界を真っ直ぐに見た。

 

「カズマの計算では、私の爆裂魔法は一発魔王にぶち込む算段、で合っていますよね?」

「そりゃ、お前一発屋だし」

「その売れない大道芸人みたいな言い方はやめてもらうとして。ならば、私は最低一発爆裂魔法を撃てればいいわけですよね」

「最低も何も、お前それが最高値だろ」

「一々茶々を入れないでもらおうか。ともかく!」

 

 足を開き、杖を構える。切っ先は魔王城、その結界だ。それだけで何をするのか察した一行は、やめとけ、と口を揃えた。爆裂魔法一発では、まあ確かに今のめぐみんならやれそうな気もするが、しかしその後ただのお荷物になってしまう、と。

 

「何だか聞き捨てならない言葉が何個か聞こえましたが、まあいいでしょう。ならば刮目せよ! 我が爆裂道の集大成、己の限界を超えし、師匠をも唸らせた爆裂の中の爆裂を!」

 

 他の面々の制止など知ったこっちゃない。ガン無視で呪文の詠唱を始めるめぐみんだが、そこでおっと、と手を止めた。

 その前に、と振り返った。

 

「知っていますか? 爆裂魔法の詠唱は、ある特定の節から詠唱の頭を重ねることが出来るんです」

「めぐみん、お前は一体何を言って」

「不思議ですよね。この魔法、実は一人で輪唱が可能になっているのですよ」

「えっと? めぐみんちゃん、ちょと何言ってるのかよくわからないんですけど」

「全てを使って放つ呪文が、重ね掛けされることを前提とした詠唱だったなんて。いやはや、これを生み出したのはどんな物好きなんでしょうか」

「まあ多分あんたみたいなのでしょうね。って、まさかあんた」

 

 同じ魔法詠唱者だからこそいち早く気付いたキャルが、彼女のやろうとしていることを察して目を見開いた。爆裂魔法の変わった性質を語った意味を理解した。

 理解して、いや無理だろとツッコミを入れた。

 

「一発で全部使うのにどうやって重ね掛けすんのよ」

「ふっ。流石はキャル、お見通しですか。ですが、その心配は無用!」

 

 マントを再度翻す。ジャラリ、と音が鳴り、内側に組み込まれているそれが顕になった。鎖状の何かが、マントの骨組みのように張り巡らされている。

 

「それ、マナタイトね。凄い純度だわ、それがあんなに」

「アキノが調達してネネカ所長に渡していたのはそれか……!」

 

 ドラゴンだからか、加工されたそれを見抜いたシェフィが呟くと、ようやく合点がいったとダクネスが額に手を当てる。清貧貴族の彼女にとって、あのマントの制作費用を考えただけで立ち眩みがした。

 

「所長曰く、外部バッテリーと呼ぶそうです。より効率よく自身の魔力を肩代わりしてくれるこれさえあれば、爆裂魔法の多重詠唱も実に容易い!」

「なんで的確にやらかすんだよあの所長」

「でも、これはむしろ大手柄じゃ」

「見るがいい。我が爆裂道の集大成。この多重詠唱の効率化で、爆裂魔法は一段上の舞台に立つ! 一つ唱えては城を破壊し、二つ唱えては難敵を破壊し、三つ唱えては全てを破壊せす。それが爆裂魔法、それこそが我が覇道!」

「アレ見てもほんとにそう思う?」

「やばいですね」

「一つ、二つ、三つ。否、四つ、五つ、六つ……そして、七つ! 爆裂の重唱は、立ち塞がる何もかも、相手の信念も、執念も、妄執さえも。あらゆる全てを消し飛ばす」

 

 杖に集まっていく魔力が普段とは桁違いだ。同時に、めぐみんのマントに取り付けられたマナタイトの鎖が消えていく。下がってください、という彼女の言葉に、一行は素直に頷き距離を取った。

 

「我が名はめぐみん! 爆裂魔法を極めしもの! さあ、刮目――いや、傾聴せよ! 《エクスプロージョン・セプテット》!」

 

 

 

 

 

 

 魔王城の吹き飛んだ城門の破片を避けながら、カズマ達は城へと踏み込む。

 

「……言うだけのことはあるな」

「当たり前でしょう。多重詠唱はただの連打とはわけが違います。その威力は十数倍、否、数十倍になっていてもおかしくはないのですから」

 

 己の身で自身の理論を実証出来たからなのか、めぐみんはどことなく上機嫌だ。外部バッテリーもまだ残っているらしく、やろうと思えば後二回くらいは同じものをぶっ放せるらしい。まず間違いなく魔王城ごと木っ端微塵なので、それは一旦控えてもらうことにした。

 

「あ、でも普通の爆裂魔法は撃てるのよね」

「そうですね、これのおかげで倒れることもないでしょうし」

「だからって出てくる敵一体一体とかに通常攻撃みたいにぶっ放すのはやめろよ」

「フリですか?」

「だから違うっつってんだろ!」

 

 城内は思った以上に静かで、これが本当にラストダンジョンなのかと思わず拍子抜けしてしまうほどだ。が、カズマはちがうちがうと頭を振った。この手のパターンで雑魚とエンカウントをしないということは、何かしらの理由がある、と。

 

「コロ助たちが倒したんじゃない?」

「言われてみれば、確かに?」

「仲間のふりをして相手の住処に入り込んだのならば、始末も簡単だものね」

 

 野生のドラゴンの意見も、今回ばかりはまあ確かにと頷けてしまう。が、他の面子はともかく率いているコッコロがそういうことを好むかといえば答えは否だ。こっそりとバニルやちょむすけが始末しているかもしれないが、それでもここまで静かになるほど狩り尽くすのは考えにくい。

 そのタイミングで、魔王城の奥の方から何か聞こえてきた。

 

「何だ?」

「爆発音……誰かが戦っているみたいですね」

 

 ペコリーヌはそう述べるが、誰か、など考えるまでもなく答えは一つである。それを察したのか、残りの面々も音の方に目的地を定めた。

 頷き、そして走り出す。そんなタイミングで、城門を破壊した爆発で慌てて準備をし終えた魔王軍がなだれ込んできた。

 

「ああちくしょう、あれがラスダン開始のイベントかよ!」

「わけわかんないこと言ってないで! 来るわよ!」

 

 キャルがとりあえず魔法をぶっ放す。魔王城にいる精鋭達といえども、いってしまえば所詮は雑魚敵だ。ここまで変人奇人狂人を相手取り、もとい、魔王軍の幹部達を撃破してきた面々にとって恐怖の対象とは成り得ない。

 

「ペコリーヌ! 節約しながらぶっ飛ばせ!」

「了解ですよ。ちぇすとー!」

 

 一足飛びで魔王軍の集団に飛び込むと、そのまま横薙ぎに剣を振るう。勇者の剣技と王家の装備のダブルコンボにより、文字通り一閃で斬り伏せられた。だが敵はまだワラワラいる。攻撃後の隙を狙い他の魔王軍が武器を振りかぶり。

 そして一人の女騎士により全て体で受け止められた。

 

「まったく。この程度では話にならんぞ。いや、別に全く刺激がないわけではないが、なんというかこう新鮮さがだな」

「レビューしてる暇があったら押し返せドM!」

「言われるまでもない!」

 

 ぐ、と自身の身体に当たったままの敵を腕を掴むと、ダクネスはそのまま真っ直ぐ駆ける。なんだとぉ、という驚愕の叫びなど気にすることなく、彼女は魔王軍の群れをその身一つで押し返した。

 

「行くわよ! グルァァァァ!」

 

 そこにドラゴンに戻ったシェフィがブレスを放つ。勿論ダクネスごとまとめて氷像へと変え、そして彼女はうむいい感じだと即座に復活した。

 

「はい、《エクスプロージョン》」

「理不尽!」

 

 反対側では滅茶苦茶省エネの爆裂魔法で吹き飛ばされる魔王軍が見える。杖をただ振り下ろすだけで爆裂魔法が飛んでくるので、相手にとっては悪夢以外の何物でもないだろう。

 

「本気で通常攻撃を爆裂魔法にしやがったこいつ……」

「失礼な。これは私の編み出した閉所でも実現可能な爆裂という理論に基づいた立派な」

「あーはいはい。分かった分かった」

 

 やってきた魔王軍をダース単位で何グループか倒し続けたあたりで、ようやく向こうの道が見えた。これ以上かまっていても仕方ない、とカズマは皆に突っ込めと指示を出す。ペコリーヌを先頭に、一行はそのままコッコロがいるであろう戦闘場所へ、魔王の部屋まで駆け抜けようとした。

 が、その途中の大広間に仁王立ちしている山羊頭の魔物を見付け足を止める。ここは通さんと言わんばかり、というか言った。

 

「俺は魔王城近衛隊隊長マモン。此処から先は通すわけにはいかん」

 

そう言って大斧を構える山羊頭と、それに付き従う暗黒騎士が十人以上。先程の雑魚のように何も考えずまとめてふっ飛ばして駆け抜ける、には少しばかり骨が折れるであろうことは窺えた。

 

「そうは言ってもな。俺たちはその向こうに用があるんだ。あ、言っとくが魔王じゃないぞ。そっちはぶっちゃけどうでもいい」

「貴様、魔王様がどうでもいいだと!?」

「ああ、俺が大切なのはコッコロだ。突然現れて父親面するやつのことなんか欠片も興味がない」

「言うに事欠いて……ん? コッコロ?」

 

 思わず一歩前に出たマモンがそこで動きを止める。そして、その名前を聞き、そういうことかと口角を上げた。

 

「そうか、貴様らはこころ様を奪いに来たのか。だが残念だったな、今頃魔王様がこころ様を新たな魔王に任命するところに」

「マモン様マモン様、流石にそれはないですって、次の魔王はもう決まってるんですから」

「あ、そうか。じゃあ次の次くらいに任命されているところだ」

「なあ、こいつら馬鹿だろ」

 

 近衛隊長がこれだと、魔王もたかが知れるな。そんなことを言いながら肩を竦めたカズマを見て、マモンも鎧騎士も顔を顰めた。ふざけるな、と激昂した。

 そうして彼を押し潰さんとこちらに駆け、そして。

 

「うぎゃぁぁ!」

「何だこれ!? ぎゃあ!」

「ほら馬鹿だ」

 

 まとめてカズマのトラップに引っかかりその全てが状態異常となった。彼の会話のあれこれは全て罠を設置するまでの時間稼ぎである。勿論ペコリーヌ達は承知の上で、だからカズマのその評価もさもありなんと頷いていたりもする。

 

「き、貴様……卑怯な」

「いやお前こんな場面で正々堂々一騎打ちとかするわけないだろ。常識で考えろよ」

 

 やれやれ、と溜息を吐くカズマを射殺さんばかりの視線で睨むマモンであったが、麻痺をした体はどうしようもなく、体は全く動かない。それは部下の騎士達も同じようで、麻痺で倒れているもの、毒で倒れているもの、その他様々なバッドステータスで戦闘もままならない状態になっているものしかいない。

 

「よし、キャル、めぐみん。まとめてぶっ飛ばせ」

「りょーかい。恨むなら、自分の注意力の無さを恨みなさいよ。《アビス――」

「やれやれ。この程度だといさかか拍子抜けですね《エクス――」

「ま、待て。俺はこんなやられ方は認めんぞ! 俺は、真正面からなら幹部連中にも遅れを取らない近衛隊長のマモン様だぞ! それが、こんな――」

 

 山羊頭が何かを言っているが、キャルもめぐみんも気にしない。他の面々も気にしてはいない。ペコリーヌですらまあしょうがないというスタンスで、シェフィにいたっては流石ドラゴンというべきかみっともないと低評価だ。

 

「――バースト》!」

「――プロージョン》!」

 

 そんなわけで。

 最上階、魔王の部屋へと続く道の番人らしい近衛隊長とその部下は、二人の呪文によってまとめてさくっと消し飛ばされた。

 

 




勿論多重詠唱はオリ設定です、あしからず
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